映画『パリに咲くエトワール』レビュー
①『パリに咲くエトワール』は来月の3月13日に公開予定のアニメーション作品です。
②本記事は、TOHOシネマズさんが開催した試写会に参加したレビューです。
③相当程度のネタバレを含みます。前情報なしに鑑賞したい方はご注意下さい。
19世紀末、ベル・エポック(黄金期)の時代を迎えたパリでは成熟したカフェ文化の元で文化交流が活発化し、豊かな国際色が保たれていた。
その事実に着目し、人と人とを繋ぐ文化の力を積極的に描く本作は① 第一次世界大戦に揺れ動く国際情勢や②家制度が支配する日本社会からの同調圧力といった大きな力の流れに翻弄されながらも、主人公たちが目標を叶えるためにパリの地に留まり続け、必死に暮らし、夢にまで見た《その瞬間》を迎えるまでのストーリーを描く作品です。そこに表される輝きは、分断化に突き進む現代社会へのアンチテーゼにもなっていると感じました。
パリのオペラ座バレエ団の最高位、「エトワール」が題名に入っていることから想像できる通り、物語の中心となるのは主人公、継田フジコの親友である園井千鶴がバレエダンサーを目指すことです。フジコの夢である画家への道もそれと並行して描かれます。
バレエ文化が浸透しておらず、しかも薙刀の宗家の娘として育てられてきた千鶴がどうやってオペラ座バレエ団のダンサーに?と誰もが抱く疑問に対して、本作は非常に合理的な答えを用意しており、武芸=薙刀と舞踏=バレエとの異同といった技術的な要素を横軸にして一歩ずつ階段を登っていく彼女の姿に説得力を与えています。予告編を観れば分かるように本作はアニメーションの基本レベルがとんでもなく高い作品なのですが、ことバレエのシーンに関しては指先に至るまでその美しさが宿る踊りの真髄をたっぷりと味わえる仕上がりとなっていて、これだけでも観に行く価値があるといえるほど。千鶴の夢の行方がフジコの「それ」の行方をも左右するものだったことを思えば、その力の入れようにも納得するばかりでした。
パリでの生活という点でも本作の映像表現は俊逸です。ただ絵として綺麗なだけじゃなく、そこに暮らす人々の生活の細部までしっかりと描かれている。室内の調度品といった視覚的な部分だけでなく、廊下の軋み、通りの石畳の硬さ、降り注ぐ日差しの感触といった身体感覚に根差した「生きているパリ」がそこに映し出される感じなんです。それらを目にする度に覚える快感がもうとんでもない。お陰でストーリーへの臨場感も桁違い。フジコたちが異国の地にあって感じる悲喜交々への感情移入がするすると果たされます。
それから何といっても《オペラ座》。もうね、筆舌し難い感動。ぎょえーーー!!という自分でも訳の分からない叫び声を心の中で叫んでいました。目が溺れるかと思いましたよ。今も思い出す度に震えます…。まさに《神は細部に宿る》です。ブラボー。
演技の面に関してはフジコを演じられた當真あみさんの、夢がいっぱい詰まったボールのように弾む陽の表現が素晴らしく、千鶴と同じように彼女の唯一無二の親友となるルスランが進む音楽家への道を眩く照らしたりと、関係性の変化に向けたトリガーを声で果たす万能っぷりが絶賛に値する。
大人しい印象だった千鶴がフジコに感化され、その意思を叫ぶ瞬間の強さを千鶴役の嵐莉菜さんが「ただ叫ぶ」以上の領域にまで高めていたのにも感銘を受けました。フジコと千鶴は夢をテーマにした作品にありがちな才能などを理由にしたすれ違いを一切見せず、強い友情に結ばれ続けるベストフレンズなのですが、當真あみさんと嵐莉菜さんもドラマ『ちはやふるーめぐりー』で友情を育んだ盟友。私自身、ドラマ『ちはやふるーめぐりー』の大ファンなので、キャスティングとのオーバーラップに心身ともに熱くなりました。製作陣の皆さん、本当にありがとうございます。
角度を変えて本作の面白さを意外性で掘り上げれば①薙刀を使った千鶴のアクション、②要所、要所で出てくるメカ描写の二つが何よりの見所だと思います。
前者に関しては信じられないくらいのリアルバウトを千鶴が繰り広げてくれるのですが、これがまた演舞に等しい美しさで、テーマとする芸術との見事なバランスを取るあたりがプロの仕事だなぁと感心しきり。後者に関してはアニメらしいとんでもメカも登場するのですが、他方でドイツによるロンドン空爆といった歴史的な事実を兵器とともにきちんと描写する。人を感動させるアートに対して、人を殺す道具を誤魔化さずに描くあたりに製作陣の気概が窺えて本当に素晴らしかった。脚本家は『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の吉田玲子さんだと知って、余計に納得するものがありましたね。
一見すると本作はありきたりな少年少女のdreams come true映画だと判じてしまうかも知れませんが、試写会に参加した一人としてその認識にははっきりと「否」の意思を表明します。約2時間の上映時間を使って、本作は以下の事実を真摯に語っています。
夢は現実に見るもの。その現実を知らなければ、描ける夢も生まれない。
断言します。『パリに咲くエトワール』は表現への愛と信頼に満ちた最高の一作です。公開日は来月の3月13日。TOHOシネマズ、新宿ピカデリーといった幅広い劇場でかけられる予定。EDテーマである緑黄色社会さんの『風に乗る』もマスターピース確定の名曲だったのでこちらも是非、劇場で楽しんで欲しいと思います。お勧めです。
映画『パリに咲くエトワール』レビュー