いらないもの
「悠斗、これはいるの?」お母さんが古くなったおもちゃを僕に見せる。「飽きたから、いらない」僕はぶっきらぼうに答える。
今日は実家の年末に向けての大掃除、木造一軒家の我が家は一年分のホコリが天井やテレビ台の裏に溜まり、お父さん、お母さん、僕の三人で協力して綺麗にしていた。
お母さんが僕の持ち物の整理をする。昔のおもちゃや幼稚園の頃の絵などが出てくる。その度に「悠斗、これはいるの」と僕に聞く、僕は煩わしそうに「飽きたからいらない」「もう見ないからいらない」と答えていた。
大掃除も終わり、家族でコタツを囲み、昔の歌謡曲ベスト百選を見ていた。両親は昔を懐かしみながら、若い時の思い出話に話を膨らませる。「この曲、あの頃よくカラオケで歌ったんだよな」「あなた、下手だったくせにいつも熱唱してたの覚えてる」二人の笑顔を眺めて、部屋いっぱいに暖かい時間が満ちていた。
両親の思い出話を聞きながら、僕はお正月用に用意されていたお餅を焼き、コタツで食べている。おもむろに座敷のほうに目をやると、今日片付けをした物を入れているゴミ袋の中に見覚えのある白い縦長の古びた封筒があった。ふと思い出し、僕はゴミ袋を漁り始める「急にどうしたの」お母さんが声をかける。「いや、ちょっと」僕は濁し、ゴミ袋から封筒を取り出して、ゆっくりと開ける。
「やっぱり」それは高校生三年生の終わりに好きな子に向けてのラブレターが入っていた。封筒は少し色あせているけれど、文字は当時のまま。僕は胸の奥がきゅっと締め付けられるのを感じた。
思わず手紙に指を触れると、あの頃の自分の声が遠くから響いてくるようだった。「こんなところに残してたんだな…」お母さんは何も言わず、ただ微笑んで僕を見守っていた。
おもむろに手紙を開き、読み始める。
ちえちゃんへ、突然、こんな手紙を渡してごめんね。東京の大学へ進学するって聞いたから、もう会えなくなるんじゃないかと思って…。高校の入学式の日にちえちゃんは優しく僕に声を掛けてくれたこと、今でも鮮明に覚えています。僕は性格が変わっているのもあって、孤立することが多かったけれど、ちぇちゃんは三年間変わらず、僕に接してくれたこと、本当に感謝しています。
鮮やかな桜の花びらが舞う校庭、庭に咲く元気なひまわり、校舎の色鮮やかな紅葉、校庭に広がる雪景色、どんなときも僕の景色の真ん中にはちえちゃんが居ました。僕はちえちゃんが大好きです。
東京の忙しなく、賑やかな街並みの中では昔のことなど忘れてしまうかもしれませんが、たまに僕のことを思い出してくれると嬉しいです。ちえちゃんと過ごせた三年間本当に幸せでした、ありがとう。
読み終えると、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。「……こんな気持ち、まだ覚えてたんだな」思わず微笑む自分と、少し恥ずかしくなる自分が同時にいる。お母さんは少し遠くから静かに微笑んでいた。僕は手紙をそっと封筒に戻す。過去の自分の声が、今の僕の心にそっと寄り添った瞬間だった。
いらないもの