みんなすきなこと言ってるよー寓話集「針鼠じいさん10」

みんなすきなこと言ってるよー寓話集「針鼠じいさん10」


 とっても朝早く、森の奥の洞穴で、タヌキの赤ん坊が一匹生まれた。
 早起きの森ネズミのじいさんが、まず一番にそれを知って、タヌキの穴にやってきた。
 「よかったの、おめでとうさん、赤ん坊は元気かね」
 タヌキの亭主は上機嫌で答えた。
 「そりゃもう、あっしに似て、ころころして元気で、かわいいもんでさ」
 「どうれ、赤ん坊にあわせておくれ」
 そりゃもう、亭主は喜んで案内した。
 森ネズミのじいさんは穴の中によちよち入っていくと、枯葉の寝床ですやすや寝ている赤ん坊を見た。
 「おんや、赤ん坊といっても、わしよりも大きいじゃないか。わしゃ、もっとかわいいものかと思っていたんじゃが」
 それを聞いたタヌキのかみさんは、赤ん坊を抱きかかえると、
 「ふん、森ネズミのじじい、今にこの子がお前さんを追いまわすからさ、食べられないように気をつけるんだよ」
 そう小声でつぶやいた。
 森ネズミのじいさんが帰ると、入れかわりに、野ウサギの娘がやってきた。
 「あかちゃんがお生まれになったそうですね、母と父は畑にいかなければならないので、わたしがきました」
 タヌキの亭主は、ホクホク顔で、
 「そりゃ、わざわざありがとうございます、もう、かわいくて」
 と、頭をかいた。
 「見せてくださるかしら」
 野ウサギの娘は、長い耳をぴくぴくさせて言った。
 タヌキの亭主は、
 「もちろんで、どうぞ、どうぞ」
 穴の中に案内した。
 おかみさんは赤ん坊をだっこして、ウサギのそばに連れていった。
 「どーお、かわいいでしょう」
 ウサギの娘は赤ん坊を見ると、
 「おーや、かわいい、でもお耳も短いし、お目目も赤くいないわね」
 と言った
 それを聞いたタヌキのおかみさんは、ウサギ娘のみじかい尾っぽをけっとばした。ウサギはびっくりして穴から外に飛び出しぴょんぴょん飛び跳ねていってしまった。
 今度はきつねのかみさんがやってきた。
 「こんにちは、赤ちゃんが生まれたそうね」
 タヌキの亭主はもうにこにこ顔だ。
 「え、ええ、鼻があっしそっくりで、そりゃもう、かわいいんで」
 「会わせていただきたいわ」
 キツネのおかみさんは、太い尾っぽを右に左にゆらしながら、穴の中に入っていった。
 「ほーら」
 タヌキのおかみさんはキツネのかみさんに赤ん坊を見せた。キツネのおかみさんは目を吊り上げて言った。
 「まあ よくころこりと太っていらっしゃること、お母さんとそっくりじゃない」
 タヌキのおかみさんはそれを聞くと、
 「ええ、かわいいでしょう、目はくりくりしていて、誰かみたいに吊りあがってなんかいないでしょう」
 と言った。
 キツネのおかみさんは、もっと眼を吊り上げた。 
 「もう、こん」
 帰ってしまった。
 そこへ、大きなワシが舞降りてきた。
 「子どもが生まれたって」
 ワシは大きな翼をたたみなおすと言った。
 タヌキの亭主は、それは甘ったるい声で
 「ええ、ええ、かわいくてね」
 とワシを見た。 
 ワシは
 「見たいねえ」
 そう言って鋭い目を洞穴に向けた。
 だけど、穴は小さくて、ワシは入ることはできなかった。
 「見たいねえ」
 ワシはもう一度言った。
 タヌキの亭主は穴の奥に声をかけた。
 「おいお前、子どもを連れて出ておいで、ワシのだんながきているよ」
 ちょっと時間がかかったが、タヌキのおかみさんが赤ん坊をつれて入り口のところまで出てきた。
 タヌキのおかみさんは、ワシを見ると、ぶるっと身震いをして、子どもをいっそうしっかりと抱きしめた。
 ワシはじろりと赤子を見た。 
 「おや、つるんとしてるね、ボツボツしていないね」
 「鳥肌のことですかい」
 タヌキの亭主は聞いた。
 「え、そう、おれたちの間では鳥肌なんていわないけどね」
 「じゃあ、何ていうですかい」
 「特にないね、お前さんたちが、タヌキ肌なんていうかい」
 「いや言いませんね、鳥じゃないですからねえ、タヌキですからね」
 そう言うとタヌキの亭主はなんとなく笑った。
 ワシのだんなは、
 「ああ、そうだろ」
 タヌキの赤子をしげと見つめ、思い出したように、思わず、
 「うまそうだなー」
 と言ってしまった。
 タヌキのおかみさんは全身鳥肌だらけになったが、タヌキの亭主は、
 「ええ、もう、食べたちゃいくらいなんで」
 顔にまんべんの笑みを浮かべた。
 それを聞いたワシは
 「子どもは世の中を平和にするよな」
 ワシらしくないことをつぶやいて、目をとろんとさせて、飛んで行ってしまったそうだよ。

みんなすきなこと言ってるよー寓話集「針鼠じいさん10」

寓話集「針鼠爺さん、2015、209p 一粒書房)所収
絵:著者

みんなすきなこと言ってるよー寓話集「針鼠じいさん10」

狸の夫婦に子どもが生まれた。次々と森のどうぶつが来て、お祝いを言った。なんて言ったのか聞いてみましょう。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-01-10

CC BY-NC-ND
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