すべて乳歯人間の岸辺

白菜の黄色い芯を
包丁で叩ききると
忘れられた空港になる
記憶喪失のヘリコプターが着陸し
撤回された航空機の飛び立つ
サイダーの泡みたいな空港に

簿記と速記のはざまと
花ひらく茶畑のなかにだけ
空港は右翼をのばす
老人介護施設の利用者が
ウェディングドレスでぬけだし
トイレットペーパーのきれはし
かたく握りしめながら搭乗を待つ
かたくなな眼差しのさきには
パールハーバーの砂浜 イビサの町
マダカスガルはバオバブの幹

たぶんぼくは幼いころに一度だけ
白菜から見放された冬へ踏み込んで
その空港を訪れ 奥にあるカフェで
襞のある牛乳を 噴きこぼした

頭骨の展望台へ出ると
すべての航空機の発着が済み
喉へ沈む夕陽へ
引退した整備士が
白旗を振っている
  もう来なくていいから ね

すべて乳歯人間の岸辺

すべて乳歯人間の岸辺

静岡新聞2026年1月3日新春読者文芸欄野村喜和夫選三席

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-01-03

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