真空の比喩 83 (クラリネット)
クラリネットの音色が聴こえる
ぼくはこのクラリネットを持っていない
ぼくはクラリネットにうんざりしていただろう
クラリネットはぼくには違うと思っていた
ぼくには違うはずだった
それはぼくの感覚がそう言ったに違いなかった
しかしどうだろうか
クラリネットの音色が聴こえる
ぼくはクラリネットに安堵感を覚える
クラリネットしかないのではとさえ思える
このクラリネットを持っていないからか
このクラリネットがぼくのものになったとして
ぼくはこれだと思うのか
ぼくは無いものをねだっているだけではないか
いやクラリネットはものではない
ぼくは所有したくはない
誰が何を所有できるというのか
他のものだってこのようになったのか
クラリネットではなかった世界線
にぼくは至れない
クラリネットを通ったぼくしかいない
ここにいるぼくしかぼくには知れない
クラリネット
たまたま浮かんだ言葉
ほんとうにどうでもいい
真空の比喩 83 (クラリネット)