いつも

1話

彼女が店に来るのは、だいたい金曜の夕方だ。
その時間になると、僕は少しだけ息を整える。

いつも通りを装って、花の手入れを続ける。

そして彼女は、決まってこう聞く。

「今日のおすすめのお花はなんですか?」

まるで居酒屋のおすすめを尋ねるみたいに、気軽な声で。

僕は毎回、同じことを聞き返す。

「今日は、どんな気分でしょうか」

彼女は少しだけ考えて、困ったように笑った。

「うーん……ちょっと元気が出るやつ、ですかね」

その笑顔は明るいのに、どこか疲れて見えた。

僕は棚から、黄色いガーベラを取り出す。

ガーベラは、光を探す花だと僕は思っている。
どんなに俯いても、最後には上を向く花。

「前向きな意味があるんです。希望、とか」

なるべく平静を装って説明する。

「へえ、素敵ですね」

彼女はそう言って、丁寧にガーベラを受け取った。

その手つきは、いつも少しだけ慎重だ。

花を雑に扱わない人だと、僕は知っている。

「実は、今日ちょっと怒られちゃって」

ぽつりとこぼれた言葉に、指先が止まる。

「まだ全然仕事できなくて。向いてないのかなって」

向いていない、なんて。

「そんなこと、ないと思います」

思ったより早く、言葉が出た。

彼女は少し驚いた顔をする。

「毎週ちゃんと花を選ぶ人ですから」

仕事とは関係ない理屈だった。

でも、僕にとっては十分な理由だった。

彼女はふっと笑う。

「なんですか、それ」

その笑顔に、今度は僕のほうが救われてしまう。

今日もまた、言えなかった言葉が、
ガーベラの奥にそっと隠れている。

いつも

いつも

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更新日
登録日
2026-02-24

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