真空の比喩 17

私は、自分が書くものを便宜上「詩」と言ったりするが、実際のところ自分が書いているものは何なのか分からない。
自分にとって大事な何かであることは分かる。
道しるべのようなもの、気づきの備忘録、感覚の標本…
その時その時で、いろいろな性質を帯びている。

いくつか言葉が並び、いわゆる詩のような見た目をしているから、便宜上「詩」と言っているだけだ。
これが詩なのか、詩ではないとしたら何なのか…はどうでもよいことだろう。
もしかしたら、何でもないのかもしれない。
私が本来、何者でもないように。

私は会社で働いているから、「会社員です」と言えるが、実際のところ私以外の何者でもない。
私は早川佳希という名前がついているから、「早川佳希です」と言えるが、実際のところ私以外の何者でもない。
「私」ですらない。

詩人は存在しない。
みんな、ただその人だ。
たとえ誰かが、その人を「詩人」と呼んだとしても。
たとえ誰かが、「詩人」を自称したとしても。
それらはただの呼び名に過ぎない。



私は、何でもないのかもしれないものをこそ「詩」と呼ぼう。

詩は自由だ。
言葉からも自由だ。
私からも自由だ。
ひとりひとりの人間が本来、自由であるように。

真空の比喩 17

真空の比喩 17

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-12-09

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