映画『木挽町のあだ討ち』レビュー
①相当程度のネタバレを含みます。事前情報なしに観たい方はご注意下さい。
ある美男子によって《あだ討ち》が見事に果たされたという結末から幕を開ける『木挽町のあだ討ち』の内幕を総一郎が暴くというミステリアスな構成は、実は原作にはありません。
原作の方では物語の舞台となる森田座を訪ねた総一郎が木戸芸者、立師、衣装方、小道具方、そして立作者からの語りを熱心に聴く。その出自も含めて詳らかになる事の次第を携えて本丸というべき《彼》の元へ行き、そこで明らかになる真相のすべてが徒らに血を流さない、無理筋と思えた時代劇の道理を読者の心に解き放つというストーリーになっています。そこにあった二つの筋書き、すなわち①ときに名誉を重んじて己の命を軽んじる武士の理(ことわり)と、② 流れ着いた浮世の果てで命を拾える市井の人情は本来なら水と油のように混ざり合うことがなく、棲み分けがなされて然るべきもの。しかしながら…と続く舞台裏に対する理解と共感を呼ぶために、総一郎というブランクな存在は全ての幕で聞き役に回り、芝居小屋に集まる客が発するのに似た熱情を小説世界に巻き起こすのです。
実写化された本作においてもそのスタンスに変わりはないのですが、小説と違って厚く描かれる「総一郎」像が前面に出てくる分、森田座の面々の存在感が薄れてしまうし、各々の出自という肝心なエピソードが上映時間内に収まるよう端折られている所もあって、《語りの熱》という面ではとても物足りなく感じてしまう。《彼》の人物像にも相当に手が加えられており、と同時に事の真相が明らかになる場面も原作と大きく異なる描かれ方をされていて、がっかりする原作ファンも必ず出るだろうなぁと正直に思いました。
ただその反面、もう一人のキーパーソンの方は働きっぷりが原作以上の味わいで、果たすべき忠義に身を尽くす様がとても感動的。それをベースにして立ち上がるラストは参勤交代というシチュエーションを上手く活かした掛け値なしの名場面。夢に溺れる浮世の華がそこで見事に咲き乱れ、マイナス評価の粗方が覆ります。からっと晴れた市井の強かさは滝藤賢一さんを始めとする実力ある俳優陣のコミカルな演技で肉付けされないと観れなかったはずの金鉱。個人的には『御家人斬九郎』のファンとして目撃できた殺陣が感涙ものでした…。かっこよかった…。
総合的にはプラス評価で終わる作品、というのが私の評価です。原作未読の方ほど本作を隅から隅まで楽しめるはずなので、まだの方は先ずは映画館に。それから小説へと移るのがお勧めのプラン。既に好評の本作をきっかけにまた色々な時代劇が観れたらいいなぁ。
映画『木挽町のあだ討ち』レビュー