忘れ者
たった今見た景色の中に
懐かしい顔が居る。
懐かしさを忘れて、いつの間に懐かしさに触れる
あっ…つい寝てた…
僕はたしか…
机に突っ伏して1時間…
そうだった…移動教室だ。
でももう鐘は始まりを伝えている
いいや、もういいや。
カーテンがなびいてる、
反射で輝く机達、
夏のこのあつい日に
フッと何か思い出した。
ダラダラとした人達が、
机を並べあって遊んでいたり、
会話して笑いあったり、
放課後はみなが楽しそうだ。
僕はそんなマネキン達を横目に
屋上に上がった。
本来立ち入り禁止として入らない。
でも今は抑制するルールなど破って
パッと1人になって、
大きな空を眺めたかった。
なんだ…屋上にもマネキンが居た。
急にマネキンが喋りだした。
「久しぶりだね」
驚いた。
いつの日か喋ったことのある
結構顔馴染みだったかもしれない
誰か分からないけれど
なんとなくわかる
「あぁ久しぶりだね」
「その顔、当時のまんまだよ」
顔なんていつでも移り変わる物
何を言ってるんだろうかこの人
「いつの話ですか…」
少し笑いながら言ったら
「君と私が初めて会った時、」
そうやって言い放った。
「いつ…会ったんですか私達、」
「君の記憶に私はもう居ないかな」
少し悪いことをした気分になった。
だから言い返した。
「いつ会ったっけ…」
笑いながら言った。
「忘れないよ私は、
君が言った好きっていう単語」
屋上に涼しげな風が吹く。
去年の夏。
僕は彼女に告白していた。
あの時の風
あの時の風景
あの時の音
全てが同じだった。
なのになんで気づかなかったんだ。
「何してたの…2年も」
2年も…
2年…間…
僕は…僕は入院していた。
病室で外の景色はとっくに
白が伝わる毎日だった。
そうだった。
僕は屋上で話していた。
彼女と毎日毎日話していた。
なんで居なくなって居たのだろう。
僕は即座に彼女に聞いた。
「長くなった…本当にごめんね」
「返事は…なんて言ったんだい」
そこに帰ってくる影はなかった。
もうとっくに居ない。
話しかけるように並ぶ柵を
僕ははっきりと覚えている。
僕の飛び降りを庇ったのが
彼女だったと
思い出した。
なぜここに来たかも
最後に思い出した。
忘れ者
忘れてはいけない。
まだ待っているよ、君のこと。