まけおしみじゃないよー寓話集「針鼠じいさん3」
夏の日の夕方、牧場の片隅で、ニワトリたちがさわいでいた。
「あたしが、また一等賞だからね」
そう言って、一羽のメンドリが片足をあげた。
「なーに、わしにきまっとる」
大きなオンドリがトサカをとがらせた。
夕日が山の中腹にかかった。
じいさん鳥が声をはりあげた。
「虫のおい出し競走をはじめるぞ、よく聞けよ、虫っころをおい出すのは、足で地面をトントンとたたくだけじゃ、くちばしでほじくったり、爪で地面をひっかくのもいかんよ、地面はどこをたたいてもかまわん」
じいさんの説明がおわると、ニワトリたちはまたざわついた。
「ここのところ、雨がないから、虫んこたちは、土の深くにいっちまってるな」
「ああ、いい場所さがさにゃ、あまりとれんね」
「それがうでってものさ」
じいさん鳥がまた大きな声を上げた。
「そろそろ始めようじゃないか、ヤギの親方がメイメイメイと五回鳴くまでに、一番多くの虫をおい出した者が優勝じゃ」
じいさん鳥がヤギの声をまねた。
「はじメエー」
ニワトリたちは草原に散っていった。
思い思いの場所を陣取ったニワトリたちは、ひょっこひょっこと、地面の上をはねはじめた。
去年優勝したメンドリは、地面を三回たたくたびに一匹のミミズをおい出した。
二等賞だったオンドリは、四回半たたくたびに一匹のミミズを追い出した。
でもオンドリのほうがたくさんはねている。
やがて、ヤギがメエーと鳴いた。
じいさん鳥がどなった。
「あと四回メエーじゃ」
「あたしゃ、もうこんなにおい出したよ」
メンドリは、ぴこぴこはねながらオンドリに言った。
メンドリの足元にミミズが山になってうようよしている。
オンドリは、メンドリを横目で見ながら、何も言わずにはねている。
ヤギがメエーと鳴き、すぐにメエーと三回目を鳴いてしまった。
「あと二回メエーじゃよ」
じいさん鳥がみんなに知らせた。
しばらくすると、ヤギが四回目を鳴いた。
それからだいぶ時間がたった。
ニワトリたちは疲れてきた。
夕日が山の谷合いにほんのちょっと顔をだしているだけだ。
去年優勝したメンドリが言った。
「このあたりの虫たちはみんな出ちまったよ」
「ヤギのおやじはなかなか鳴かないね」
ほとんどのニワトリたちは、ミミズに囲まれてへたばっている。
元気なオンドリだけが、ぴょこぴょことはねている。
飛び跳ねるのを止めたメンドリが、じいさん鳥に声をかけた。
「じいさん、ヤギのやつ寝ちまったのではないかね」
見るとヤギはあくびをしている。
「ルールにゃ無いが、しかたがないじゃろー」
じいさん鳥は、ヤギにちかよると、ヒゲを思いきり引っぱった。
するとヤギは、「メエエエエメエ」と、たて続けに鳴いてしまった。
「まあいいじゃろう、やめだやめだ」
じいさん鳥は、声高らかに虫追い出し競争の終わりをつげた。
ニワトリたちは大欠伸。
じいさん鳥が虫を数えた。
去年優勝したメンドリは六十三匹、大きなオンドリは六十匹だった。
またメンドリが優勝した。
木でできたエサ箱はメンドリのものとなった。
夕日が谷合いに隠れようとしている。
そこへ見なれない茶色の鳥がやってきた。
じいさん鳥が気がついて、
「おまえさんはなんだい」と、声をかけた。
見なれない鳥は返事をした。
「キウイだ」
と答えた。
「(「)なんだって?」
「キウイだ」
「あたしゃキュウリと聞こえたよ、おもしろい鳥だね、お前さん飛べるかい」
メンドリが聞くと、キウイは首を横にふった。
「それじゃあたしたちと同じだね、虫をおい出したことがあるかい」
「ああ、あるよ、さっきから見ていた」
そして、
「おいらだったら、もっとうまくやるね」と、付け加えた。
メンドリは、
「おや自信だね、意外とむずかしいんだよ」
と、笑って、
「どうだい、やってごらんよ」
そう言っちまった。
「そうだな」
キウイはかたい地面の上にたった。
「そのあたりは、もうたたいちまってミミズはいないよ」
じいさん鳥が言ったが、キウイは何も言わずに跳ねはじめた。
ニワトリたちはキウイをとりまいた。
キウイはリズミカルに、ゆっくりトントンと跳ねた。
すると、ミミズよりもっと深くにいたオケラが、ぴょこぴょことび出した。
キウイの周りはオケラだらけになった。
見たこともないような太った虫までがでてきた。
「うまそう」
見ていたニワトリたちのお腹がなった。
「みなさんどうぞ」
キウイがはねながら声をかけた。
ニワトリたちは、こぞってキウイのたたきだした虫たちをついばんだ。
「おいしい虫だこと」
メンドリもオンドリも虫をつついた。
キウイはもう一度、大きく飛びあがって、ドスンと地面に落ちた。
そのひょうしに、ぼっこり土がもりあがり、モグラが顔をだした。
「ほらでた」
キウイがモグラを突っつこうとした。
モグラは大あわて、穴の中に引っ込んだ。
メンドリはつぶやいた。
「足が大きいからだろ」
オンドリは虫をたくさんたたきだしたメンドリの足を見た。
自分の足より大きいじゃないか。
でも、こう言った。
「まけおしみは言わないこった」
メンドリはいきまいた。
「まけおしみじゃないよ」
キウイはそれを聞くと、自分の足をメンドリの前に出した。
メンドリの足より、ずっとちいさかった。
まけおしみじゃないよー寓話集「針鼠じいさん3」
寓話集「針鼠爺さん、2015、209p 一粒書房)所収
絵:著者