体質だけじゃないねー寓話集「針鼠じいさん19」
朝と昼と夕と山のふもとを走っているウマがいた。ウマは雨がふろうが、風が吹こうが、走っていた。そうやって自分を鍛えていたので、ウマの足の筋肉はもりあがり、みんながほれぼれするほどだった。
一匹のブタがそんなウマをうらやましげに見ていた。
ある日、ブタ小屋でブタがため息をつきながら、半分ネズミがかじってしまったジャガイモを食べていると、クモが天井からぶら下がって降りてきた。
「どうしたんだい」
クモはブタに声をかけた。
ブタは上目遣いに答えた。
「俺もあんなに引き締まってみたい、たくましくなりたい」
「それじゃあ、あのウマと一緒に、毎日走るかい」
クモはからだをちょっと動かすにもふうふう言っているブタに、そんなことはできるはずはないと思いながらも、言ってみたんだ。
ところが、あくる日になると、ブタはウマの後をどっこらどっこらと走り始めた。
最初は、ウマが山のすそを一周してきても、ブタはほんの少ししか進んでいなかった。
一月たった。
ウマが一周してくると、ブタはだいぶ先のほうにすすんでいた。
「だいぶはしれるようになったね」
ウマに言われて、ブタは筋肉がついてきたな思った。
クモもブタに言った。
「立派になったね」
「そうかい」
「ずいぶん大きくなったね」
「そうかい」
ブタはますますからだを鍛えた。水泳もしたし、棒高跳びまで挑戦したんだ。
そんなある日、ウマが風邪をひいて、走ることを休んだ。
ブタは寝込んでしまったウマを横目にせっせと走った。
ウマは高い熱を出し、三日たっても熱が下がらなかった。
一走りしてきたブタはウマに言った。
「はやくよくなるといいですね」
ウマはか細い声で言った。
「どうもありがとう、こんなにやせちまいましたよ、ブタ君も風邪をひかないようにね、とっても悪い風邪のようですよ」
ブタは、
「やせる分には一向にかまいませんよ、うらやましいくらいだ」
と、また、走りにでていった。ブタは本気でぎろぎろにやせてみたいと思っていたんだ。
その日の夕方、走り終えて小屋に帰ったブタはなんとなく熱っぽく、からだがだるいと思った。風邪をひいたのだ。
ブタはくしゃみをすると横になった。
次の日になると、ブタは熱がひどくて起き上がれなかった。うなされながら、これで、いっぺんにやせることができるんだ、と自分のやせたからだを思い描いた。
ブタは熱がひどくなるにつれ、お腹がすいてきた。ブタは横になったまま、サツマイモをもぐもぐかじった。
ブタの風邪も三日以上続いた。
ブタが外を見ると、ウマが勢いよく走っていた。ウマは筋肉が引き締まり、もとのように格好よくなっていた。
ブタも熱が下がり、走る気が出てきた。よっこらしょと立ち上がって、ずいぶんやせたことだろうと自分のからだを眺めた。
「む!」
ブタは目を吊り上げた、自分のおしりが小屋いっぱいに広がって、ぶよんぶよんとしていたのだ。おまけに、くるっと丸まった尾っぽなぞはまるでゴムホースみたいだった。
ブタはため息をつくと、小屋の地べたにぺたんとはいつくばってしまった。
そこへクモが天井から糸につる下がって降りてきて言った。
「生まれながらの体質さ。風邪をひいても食欲があるなんてね」
ブタはクモをにらみつけた。
そして、よだれをたらしながらまた眠ってしまった。
みんな夢だったのだ。
体質だけじゃないねー寓話集「針鼠じいさん19」
寓話集「針鼠じいさん、2015、209p 一粒書房)所収
絵:著者