『詩集。』

『◯』

人類は諍うたびに自分たちがこの宇宙に放たれた孤独を思い知るだろう。


誰にも顔の見えない神さまはそうおっしゃって、人間をとても丁寧におつくりになられました。
宇宙をたったひとつのお立場で司るご自身のさみしさを、愛情に祈るよう変えて。
慈しむそのまなざしを人類の闘いの先へ遠くみすえて。


神さまは神さまを憎めません。
愛せません。
あらゆることを与え続け冷えて、哀しいままです。
ですが人間は憎み愛し、さみしさを希望に変えられます。
彼らは諍い決断することで世界を変えます。


神さまは宇宙に磔にされたご自身を思い出しながら人間を生み、人間の仕組みをご自分とは違うものへと育てました。
神さまは、ご自分とは異質な人類が見てきた道をしんと見守ります。


神さまは待っています。
世界を変え続けてきた人類が本当の孤独に触れるときを。


そして神さまは知っています。
人類の受け継がれた赤い血はやがて神さまを濡らすことを。
戻ってきたと神さまは微笑みます。


神さまはずっと、何かを変えたかったのです。
人類を赦し続けながら星を目指すあなたを待っています。


終わりと始まりを繋ぐ億光年の無言。
きっと届く。
神さまの静かなつぶやきは孤独の朝焼けです。


あなたの愛は宇宙を変えます。

『ソナーレ。』

彼女はなにをこれから。
なにを朝焼けにして、なにを世界にして、その眼になにを映して。
息をしていくのだろう。
彼女のこころはなにを映画にするのだろう。
わたしの想像を砕いた彼女は。


今。荒れた舞台にいくつもの墓標が育つ。
墓標の下、奈落。
彼の人のために捧げられた枯れた薔薇。
はなびらの陰影に、わたしの夜。
その存在がある。


手と手は最後まで繋がれることはなく、触れることすら叶わなかったのだ。
わたしの手を離れ、わたしがかけた言葉を透明にしてしまって。


その微笑みはこれからなにを受け入れてあたたかく咲くのだろう。
まとった風はどこまでいくのだろう。
わたしは彼女のためになにひとつ遺さなかった。
彼女が望むものはなにも。


彼女はかくだろう。
なにもなければその指先で鮮やかな色を生みだす。
緩やかな沈黙の最中、豊かな詩を紡ぐ。
幸せのバスドラムとアンラッキーの旋律を、切なさと愛おしさでよりあわせた未来を、そばの誰かへ彼女は優しく語りかける。
季節が芽吹くよう舞い込み自然と過ぎ去るように。


どこかへ行く。
どこへ。
わたしの質問に彼女はまなざしで応える。


もう誰にも台詞はない。
わたしの胸には言葉にならない音が溢れている。
ひとつも捨てられない音色。
どこに行く。なにも持っていないのに。
どこに行く。失うものばかりなのに。
どこに。
行くよ。春と繋ぐてのひらが空いている。
行くよ。失った冬から想像するの。
哀しくないのか。
おもしろいよ。


彼女はこの世の網の目にこぼれるほど手紙を送った。
誰かが触れたら色づく文字。
指先から不思議と染まる。
まなざしからきらきらと飛びこんでくる文学。
心臓が星々の色に締めつけられる。
なにもかもを呑み込むわたしの舞台を物語へと。


彼女はどこへ行く。
その瞳はなにを映す。
雄々しい夏空をよぎる小鳥を見上げるだろうか。
雨ざらし、落ち葉の大地を駆ける黒猫をふりかえるだろうか。
わたしには産み出せなかった命の船に乗って。
彼女は生まれるように行く。
ここではなく。

『創造論。』

真っ白な雪原にひとふで、青い薄影をおく。
命がくるまった、たまごを、そうっと立てるように。
僕はそんな始まりでこの世界に対峙する。


見えるものだらけの魑魅魍魎(ちみもうりょう)の蠢(うごめ)き、見えないものだらけの数多のこころの行方、僕は僕であるまま稚拙さと無知を抱きかかえ混然一体とした世界を、鋭利(えいり)な僕の信じる言葉で分け入れる。
世界は雨粒のごとくきらめき跳ね、はじけ飛んだ。


さなかものともせずいっそうの船が雨嵐のなか出ていく。
目指すはどこか。
僕は知ることができない。
羅針盤、灯台。
夜空の星々の地図。神さまの思し召し。
船は使えるものは全て使うだろう。
それらは解答を与えない。
教えるものは航路だけ。
船は、僕についてなにも知らない。
古ぼけた聖書も贈られた懐中時計、太陽の方角と風の向きがさし示すもの、神さまを呼ぶための祈りの言霊についても。
それらは問いという合理性をこえる。
教えるものは人智をこえる存在へのふるまいだけ。


船も僕もここからどこへ飛びだすのかを知らない。
僕たちはなにも知らないまま、それぞれに挑んでいく。
真っ白な雪原に僕がおいた薄影の青さも、僕が呼び覚ました混乱に慄(おのの)く世界も、僕のこころのなか大海原漂(ただよ)ういっそうの船も、未知を傲慢(ごうまん)に食い尽くす。
嗤(わら)う未知を咀嚼(そしゃく)することで僕は帳尻(ちょうじり)を決して合わせない。
地平線に光とどく平穏を、はるか遠く静かに見通しながら。


僕は師を思う。
真っ白い雪原に足跡を遺すことに怯(おび)えた、幼さのこる僕に彼は言った。
きみは、創(つく)れ。借りものの名はどうでもいい。
彼は世界との遊びかたを教えた。
そして世界と共に生きる方法を教える。
僕はようやっと深呼吸をする。
僕は生まれる。
何度でも。
僕は僕として生まれる。
生まれ変わることは、ない。

『裸の魔法。』

安心しろよ。
魑魅魍魎の森、何一つ変わらぬ。
ここで未来の呪文唱えば鬼が嗤う。
ぬりかえるわたしのブルーマジック。
ふるえば、森は砂のごとく散らばり金の雨が降る。
鬼はひくりと喉を鳴らし黙りこむ。


安心したよ。
偽物だらけの、この森。
見たまま変わらない箱庭。
荒廃ののち未知のページは真っ白。
嗚呼終わりが見えぬ鬼が泣き笑い。
わたしの青い魔法。
つまさきふるえば、にじみでる。
3つ数えて変わりえぬ作法。
誰も裁けない。
ここでひとり、誰をも裁かない。
安心するよ。

『星のひと。』

変わること、変わらないことは何か。
このまま変わってよいこと、それでも変わらない大事なことは何か。


悪く変わったことはどうしてそのように変わったのか。
変わらないままでいることはその方が楽しくはないけれど楽なことだからか。


過去から現在、そして未来へ。
確信と革新。
想像と創造。
変わること、変わらないことは何か。
ずっと変わり続けることは何か。
変わらないままでそっといられ続けることは何か。
どうしてそもそも変わるのか。
どういう理由で辛抱強く変わらないのか。


それら全てにこたえようとするとき。
僕たちは自分自身の重しの有限と、自身が欲求する無限大の道を思い知る。
意思を歩きながら地球を飛べる。
重力と未知にこの星にて、愛されながらも。

『雨。』

雨が降る。
病めるひとも健やかなるひとも老いたひとも子どもたちも働いているひとも働けないひともなんら関係なく空から雨が降る。


恵みの雨か。
天災か。


雨を避け走りかけ、雨傘をさして身を縮こませ、屋根を借り雨宿りをして、雨合羽を羽織り自転車に乗り、車を走らせ雨飛沫を撒いて、対策する人びとの上に平等に雨が降る。
わたしは笑い出したい気分になる。


たかが雨空に神か仏、あるいは懐深い大いなる存在を感じる。
それは人間を冷徹に突き放すような眼差しで掻き抱くように手を伸ばしている。
人間を死なせるようでいて、息吹を与えるようでもある。
雨は平等に静かに人間の存在と共に在る。


キリストやブッダの表情が慈雨にも激烈にも視えるように、雨はこちら側の心持ちしだいいかようにもその顔を変えているよう降り注ぐ。
雨の等しさに世界の優しさをわたしは視る。


笑い出したいこころを撫でて、わたしは雨傘を少し、あげる。
曇り空が見え雨粒が目にはいる。
瞬くわたしの小さな目に、神さま。
信仰にはほど弱いわたしの宗教。
雨物語の帰結。


雨の囁きが耳に残る日に、わたしは笑う。
雨は哲学をなぎ倒す。
口遊む、雨に唱えば。
踊り出せなくても傘裏は、わたしの花園の国。

『詩集。』

『詩集。』

第2の詩集。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-01-04

Copyrighted
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Copyrighted
  1. 『◯』
  2. 『ソナーレ。』
  3. 『創造論。』
  4. 『裸の魔法。』
  5. 『星のひと。』
  6. 『雨。』