日銀輸送車
日本に於き日銀現金輸送車が襲撃をされたという事は、且てない。その・・中央銀行輸送車がターゲットに。
「日銀輸送車」
銀座の四丁目の交差点と言えば、東京に住んでいる人で知らない人はいないだろう。
其の角にある宝石店の近くで待ち合わせをしている。
川田は、表向き日本橋にある銀行に勤めているが、シンジケートからニューフェイスを派遣したと連絡が入ったので個人的に歓迎会をするつもりだ。
予め、連絡は取りあっているし、画面で顔も確認しているから、既に名前で呼び合う仲間も同然だ。
頭の上にある大きな時計が七時を示した時、ヒールの音が近付いて来た。
「御免。待った?」
多少息を切らせている女性の顔が街の灯りでくっきりと浮かび出されている。
二人は歩いて十分程の所にあるパブに入った。
三上エレナは、以前はドライバーをしていたと言うが、ハーフのようだ。
川田満男は、取り敢えず「乾杯」と、グラスを重ねた。
満男が摘みを食べながらエレナに尋ねた。「ドライバーって、どんな車を運転していたの?」
エレナはニッコリ笑うと、「いろいろ。免許はいろいろ持っているけれど、最近やっていたのは、スポーツカー」と、手で車が疾走するような仕種をした。
満男は其れを聞いて感心した様に、「凄いね。レースなんかも出たりしていたの?」
頷くエレナの瞳の奥を覗くように、「えらいスピードで走っていたんだろうね。僕が今まで知っている女性というか多少知っている職業の女性と言えば、銀行員と看護婦くらいだな。仕事中や入院した時に少し話をしたくらいだけれどね」とグラスのビールを飲み干した。
エレナが自分の経験を思い出した様に、「銀行員ってお堅い感じがするけれど、鼻が高い銀行レディーか、ちょっと幻滅するわね。看護婦は知らないけれど、あまりお世話になりたくないわね」と、事故で入院をした時の事を思い出した様に吐き捨てた。
一時間もして、酔いが心地よく感じられてきた頃に、満男が話を持ち掛けた。「ところで、仕事をすると言う事は、お金を稼ぐため或いは自分の能力を生かす為とか人によって考えや状況は異なるのだろうけれど、君も社会人としてお金というものについて自分なりの解釈をしているのだろうけれど?」
エレナは怪訝そうな顔をして、「そりゃあ、人は誰でもお金を稼ぎたいとか、高価な物を身に着けたいという気持ちはあるんじゃないかな。私だって似たようなもの。只、夢はまた違うけれどね。満男さんは?で、そんな事を私に話した意図は何かあるの?」とグラスに口をつけた。
満男は其の言葉を待っていた様にある計画を持ち掛けた。「お金は働けば溜まっては行くだろうが、僕は、ゲームをしたいと思っているんだ。誰もやらないgameを。君がドライバーなどをやってきたという事は本部から聞いたから、歓迎会も兼ねて、君の意見を聞いてみたいと思ったんだ」
エレナは窓の外を走っている車をチラッと見て、「歓迎会にしては、変わっているわね。まあ、先日はありきたりの歓迎会をやって貰ったけれど、こういう歓迎会もいいかもね。まだ歓迎会は始まったばかりで、ゲームか・・」と、それで?という顔つきで満男の目を見た。
満男は話を換えて、自分は表向きは銀行員、以前はUSAでちょっとした仕事をしていた事など大まかな話を始めた。
銀行の中でも当然ながら皆が皆同じ仕事をしている訳では無いから、エレナに分かり易いように説明をした。とは言っても子供に話す訳では無いから、極当たり前の話で始まり其れに尽きた。
銀行員の話などを始めたのには訳があったが、エレナの反応を・・。
「毎日お金ばかり見ていると、此れ、何だろう?という気持ちになるんだ」
エレナは、黙って聞いていたが、何処にでもある常識話などをする訳が無い事は分かっていたようだ。
二時間も経った頃二人は店を出て銀座通りを歩き始めた。
「ところで、話は突然変わるけれど、日銀って知っているよね。うん、あの日本の銀行。今晩は歓迎会のつもりだったから、日銀と・・うん、輸送車・・というところまでにしておく」
エレナの歩くスピードが遅くなった。「まるで歓迎会の終わりは?判じ物?」
満男が立ち止まって、「やはり、支離滅裂は・・まずかったよね。そうは思ったんだけれど。悪かったね。何れ詳細は説明をする」
満男は地下鉄に乗る時から誰かに付けられている事が分かった。
今までも、人に付けられた事がある、其れも国内外で。
だから、普段は銀座線の溜池山王で千代田線に乗り換えて代々木上原迄行くの だが、銀座駅で降りると日比谷線に沿った地下道を歩いて、丸の内線に乗った。
途中でジグザグに歩きながら人混みの隙間からiPhoneのカメラで後方を見たが、追って来るのはどうやら女性の様だ、それも多分・・。
満男はO線の改札口の手前の柱の陰から、待ってましたよとばかりにエレナに微笑みかけた。
「何時か時間の都合が付けば少し話をしたいんだけれど。満男さん?」
二人の住まいは、私鉄のO線の沿線だから、仕事帰りに新宿の駅で出会ってもおかしくは無いのだが。
満男は本当は、エレナが今回のプログラムに参加しそうな気がしていた。
ただ、事が事だけに慎重を期さなければならないのと、誰かが傷つく事になるという覚悟を持った人間でないと参加させられないと思っていた。
其れから一か月もした頃、二人はホテルの一室で話をしていた。
満男は、部屋の壁に首都圏の地図を貼り、パソコンの画面を見たりして自分の考えを話し始めた。
「此れがプログラムの一。輸送車・・とは言え装甲車と同じ、いすゞのギガの改造車で、十トン車。どの道を通過するかは極秘で誰にも分からない事になっているが・・其処は国際組織のシンジケートだからね。往路は何台も連なって走る事があるが、支店からの復路は一台で本部から今回のルートは此れだと当日に指示が出る。此のルートについては今回は間違い無いとシンジケートのモグラ(CIAで使われる二重スパイの意)から連絡があった。ラックシャーシーに装甲ボディを架装したフル装甲車で、よく犯罪に使われるトカレフや通常の軍用自動小銃程度では脅かし程度。中は全て二重構造になっている。海外には装甲車の防弾能力を示す規格があるが、日本には規格や基準が無いから、USAのNIJ規格を準用していると思われる。
積みおろし時や徒歩搬送中は無防備な状態となるから、防刃ベストや防弾ベスト、防弾ヘルメット等のパーソナルプロテクション装備。パトロールカーが後ろについている。USAの装甲車では、後ろのドアは絶対に開けられないそうだ。
話は飛ぶが、君の経歴は、実を言うと調べてあったんだ。ドライバーの他に自衛官・探偵事務所などいろんな事をやって来たんだね」
地図を見ているエレナはさして驚いた表情でも無い。「それって、成功の確率は限り無くゼロに近いんじゃない?其の装甲車、軍隊用の自動小銃でも貫通する程度。どうやって中の物を取り出そうというの?兵器を使うんなら対戦車砲かミサイルや対戦車用の地雷などになるけれど、其れを手に入れるのは無理じゃない?」
満男は頷いた。「大掛かりな兵器を使うつもりは無い。M107A1とQR anti-materiel rifle・QDL(Quick-Deploy Large)型サプレッサー・特殊催涙銃だけだ。シンジケートからその道のプロの応援が三人来るから五人で建設用の特殊車両を使う。トレーラーに解体機を載せて待機させておく。輸送車が差し掛かった時に、上部・サイドからぶち壊す。その前にパトロールカーを止めなければならない。日銀の支店から本店までの復路は旧札ばかりで、往路の様に新札ではマネーロンダリングしなければ使えない。復路のポイントは此処で県警のパトロールカーから警視庁のパトロールカーに引継ぎされる」
エレナは、満男の説明を聞きながら、「支店を出てから間もない方が狙いやすいのでは?狭い首都高速に乗られて警視庁のパトロールカーに引き継がれる前に」
「そのつもりだ。支店からのルートは此れだから、其の地点に特殊車両を持ち込むが、勿論無許可だ。後ろのパトロールカーは、輸送車と違って装甲は大したことは無いから。パトロールカーから応援の連絡をされる前に、いきなり乗っている二人の警察官には自動小銃弾及び催涙弾をお見舞いする。タイヤをパンクさせて立ち往生させておけば。ああ、此れは輸送車もボタン一つで救助要請が出来る様になっているから、同様に、此方に気付く前にいきなり12.7ミリ弾と催涙弾をお見舞いする。目・鼻・口及び各部位の神経がすべて麻痺するようになっているから車のドアを開けて転げ出るしか無いだろう。殺す訳では無いからね。まあ、緊急連絡はされても仕方ないと思うが、その後君の出番が増えるだけだけれど。ああ、それから危険な目に合うが、我々はあくまでもおとりだから。お金は工作員の連中が運び、最終的には国外に運ばれる」
実行日がやって来た。
モグラから通過するルートの再確認の連絡があった。
日銀の支店から輸送車が出て来る。
高速に入る手前に広い道路があり、其の辺りは、道路の地下で新しい地下鉄の工事をやっているから、工事用の車や特殊車両が並んで止まっている。
辺りに人影は見えない、正に襲撃場所を指定したくれたようなものだ。
其の中に紛れて、本部から派遣された特殊工作員三人と、エレナが特殊車両三台を運転してきて止めている。
全員地下鉄工事と同じ作業服、帽子に特殊グラスを着用している。
車両三台の上には、油圧ショベル等が二台。おとりのバン二台に市中銀行が支店に運ぶ為に使うルート便の現金輸送車そっくりのめくらバンはカバーで覆ってあり、二輪車一台は、降ろしてその脇に止められている。
地下鉄工事の工事音が大きいから都合が良い。
輸送車が近付いて来た。輸送車が通り過ぎるとすぐに工事用のフェンスで手前の道路を封鎖・通行止めにした。
工事用の車両が両側に駐車されている脇を、輸送車が通過しようとした。
満男達が自動小銃弾と催涙弾を運転室の窓ガラス目掛けて放つと、乗員が飛び出して来て路上に倒れた。
油圧ショベルの先に付けられた大きなドリルのようなモノが、輸送車の上部に穴を開けた。ショベルの先端を信じられないスピードで交換してもう一台のショベルと共に、輸送車の上部から脇迄を潰しながら壊していく。
工作員は、USAでは何でも屋という呼ばれているプロだ、重機の扱いも慣れたもの、素早く輸送車を切り刻んでいく。
後続のパトロールカーはフロントガラスとタイヤを狙撃されパンクした状態で止まっている。既に、車内には神経催涙弾が撃ち込まれ、警察官は路上に倒れている。
輸送車の半分は乱雑に破壊され、現金の入ったアルミ箱が並んでいるのが見える。
五人でそれらを、ダミーの現金輸送車・おとりの二台のバンに積み替える。
元より全部を積むつもりは無いから、適当に積めるだけ積み終えると、満男とエレナが別々の方向へバンで急発進する。
工作員二名が乗った現金輸送車と情報収集用の工作員一人は自動二輪で其々走り去る。
途中で着ているものを脱ぎ日常服に着替える。
バンも二輪車も何処にでも走っている車種と盗難ナンバー。
エレナは裏道の住宅街を走り抜ける。
満男のバンは、私鉄沿線の街道を走っている。
幾らか走った頃、警察署の前で複数の警察官が通り抜ける車を見ている。
そろそろ神経ガスの効果が薄れる頃だし、通行人もいるだろうから、通報があったようだ。
通行車両を止めさせているから、満男は止まる振りをしてから、車を走らせた。
其処からは警察官はパトロールカーに乗り込みバンの後を追っかけ始める。
道路はまだ渋滞前の時間だったから、止まる事も無く進んでいく。
やがて、満男は運転している車を一旦止めると、バンの後ろのドアを開けて、中に入ると、全てのアルミ箱のロックを撃ち壊して蓋をあけ放しにした。
再び発進したバンからアルミ箱が飛び出すように落ちていき、札束が路上に散乱していく。
車は、歩行者や邪魔な車を縫うように突っ走っていくから、落下したアルミ箱から飛び出した札束を拾おうとする人達で路上は塞がれる。
パトロールカーは、サイレンを鳴らしてヘッドランプを点灯させ、マイクで人々に道を開ける様に叫んでいるが、アルミ箱や札束と集まって来た群衆に邪魔され、暫し立ち往生。
満男は急ハンドルを切り、道路の中央を塞ぐように止めたから両方向行きの一般車で渋滞している。車から飛び出して、路地を走り抜け私鉄の駅の改札を抜けると電車に飛び乗る。
一方エレナは、バンで246を下ると多摩川の土手沿いの駐車場で後部座席が取りはずされ、高速用にチューンナップ・ボンネットの内側は防弾膜で覆われ、防弾ガラス・タイヤ周りのフェンダーにも防弾カバーが付けられている、スカイラインに乗り換えた。パトロールカーはついて来ていない。
アルミ箱から段ボールに札束を入れ替えて車に積んだ。
満男は二十分に一度の感覚で走っている特別快速に乗ったから、次の停車駅は神奈川新町、一駅先の仲木戸から横浜線の東神奈川まではすぐだから、横浜線で長津田駅で降りるとエレナがスカイラインに乗って待っていた。
246号線の横浜青葉インターから東名に入った。
高速の下り線は比較的空いている。
目的地は箱根だが、途中の蛯名サービスエリアで、出口付近の車の間に車を止め、トイレ休憩をする。と、パトロールカーが二台勢いよく飛び込んできて、不審車を探している様だ。
ニュースでは、どうやら、各地の一般道路で検問をしているようだが、東名ではまだ検問はされてないようだ。
二人は、再び東名に入ると、満男が後ろからパトロールカーが走って来るのではと気にしながら、「君は前にドライバーをやっていたって言ったけれど、東名なんかもよく走ったんでしょ?」
「ええ、東名は一番多いかな。他の道もよく走ったけれど、この辺では厚木小田原道路などは夜間の覆面を気を付けていれば。東名はオービスのある場所は大抵覚えているから捕まった事は無かったけれど・・」
「僕の持っているブルーバードは1800だけれど、スピードはどの位出るのかなまだ最高速度は出した事無いけれど?」
エレナがルームミラーを見ながら、「長い下りなら195キロ位かな。ああ、後ろの車,覆面かな?二人乗ってヘルメット被っていない?」
満男が振り返って見ると確かにその様だ。
「しかし、もう・・あとは逃げるだけだからね」
車載のナビを付けたらTVで事件の報道をしていた。
日銀の十トン車が襲われた事は今までに無かった。
助手席の満男が、「二~三度は輸送車が襲われた事はあったが、何れも銀行周りの警備保障が管理していた車だったらしいね。まあ、あの日銀車を襲うなんて事は二度と無いだろうね。これで、警備も厳重になるだろうしね。君に大変な事させちゃって悪かったね。犯罪者ではあるけれど、まあ、貧乏人から盗んだわけでは無いから・・・というのはいい訳だけれど・・・そもそもの犯罪者は僕だから、君は殆ど関係無いと言っていいと思う」
二人が話している間に、後ろの車が突然ヘッドランプを上向きにし赤色灯を車の上に付けスピードをあげて来た。
車載の無線機から割れた様な声の警察無線が聞こえる。盗難車両だという事が分かったようだ。
警察も事が事だけに面子に係る事になる。
神奈川県警の覆面一台に警視庁のパトロールカー二台、其れに新たに四台が加わって追い付いて来た。
七台の車通しで連絡を取り合っているようで、雑ながら緊迫したやりとりが窺える。
どうやら、後から来た覆面四台はSATの隊員が乗っている様だ。
「SATなら装甲車も持っているが、スピードは出ないからね」
警察車両とエレナの運転するスカイラインとのカーチェイスが始まった。
SATが窓を開けて、 89式5.56mm小銃を発砲して来た。
エレナが巧みに交わしながら、満男がM107で応戦をする。
次第に七台が群がる蟻の様に縦横無尽に拡がって一斉に射撃をして来る。
エレナの運転は・・流石にレーサーだけの事はある、信じられない程左右にしかも緩急をつけて走りまくる。
最初は手加減をしていた満男も、先ずは武器を持っているSATの車を狙ってたいらげる事にした。
三台の車が右に左にと移動しながら自動小銃を放ってくるから、満男も本気を出して、対抗する。運転はエレナ任せで大丈夫だからと、後部に素早く移動し、窓を下げると、窓枠にバイポッドを固定して左右に向けた二丁の107を連射しまくる。
闇の中に華々しく火花が飛び散る様に銃弾が飛び交ったが、海外で戦闘経験のある満男の方が優っている様だ。
エレナのハンドリングに合わせて左右に連射しまくったから、三台の車は次々にクラッシュ・左右の壁に接触したり横転していき、其れを避けようとした残りの一台も集中砲火を浴びて戦線から脱落していく。
この先のインターで下りても良いのだが、この辺りの一般道は渋滞するから、御殿場で下りて箱根を越えた方が良いと判断した。
大井松田インターを過ぎ、御殿場方面に向かうと道は拡がる。
覆面一台にパトロールカー二台だけになったから、エレナは思い切りスカイラインのアクセルを踏み込んだ。
此れだけのスピードで右に左にと走ると、狙撃は難しくなるから、運転席に戻った満男が、「パトカーって、何キロ位出るの?追い付かれる事は無い?」
エレナは余裕の表情で、「高速用にチューンナップしてなければそんなに出ないでしょ、200キロちょっとくらいじゃないかな」と言いながら追跡車を尻目に、周りの車を縫う様に走って行く。
高速でパトロールカーが体当たりして来る事はないだろうから、運転がしっかりしていれば抜かれる事は無いらしいが、エレナは三台の車を何処かで片付けようとしているらしい。
オービスは光りまくり、スピードメーターは250キロを差している辺りで、エレナは車のスピードを落とした。
周りから追い付いてきた三台の車との、走行車を挟んでのレースが始まる。
スカイラインは追い越し車線から走行車線を走り、其れを追い越そうとしたパトロールカーが一番左の車線に入って正に追い越そうとした時に、アクセルを全開し、左のパトロールカーに接触させるように体当たりのポーズ、道を塞がれた形で火花を散らしながらパトは左壁にクラッシュ。
此の状況では警察官も拳銃は使えない。
満男はドキドキしながら、「連中もA級ライセンスを持っているのに」と、エレナは、「警察官じゃレースの経験は豊富ではないでしょ。何て事はないわ」と、今度は右から抜こうとした車はしぶとかったが、中央車線を走っていた一般車両を追い越し車線迄押し出すと、パトロールカーを抜いて左側から思い切り右斜めに直線を描いていき、右壁にクラッシュさせる。
最後に残った一台が真後ろについてから右か左に抜けようとする。
「右か左か、どちらに来ると思う?」
其の回答を聞くまでも無く、エレナはブレーキを踏んだ。後ろの車が追突してから右に逸れていった。
「右ハンドルだから慌てたら自分の視界の幅が広い方向に行くのよ」
車の重量と安定性は何方も大して変わらないだろう。
追突によるダメージは同じとしても、追突となるとエンジンの入っている前部をぶつける事になる後続車は不利だ。
追突によりボンネットから白い煙を出し異音を出しながらも、何とか車を止めようと前に出たがるところを、右に出る様にしながら、ケツを振りパトロールカーに接触させ思い切り運転手が見易いようにと右の壁にクラッシュさせようとすると、パトロールカーの運転手は自分の右側が壁に急接近して来たから壁の下部にのりあげてから暫し壁を走行してから火花を散らしながら転倒したまま滑っていく。
車は腹を上にするとサイレンが頼りなく泣くのをやめた。
追跡車両はいないし、一般車両が停止したり速度を落としたりしている。
警察無線のやり取りが聞こえる。どうやらこの先は、静岡県警や自衛隊がバリケードを築いている様だ。
幅の広い高速道路全面を車や車止めで埋めつくした様に全面封鎖していると思われる。
満男がエレナに、「どうする?まさか中央突破はしないだろうね!」
「満男さん、イーストウッドの Ganntoretto の見過ぎじゃない、あれは映画だからね。Vanishingpoint のようにVanishしちゃうわよ」
上空からヘリの音が聞こえ、県警基地から飛び立ったSATが乗った中型ヘリが遅まきながら後方からやって来る。
ヘリは低空飛行をして邪魔をしながらこの先に誘導させようとする。
こんなとこでやられたらと、満男としても戦闘に明け暮れた経験と、実際に大きな戦争に介入した経験が無いSATに対してはプライドがある。
ヘリから乱射して来る弾をエレナが器用に避けながら、満男は、ヘリの自動小銃に向けて自動小銃を連射しながら、ヘリをハチの巣状態にしようとする。車の屋根に幾つか穴が開いたが、ボンネット、二人の座っている辺りや車の下部の駆動部には当たらない。
エレナがスピードをあげる、メーターは300キロ近い。
ヘリはジェットの用には速くは飛べないから、「スワッシュプレート」というパーツを用いて、コネクティングロッドを介してブレードの角度を変化させ機体を傾けるのだが、正に的にするには好都合だ。
満男が何とか追い付こうとするヘリのブレードを吹き飛ばすと、バランスが取れなくなり墜落寸前に。
止めは、大きなサーチライト目掛けて連射した弾丸が操縦室迄貫通し、続けてテールローターも吹き飛ばした。
ヘリはトンボよりも質が悪い昆虫の様にキリキリまいをしながら落ちていった。
エレナは高速を御殿場インターで降りる。料金所のバーを吹き飛ばして外に出て、インターからすぐ近くにある上り道路から乙女峠を抜けて箱根に向かって行く。
中継地である仙石原の、元旅館で現在空き地になっている場所に、シンジケートに依頼した通り色違いのライトバンが止まっている。
二人で幾らでも無い荷物を積み替えるとすぐに出発した。
時間が掛かれば、三島・御殿場・国道一号・ターンパイクから追跡或いは上空から狙われる可能性がある。
箱根は山だから、幾つも上り下りの道があるが、どの道を選ぶのが正解か。
エレナは一番カーブがきつくて狭く、勾配の急な旧道の七曲りを、タイヤから白い煙を出して、スリップ音を立て続けに鳴らしながらあっという間に湯本に出た。七曲りは渋滞の原因になる大型トラックは通れないし、深夜で車も殆ど走っていないし、上空からの見通しは悪いから。
夜間走る大型トラックは、殆どは箱根越えはせず東名高速を走り、一般道なら246の幅広い道を通るか、越えたにしても、国道一号しか走らない。
無線に寄れば、パトロールカーは、国道一号線三島口・御殿場方面などから何台も箱根方面に向かって行くようだし、上空からは自衛隊の大型ヘリの音もする。
湯本の街中を疾走し、太平洋に向かう。
二人は、早川駅の近くの小さな港からシンジケートの用意した漁船に乗り換えた。
漁船はエンジン全開で沖に向かう。
かなり沖で、巨大な貨物線がゆっくりと航行しているのに出会った。此が、シンジケートが普段使用している渡航用の船だ。
他の工作員達とも再会した。
船内のTVでは、至る所で日本国の警察が事件の捜査にあたっている様子が報道されている。
二人の渡欧前の事だった。
エレナがレースに出る事になった。
満男は表向きはフランスでレストランを経営している事にしてあるが、その実百五十億年遥かな創造惑星からやって来た。
エレナに応援に行くからと話すと、彼女は、是非ともと喜んだ。
満男の母船が青い惑星を離れる頃・・シビックが猛スピードで走り抜けていった。横腹にはいろいろの文字に混じってMITUOの文字が見えた。
現金は人類には分からぬように戻しておいた。
尤も、エレナの取り分を除いた残りだが・・。
宇宙空間では人類の貨幣など・・何も価値はない・・。
一つだけ・・。
エレナに渡してあった手紙には・・青い惑星の寿命はそう長くはない・・などという事は無いも記載はないが・・そう遠くない将来・・青い惑星に巨大な隕石が衝突をする。
人類に明日は無い筈だが・・其処のところは既に手配をしてある・・。
「・・エレナ殿・・近い内に此方に遊びに来ないだろうか?お気に召すかどうかは分からないが・・是非招待をしたいと考えている・・近い内に青い惑星は居心地が悪くなるようだ・・その節は事前に夜空に向かい見つめていてくれれば迎えに行く・・ああ・・金銭は必要無い・・というのも・・価値はない・・ただ・・お礼がしたいのと・・君の安全を祈っての事だ・・衛星(月)より大きな船が君の上空を覆うだろう・・其れ迄は充分にレースを楽しんでくれ・・先日のお礼をしてあげたい・・以上」
そう遅くない時期・・エレナの笑顔に話し掛けているのは・・「文明が全ての粋を尽くし創造した、文明の力を借りずとも自ら成長していくという宇宙全体の頭脳というべき」・・勿論・・広大な宇宙空間は緻密な頭脳でコントロールされているのだが・・人類から考えれば・・及びもせず・・然しながら素朴な存在である・・「第三の彼」の姿があった。
其れから・・人類時間で0,00001秒ほど・・太陽系は・・宇宙空間の片隅におき・・一旦その位置を変えているのだが・・人類諸君に被害が及ぶなどという事はない・・。
うん?エレナの此れから?
そう・・彼女の今後をどうするか・・。
尤も・・彼女が気に入る人類は・・カーレースに関心があり・・人類を過信しない輩であれば・・きっと見つかるだろう・・。
完
日銀輸送車