恐ろしい話ー寓話集「針鼠じいさん15」

恐ろしい話ー寓話集「針鼠じいさん15」


 一匹のサルが、サクランボの木の下で、虫当てクイズをしていた。
 「さー、これからサクランボを二つ、木から落とすよ、サクランボの中には虫がいるかもしれないよ、虫がどっちのサクランボに入っているか、二つとも入っているかもしれないし、いないかもしれない、あたった者にはサル酒をいっぱいごちそうしよう」
 サルはひょうたんをゆすって、酒をぽちゃぽちゃいわせた。プーンと甘い香りが漂ってきて、集まっていたウサギやキツネたちは鼻をぴくぴくさせてうっとりした。
 「たまらんねえ」
 ウサギがきいた。
 「だがね、サルの兄さん、あたったらサル酒をご馳走してくれるのはいいが、もし当たらなかったらどうするのだい」 
 サルは頭をかきながら言った。
 「そうさなー、ただじゃおいらが損をする。どうだい、当たらなかったら、ひげを十本いただこう」
 「おんや、サルの兄さん、ひげをどうするね」
 キツネが聞くと、サルは、
 「おいらの趣味はかごを編むことなのさ、アケビのつるや、藤ツルや、竹やいろいろ使って作ったがね、ひげで編んだかごってのはまだないからね、そんなわけさ」
 「ふーん」
 ジャコウネコはひげを洗った。
 「さて、誰が最初にやってみるかい」
 サルはサル酒をちょっとばかし口に含んだ。なんともたまらないかおりが漂った。
 「よっしゃ、わしがやってみよう」
 タヌキのじいさんが、前にでてきた。サルは木の上に向かって、
 「たのむよ」
と声をかけた。その声を合図に、木の上にいたカミキリムシが、サクランボを二つ切り落とした。
 落ちてきたサクランボをサルは上手に受け取ると、目の前に並べて言った。
 「さあ、どうだい、タヌキのじい様よ、どれに虫が入っているかね」
 タヌキのじいさんは、赤くうれた一つを指差した。
 「これにゃ虫がいるね、もう一つにゃおらんわい」 
 サルはうなずくと、二つのサクランボを割った。赤くうれたさくらんぼから虫が這い出してきた。でも、もう一つからも虫が出てきた。
 タヌキのじいさんはあごひげを一握り引っこ抜かれてしまった。
 それを見ていたウサギが前に出た。
 「ばくがやるよ」
 「たのむよ」 
 サルの声で、またサクランボが二つ落ちてきた。
 「さーどうだい、ウサギの兄さん」
 サルに向かって、ウサギは自信をもって言ったね、
 「両方とも入っているね」
 サルがサクランボを割ったが、どちらにも虫は入っていなかった。
 ウサギはひげをおもいっきり引っこ抜かれた。
 みんな試したが、誰一人として当たらなかった。キツネにいたっては二度もやって、二十本もひげを引っこ抜かれた。ジャコウネコ、ハナグマ、ネズミ、みんなひげをもっていかれてしまった。
 「誰も当たらないね、それじゃそろそろ終わりにするか」
 サルはサル酒の入ったひょうたんにふたをした。
 そこに赤い蛾が一匹飛んできた。
 「私にもやらせてくれないかしら」
 サルは笑った。
 「蛾の娘さんやい、まちがえたら何をくれるのかね、あんたのひげをもらってもしょうがないよ。
 「いいえ、この赤く透き通った羽はきれいでしょ、これでどう」
 「だがな娘さんよ、その羽をちぎったら、あんたは死んでしまうのだよ」
 「ええ」
 蛾は首をたてにふった。
 サルはちょっとおどろいた。
 「それでもやるのかね」
 「ええ」
 蛾は目をくりくりさせて、発酵しているサル酒の匂いに酔いしれていた。
 「まあ、いいさね、やってみるだけやってごらんな」
 カミキリムシが赤と黄のサクランボを落とした。
 サルの前に並んだ二つのサクランボをチラッと見ると、
 「赤いのには子どもがいて、黄色いのはいない」
と蛾が言った。
 「なあ、蛾のお嬢さん、なかなか当たるもんじゃないんだよ、まあいいや、割ってみるか」
 サルがサクランボを割ると、赤いのには虫がいて、黄色いのにはいなかった。
 「ほー当たった」
 サルは目を丸くした。
  「それじゃ、サル酒をおくれ」
「ああ」 
 サルがサル酒をわたすと、蛾は言った。
 「私は香りだけでいいから、タヌキのじいさんにやっとくれ」
 タヌキのじいさんはうまそうにサル酒を飲んだ。
 蛾のお嬢さんは言った。
 「もう一度やらせてくれないかしら」
 「今は偶然に当たったがな、そう何回もうまくいくものじゃないぜ」
 サルは信じられないという顔で言った。
 「だいじょうぶよ」
 蛾のお嬢さんはサル酒の香りに酔っぱらって言った。
 そこで、サルはカミキリムシにサクランボを二つ落とすように合図をした。
 蛾は一つを指し示すと、「これには虫ははいっていないわね」、と言った。
 その通りに、その一つには虫は入っていなかった。
 「サル酒はうさぎさんにやっとくれ、まだ続けようね」
 香りに酔った蛾はサルにかんだかい声で言った。
 「しょうがねえ」
 サルは続ける羽目になってしまった。
 蛾は次から次へサクランボの虫を当てるので、回りで見ていたひげを抜かれた動物たちは、みんなサル酒のもてなしを受けることになった。
 蛾の目の前には、サクランボからだされてしまった白い虫たちが、うようようようようごめいている。
 「たいしたもんだな」
 みんなは蛾をほめた。
 たいしたもんだと思って、サルも聞いた。
 「しゃっぽをぬぐよ、どうして虫がはいっているのかわかるんだい」
 蛾はふらふらしながら答えた。
 「虫が入っているサクランボには、小さな針よりもっと細い穴があいているのよ」
 「そんな小さな穴が見えるのかい」
 「ええ、私があけた穴だからね」
 「どうして穴をあけたんだい」
 「卵を産むためよ」
 蛾はほほえみながら言った。
 サルはだいぶ驚いた。
 「それじゃ、この虫たちゃあ、あんたが産んだやつなのか」
 「そうよ」
 それを聞いて驚いた木の上のカミキリムシが、思わずサクランボを切り落としてしまった。
 「それにも虫が入っているわよ」
  落ちてきたサクランボをサルが割ると虫が出てきた。
「こりゃあ、あんたの子どもかい」
 「そうよ」
 蛾の回りには白い虫がごろごろしている。
 「なあ」
 サルはつるんとした顔で言った。
 「サクランボから出た虫は生きていけないんじゃないかね」
 「ええ、そうよ」
 「おまえさんの、こどもだろ」
 蛾は、サル酒の香りにとろとろになって、また、
 「そうよ」
 と答えた
 それを聞いた動物たちは、いっぺんに酔いがさめちまった。

恐ろしい話ー寓話集「針鼠じいさん15」

寓話集「針鼠じいさん、2015、209p 一粒書房)所収
絵:著者

恐ろしい話ー寓話集「針鼠じいさん15」

サルが木になっているサクランボに虫がはいっているか当てさせていた。当たった者にはサル酒をふるまっていた。とてもよく当てる蛾の姉さんがいた。どうしてだろう

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-01-15

CC BY-NC-ND
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