役割ってものがあるんだよー寓話集「針鼠じいさん6」
夏になった。
三匹のクマがのったりのったり野原を歩いて行く。
黒くて長い毛の先から、汗がぽたぽたと落ちている。
「暑いったらありゃしない」
「全くだ」
クマの鼻の頭から、雨水のように汗が流れ落ちた。
「今年はまだ冬毛がぬけない」
一匹のクマが自分の毛を引っぱった。
汗で固まった毛は、べったりからだにへばりついている。
後ろから若いヒツジがやってきた。
「あつい、あつい」
ヒツジもびっしょりと汗をかいていた。
「そんなにもこもこと毛をかぶってちゃ暑いだろう」
クマがヒツジに声をかけた。
「そりゃ暑いさ、だがらこれから毛を刈ってもらうのさ」
「どこにいくんだい」
「牧場だよ」と、
ヒツジは早足で行ってしまった。
「毛を刈ってもらうんだと、なんと幸福なやつだ」
クマたちの汗は滝のようになってきた。
そこへ、別のヒツジが一匹、走ってきた。
「おくれた、おくれた」
ぶつぶつ言いながら、クマたちの前をさっさと通りすぎた。
「俺たちも毛を刈ってもらえるかーい」
クマがヒツジに向かってさけんだ。
ヒツジはふり向いて、
「たぶんなー」
そう言うと、牧場に入っていった。
「どうだいあのヒツジの後をおって、我々も恩恵に浴することとしようじゃないか」
「そりゃあ、名案」
クマたちは牧場に向かった。
牧場に入ると、あふれんばかりのヒツジたちが列をなしていた。
クマたちもドンケツにならんだ。
「おっそろしくたくさんいること」
「いずれ順番がくるさ」
クマたちは、べっちゃと座ると、足を前になげだした。
よろよろとやってきた年寄りのヒツジがよろよろやってきた。
そしてクマたちの後にならんだ。
ヒツジは目をしょぼしょぼさせて言った。
「お前さんたち、そんなみっともない座り方をするんじゃないよ、それにしても汚れたね、真黒じゃないか、不摂生をしてるね、そんなにでぶっちまって」
「どうやって座ればいいんだい」
クマがたずねると、
「ヒツジはな、このように前と後ろの足をきちんと折りたたんで座るんじゃ」
そう答えて、年寄りヒツジは座って見せた。
「お前さんたちみたいに、後ろ足を前になげだして、ケツで座るなんぞはサルまねじゃい。腹を下にせにゃいかん」
それを見たクマが言った。
「それじゃ前足が使えないじゃないか」
「座ったときにゃ、前足も休めにゃいかん」
「そういうものか」
三匹のクマはヒツジのように座ってみた。
だけど、からだが重くて手足がしびれてきた。
「俺たちにはできないよ」
年寄りのヒツジは居眠りをしていた。
クマたちはもとのように座り直した。
列の前のほうを見て、一匹のクマがため息をついた。
「まだまだだ」
そこに五匹のブタが、通りかかった。
「おそろいでどこにいくのだい」
クマがきいた。
「あっちにならびに行くのさ」
先頭のブタが小屋を指差した。
一匹のクマがたずねた。
「たくさんならんでいるのかい」
「いや俺が先頭になるのさ」
そのクマは喜んだ。
「お前さんたちについてっていいかい」
「どうだろうな」
ブタはちょっと首をかしげた。
しかし、そのクマは立ち上がると、ブタの後を歩きだした。
「俺はブタさんたちといくよ。そうすりゃ六番目だ」
残ったクマは、
「ブタは毛がないけどな」
と、思ったけれど、何も言わなかった。
残ったもう一匹のクマも、
「なにしにいくのかきかなかったな」
と、思ったけど言わなかった。
二匹のクマは、夕方になって、やっと毛を刈ってもらった。
「すっきりしたなあ」
クマは足取りも軽く、牧場をあとにした。
だけど、二匹のクマは真っ黒な毛をたくさんかかえていた。
「こりゃ使えない」と言われて、返されたのだ。
毛を捨てる場所をさがして二匹のクマは野原を歩いていった。
すると、ブタについて行ったクマが、よろよろと彷徨っているのにでくわした。
二匹のクマは、そいつを見てびっくりした。
「皮まではいでもらっちまったのか」
「このほうがすずしいからな」
肉だけになったクマは答えた。
「毛を返してもらわなかったのかい」
「毛皮は役にたつんだと」
そう言い終わると、肉だけになったクマは、どさりとたおれて、息たえてしまった。
『クマの肉はうまそうじゃないね』
二匹のクマは、そう思いながら、抱えていた毛を、肉になったクマにかけてやった。
役割ってものがあるんだよー寓話集「針鼠じいさん6」
寓話集「針鼠爺さん、2015、209p 一粒書房)所収
絵:著者