なんでも食べなきゃ食通になれないよー寓話集「針鼠じいさん12」

なんでも食べなきゃ食通になれないよー寓話集「針鼠じいさん12」


 甘い物が好きなミミズと、塩からい物が好きなヘビは、顔をあわせるといつも言い合いをしていた。
 今日もそうだった。
 ミミズは言った。
 「甘いものを食べるものは頭がいいんだ、甘いものが嫌いなのは足し算もできない」
 ヘビはそれを聞くと鼻にしわをよせた。
 ミミズは言った
 「甘いものを食べないと動きが鈍いんだ、ナメクジに追いつかれてなめられちまう」
 ヘビは少し怒ってきた。
 ミミズは続けた。
 「甘いものが怖くて食えないのだろう」
 ヘビはだいぶ怒った。
 しかし、顔には出さずに言った。
 「そんなことはないよ、甘いものも食えるさ、森にとっても甘いきのこが生えているが、それだって食えるさ」
 それを聞いたミミズは、甘いきのこのありかを知ることができると、内心ほくそえんだ。
 ミミズは言った。
 「甘いきのこなんて聞いたことがない」
 ヘビは言った。
 「森の中には、そりゃいろいろなきのこがあるのさ、すっぱいのもあるし、にがいのもある」
 ミミズはよだれを隠して言った。
 「どのくらい甘いんだい」
 甘いものが嫌いなヘビは答えに困ったが、
 「あんたが今まで食べたことのあるものよりもっと甘いんだ」
 と、言ってみた。
 ミミズはそれを聞くと、木の洞から染み出していた蜂蜜を思い出した。
 ミミズは聞いた。
 「蜂蜜より甘いのかい」
 「そりゃそうだ、そのなん倍も甘いんだ」
 ヘビはにこにこして言ったんだ。
 「ほんとに食えるか、みせてもらおうか」
 ミミズはそう言うと、
「みせてやるよ」
 と、ヘビはミミズを連れて、森に向かった。
 北の道から森に入ると、入口からいろいろなきのこが生えている。奥のほうへ行くと、それはそれは、赤、黄、茶、色とりどりのきのこたちがいたるところに顔を出していた。
 朽ちた木の根元にくると、ヘビは言ったのさ。
 「そこにある赤いきのこは森の中で最も甘くて、あちらの黄色いきのこは最も塩からいんだ」
 ヘビは赤いきのこをかじった。
 「ほら、甘いものだって食えるぞ」
 ミミズも、赤くてふっくらとしたきのこの根元にもぐりこみ、かぶりついた。
 そのきのこはものすごく塩からかった。ヘビのやつだましたな、と思いながらも何食わぬ顔で言った。
 「本当だね、たしかに甘いきのこだ」
 それを聞いたヘビは、そんなはずはないのにと思い、赤いきのこの傘にかみついた。
 ずいぶんからいじゃないか、とヘビは首をかしげた。
 ミミズはそんなことおかまいなしに、今度は黄色いきのこをかじりながら言った。
 「ヘビ君、確かに黄色いきのこはからいけれども、たいしたことないよ。実を言うと、僕は昔からたいそう塩からいものが好きで、塩からいものを探していろいろなところを旅したのさ、そして、そいつを見つけたんだ。でも塩からすぎて食べることができなくて、それから甘党になっちまったんだ」
 「そいつはなんだい」
 ヘビは聞いた。
 ミミズはもったいぶって、なかなか言わなかったが、ヘビがあまりにも見つめるので言った。
 「教えようかね、そいつは僕なんだよ」
 ヘビは目を丸くした。
 「ある日ね、僕をごぼうと間違えたナメクジがね、僕をジョロンとなめて、塩からさのあまり、縮んでしまったんだ。そこで僕は自分をなめてみた。そりゃ驚いたね、からいこと、からいこと、こんなに塩からいものはないね、なにせ、塩より塩からいんだ、それだけじゃないよ。味がとってもよかったんだ」
 ヘビは舌をちろちろとだして、よだれをたらさんばかりだった。
 ミミズはこのときとばかり言ったね
 「どうだね、僕を君に進呈しよう、飲み込んでくれたまえ」
 「いいのかね、そりゃちょっと悪いような気がするがね」
 ヘビはかたちばかりの遠慮をした。
 「かまわないさ、こんなに甘いきのこを食べたんだから」
 ミミズがそういうので、ヘビはしゅっとミミズをのみこんでしまった。あまり、勢いよく飲み込んだので、はたして、塩からかったのかどうかよくわからなかったが、至極満足したのだよ
 木の下でうたた寝をしていたヘビはおなかが減ってきた。
 ミミズ一匹じゃおなかがすくのもあたりまえ。そこで食べ残した塩からいきのこを食べることにした。
 ほいと茸を丸呑みにした。ところが、きのこはぴょんとのどの中から勢いよく戻ってきてしまった。塩辛いきのこを食べても、みんな口の中からとびだしてしまった。しかたない、ヘビはあまり塩辛くないきのこも食べた。それでも食べるたびに食べたきのこが丸のまま勢いよくもどってきてしまった。
 ヘビの腹の中のミミズが、塩からいきのこが入ってくるたびに、外に放り投げていたのだ。
 ミミズの声が、ヘビののどの奥のほうから聞こえた。
 「甘いものを食べない限り、全部放り出してやる」
 ヘビは、ミミズが消化されなかったのを不思議に思ったが、ミミズの叫ぶ声がさらに聞こえて納得した。
 「俺はな、はぬるぬるに護られているので消化されないんだ」
 ヘビはそれを聞いて病になり、おなかがすきすぎて、畠にくると目くらめっぽう甘いサツマイモにかぶりついた。
  サツマイモを食べたヘビは思った。
「甘いものもいけるものだ」
 ヘビは甘いものが好きになって、甘いものばかり食べるようになった。腹の中のミミズは大喜びでおこぼれを頂戴した。しかし、ミミズの胃がだらーんとして、甘いものがいやになってきた。
 ミミズはたまらなくなって、ヘビの口から飛び出した。そして、森の中への行くと、赤い塩辛いきのこにかぶりついた。
 「からいものもうまいうまい」
 こうして、ヘビとミミズは両刀づかいとなり、食通といわれるまでになったのだそうだよ。

なんでも食べなきゃ食通になれないよー寓話集「針鼠じいさん12」

寓話集「針鼠じいさん、2015、209p 一粒書房)所収
絵:著者

なんでも食べなきゃ食通になれないよー寓話集「針鼠じいさん12」

甘いものが好きなミミズと、塩からい物が好きなヘビは顔を合わせると言い合いをしていた。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-01-12

CC BY-NC-ND
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