お墓の中は真っ暗けー寓話集「針鼠じいさん23」
モグラのおやじは明るいところが大きらいだ。
ちょっと光に当たると、目にものもらいをつくってしまった。
それだけじゃないよ、明るいと眠れなくて、ぼーっとしてくるんだ。
春になり、陽の光がつよくなってくると、土の中も明るくなる。
なんだかこのごろ睡眠不足だ。
モグラはサツマイモ畑の土の中で、サツマイモの根っこにかこまれて考えていた。
真っ暗なところでぐっすり眠りたいもんだ。
そこにオケラが顔を出した。モグラを見るとぶるっと身震いをした。食われるといけない。
「やあ,モグラのだんな,何かお考えで」
モグラは、こりゃ、いいものが顔を出した、うまそうだ、と口を突き出した。
オケラはひょいと顔を縮めると、胸をなでおろして言った。
「ちょいと,おまちくださいよ、モグラのだんな、あっしを食べてもうまくもなんでもないんで、ミミズでも探してくださいよ」
オケラが逃げようとすると、モグラは、
「どこからきたんだ」
と、聞いた。
オケラは、
「この下でさ,ミミズもいるし,暗いし、だんなむきですぜ」
というと、オケラかきをして,土の中を上に向かってにげていった。
モグラはもそもそと,下のほうに土を掘っていった。しかし、いっこうに暗くならないし,ミミズにも出会わなかった。しょうがないので、横に穴を掘り始めた。
しばらく掘っていくとミミズにであった。ミミズは太っていてうまそうだ。
モグラは大きく口を開けた。
ミミズはギョッとして見をよじってにげだした。
モグラは「暗いところを知らないか」と、言いながら追いかけた。
ミミズは、
「森をこえた、丘の中腹のお墓の中は真っ暗け」
といいながら、地上に向かって逃げた。
モグラはそれを聞くとたちどまった。
おかげでミミズは助かった。
森をこえていかなきゃならんのか、モグラは意を決して、穴を掘り始めた。
途中で夜になった。
モグラは土の中からちょいと顔出した。森の脇だ。
見上げると、月が煌々と輝き、星がちかちかしている。
「夜もまぶしいもんだ」そう言って顔をひっこめた。
森のフクロウがモグラの鼻が土から出ているのを見つけた。
そばに降りて来ると言った。
「モグラのだんな、こんなところに鼻出してどうしたんだい」
「暗いところを探しているんだ」
モグラは答えた。
「私も暗いのが大好きでね、昼間は木の洞穴で寝ているんだが、どこか暗いところがないかね」
そういい終わると、フクロウはニコニコしながら一歩だけモグラに近づいた。
「近ごろ、年をとって,目が悪くなってね」
と、また一歩近づいた。
「くしゅん、おかしい、風邪でもひいたかな」
と、また近づいた。
「モグラのだんな,穴から出てこないかい、意外と森も暗いよ」
ふくろうが言った時、モグラは背筋がぞくっとした。鼻をひょいと引っ込め、見上げると、そこにはフクロウのくちばしが突き出されていた。
フクロウのよだれが、ぽたんとモグラの鼻の上に落ちてきた。
フクロウは大きな片目を穴にくっつけて言った。
「モグラのだんなのすみかを覗いてみたかったんだよ、ずいぶん暗くて、すみごこちがよさそうだな」
モグラは
「なに、まけおしみいってるんだ」、
小声でつぶやくと、土の塊を、フクロウの目玉に吹っかけた。おかげで、フクロウの片目にものもらいができた。
モグラのだんなはお墓を目指して、せっせと穴を掘りつづけた。
地上では太陽が昇りはじめた。
その頃、やっと墓場についた。
お墓にもぐりこんだモグラは思った。
お墓の中はたしかに暗いな、でも落ち着かないのはどうしてだろう。
お墓の中のかびの匂いはモグラにとっても気持ちのよいものではなかった。石がたくさん埋まっているのもモグラにとって歩きにくいものであった。おまけに、ヒトの骸骨まである。
モグラはのびをしながら、お墓の中に響きわたる声でどなった。
「もっと暗くなあれ、暗くなーれ」
お墓の中の地虫が言った。
「うるさい、だれだ、静かにしろ」
モグラは口答えした地虫を食べてしまおうと、辺りを見回した。
うじ虫がモグラの鼻先に顔を出してしまった。モグラと目を合わせた。
「ひゃあ、ついていない」
うじ虫はとても小さな目をはちぱちさせ、
「タベナイデチョウダイ」
と冷や汗を流した。
モグラは、自分の鼻くらいの大きさのうじ虫が、芥子粒くらいの目から涙を流しているのを見て、
「そうか」
と叫んだ。そうしてうじ虫は食べられずにすんだのだ。
モグラのだんなは自分にもちっちゃいけど目があるんだということを思い出したんだ。生まれてこのかたモグラは目をあけっ放しでいたのだ。そこでモグラは自分の目をつむってみたんだ。そうしたら、お墓の中がもっと暗くなったんだ。
おまけに、モグラったら、ウインクすることまでおぼえちゃってさ。
うじ虫はそれを見て、気味が悪い、ともっと身震いをしたんだ。
「お墓の中は真っ暗け」さ。
ところが、モグラのだんなは畑にもどっちまった。
お墓の中じゃ鼻がもぞもぞして眠れなかったからだ。
今はサツマイモの根っこに囲まれている。
モグラのおやじは目をつむった。
真っ暗さ、それでゆっくり眠ることができる。
そりゃそうさ、人の骸骨よりゃ、サツマイモのほうがいい匂いだよ。
真っ暗だけじゃだめなんだ。
お墓の中は真っ暗けー寓話集「針鼠じいさん23」
寓話集「針鼠じいさん、2015、209p 一粒書房)所収
絵:著者