これが評判というものだー寓話集「針鼠じいさん14」
森のじいさんカエルの生きがいは森の天気予報をすることだ。
秋になったある日の朝、雲の流れがちょっとはやかった。カエルは言った。
「こりゃ嵐になるかな」
夏の熱い日を避けて、羊歯の下にいたトカゲは、それを聞くと、さてどこに行くかと思案した。
トカゲはからだの熱をお天道様からもらっているので、朝起きると日にあたらなければその日は動けない。
嵐がくる前に、明日の分も日にあたっておかなけりゃ。
トカゲはどんぐりの木にのぼって十分にお日様にあたった。
木の枝に考えごとをしているニューナイスズメがいた。
トカゲは言った。
「嵐がくるってさ」
スズメは翼がいたんだので、どうやって繕うか考えていたところだ。
しかしそれを聞くと、トカゲに礼を言って、無理にも翼をひろげ、ばたばたと杉の木の巣に飛んでいった。
巣にもどると、枝を歩いているリスに言った。
「嵐がそこまできてるってさ」
「そりゃ大変だ、はやくしなきゃ」
食料のたくわえがあまりなかったリスは、どんぐり集めに行こうとしていたところだ。
途中でウサギに会った。
「嵐だから食べるものを用意しなきゃ」
リスがそう言ったので、ウサギは長い耳をおったて、
「食料を用意しろ」
大声でさけびながら、巣にもどって行った。
それを聞いた山の芋をほじくっていたイノシシは、大きな山芋を掘って、手に抱え、声をあげた。
「重いぞ、たくさんとったぞ」
きのこを食べ過ぎ、どでんと切り株によりかかり、日に当たって熱くなっていたタヌキがその声を聞いた。
タヌキは泉に手を洗いに行くアライグマに言った。
「熱いね、涼しい風がほしいね、重いのがたくさん来てるんだってさ」
いいかげんなもんだ。
アライグマは泉のほとりに行くと、花の中に鼻を突っ込んでいたアナグマに言った。
「熱い風が吹いてくるんだってさ」
それを聞いたアナグマは、巣にもどる途中、蜂蜜をなめていたクマに、
「火事だ、熱い風が吹いてきているんだってさ」
と言った。
クマは自分の穴に戻ると、奥さんに大声で知らせた。
「山火事だ」
子どもにお乳を与えていたクマの奥さんは、子どもをつれてあわてて外に飛び出した。
そこに獲物を探しにきたキツネに、
「まったく、この忙しいときに、大変じゃないか、逃げなきゃね」
と言った。
キツネはあわてて駆け出し、ひげを念入りに洗っていたヤマネコに言った。
「何かがおいかけてきているから逃げなさいってさ」
それを聞いた、とても神経質なヤマネコは、どんどこどんどこ森の中を走り回った、そして、野イチゴにかじりついていたネズミに言った。
「あーあ、走り回ったんで熱くなった」
そそっかしいネズミは尾っぽを振って、巣の中で退屈していたカラスに叫んだ。
「暖かくなるそうだ」
おしゃべりガラスは森の上に舞い上がると、森中に響きわたる声で、
「明日は暖かいいい天気になるとよ」
森の動物たちは、それがカエルの天気予報だと思った。
水面に顔を出していたじいさんカエルは、それを聞くとぎょっとして、水の中にもぐった。自分が言ったこととは全く違う。
次の日になると、嵐なんかこないで、とても暖かないい天気になった。
森のみんなはカエルの天気予報が当たったと思った。
じいさんカエルは苦笑いをして、
「明日は雪が降るよ」と言ってみた。
森の動物たちはカエルを信じて自分のすみかで暖かくしていた。
次の日、それは本当になった。
秋になったばかりなのにかなりの雪が降った。
池には氷が張ってしまった。水の中にいたカエルは氷の中にとじこめられてしまった。
次の日、秋晴れになった。とてもあたたかい。
森の動物たちはみな無事に朝をむかえた。
ところが、カエルの天気予報の声がしない。
どうしたのかと、みんなが池にやってきた。
じいさんカエルは水の中で息絶えていた。
森のだれもが、カエルの天気予報を感謝し、カエルのじいさんの記念碑を作ることになった。
力持ちのクマが緑色の大きな石を運んできて、池の脇に立てた。
森の動物たちは、森に訪れるだれにも、カエルの天気予報のことをはなしたのだ。それで、じいさんカエルの評判はその村どころか、遠くまで知られることになったということである。
これが評判というものだー寓話集「針鼠じいさん14」
寓話集「針鼠じいさん、2015、209p 一粒書房)所収
絵:著者