ぼくはノラネコー寓話集「針鼠じいさん17」
たくさんの家に囲まれた空き地で、十三匹のノラネコがたむろしていた。そいつらはねそべりながら、好き勝手なことを言っていた。
「まったくよ、近頃はうまいものがとれなくなっちまったな」
ノラ生活四年目の茶トラのネコが言うと、
「昔はサンマの骨なんか、うんざりするほど捨てられていたもんだ。今はごみ箱のふたがきつくて開けることができやしねえ」
薄汚れた白ネコがつぶやいた。
ノラになって六年目の白黒ぶちのネコは、
「ほんとだよ、ネズミもいなくなっちまった、ネズミ捕りの名人の俺なんざ、腕をもてあましてら、このあいだ、ごきぶりをおいまわしちまったよ。どぶにゃふたがある、家にゃ隙間がなくなって、畑にゃ農薬をまくやら、ネズミだって生きていけないさね」
大あくびだ。
「あにき、今日の飯はどうするんで」
自動車にぶつかって足を悪くした茶のトラネコが言った。
「どうするってなあ、いい狩場はないものかなあ」
真っ黒のデブネコはひげをひくひくさせてふてくれている。そいつがノラ生活八年目の大将なのだ。
しばらくたって、大将は思いついたように、つと立ち上がり、
「裏山にいってネズミ狩りでもしようかい、二匹や三匹のヤブネズミぐらいいるかもしれんな」
みんなに声をかけた。
「それもいいか」
ノラネコたちはのったり立ち上がった。
空き地から、ちょっと歩くと、裏山のふもとにでた。
「さあてはじめるぞ」
ノラネコたちは一列になって、木のまばらに生えた斜面のやぶの中を登り始めた。
しばらくすると声がした。
「一匹捕まえたぞ」
また、他のところで声がした。
「こっちもつかまえたぞ」
今日はなかなかいい調子だ
「二匹もいたぞ」
そうやって、頂上までくると、みんなかなりのネズミをくわえていた。
一匹のノラネコが少なくても二匹は捕まえていたんだ。彼らは意気揚揚と、空き地に戻ってきた。
弱った獲物のネズミたちは真中に集められた。
真っ黒デブネコは、
「こりゃごちそうだ」
満足そうにうなずいた。
ネコたちは、ネズミのまわりに腰をおろした。
ちょうどそこへ、薄紫色の大きなネコがやってきた。そのネコは、少しはなれたところで、顔を洗い始めた。
ノラネコの大将は声をかけた。
「よー、みなれないが、どこからきたんた」
紫色のネコはちらっと大将を見たが、すぐからだをなめ始めた。
「そんなにきれいにしてどうすんだ、だが、いい日きたもんだ、どうだい、ネズミを一匹やろうじゃないか」
大将は気が大きくなって言った。しかし紫色のネコは、ネズミをチラッと見ただけで、尾っぽをなめ続けた。
ネコの大将はちょっと気を悪くした。
「おい、新顔、あんたはノラネコじゃないな。飼いネコだろう。飼いネコならさっさとおうちに帰りな」
新顔は大将を見て言った。
「僕、ノラネコ」
それを聞いたノラネコたちは大笑いをした。
「おい、僕ちゃん、ノラネコならノラネコらしくネズミをつかまえてみろよ」
ノラネコの大将は、元気のいいネズミを一匹、新顔の前に放り出した。
新顔は飛び上がると、あとずさりをして、そうっとネズミのほうへ手を伸ばした。ネズミがキーッと歯をむき出すと、あわてて手を引っ込め、背中を丸めて、フーとうなった。
「うわはははははは、うわはははははは」
ノラネコたちは腹を抱えて笑った。
「ノラネコが聞いてあきれるぜ、なんだいそのへっぴり腰は、こうするんだ」
大将は、背を低くして、ネズミの尾っぽをすばやくくわえた。
新顔も飛び上がって、ネズミの尾っぽをくわえようとしたが、鼻の頭を土にこすりつけただけであった。
みんなはさらに大笑いさ。
「なんてこった、あんたはやっぱり飼いネコだ、それとも捨てられたばっかりかい」
「いや、僕はノラネコだよ」
薄紫色の新顔は繰り返した。ノラネコたちは笑い過ぎて涙を流した。
「そんなにお上品じゃ、ネズミも獲れないし、餌も見つけることができないぜ、それに、かわいい嫁さんも見つからないってことだよ」
「僕はノラネコだよ」
新顔はそれしか言わない。
「なんだい、まだ言っているのかい、どう見たって、お前さんは、飼いネコにしかみえないんだよ」
ノラネコの大将が念を押すと、それを聞いた新顔は、急に耳をおったてた。大将に向き合うとこう言ったんだ。
「おや、そう見えるかい、練習をしたかいがあったよ」
姿勢を低くすると、音もなく、ネズミをひょいとつかまえて、てきぱきと頭から食べてしまった。
そして、
「やー、ごちそうさん、これから、町の中に行って、誰かに飼ってもらうんさ、十年ちかくもノラネコをやってりゃ、いやになるさ、ヒトにうんと甘えてうまいもんをうんと食うんだ」
そう言うと、尾っぽをぴんとたてて、のどをごろごろいわせて、くにゃりくにゃりときどって歩いて行ってしまった。
あっけにとられていたノラネコたちは、
「本当のノラネコだ」
と、ため息をついたのだった。
ぼくはノラネコー寓話集「針鼠じいさん17」
寓話集「針鼠じいさん、2015、209p 一粒書房)所収
絵:著者