見る目がないねー寓話集「針鼠じいさん13」
若くて、なかなかの男前のネズミが、森の入り口の木の洞に住んでいた。
ある日、野原で出会った友達に、男前ネズミが言った。
「となりの森のアナグマのお嬢さんはなかなかのきりょうよしだ」
「ああ、友人は興味なさそうに返事をした」
「俺の嫁さんにどうだろう」
男前のネズミはつぶやいた。
「よしな、よしな、あんたはネズミさね」
友人はずばっといったつもりだった。でも、男前ネズミの気持ちは変わらないようだ。
あくる日になった。
男前ネズミは早起きをして、隣の森のアナグマの洞穴の前で、アナグマお嬢さんが出てくるのを待った。
やがて、アナグマのお嬢さんが洞穴から顔をだした。
のっそりとはいだしてきて、ちょっと身づくろいをした。
男前ネズミはアナグマを見ると思った。
「つぶらな瞳はなんとかわいらしい」
アナグマお嬢さんは、ネズミがいるのにも気がつかないで、きのこの朝食をとりによたよたと森の奥へと歩いていった。
男前ネズミはこのときとばかり、アナグマの前に踊り出ると、少し上ずった声で言った。
「アナグマのお嬢さん、あなたはなんと魅惑的、僕のお嫁さんになってくれまいか」
アナグマのお嬢さんは小さな目をもそっとネズミのほうに向けると、また、のたのたと歩き始めた。
男前ネズミはあわてて追いかけ、アナグマの目の前で尾っぽをぴんと上げ、胸を張った。そして言った。
「アナグマのお嬢さん、ぼくはいつぞや、泉のほとりであなたを一目見て、あなたのとりこになっちまったのです」
だけれども、アナグマのお嬢さんは知らん顔、ネズミの脇をすり抜けると歩いていってしまった。
男前ネズミは、ぶつぶつ言ったが、すぐ気を取り直して追いかけた。
「娘っ子っていうのは、内心うれしくても、興味がなさそうな顔をするもんだ」
そう自分をはげまし、男前ネズミは、追いかけていって、アナグマの尾っぽをつかむと言ったんだ。
「なんとふさふさした素敵な尾っぽだろう、お願いだから、たのみを聞いてくれないか」
アナグマのお嬢さんは、尾っぽをふって、ネズミの手を振り払のけた。
ネズミなどお構いなしに、森の中の茸畑にやってきた。アナグマは色とりどりのきのこの中から真っ赤なきのこを選んで、カタカタとかじり始めた。
追いかけてきた男前ネズミは、おいしそうな赤いきのこをたくさん集めて、アナグマのお嬢さんの前に持ってきた。
でも、アナグマのお嬢さんはネズミのとってきたきのこに見向きもしない。ただひたすら自分で選んだ真っ赤なきのこをカタカタ食べた。
男前ネズミはちょっと腹が立ってきて、自分のとってきた赤いきのこをかじろうとした。すると、アナグマのお嬢さんは、そのきのこを太い尾っぽでネズミの前から払いのけ、自分のほうに寄せてしまった。
男前ネズミは驚いて、
「なにするのかね」
と、いいかけたのだが、
そうか、あとで、ゆっくり食べるつもりかと、思って、おとなしく引き下がった。
アナグマのお嬢さんは、自分が選んだきのこを食べ終えると、ネズミのとってきた赤いきのこをあっという間に踏みつぶした。
男前ネズミはきょとんとして、ひげをぶるぶる震わせたが、ぐっと何も言わなかった。
娘っこってのはきまぐれなんだ。
アナグマのお嬢さんはそそくさと泉へ水を飲みに歩いていってしまった。
男前ネズミもついていった。
「アナグマのお嬢さん、なんで僕の嫁さんになってくれないんで」
泉につくと、アナグマは前足で水面をぴしゃんとたたいた。水がはねてネズミにひっかかった。
ネズミはだいぶ腹が立った。
「なんだい、アナグマのお嬢さん、あんたにとってもこんなにいい機会はないんだよ、俺みたいな男前が嫁さんにしてやるっていてるんじゃないか」
アナグマはそれを聞くと、また水面をばしゃんとたたくと、水がネズミの顔一面にかかった。
そして、振り向くと言ったんだ
「お前さん、おふざけかい、その水で顔でも洗いな、私をいくつだとお思いだい、八十歳のばばあだよ、それでもいいのかい、ひまごのまごが三十匹もいるんだからね」
ネズミは目玉をまんまるにして、後足で立ち上がった。
「お前さんは娘っ子を見る目がないね」
アナグマは笑った。
「それにお前さん、きのこを見る目がないね、お前さんのとってきた赤いきのこはみんな毒さね」
ネズミは顔を赤くすると、いきなり森の奥へ逃げ出した。
「おーはずかしい、死んじまいたい」
真っ赤な大きなきのこに食らいついてむしゃむしゃと食べた。
だけど、その茸はただお腹を下すだけの毒しかなかった。
ネズミは一晩中おなかがおかしくなって、トイレに何度も何度もいかなければならなかったのだよ。
眠れなくて、あくる朝、げそっとやせちまった。
見る目がないねー寓話集「針鼠じいさん13」
寓話集「針鼠じいさん、2015、209p 一粒書房)所収
絵:著者