真空の比喩 59 (遊園地)
ねえ、ぼくら
長いことこの遊園地で遊んでいるよ。
もう全部
飽きちゃったよ。
新しいのがきたって
すぐに分かりきっちゃう。
ねえ、
いつからぼくらここで
遊んでいたんだろうね。
「え、何言ってんだ。飽きることなんてないよ。これからもどんどん新しいのが入ってくることも分かっているんだ。もっと楽しもうぜ。それに、変なこと言うなよ。いつからって。どういうことだ?ずっとここにいるじゃないか。おれたち」
どれも同じなんだ。
はじまって、
終わるだけさ。
決められたことが起こって
そして終わるんだ。
ぼくがやっても。
君がやっても。
誰がやっても。
「それがいいんじゃないか。楽しさは決まっている。努力しなくても考えなくても、誰であっても。良いとこだよ。ここは」
…ぼくは
帰ろうと思う。
「帰るって、どこに?」
ぼくの家に。
「家って、なんだ?それはどこにあるんだよ」
きっと
この遊園地の外にあるのさ。
「外?外はつまらないよ。何も遊べるもの、ないんだぞ。それに、何で外におまえの家があるんだ?おれたちずっとここにいるじゃないか。周りを見てみろよ。誰にも家なんてないぞ」
ここにはないんだ。
くまなく見てまわったよ。
毎日、毎日…
でも、ここにぼくの家はなかった。
誰の家もなかった。
だけど、家を探すのは、アトラクションで遊ぶよりもずいぶんと面白かったような気がする。
「そりゃあ、おまえの家も誰の家もある訳ないだろ。遊園地なんだから。おかしくなったのか?アトラクションよりも、見つかりもしないものをふらふら歩いて探すことの方が面白いだなんて。…仕方ないな。ジュース、あそこの売店でおごってやるから元気だせ。休めばまた楽しめるよ」
あはは、ありがとう。
でも、いらないよ。
ぼくは元気だよ!
分かるんだ。
ぼくはもう二度と、この遊園地では楽しめない。
ほんとうに、飽きたんだ。
君も実は、そうなんじゃないか?
君はしばらく
ほんとうに笑ってはいないように見える。
「何言ってんだお前。ほんとうも何も、おれは面白いから笑うんだよ。変なこと言うなよ」
外にいたような気がするんだよ。
外からここに来たような気がするんだ。
ぼんやりしているけれど。
夢みたいに。
ずっと、はじめからここにいたのではないような気がするんだ。
「何言ってんだお前。変なこと言うなよ」
あ、出口があるよ。あそこに。
「何言ってんだお前。出口って。…あれ、ほんとうだ、出口…。はじめて見た」
はじめて見た。
じゃあね。
ぼくはあそこから出るよ。
――それから
何もきこえなかった
道のりもなにもなかった
いた
家に
ぼくの
あ
ぼくは笑った。
面白いから笑った。
真空の比喩 59 (遊園地)