自分のからだを知りなさいー寓話集「針鼠じいさん21」
森の動物たちはスカンクを半分怖がって、半分尊敬していた。
それといいうのも、とてもくさい、想像もつかないガスを放出する。だけど、その匂いで悪いやつをおいはらってくれる。
ガスをかけられたやつは、一週間ものあいだ、苦しまねばならない。
スカンクは森のはずれの野イチゴ畑の近く住んでいた。
野イチゴを一人占めにしているわけじゃないよ。甘酸っぱくって、とても香りのいいおいしい野イチゴを、森の動物たちに公平に配るように見張っているのだよ。スカンクがいないと、ちょっと強いイタチやキツネは、それこそ一人でみんな食べてしまうんだ。リスやネズミやウサギが食べることができなくなってしまう。
面白くないのはイタチだった。イタチはスカンクの仲間で、くさいガスをだすと思われていたのだが、実はそんなにすごい特技はもちあわせていないんだ。
スカンクがみんなにちやほやされているのを見ると、いつもしゃくにさわってしかたなかった。いつかスカンクをやっつけて、思う存分野イチゴを食ってやろうとねらっていた。
イタチは考えた。
スカンクのやつはガスが怖いだけだ。それをとめてしまえば怖くない。ガスをださせなくさせればいいんだ。
イタチは自分の穴ぐらに寝ころんで計画をねった。
スカンクのおしりに栓をすることはむずかしい。もっと臭いガスをふっかけてやりたいが、スカンクのガスより臭いものは森の中にはありゃしない。
イタチは、ふと、小川のほとりで草をはんでいたヤギじいさんの言っていたことを思いだした。
「近ごろ、べんぴぎみでな、屁も出ないのさ」
イタチはそうかと思った。
スカンクをべんぴにさせてしまえばいい。
思い立ったイタチは起き上がると、ヤギに会いに出かけた。
ヤギはあいかわらず小川のほとりで草を食べていた。
ヤギじいさんはイタチに気がつくと言った。
「おや、イタチの悪坊主、なんだい」
イタチはたずねた。
「べんぴはなおったかね」
「もうだいじょうぶさ、このように草がうまい」
とヤギじいさんは草を口いっぱいにほうばった。もぐもぐかみながら、イタチがいつもと違って、やけになれなれしいので、気味悪く思った。
「どうして、べんぴになったんだい」
イタチがたずねると、ヤギじいさんは、
「よくわからんがね、クローバの食いすぎか、運動不足か、そうだ、サツマイモをタヌキのおっさんからもらって、たくさん食べたからかもしれん」
と言った。
しめたこれだ、と思ったイタチは、
「そうなのかい、またならないように気をつけてな」
とサツマイモ畑に走っていった。
ヤギじいさんは、イタチがなにかたくらんどるなと思って見送った。
イタチは畑でサツマイモをせっせと掘り起こし、すみかに運んだ。
夕方になった。イタチはきれいに洗ったサツマイモをもって、スカンクのいる野イチゴ畑にやってきた。
スカンクは夕ご飯に行くしたくをしているところだった。
スカンクはイタチに気づくと言った。
「おや、どうしたのかね、そんなにたくさんのサツマイモをもって」
イタチは、
「やまもりもらったんでね、おすそわけにもってきたんだよ」
「そうかい、ちょうど、夕飯を探しにいこうと思っていたんだ」
スカンクはそうはいったが、野菜をあまり食べない。虫や蛙を食べている。
だけど、人の好意を無にするのはよくない。
スカンクは、すなおにありがとうと受け取とった。
イタチは「いいんだ、いいんだ、たべてくれ」とすみかにもどった。
スカンクは懸命にサツマイモを食べた。食べ切れなくて、次の日の朝も昼も食べて、やっとなくなった。
そのせいで、スカンクは便秘になったしまった。
こりゃちょっと食いすぎたかい、と野イチゴ畑の切り株によりかかり、おなかをさすっていた。
スカンクが便秘になったことは、すぐ森中に知れわたった。
イタチはそれを聞くと、一人ほくそえんだわけだ。
夜もふけた。
イタチは穴ぐらを抜け出し、足音をしのばせて、野イチゴ畑に急いだ。
野イチゴ畑についたイタチは、野いちごに食らいついた。うまいうまいと、腹いっぱい食った。おまけに他のやつには食わさないぞと、イチゴを踏み始めた。
そのとき、べんぴで寝つきの悪かったスカンクが、物音に気づいて木の洞から出てきた。
なんと、イタチがイチゴを踏もうとしている。
スカンクはあわてて、なにをする、と大声を上げて、イタチのところに駆け寄った。
イタチはべんぴのスカンクなんて怖くはない、とそしらぬ顔でイチゴを踏みつぶした。
すると、スカンクはいつものように、ふさふさ尾っぽをおったてて、
ぽーん
と、森中に響くような大きな音とともに、はげしいやつを放った。
イタチは、目を丸くして、あまりに臭い匂いに、のたうちまわり、腰を抜かしてしまった。
「こんなはずじゃなかったのに」
涙声でイタチがつぶやいた。
スカンクは
「俺のガスは屁じゃないんだぞ、屁は肛門から、ガスは肛門腺からだすもんだ」
そういって高らかに笑った。しかも、ガスを放ったおかげで、トイレに行きたくなり、川の流れにたんと出してさっぱりしたという。
一方、スカンクのガスにあたってあまりにも緊張したイタチは、ストレス性のべんぴが一週間も続いたんだ。
やっとべんぴが直りそうだと思ったとき、イタチは自分の穴ぐらで屁をひった。
その屁たるや臭いこと臭いこと、あまりにも臭くて、イタチは穴からはいだした。
その臭さたるやスカンクのガスどころではなかったということだよ。
通りかかったタヌキのじいさんが、
「自分のからだを知らなきゃだめだよ」
と、巣の入口で涙ぐんでいるイタチに声をかけたそうだ。
自分のからだを知りなさいー寓話集「針鼠じいさん21」
寓話集「針鼠じいさん、2015、209p 一粒書房)所収
絵:著者