学園群星 #2「アップルパイの輪」
「ありがとねぇ、これお礼に持ってって」
「こ、こんなにいっぱい、悪いですよ」
「いいのいいの、若い子はたくさん食べて」
「そんな、気になさらないでください」
「いいからいいから、私一人じゃこんなに食べられないもの」
「それでは……すみません、頂きます。ありがとうございます」
袋いっぱいのリンゴを抱えて、佐倉飛鳥は佇んでいた。
駅前で困っていたお婆さんの荷物を運んであげたところ、運んだ荷物とそう変わらない重さのお土産を貰ってしまっていた。
「どうしましょう……」
両親と自分で食べるには少々多すぎる。きっと食べきれないだろう。
友達におすそ分けしようか。でもリンゴをそのままあげるのも困らせてしまうだろうか。
それにこの量では、とてもじゃないが配り切れない。
「あれ? 飛鳥さんどうしたのそのリンゴ」
遊佐泉が買い物袋を提げながら声をかけた。
「泉さん、これ貰いものなんですけど、私にはちょっと量が多くて……」
「形のいいきれいなリンゴだね、これだけあるならジャムにするのが簡単だけど、アップルパイにしてもいいね」
そうか、そうすれば良かったんだ。
料理上手な泉さん、特別アップルパイが得意だと、前に雪芽さんが言っていたことを思い出した。
それに加えて、あることを思い出す。
「そうだ、万友ちゃんのところなら迷惑にならないですかね?」
「“みどりの家”? たしかにみんな喜ぶと思うよ」
泉さんがうずうずしている。視線がリンゴに向かったままだ。
「泉さん、手伝ってくれますか?」
「もちろん!」
ここから泉さんの家の方が近かったため、泉さんの家で作ることになった。
綺麗に整頓されたお家からは、ふわりと甘い香りがした。
リンゴの皮剥き、コンポート作り、泉さんの手際がよく、アップルパイ作りはあっという間に進んでいった。
「泉さんはよく作るんですか?」
「アップルパイは日課だよ」
「……日課?」
「そう、日課」
泉さんは迷いのない目でそう言った。
「よし、それじゃあとは焼き上がるのを待つだけ」
オーブンからアップルパイの焼ける甘い香りがキッチン中に広がっていく。
はしたないけれど、お腹が鳴ってしまいそうだ。
「いい香りですね」
「それにしても、飛鳥さんはいつもあんなふうに人助けをしてるの?」
「たまたまですよ」
「万友ちゃんがよく言ってるよ、いつも助けてもらってるって」
顔が熱くなる。オーブンのせいにしてしまいたい。
「そんなことないですよ。それに万友ちゃん言ってましたよ、いつも泉さんのお世話になってるって」
泉さんが照れくさそうに笑う。その横顔を見ていると、何故だか私も嬉しくなった。
「ほら、焼きあがったよ」
喜んでくれるといいな、そう願いながら焼きたてのアップルパイを容器に入れていく。
「それじゃ、持っていこうか」
泉さんが包みの中にアップルパイの入った容器を一段、また一段と乗せていく。
あっという間にアップルパイの五重の塔が出来上がった。
「……そんなに作りましたっけ?!」
「うん、ついつい作りすぎちゃったね」
「いつの間に……?」
“みどりの家”はいつも賑やかだ。
いつも私の方が元気をもらってしまう。
「やったー! 泉お姉ちゃんのアップルパイだー!」
「食べていい? 食べていい?」
「その前にお礼! 泉さん、飛鳥さん、いつもありがとう」
「気にしないで万友ちゃん、趣味でやってることだから」
手際よく食器の準備をする二人の手伝いをしながら、この温かい喧騒に浸る。
「ごめんね、いつもうるさくて」
「ううん、賑やかなのは楽しいから」
自分も手伝ったからだろうか、みんなで食べるアップルパイは格別だった。
パイ生地の香ばしさとリンゴの爽やかな甘みが、軽やかでいくらでも食べられそうだった。
「泉さん、すごく美味しいです」
「ありがとう、飛鳥さんが手伝ってくれたからだよ」
小さな子たちのお昼寝を見届けた後、三人で紅茶を飲みながら談笑をする。
昼下がりの温かい空気と、紅茶の香りが心を落ち着かせてくれる。
泉さんがアップルティーにリンゴジャムを入れていたのには、少し驚いた。
「そういえば飛鳥さん、貰い物のリンゴなのにみんなで全部食べちゃったけど本当によかったの?」
「いいんですよ、その代わりみんなが笑ってくれてますから」
子供たちと万友ちゃん、泉さんの笑顔を思い出す。
そして、リンゴをくれたお婆さんの笑顔も。
「私には、それで十分幸せです」
学園群星 #2「アップルパイの輪」