カラスは白いんだー寓話集「針鼠じいさん9」
お天道さまがちょっと顔を出した。そんな朝早くに森の奥から一羽の太りぎみのカラスが飛び出した。
からすは空高く舞い上がると、森に向かって一声鳴いた
「あほー」
その鳴き声を聞いた森のカラスたちがみんな飛び出してきた。そしてそのカラスに向かって、声をそろえて大きな声で叫んだんだ。
「森に戻ってくるなー」
その声は空の太陽にまで届きそうに大きなものだった。
あまりにも大きかったので、一羽のカラスはびっくりして空から落っこちそうになった。あわてて空中で羽をばたつかせ、
「あほんだらー」
と叫ぶと、森から野原に向かって飛んでいった。
そいつはハミダシガラスになったんだ。あんまりいたずらがひどくてね、それだけではなくて、意地汚くてみんなの食べ物を横取りするし、えばりちらすので、森中のカラスから仲間はずれにされたのさ。
ハミダシガラスは野原を越えて、となりの森を越えて、また大きな山も越え、夕方になって、やっと海にそそぐ川べりの一本の木に舞いおりた。
疲れたハミダシガラスは枝に止まってあたりを見回した。
腹減ったと、下を見ると白い鳥が目に入り、素っ頓狂な声を上げた。
「おや、お前さん、白いカラスじゃないか」
ハミダシガラスの止まっているちょっと下の枝に、白いカラスが止まっている。
うつらうつらしていた白い鳥は、変な声に驚いてとろんと上を見た。
そいつの眠そうなまぬけ顔に、ハミダシガラスは笑ってしまった。
「白いカラスかい。珍しいね、森の中にはいなかったね」
すると、そこに白い鳥がもう一羽、よたよたと飛んできた。
ハミダシガラスはちょっと驚いて言った。
「お前さんの兄弟かい。するとなんだね、お前さんの家族っていうのはみんな白いかい、白いカラスかい」
そこへ二羽やってきて木の下に降りると、ヨチヨチ歩いて石にけつまづいた。
「おやおや、お前さんたちにはたくさんの兄弟がいるんだね。それにしても不器用なことだね。ぶきっちょ白ガラスなんて格好の悪いことさ」
ハミダシガラスは木の下に降り、けつまずいたやつのとなりでぴょんぴょん跳ねた。
そこへ白い鳥がたくさん飛んできて、ハミダシガラスの回りを取り巻いた。ハミダシガラスはさっと見渡し、
「全部で十三羽か。カラスは七つの子っていうんだぜ、ずいぶん兄弟が多いね」
そこへまた五羽降りてきて、ハミダシガラスの周りをよたよたと歩いた。
ハミダシガラスは首をかしげた。
「森ではカラスは黒いものと思ってたが、水辺にきたら白いのばかり、カラスは白いのが本当なのかもしれないぞ」
ハミダシガラスは白いカラスがどこから飛んでくるのか見てやろうと、空高く舞い上がった。
木の天辺の張り出した枝の先に止り、目を凝らしてみると、海の方からまた白い鳥が飛んでくる。それを見て、ハミダシガラスは海に向かって飛んでいった。
海の上では、白いカラスが一列になって波に揺られ、のんびりと海の上に浮かんでいたんだ。
そこでハミダシガラスは思ったのだよ、
「カラスは本当は白いのだ。ああやって、波に揺られていると黒い色がおちるんだな、よし、おいらも真っ白になって、森のやつらを驚かせてやろう」
ハミダシガラスは海の上のほうに舞い上がると、空中停車して、白い鳥たちが浮いているところにむかって、
「あほう」
と、一声鳴いた。
白い鳥がそろってハミダシガラスを見上げた。
ハミダシガラスは目をつむって、海の水面めがけて急降下した。
ぼちゃん!
水しぶきが上がった。ハミダシガラスは水面から姿を消した。ところがいつまでたっても浮かび上がってこなかった。
白い鳥たちは、それを見て首をかしげた。
「おぼれちまったよ。黒いカモメなんて珍しかったのに」
カラスは白いんだー寓話集「針鼠じいさん9」
寓話集「針鼠爺さん、2015、209p 一粒書房)所収
絵:著者