三題噺「液晶テレビ」「カレンダー」「りんご」
「――五月二十七日、金曜日。とらうまワイドのお時間です」
液晶テレビに映るキャピキャピしたアナウンサーが萌黄色のスーツで挨拶をしている。
男は手に持っていた林檎をテーブルに置くと、日めくりカレンダーを一枚破り捨てた。
「――昨日は大変でしたねー」
またカレンダーをめくる。
「――二日前に起きた事件では」
めくる。
「――事件が発生して三日目になりますが」
めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。めくる。
まとめてめくって力の限り破り捨てる。
「――昨日未明に逮捕された、半年前に△△県□□市上空で起きた飛行機爆破テロ事件の●●●●容疑者が」
カレンダーをめくろうとした手が止まる。
「……そうか、こいつが犯人か」
テーブルは埃で真っ白になっている。男はテーブルの上にある干からびて黒ずんだマッチ棒のようになった林檎を手に取ると、躊躇せずにかぶりついた。
「――もうあと三日で六月ですね。花粉症も収束したみたいで良かったですねー」
テーブルの上には塵一つ残っていない。優秀な掃除人でもあった亡き妻の最後の仕事だ。
「覚悟しとけよ、コラァ」
男は手に持ったタイムマシン『時を駆けるカレンダー』をテーブルに置いた。そして、今日起こる事件を止めるべくタイムマシン『時計仕掛けの林檎』を再び口にするのだった。
三題噺「液晶テレビ」「カレンダー」「りんご」