子どもの世界ー寓話集「針鼠じいさん18」

子どもの世界ー寓話集「針鼠じいさん18」


 タヌキとキツネの母親が、森の道で立ち話をしていた。
 タヌキの母親が言った。
 「近頃うちのこどもがこんなことを言うんですよ、僕はキツネのほうがよかった、キツネはスマートだ、タヌキはころころしていてみっともない」
 それを聞いたキツネの母親は、
 「うちの子も言ってるんですよ、タヌキに生まれていりゃよかった、丸くてかわいらしくていい、キツネはつんとしていていやだ、なんてねえ」
 タヌキの母親は丸っこい尾っぽを地面にたたきつけながら、
 「どうしたらよろしいんでしょうね」
 と、キツネにたずねた。キツネの母親は、
 「なんでも反対してみたいときなんでしょう、大きくなってきた証拠ですわよ」
 と、目を細めた。
 タヌキの母親うなずいて、続けた。
 「このあいだ、キツネに化ける方法を教えろ何て言うんですから」
 「うちの子もタヌキに化けたいって言っていましたわ」
 キツネの母親は尾っぽのダニをとりながら答えた。タヌキの母親も尾っぽのダニをつまんだ。
 「頭の上に葉っぱをのせて、化けようとするんだけど、いったいだれにタヌキは化けることができるなんて教わったのかしら」
 「それはねえ、ネズミのじいさんよ、あのじいさんは都会で見たことや聞いたことを、すぐ子どもたちに話しちゃうから」
 「あら、そうだったの、こまったことねえ」
 タヌキとキツネの母親は日が暮れてきたのに気がついた。
 「こどもたちも、そろそろ獲物の捕まえ方くらい覚えなければいけないのにね、あのネズミのじいさんなんて、格好の餌なのに一緒に遊んでいるんだから、しょうがないわ」
 と、キツネの母親が言うと、タヌキも相槌を打った。
 「ほんとにねえ、ところで、今日の食事はなにになさるの」
 タヌキがきくと、キツネは、
 「カエルよ」と、答えた。
 「うちはまだ決めてないの、あのネズミのじいさん食べちゃおうかしら」
 タヌキの母親は笑顔で言った。
 キツネは
 「でも、骨っぽくて、おいしくないでしょう」
 と、答えた。
 「それもそうね、どこかで、卵でもとっていきましょう。たしか、ヤマバトが卵を産んでいたわ」
 タヌキが言うと、キツネは、
 「ええ、でも昨日、私たちが食べちゃった」
 おいしかったといわんばかりに微笑んだ。
 「しかたがないわね、カタツムリでもつかまえましょうか」
 「そろそろ、子どもたちをむかえに行きましょう」
 タヌキとキツネの母親は野原の脇を流れる小川へむかった。

 タヌキとキツネの子どもは川べりで泥んこになっていた。
 母親たちは子どもたちに声をかけた。
 「帰る時間ですよ」
 母親に気づくと、タヌキの子どもはドロのこびりついた黒い尾っぽを振りながら、
 「まだ遊んでるよ」
 と、キツネのように口をとんがらせた。
 キツネの子どもも泥のついた茶色の尾っぽを振って、タヌキのように目を真ん丸くして、
 「タヌキ君と遊びたいよ」
 と、ひげをひくひくさせた。
 タヌキの母親は子どもの黒い尾っぽをつかまえると、森の穴ぐらに引きずっていった。
 キツネの母親も、子どもの茶色の尾っぽをつかむと、森の穴ぐらにつれて帰った。

 もう寝る時間になった。
 タヌキの母親が子どもに寝なさいと声をかけた。
 タヌキの子どもは素直に葉っぱの寝床で横になった。
 母親は今日はやけに素直ね、と思って、自分も寝床に入った。
 キツネの母親も子どもに寝なさいと言っていた。
 やっぱり、キツネの子どもも素直に、葉っぱの寝床に横になった。
 キツネの母親はよく遊んだからかしら、と不思議に思いながら、自分も寝床にはいった。
 夜もふけ、フクロウの鳴き声が遠くに聞こえるようになった。
 タヌキの子どもが顔をあげた。みなが寝静まったことを確認すると、黒い尾っぽをあげて穴から出てきた。
 キツネの子どもも音を立てないように起き上がった。茶色の尾っぽをあげて、そろりそろりと穴から出てきた。
 満月の光に照らされて、道をてくてくと歩いて、小川にやってきた。
 タヌキの子と、キツネの子は顔を会わせると、やあ、と尾を振り、小川のせせらぎに尻尾をたらした。
 タヌキの黒い尾っぽは水に洗われ茶色くなった。
 キツネの茶色の尾っぽは水に洗われると黒くなった。
 タヌキの子どもは膨らめていた顔をしゅっとすぼめた。
 キツネの子どもは細くしていた顔を思い切り膨らめた。
 タヌキの子どもはキツネの子どもにもどり、キツネの子どもはタヌキの子どもにもどったのだ。
 もとにもどったタヌキの子どもはキツネの子どもに聞いた。
 「今日の夕ご飯は何だった」
 もとに戻ったキツネの子どもは答えた
 「サツマイモさあ、そっちは何だった」
 もとにもどったタヌキの子どもは言った。
 「やっぱりサツマイモだったよ」
 「そうかあ、なかなか虫やカエルはとれないよな、それじゃあな」
 「じゃあな、お休み、明日また遊ぼう」
 二匹は本当のすみかに戻っていった。
 こどもはばけることができるんだ。でも、おとなになるとできなくなるのさ。
 しかも大人になると子どものころを忘れちまうんだ。

子どもの世界ー寓話集「針鼠じいさん18」

寓話集「針鼠じいさん、2015、209p 一粒書房)所収
絵:著者

子どもの世界ー寓話集「針鼠じいさん18」

タヌキの子とキツネの子は仲のいい友達だ。夕方遊んでどろだらけになって家にかえった。さて次の日ーー

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-01-18

CC BY-NC-ND
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