zokuダチ エスカレート編・34
せっかちバレンタイン
最近アイシャは週末のオババ主催の料理教室に毎週通っている。
その度に得体の知れない料理を作っては毎度毎度、ジャミルの処に
持ってくるのだが……。
……そして、遂にある日、等々ジャミルが切れた。
「おい、バーバラっ!ちょっと話があんだよ!」
「何なのさ、ジャミル、こんな朝っぱらから……、うるさいねえ……」
「……うわ!」
バーバラは寝起きの為、シースルーネグリジェのまんま、
ほぼ露出状態で堂々と部屋から出て来た……。
「……ちゃ、ちゃんと着替えて来いっつんだよ!目の毒だろ!!」
そう言いながら、やはり目線は目の前のバーバラの巨乳を
しっかりと……。
「んとにうるっさい子だねえ~、まだメイクだってこれから
だってのに、全く!」
バーバラはぶつぶつ言いながら部屋に引っ込んで行き、支度を
終えると数分後、又ジャミルの前に姿を現す。
「で、何なのさ?要件があるなら早めにいいな!これからエステに
出掛けんだからさ!」
「又無駄な抵抗するか……?」
「だから何だいっ!?」
「オメーが今、週末に主導権握ってやってる、料理教室だよっ!
……いい加減やめろよ、あれっ!」
「んー?……別にいいだろ、野郎のアンタがどうのこうの言う
権利はないよ!それに結構評判いいんだからね!あたしの指導は!
あんの、怪力ゴリラ女(シフ)だって最近漸く塩むすび位は握れる様に
なったんだから!アルベルトにドカドカ食わせて体力つけさせる
言って張り切ってたよ」
「だけどさ、……全然上達しないのだって、いるぜ?」
「ああん?」
バーバラは不思議そうな顔つきでジャミルを見る。
「アイシャだよ、アイシャっ!あいつ、毎週毎週、ゲテ料理を
俺んとこに持ってくんだぞっ!!その耽美に食わされてよう、
週末に毎度毎度死にそうな思いをすんのは俺なんだよおーーっ!!」
ジャミル、必死にバーバラに訴える。いつの間にか彼の目頭は
赤くなっていた。料理教室開催の前から、アイシャはたまに
ジャミルの処にオゲ料理を作って持ってくる事はあったものの……。
料理教室の所為で、爆発的にその回数が増えたのである。ちなみに……、
先週アイシャが作って来たホットドッグにはねりわさびチューブ一本分が
たっぷりと塗りたくられてあった。
「アイシャかい、ふふ、本当にあの子は一生懸命でいじらしくて
可愛いねえ、何より作ってる時も凄く楽しそうでね、……アンタに
食べさせるんだって張り切ってんだよっ!それをアンタはっ!
あの子の気持ちを無駄にすんのかいっ!?」
「んな事言ってねーんだよっ!ただ、あいつの料理はだなっ!
人を殺し兼ねない勢いの……」
「なあに、ジャミル、私が何か?」
「げえええっ!!」
ひょっこりとジャージ姿のアイシャが姿を現す。
「おや、アイシャお早う……、そのカッコは又走りに行くのかい?」
「うんっ!だからジャミル捕まえに来たのーーっ!!」
「頑張るねえ、アンタもさ、そんなに体型気にする事ないと
思うんだけどねえ……」
「ううん、その油断が大敵なのっ、やっぱり太っちゃうから、
じゃあ行こうね、ジャミルっ!♪宜しくお付き合いしてね!」
「おいおいおい……、今日はすんげー糞寒ぃ……んだってばよーーっ!
……ああああああーーーっ!!」
アイシャ、早朝ランニングにいつも通りジャミルを無理矢理連れ出す。
「やれやれ、アイシャのお蔭で助かったよ、たく、バカチン小僧が……」
そして、漸くランニングから帰省したジャミルは帰って来るなり
ばたっと床に倒れた……。
「はあ~、アイシャの奴……、何であんなに元気なおバカちゃんなんだ……、
そういや、今日何曜日だったか……?」
フラフラと立ち上がり、カレンダーで曜日を確認する。すると。
「金曜日、……週末じゃねえか、つー事は……、明日は魔の土曜日だ……」
料理教室の所為で、ジャミルにとって週末が魔の週末になって
しまったのだった……。
「困った~、何としねえと……、又ゲロ料理食わせられちまう……、
何とか回避する方法は……、困ったなあ~……」
ジャミルが部屋をウロウロ歩き回っていると、ドアをノックする音がした。
「こんにちはー、ジャミルさーん、みらいです、あの、開けてもいいですか?」
「モフルンもリコもはーちゃんもいるモフ!」
「ん?うわわわわっ!何でこんな時にぃー!!……ど、どうぞーっ!
入っておくれやすー!」
ジャミルは慌てて、読みっぱなしだったエロ本を押し入れに全部放り投げた。
「はーい、ちょっとお邪魔しまーす!」
「モフー!」
「……ジャミルさん、又隠れて何かやってましたか!?すぐ判っちゃうん
ですよっ!」
「はー!リコには隠せないよー!」
「何もしてねえって……、処で、何か用か?」
「はい、私達、魔法ガールズから、バレンタインチョコケーキの
お届けでーす!」
「モフー!」
「……何ですと?」
魔法ガールズとモフルンが声を揃える。まだ、月は1月なのだが……。
「はいっ、いつもお世話になっている此処のマンションの男の人達に
私達から、心を込めて手作りチョコケーキをお届けしてまーす!」
「モフー!ラブラブいっぱいモフー!」
「あ、義理か、それは分かってっけど……、幾ら何でも早すぎねえか?」
「思い立ったらすぐに計算通りに実行するのが私達ですからっ!」
「はー、さっきダウドの処にもお配りして来たのー!でも、ダウド
泣いてたよー、何でだろー?」
「……」
可愛い女の子達から義理とはいえ、チョコケーキを貰って相当
嬉しかったらしい。
「では、私達はこれで……、次はグレイさんの処に向かいまーす!
よーし、ワクワクもんだあー!行こう、モフルン、リコ、はーちゃんっ!」
「♪はー!」
「グレイさん、午前中はお出掛け中で不在みたいだったから、
今度こそ捕まえないとね!ラグナさんも、お仕事行く前に
丁度タイミング良くこっちに出て来てくれてたから良かったわよ!」
「捕まえるモフー!」
魔法ガールズ達はジャミルの部屋を後にし、パタパタと次の
お届け人の処へと走って行った。
「はあ、……健気というか、よっぽど人との調和が好きなんだなあ……」
感心しつつ、早速貰った中身を開封すると、中からハート形の
丁寧で綺麗にラッピングされた可愛いチョコケーキが出てきた。
「かーっ、味も申し分なくうめえ~!あいつもこれぐらい料理が
上手だったら……」
と、思ってみて、ふと考えてみる。
「アイシャは……、菓子作りは結構出来る時あるからな、……ま、
期待してみるか……」
やはり大本命のが気になる様である。
次の日……
アイシャは料理教室の帰り、ほくほくで廊下を歩いていた。
「今日は恵方巻き教わっちゃった!2月の本番には、ジャミルに
大きいの丸被り、丸かじりさせて口に押し込んで食べさせちゃおーっと!」
……今から、恐ろしい計画をこっそりと企んでいるのであった……。
「はー!急げ、急げ、もう少しだよっ!」
「えっと、あとお配りしてない処は、えっと……」
「後もう少しで、全部お配り完了ね!頑張りましょ!
でも、ドナルドさんとガーネルさんは流石に無理ね、
普段からあの人達、何処にいるか分からないし……、
ほんっと、困った人達よねえ~!」
「……あれはみらいちゃん達かしら、おーいっ!何してるのーっ!」
「あ、アイシャさーん、こんにちはー!」
「モフー!」
アイシャがみらい達に手を振ると、みらい達も気づき此方に走って来る。
「こんにちは、今日のお料理教室は終わったんですか?」
「わあ、随分大きな太ったお寿司だねえ~……」
「はーちゃんっ!失礼でしょっ!ご、ごめんなさい…」
「リコちゃん、いいのよ、流石にちょっと詰め込み過ぎちゃった
かなあって、私も思ったんだけど……、張り切り過ぎちゃったみたい……」
アイシャが作った恵方巻きは具をぎゅうぎゅう無理矢理
詰め込み過ぎで膨張し、肥えたアヒルの腹の様に膨れ上がっていた……。
「♪でも、美味しそうなのりまきだねえ!」
「えへへ、有難う、はーちゃん、これはね、恵方巻きって言うのよ、
2月の節分に食べるお寿司なんですって、今日は練習用なの」
「はー!」
「ところで、みんなは何してたの?」
「私達はですね、日頃お世話になっている、此処のマンションの
男の人達の為に、手作りのチョコレートケーキをお配りさせて
貰ってまーす!」
「♪いろはちゃんは、もう大本命いますけど、ちゃんと許可貰って
悟君と、それから、大福ちゃんにも食べられるワクワクもんな
特製のお菓子をお配りするんですよ!」
「そうなんだ……、で、でも……、ちょっと早すぎない……?」
「いいじゃないですか、ちょっとぐらい早くたって!」
「それに、私達には今の処、……本命がいませんから、えへ~、
でもっ、アイシャさんは……、違いますよねえ~?」
「え、え……え、ええええーっ!?」
みらいがこそっとアイシャに囁く。リコもポンとアイシャの肩を叩いた。
「当日の14日は頑張って下さいね、私達も応援してますよっ!」
「モフルンもモフー!」
「これ、アイシャにおすそ分けあげる、食べると勇気が出る
魔法のチョコケーキだよっ!」
はーちゃんは余っているチョコケーキを取りだし、一かけらちぎると
ぽいっとアイシャの口にほおり込んだ。
「……もぐもぐ、美味しい……、何だかほわほわで幸せな気持ち……、
はーちゃん、みんなもありがとう!えへへ、何だか頑張れそうだよ!」
「♪はー!」
さて、魔法ガールズ達に元気を貰ったアイシャは今日、作った分の
恵方巻きを届ける為、改めてジャミルの部屋をノックする。
「ジャミル、いる……?」
しかし、返事がない……。
「!!で、出掛けてるの?でも、鍵は掛かってないみたいなんだけど、
えーっと……」
アイシャが部屋の前で、オロオロ立ち往生していると、ダウドが
のこのこ此方にやって来た。
「アイシャ?来てたんだ、でも、何してるの?」
「鍵は開いてるみたいなんだけど、返事がなくて……、し、屍になってたら
どうしよう……」
「もう、ジャミルの部屋なんか勝手に入っていいんだよお、アイシャは
遠慮し過ぎ!……おーい、入るよおー!」
「な、慣れてるのねえ~…」
ダウドは堂々とジャミルの部屋に入って行く。慌てて後を追うアイシャ。
「ありゃ?本当にいないね……」
「やっぱり出掛けてるのね、それじゃ私、又改めて来るわ……」
「どうせ、タバコでも買いに行ったんだよお!座って待ってなよ!
ほらほら、遠慮する事ないってばあ!んじゃ、オイラはこれで!」
「ダウド……、あ、あのっ!」
ダウドは勝手にアイシャをジャミルの部屋で寛がせると
自分は自室に戻って行った。
「いいのかしら、本当に……、……えへへ!それじゃ待たせて貰っちゃお!
……それにしても、相変わらずお掃除が嫌いなのねえ~……」
ジャミルの部屋の散らかり様に我慢出来なくなったアイシャが
立ち上がろうとすると丁度、ジャミル本人が部屋に戻って来る。
「おう、来てたのか、わりィな、散らかしっぱなしでよ……」
「ご、ごめんなさい、勝手に上がらせて貰っちゃって…」
「ん、いいよ、まあ、ゆっくりしてけよ、それよりこれ、貰ったんだよ、
食っていいからさ……」
「……これって……」
ジャミルはパックに入った寿司をアイシャに差し出す。
「さっき、町行った時に、この間のガキ……、瑠々だっけ?がよ、
突っ込んで来てさ、食べて下さあ~い!とか、無理矢理押し付けて
逃げてったんだよ、たく、なーに考えてんのか今時のガキはホント
分かんねえなあ~、……恵方巻きだとよ、気が早すぎるよなあ~、
……アイシャ……?」
瑠々が押し付けて行ったらしい恵方巻きは明らかにアイシャが
作った物よりも遥かに見た目も形も良く、美味しそうな感じであった……。
「よ、良かったじゃない……、す、凄く美味しそうね……、ちゃ、ちゃんと
食べなさいよ、も、貰ったんだから……」
アイシャの声が震えだし、袋から出そうと思っていた自作の
恵方巻きの手を引っ込めた。
「ん?腹減ってたから、少し貰ったけど……、オメーも半分食えよ、ほれ」
「う、受け取ったんだ、お、おいしかった……?」
「まあな、けど、どうもなあ、味が俺好みの……」
「み、見た目が美味しそうならあっさり受けとるのね、ジャミルはっ!!
……何よ、食いしんぼっ!いやしんぼっ!!」
「押し付けて逃げてったんだからしょうがねえだろ!それにまた一体
何怒ってんだよ、だから、腹減ってんならオメーも食えよって言って……」
「怒ってないわよっ!もう帰る!じゃっ!!」
「……おい、アイシャっ!!」
アイシャは激怒したままジャミルの部屋を出て行く。自分でも
何でこんなに怒りが沸いてくるのか分らないのであった……。
「♪~おや、アイシャじゃないかい、どうだった?サンプルの恵方巻きは
あの馬鹿に渡せたかい……?……アイシャ……?」
アイシャは声を掛けて来たバーバラに気づかずにすれ違い、
自分の部屋までダッシュで駆け出すのであった。……溢れそうな
涙を堪え。
「……又あの子……、泣いてたね、やれやれ、一体何回泣かせば
気が済むんだか、あの馬鹿は……」
「けーけけっ!けけけけ!やったルー!あの糞女をいじけと嫉妬地獄に
叩き落としてやったルー!暫くストーカー行為で色々とこっそり観察
していた甲斐があったと言うものルー!」
「な、何て恐ろしい奴なのりゅ、……まるで悪魔りゅ……」
「うるせーこの野郎!ララル達は元々悪魔なんだろがルーーっ!!」
「ひぎゃああああーーっ!!」
小悪魔、又ララルにフォークで頭部を滅多刺しされる……。
「フン、元々ララルの魔法で出したモンだけどル、どうして人間共は
こんな糞マズイもん、いつも食ってんのかル、信じられんル……
さーて、数日後の奴らの悲観に暮れた表情が楽しみルーっ!!
けーけけけけっ!!」
「やれやれりゅ、もうリトル、実家に帰りたいりゅ……」
「何してんだルーーっ!さっさとてめえも来いルーーっ!!」
「あ、悪魔虐めりゅーーっ!!」
ララルは抵抗する小悪魔の頭のトンガリを掴むと、無理矢理
何処かへ連れて行った。
そして、アイシャは自室で……。
「何よっ、どうせこんなのっ!ええ、そうよっ、どうせ私の
作った物は美味しくないんでしょうねっ、そうよね、いっつも
ジャミル、嫌な顔するもんっ!バカバカ、バカ、バカあーーっ!!
……もうこんなの捨ててやるからっ!いいわよ、もう料理教室
なんか行くもんですかっ!!……チョコだってもう作んないし
渡さないわよっ!!」
作った恵方巻きを抱え、マンションの外にエライ勢いで飛び出して行く。
誰にも見つからない、遠くのゴミ箱がある場所に捨てるつもりである。
「……ひくっ、バカ、バカ、バカ……」
マンションから大分離れたスーパーまで足を運び、泣きながら
外に有るゴミ箱の前で立ち尽くしていた。
「こ、此処なら……、誰にも分らないよね?……ごめんなさい、本当は
お家から出たゴミはこういう事しちゃいけなんだけど……、……ばいばい、
折角作ったけど……、……食べて貰えないんじゃ仕方ないもん……」
恵方巻きを今にもゴミ箱に押し込もうとしたその時、誰かがそっと
背後からアイシャの肩を叩く。
「……?……あ、あなたはっ!?」
「今晩は、アイシャさん、お久しぶりですね……」
アイシャは警戒し身構える。声を掛けて来たのはあの外観我大事
だったからである……。
「そんなに脅えないで下さいよ、何もしませんし、もう馬鹿な事は
しませんから……」
アイシャは首を傾げる。感じが最初にあった時よりも、
やや温和な感じがした。
「それよりもそんな勿体無い事しては駄目ですよ、……折角
作ったんでしょう?」
「あっ!な、何するのっ!?」
「良かったら、これ、ボクに頂けませんかね?……いや、下心なんて
本当にないんですよ、ただ、折角ですからあなたの作った料理を
食べてみたくて……」
「やめてっ!そんな物食べたらお腹壊しちゃうわっ!それに、
料理なんてもんじゃないわよう……」
「いえ、美味しい筈です、あなたが心を込めて作ったんですから……」
「あ……」
大事が笑う。それは今まで見た事がない様な、大事の優しい笑顔だった。
「大事さん、もしかして、もう領主さまと……、仲直り出来たの……?」
「いえ、今はある人の所にお世話になってこの町に戻って来ています、
何処に住んでいるかは教える事は出来ないんですがね……」
「大事さん、あの……」
「それよりも、何時までもこんな処にいたら風邪をひいてしまいます、
さあ、車にどうぞ、マンションまでお送りします……、あ、本当に
何もしませんから……」
不安に駆られつつも……、アイシャは大事の外車に乗せて貰うのであった。
「この辺で……、あまりマンションの近くまで行くと、又誤解されて
しまいますからね……」
「大事さん、有難う……」
「いえ、アイシャさん、あなたは誰よりも可愛い、誰が何と言おうと……、
では、決して笑顔だけは忘れてはいけない……」
大事はそれだけ言い、車の窓からアイシャに手を振ると再び車を走らせた。
「……何だか変、どうしたのかな、私……」
明らかに感じが変った大事に不思議な感情を抱きつつもアイシャは
マンションへと歩いて行く。もしかしたら、本当に大事は改心して
くれたのではないかという気持ちも溢れて来ていた。しかし。
……やはり、アイシャさんを笑顔に出来るのはあのクソ猿ではない、
……このボクなんだよ……
ジャミルとアイシャ、あれから数日間、気まずい状態が続いていた。
……いつもの事ではあるものの。
「……ジャミルっ!アンタちょっとこっちおいでっ!」
「な、何……、い、いでででで!」
ジャミ公、等々部屋まで押しかけて来たバーバラにとっ捕まり
耳を引っ張られ、パーティルームまで連行される。
「何だよっ!厚化粧オババ!……あ」
パーティルームの中にはバーバラの他に、仁王立ちに腕組みをしたシフ、
心配そうな表情のクローディアまでがいた。
「アンタ一体、今度は何アイシャを泣かせたんだい!あの子、
今回の料理教室は行かないって言ってたんだよっ!」
「そうか、良かったな、人類の平和の為に……っ、いでででっ!」
「……開き直るんじゃないっ!正直に白状しな!」
シフもジャミルにゲンコツを一発お見舞いする。
「ねえ、ジャミル、このままじゃアイシャが可哀想だわ……、
本当に元気がないのよ、何も話してくれないし、落ち込んでいて
見ていられないの……」
そう言いながらクローディアはジャミルに向けギリギリと
弓の引き金を引こうと……。
「わーったよっ!……たくっ、クローディアまでっ!俺だって分かんねえよ、
多分、原因は恵方巻きだと思うケドさ……」
「恵方巻き……?」
「そ、先週の週末にさ、町で変な女に押し付けられたんだよ、
この間、マンションの見学に来た瑠々とか言うガキだよ!
それさあ、アイシャと食おうと思ってだしたらさ、アイツ急に
怒り出してさあ~、わっけわかんねーっての!」
「……先週の週末……、確か料理教室のメインが恵方巻き
だった日じゃないか?バーバラ……」
「まあ……」
「そうさね……、あたしゃ段々と喧嘩の原因が分かって来たよ、
……全くアンタはっ!いい加減に乙女心を学習しろっ!……この
鈍感バカジャミ公ーーっ!!」
「な!?ななななななーーっ!?」
「……あっ、ごめんなさい、つい手が滑ってしまって……」
ジャミル、シフとバーバラにもう一発ずつ、ゲンコを貰い、
ついでにクローディアが放った弓の矢も一本頭に刺さった。
「ま、自分でどうするかちゃんと考えな、ちゃんとアイシャと
仲直りもするんだよ!」
「ホントにっ、どうしようもない救いようのない男だね……」
「頑張ってね、ジャミル、ちゃんとアイシャを笑顔に
してあげてね……、ね?」
バーバラ、シフ、クローディアの怖いオバ……、お姉さん軍団は
パーティルームを出て行った。残されたジャミルは……。
「冗談じゃねえぞーーっ!!俺は悪くねええーーっ!!」
ジャミルも激怒しながらパーティルームを出る。一体、今回何故
自分に何の非があるというのかさっぱり分からずちんぷんかんぷんで
気分が苛々し始めた。
と、其処へ……。
「ジャミル?」
「アイシャ……」
丁度、2人が鉢合わせで顔を会わせてしまったのだった。
「どうしたのっ!その頭の矢!ぬ、抜いてあげる!……っしょ!」
アイシャは急いでジャミルの頭に刺さったままの矢を抜いてやる。
もう少しで、矢ガモならぬ、……矢ジャミになる処であった。
「わりィな、助かったよ……」
「ううん、良かった……」
ジャミルの頭からは水芸の様に血がぴゅーと吹き出ていたが……。
「じゃあ、私はこれで……」
「おい、アイシャ……」
「ん?」
「お前、明日も料理教室あるんじゃねえの……、その……、行かねえのか?」
「いいの、もう止めたの……」
「や、止めた!?何で又!」
「下手な物は下手だもん、幾ら練習したって……、ね、駄目なのよ、
私、やっと分ったから……、この間出してくれた恵方巻き、
とっても美味しそうだったものね、私の作った物より、遥かにずっと……」
……その瞬間、ジャミルは漸くバーバラ達が自分に激怒した意味を理解、
ケンカの原因も理解した……、様な気がした……。
「……ああああーーっ!まーたやっちまったーっ!俺はやっぱり
バカだーっ!!」
「言わなくても分るよお、はあ……」
「どうすべどうすべ……、まさかアイツがあん時に恵方巻きを……、
ちくしょーっ!あ、あんなモン、さっさと捨てちまえばよかったあーーっ!!
俺はやっぱり、どんなに不味くたって、あ、あいつの作ったモンなら
胃を壊そうと血反吐を吐こうと絶対無理して食うんだあーーっ!!
……そ、そう決めたんだあーーっ!!」
「けど、それじゃくれた子にも失礼だよお、はあ、難しいねえ、
オイラ、こうゆう複雑なの苦手だから……」
「えううう~……」
ダウド、いつもより気落ちしている友人に今回はどう声を
掛けてやったらいいのかさっぱり分からず。
「……ジャミルさんっ!!」
「えう……?」
ドアを勢いよく開け、リコを先頭に魔法ガールズ達が部屋に
なだれ込んで来た。
「バーバラさん達から聞きました、私達もお話があります、こちらへ……!」
「覚悟して下さい……」
「モッフーっ!」
「はーっ!!(血管ピキピキっ……)」
「ちょ、ちょっと待て……!あーーっ!!」
ジャミル、今度は魔法ガールズ達に拉致られ、再びパーティルームに
連れて行かれた……。
「私達はこれ以上何も言いません、でも、これからジャミルさんに
お菓子作りの特訓をして貰います!」
「……あんだって!?」
「はい、これ、メイン材料のマシュマロですっ!」
みらいがドカドカと袋から大量のマシュマロを出した。
「♪あまーいニオイモフー!」
「はー!ホワイトデーのスイーツレッスンはじめるよーっ!
レシピはマシュマロ入りのふわっふわミルクマカロン!」
「……ホ、ホワイトデー?……確か、バレンタインのお返しに男の方が
女にプレゼントする……、あれか???」
「そう言う事です、……分りますね?」
リコがジャミルの方を見てふふんと笑みを浮かべる。みらいも
異様にニコニコしてはいるが。
「は、ははは、け、けど……、幾ら何でもまーた気が早すぎ……」
「……今から3月に向けて特訓するんですーーっ!!」
「……ひょええええーーーー!!」
そして、その日……、ジャミ公は魔法ガールズ達にしこたま扱かれたという。
疲れ切ったジャミルは取りあえず、漸く完成した今日のサンプル品の
お菓子を持ち、パーティルームを後にする……。
「はあ、何なんだ、第一もうチョコなんか貰えるか分かんねえってのにさ、
俺はあいつを傷つけたんだ、くれるワケねえよ、……こんなモン作れる様に
なったってさ……」
そして、部屋に戻ると自室のカレンダーを確認してみる。
「そうか、もう明日は節分か……、恵方巻きの日だな、本当はさ、俺だって……」
「ジャーミルっ!」
「アイシャか……?」
アイシャが再び部屋に訪れる。しかし、表情はいつもの明るさが戻っていた。
「これ、恵方巻き、はい……」
「!?お、お前……」
アイシャがジャミルに包みを差し出す。中を開くと相変わらず
膨張した巨大な恵方巻きが出て来た……。
「えへ、やっぱり、作らないのやめたの……、これからも料理教室、
行くわ……、勝手に怒ったりしてごめんなさい……、ちゃんと
お料理上手になりたいもん、……だってね、その……、だいす……
な……との、た……に……」
「ったく、相変わらず単純な奴だなあ~!……心配して損した!」
「何よっ!いいんだもんっ!べえーっ!」
最後の方はもにょもにょで、良く聞き取れなかったが、とにかく
アイシャは又元気になってくれ、ジャミルも心底安心するのであった。
「ささ、食べて食べて、恵方巻きは丸かじりで食べるんですって!」
「ああ……」
……しかし丸かじりするには、あまりにもデカすぎるサイズの
恵方巻きであった。しかし、ジャミルは血反吐を吐いても、
毎週彼女の作ってくる料理を食べようと決めた。アイシャを
笑顔にする為に……。その後もアイシャはちゃんと週末の
料理教室にも顔を出し、作った別の料理もジャミルにしっかり届けた。
……そして、今回の恵方巻きの副作用も発動する。食べた後、
ジャミルは一週間便秘状態になり、漸く便秘の原因と対面した時は、
又恵方巻きと出くわしたという。
そしてまた、……週末は巡ってくるのであった……。
「ジャーミルっ、こんにちはー!今日はねえ~!」
「……もう勘弁して下さああーいっ!!」
……それから数日。して、また一騒動。それは先ほど、チビが郵便の配達に
マンションに訪れていた時の事。
「きゅぴー!こんにちは!荷物のお届けでーす!」
「おう、いつもご苦労だな……って、おい!」
「モンです、出張してきました、こっちでもどうぞおろしくモン」
チビの隣から顔を出した、ドラクエⅨ出身モンスター、子供モーモン、
通称モンである……。
「ぴー!モンは今日からお手伝いで来てくれたの!宜しくね!」
「モンモン!」
「あーのーなあ!えーかげんにせえよ!お前まで出て来たら更に
ややこしい事態にな……」
「読者の皆さん、こっちでもいっぱい出番もらえる様に応援してね、
モン!モン、頑張るモン!」
「じゃあ、帰るぴい!ジャミル、またねー!」
「おい、おめーらっ!人の話聞けっちゅーんだよっ!」
・・・・・ぷうううーーー!!
チビとモンはジャミルに背中を見せると、特大のwおならをして
今日は帰っていった。
「くっ・・・・・せえええーーーっ!!」
更に数日後……。
「こんにちはモン!」
「おう、今日はお前か、ちゃんと仕事は捗ってんのか?少しは慣れたか?」
郵便配達のお届けでモンがやって来る。チビのアシスタント見習いと
いう事で最近この島でも働き始めて数日が経過。ちなみにモンのお給料は
苺キャンディー一箱分。
「ジャミルにお届けモン、ハンコモンモン!」
「おー、故郷からだ、……ファラか、珍しいなあ……」
「モン?ファラ?」
「ダウドと同じ、俺の幼なじみのダチだよ、で、あいつ何送って
くれたんだ?」
「モォ~ン、ハンコ……」
ジャミルは受け取りハンコを押すのを忘れて夢中で荷物の
荷ほどきに掛かった。ほどいた荷物の中から出て来たのは……、
手作りバレンタインチョコ。
「あいつ、……な、何だよ……、手紙か?」
「ジャミル、顔赤いモン?」
「ちげーよっ!……て、手紙っ!」
ジャミルは誤魔化す様にチョコと一緒に同封されていた
手紙に目を通した。
「「ジャミル、元気してんの?あたいだよ、ファラだよ!管理人として
ちゃんとやってる!?マンション壊したりしてないだろうね!あたい、
心配でさ、たまにはこっちにも帰って来なよ!ダウドにも宜しくね!あ、
送ったチョコはマンションの皆で分けて食べてね!……別にあんたの為に
作ったワケじゃないよ!あくまでも義理だからね!義理!沢山入ってるから!
……じゃあねっ!」」
「ほうほう、そうですか、義理ですか、ま、分かってますよ、てか、
マンション壊しまくってるのは俺じゃねーし!アホっ!」
そう言いつつも、やけに義理の部分を強調して書いて来たファラに
にやけつつ、有り難く送って来てくれたチョコを頂く事にした。
「ふう~ん、ファラがねえ……」
「お前に宜しくとも書いてあったよ」
「ふう~ん……」
ふう~ん連発のダウド。さっきからバクバクチョコに食いついている友人を
何となく……、いかがわしい目で見ていた。そして、帰らずに一緒にチョコに
大口を開けて齧り付いているモン……。
「むしゃむしゃ!ばーりばりっ!!」
「んだよ、オメーも食えばいいだろ、そんな顔してないでよう……」
「ジャミルって………」
「あん?」
「案外、……タラシだよねえ~……」
「「ぶほっ!!」」
ぼそっとダウドの口からつーと出て来た言葉に、ジャミ公は食っていた
チョコを口から吹きだした。
「何だよっ!いきなりこの野郎!!」
「だってさあ~、この間の瑠々の事もそうだし、ジャミルは
煮え切らないよね、結局どっちなんだよお~……」
「だから何がっ!」
「……自分が一番良く分かってるくせに……、アイシャなの?ファラなの?
どっち?」
「!!」
ジャミル、此処に来てばっくれていた大問題を引き合いに出される。
ちなみに、顔は相当真っ赤。
「しかも……、今、別世界の方の話でも、他の女の子に何となく
好感持たれてるし……、やっぱりタラシだ……、ぷぷぷ!これ、
ジタンより実は癖の悪い最悪のケース……」
「リッカモン?」
「モンっ!話をややこしくすんなあーっ!バカダウドっ!!いいか、俺はなあ、
アイシャ……、アイツの事は別に妹みたいなモンだし、別に……」
「そう言い切れますか?本当に?」
「う、ううう~……、だからなあーっ!」
ジャミルは目を回しながら錯乱し始める。そんな友人を構って困らせ
面白がるダウドである。
「なあに?私がどうかした?」
「……うわーーーっ!!」
気がつくと、いつの間にかアイシャが部屋におり、ちょこんと
ジャミルの隣に座っていた……。いつの間に来た攻撃、……必殺技である。
「何よ、そのリアクション!あ、モンちゃんもこっちの方にも
来てくれる事になったんだっけ?」
「モンモン!」
「うふふ、チビちゃんもいるし、ますます賑やかになるね、今度みんなで
お菓子パーティしようか!モフルン達も呼んでね!」
「お友達モン?」
「そうよ、モンちゃんやチビちゃんと同じ様にみんな小さくて
可愛いお友達よ!」
……モンと戯れるアイシャのその姿はまるで森の白雪姫さんの様で……、
ジャミルは困ってしまい、アイシャの顔を見られなくなる。そして、改めて
自覚してみるのである。……自分の本当の気持ちに……。
「これ、アイシャも貰いなよ、ファラが送ってくれたんだって」
「ファラが?」
「う、うっ……」
ダウドは平気でアイシャにチョコを差し出す。ジャミルはアイシャが機嫌が
悪くなるのを覚悟していたが……。
「義理だってさ、別に誰これ関係なく、マンションの皆にも是非食べて
欲しいんだって」
「あ、そうなんだ、でも私、男の子じゃないけど、貰っちゃお!
いただきまーす!おいしーっ!お口でとろけちゃうーっ!」
「モンももっと食べるモンーーっ!」
「……」
アイシャは別にいつも通りにチョコを美味しそうに食べた。その姿を見て、
ジャミルはほっと一安心。しかし、アイシャが可愛いので……、また
余計な事を口走り、つい構うのである……。
「そうやってよ、大口開けて並んでチョコ食ってんの見ると……、
お前らまるで姉弟だよな……」
「失礼ねっ!ジャミルのバカっ!!」
「ピギャーモン!!」
「でも、モンちゃんと姉弟ならいっか、ね!」
「モォ~ン!」
「そうか、ま、頑張れや、ボテバラ姉弟……あてっ!」
「うるさいのっ!」
「シャアーーっ!!」
ジャミルはアイシャに殴られた挙句、モンに頭から噛み付かれる……。
こうして本日も騒がしい時間は過ぎ、アイシャもダウドも部屋に戻り、
モンも帰っていった。
「まあ、何事もなく終わったか……、モンの奴、この話だと何処に
住んでんだ?チビはモンブラン山だけどさ……、聞くの忘れたな、
それにしても……」
ジャミルは煙草を買いに行こうと立ち上がり、マンションの外へ。
歩きながら夜空に浮かぶ月をぼーっと眺めながら考えていた……。
「俺もいつかははっきりさせなきゃな、でも、今はこのままがいいんだ……」
独り言を言いながら歩いて行くジャミルの脳裏に浮かぶのは……、
無邪気に笑うアイシャの姿。いつ何処で、また誘拐されるか
分からない彼女を守ると決めた。側に付いていてやれる限り。
今はまだ妹としての感情で……。
zokuダチ エスカレート編・34