カレは家族を勉強する!?

「お……」
 家庭化(かていか)部。そう書かれた札のかかった扉を前に。
「……う」
 尻ごむ。
 大きな身体で。
「ちょっと」
 びくっ!
「っ」
 着地。軽い地ゆれが。
「うわっ」
 驚きの。
「お……!」
 あわてて。
「おう?」
 いない。
「こっち」
 下を。
「お」
 いた。
 小さい。
 体格差のあまり、首が痛いと思えるほど。
「どいてもらえますか」
「お……!」
 あせあせ。
「ごめんなさい」
 頭を。
 それに応えず。
「お」
 部屋の中に。
「ま、待って」
「嫌です」
 あっさり。
「私」
 くい。眼鏡を上げ。
「家庭があるので」
「……!」
 聞いていた通り。ここは。
「頼む」
 大きな身体を。深々と。
「俺を」
「嫌です」
 そっけなく。
「向いてません」
「っ」
 それは。
「わかって……」
 重暗く。
「いる」
 口に。
「そうですか」
 興味なし。
「お……」
 行かれるのを。ただ。
「まっ――」
 とっさに。
「待て!」
 肩を。
 つかむというより、つまむ。
「………………」
 不快。伝わり。
「ご、ごめんなさい」
 またも。
「なぜです」
「おう?」
「なぜ」
 見上げ。
「家庭化部に」
「そ、それは」
 詰まりつつ。
 目だけは。まっすぐ。
「必要だからだ」
「必要?」
「俺が」
 そこから。
「………………」
 それでも。目は。
「名前は?」
「花房樹央(はなぶさ・じゅお)」
 言って。
「頼む!」
 深々と。
「俺に……俺に……」
 声を。
「俺に家族を教えてくれ!」

「やっぱり、ジュオはカンジ悪いんだし!」
 ぷりゅビシッ!
「な、なんでですか」
 唐突な決めつけに。
「よくなったじゃないですか。がんばって」
「がんばっただけなんだし」
 ぷりゅすぱっ。切り捨てる。
「浮いてんだし」
「えっ」
「花房家から」
 容赦なく。
「ジュオは家族失格なんだし!」
 ふるえが。
「お……」
 目を。見張り。
「……う」
 がくっ。
「なんてことを言うんですか!」
 抗議の。
「ジュオは葉太郎(ようたろう)様の弟なんですよ!」
「そこも問題なんだし」
 引かず。
「弟がお兄ちゃんよりデカいってどーゆーことなんだし」
「お……」
「そういう兄弟だって他にも」
「ぷりゅーか、一人だけ無駄にデカいんだし」
「……う」
「はっきり言って、家庭のちょーわを乱してんだし」
「おう……」
 がっくり。完全に。
「そ、そんなの、仕方ないじゃないですか」
 それでも。
「ジュオのせいで大きいわけじゃないんです」
「じゃー、誰のせいだし」
「それは」
 言葉に。
「お、大きくてもジュオはがんばってますよ!」
 強引な。
「だったら、もうちょっと家族らしくすんだし」
「家族らしく」
「そーだし」
 ぷりゅ。うなずき。
「花房家の一員らしくすんだし」
「……!」
 息を。
「わかった」
「えっ、あ、あの」
 あわてて。
「どうするつもりですか」
「それは」
 言いかけ。
「………………」
「やっぱりなんだし」
 わかっていたと。
「ぷりゅっふっふー」
「な、なんですか、その笑いは」
 嫌な予感が。
「あんだし」
「ある?」
 何が。
「ジュオにぴったりのところが」
 そして。語ったのは。
「な……」
 あぜんと。
「なんで、そんなことを知っているんですか」
「馬のネットワークなめんじゃねんだし。プリュッターでいなないてんだし」
「いなな……つぶやくでなく」
 わけが。まったく。
「………………」
「えっ、ジュオ?」
 無言の。そして。
「わかった」
「ええっ!?」
 それは。
「い、行くんですか? 大丈夫なんですか? ちょっ……ジュオーーーっ!」


「わかった」
 話を。聞き。
「ような、わからないような」
「おう……」
 だろうとは。
「ですが」
 くい。眼鏡。
「やりたいんですね」
「お、おう」
 緊張の。
「やりたい」
 まっすぐ。目を。
「………………」
 静かに。見つめ返し。
「違います」
「おう?」
 何が。
「家族は」
 きりっ。
「やるものではありません」
「お……」
 確かに。
「ふぅ」
 ため息。
「何もわかっていない」
「お、おう……」
 言われてしまうと。
「だから」
 それでも。
「俺は」
「ふぅ」
 再びの。
「一から」
「おう?」
「それでしたら」
「お、おう」
 それは。つまり。
「いいのか」
「同じことを言わせないでください」
「おう!」
 気持ちが変わられてはと。
「よろしい」
 眼鏡越し。あくまで居丈高に。
 実際の大小は真逆だが。
「では」
 外される。眼鏡。
「おまえ」
 逆らうことは許されない。
 そんな。
 圧を込め。
「今日から赤ちゃんな」

「ば……」
 意識が。
「……ぶ」
 飛ぶと。ほどの。
「………………」
 これは。
 何なのだ。
 屈辱。ではない。
 それよりはるか以前の。
 無。
 空。
 心が。
 いまの自分をまったく受け止められない。
「よーしよし」
 仰向けの。その目の前に。
 哺乳瓶。
「おっぱいだぞー」
「………………」
 あり得ない。
「お、おう」
 ふるふる。首を横に。
「なんだ、おなか、減ってないのかー」
 こくこく。
「じゃあ、おむつかー」
「!」
 もっと。
「おい」
 不機嫌な。
「なに、赤面してる」
 それは。
「い、いや」
「なに、しゃべってる!」
 こだまする。その小柄さからは信じられないほどの。
「まったく。無駄に大きな身体をして」
 それは。何の関係も。
「………………」
 ある。この状況では。
 大きな形でこんなことをしているためにいっそう。
「おまえが」
 指を。
「頭を下げてきたんだぞ」
「お……」
 反論できない。
「だったら」
 ガラガラガラ。おもちゃが振られる。
「どうだー、楽しいかー」
「………………」
 どうしろと。
「コラ!」
 突然の。
「おまえは家族を崩壊させる気なのな!」
「おう!?」
 思いもよらない。
「そうなるのな」
 そうなるのか。
「赤ちゃんだって」
 真剣な。
「家族の一員なのな」
 それは。その通りだ。
「家族の基本なのな」
 それは。
「すべては赤ちゃんから始まるのな」
 そうなのか。
「お……う」
 理解が追いつかない。ながら。
(俺は)
 必ず。
 学び取らなくては。
 家族を。
 そのために――


「家族になる部活!?」
 驚きの。
「ど、どういうことですか」
「そーゆーことだし」
 何の説明にも。
「ジュオ!」
 ぷりゅびしっ!
「行くんだし!」
「ち、ち、ちょっ」
 さすがに。
「唐突すぎます!」
「唐突でいんだし」
 引かない。
「それくらいのショック療法じゃないとジュオには効かないんだし」
「そういうのはショック療法とは言わないんじゃ」
 ある意味、ショックは受けているが。
「お……う」
「ジュオ」
 あわてて。
「いいんですよ、無理はしなくて」
「いや」
 やはり。と言うか。
「やる」
 静かに。燃えて。
「自分たちはジュオのことをちゃんと」
「やる」
 引かない。こうなると頑固なところが。
「姉貴」
「は、はい」
「俺は」
 背を。
「姉貴にふさわしい俺になって戻ってくる」
「ジュオぉ~……」
 もう。完全に。


 そんなことが。あり。
(……おう)
 引けない。
「コラ」
 そこに。
「そんな怖い顔した赤ん坊がどこにいるのな」
「お……」
 言われても。
「なごめ」
「おう?」
「なごませろ」
 ませろ!?
「ほら」
「お、おう」
 うながされても。
「だめなのな」
 あっさり。
「まったくなごまない」
 どうしろと。
「笑え」
「!」
「笑うのな。機嫌よく」
「………………」
 汗が。
「笑うこともできないのな」
 そんなことは。
「………………」
 できない。
「失格だ」
「おう!?」
 ショックの。
「赤ん坊が失格ということは」
 容赦なく。
「家族も失格なのな」
「……!」
 さらなる。
「お……う」
 力が。
「それなのな」
「おう?」
 何を。
「それだ」
「………………」
 わからない。
「考えるな」
「おう!?」
「感じろ」
 当然と。
「赤ちゃんなんだから」
 それは。しかし。
(感じる……)
 何を。
「甘えろ」
「!」
「甘やかされろ」
「お……」
「そして、感じろ」
 どういうことだ!
「あのー」
 そのとき。
「こちらにジュオが……あっ、自分の弟なんですけど」
「!」
 しかも。
「ジュオ……君?」
 あぜんと。
「ジュオ……」
 こちらも。
「何を」
「お……う……」
 答えられる。はずが。
「赤ちゃんなのな」
「えっ」
「ええっ!」
 驚きの。
「ジュオ、赤ちゃんなんですか!?」
「そうなのな」
「お……」
 違う。言いたい。
「考えるな」
 か――
「感じるのな」
 いま。感じているのは。
「おぉう……」
 穴があったら。
「ちょうどよかったのな」
「へ?」
「おまえたち」
 指を。
「かーさんなのな」
「か……」
「母さん?」
「それで、赤ん坊におっぱ」
「おおおぉーーーーーーーーーーう!」
 叫ぶ。しかなかった。

「まったく」
 ぷんぷん。
「身体だけでなく声も無駄にデカいのな」
 じろり。
「赤ちゃんなのに」
「お、おう」
 何と言えば。
「ふー」
 そばで。安心したと。
「そういうことだったんですねー」
「わかったの、アリスちゃん」
「それは……えーと」
 言われると。
「とにかく」
 一つ。うなずき。
「いまのジュオは赤ちゃんなんですね」
「そーなのな」
「だから……」
 わかっているのか。
「そして、おまえはかーさんな」
「ええっ!?」
 驚く。あらためて。
「自分、お姉ちゃんでお母さんなんですか」
「そーなのな」
「あの、だから」
 意味が。
「む」
 気づいたと。
「かーさんが二人は多いな」
 それはそうで。
「いったん保留なのな」
「はあ」
「心構えだけはしておくように」
 どんな。
「いもーとな」
「えっ」
 指を。
「こっちがお姉ちゃんだから」
「お、お姉ちゃんですけど」
 だからと言って。
「ちょうど妹がいないところだったのな」
「えーと……」
 戸惑い。ながらも。
「いいかな」
 ちらり。
「ジュオお兄ちゃん」
「!」
 真っ赤に。
「おー、わかってるのなー」
 うんうんと。
「これなら出かけても平気なのな」
「えっ」
「とーさんには仕事がある」
 偉そうに。小さな胸を。
「家族のために働くのは一家の主の務めなのな」
「は、はあ」
 古めかしい。
 というか、どこで。何を。
「帰るまでいい子でいるのなー」
 言って。
「あ……」
 行かれて。
「うふふー」
 こちらは。すっかりご機嫌で。
「うち、男の兄弟いないからー。こういうのもいいかなー」
 つんつん。
「お兄ちゃん」
「お……う……」
 違う。何かが。
 言いたかった。


(うーん)
 あらためて。
(お母さん……らしく?)
 考えてしまう。
(えーと)
 そして。ここで寝ているのが。
(赤ちゃん……)
 ということに。
「えへへー」
 ガラガラ。隣では。
「楽しい、お兄ちゃん?」
「お……う……」
 やはり。何かが。
「あ、あの」
 一応〝姉〟でもある身として。
「自分たちはジュオの様子を見に来ただけで」
「いいよね」
「えっ」
「こうやって」
 おだやかな。
「みんなで家族って」
「……はあ」
 それは。
(もう)
 自分たちは。一つ屋根の下。
(ひょっとしたら)
 それを特別な想いで。
「わかりました」
 思わず。
「柚子も家族です」
「えへへー」
 はにかむ。
「アリスお姉ちゃん」
(うわぁ)
 いい。これまでも友人という関係ではあったが。
「え……えへへ」
 こちらも。自然と。
「う」
「きゃあっ」
 刃。突きつけられ。
「何をするんですか!」
 あわてて。
「ユイフォン!」
「うー」
 にらむ。
「仲間外れ」
「えっ」
「ユイフォンだけ仲間外れ」
「そんな」
 確かに二人だけで来たが。
「自分たちは」
 自分たちは――
「えーと」
 この状況を。どう。
「家族だよ」
 優しく。
「ユイフォンちゃんもする?」
「する」
 あっさり。
「だったら」
「だめなのな」
 そこに。
「う……!」
 ショックの。
「ええっ!?」
 こちらも。別の意味で。
「な……」
 なぜ。黒一色の。
「ロリータドレス……」
 なのだ。
「仕事着なのな」
「仕事着!?」
 あっさり。言われ。
「どんな仕事ですか!」
「男の仕事だ」
 つながらない。
「な、なんで」
 涙声。
「ユイフォン、だめなの?」
「だめに決まってるのな」
 容赦なく。
「とーさんがいないのに、そーゆー大事なことは決められないのな!」
 びしっ! と。
「う……!」
「い、いやいや」
 気にはなっていたが。
 会ったときから、自分のことを『とーさん』『とーさん』と。
「お父さん……なんですか?」
「そうだ」
 ためらいなく。
「どこからどう見てもそうなのな」
「い、いや」
 どこからどう見ても。
「コラ!」
 一喝。
「とーさんに口ごたえするとはどーゆーことなのな!」
「そんな」
 ずいぶん封建的な。
「まったく。忘れ物があって戻ってきてみたら」
 びしっ! 指を。
「みんなも忘れ物には気をつけるのな!」
「は、はあ」
 間違ったことは言ってないが。
「お利口にお留守番してるのなー」
 言って。
「あ」
 また。行かれて。
「え、えーと」
 この状況を。どう。
「ううう……」
「あっ、ユイフォン」
「う」
 ぷいっ。
「知らない」
「えっ」
「言いつける」
「言いつけるって」
「媽媽(マーマ)に」
「えっ!」
 驚きの。
「真緒(まきお)ちゃんに」
「う」
 うなずき。
「あっ、ちょっと待ってください! そんな大げさなことは……ユイフォーーーン!」

「そうか」
 うんうん。真面目な顔で。
「ユイフォン、いじめられた」
 涙目の。
「怒って、媽媽」
「うむ」
 思案。
「しかしな」
 そこへ。
「裏切りだし!」
 いななき。するどく。
「白姫」
「こんなことになるなんて」
 ぷりゅりゅりゅ……わなわな。
「ごめんね、マキオ」
 すりすり。
「何をあやまっているのだ」
 優しく。
「シロヒメのせいなんだし。ジュオを行かせたりしたから」
「白姫は何も悪くないぞ」
 なでる。たてがみを。
「ぷりゅー❤」
 ごきげんの。
「媽媽」
 こちらもと。
「ユイフォンは甘えん坊だな」
 微笑。
「よし」
 決めたと。
「私も行かなければならないな」
「シロヒメもだし」
「ユイフォンも」
 共に。決意の。


「どうするんですか!」
 聞かれても。
「お……おう」
「あっ」
 しまったと。
「赤ちゃんでしたね、ジュオは」
「………………」
 それはそれで。
「どうしましょうか、柚子」
「いいんじゃないかな」
「いいんですか!?」
「だって」
 屈託なく。
「ユイフォンちゃんだもん」
「は、はあ」
 どう。
「だよね、お兄ちゃん」
「お、おう」
「お兄ちゃんは赤ちゃんだもんねー」
「………………」
 すると。
「寝よっか」
「おう!?」
 突然の。
「うふふっ」
 うれしそうに。横に。
「寝る子は育つ」
「………………」
「だよね」
「……お……」
 近い。
「ほら、アリスお姉ちゃんも」
「自分も!?」
 なし崩しに。
「いいよねー、こういうの」
 三人。横並び。
「家族川の字って」
「は、はあ」
「おう……」
 戸惑いの。
「もー」
 苦笑。
「楽しくない?」
「あっ、ごめんなさい」
 あわてて。
「楽しいですよね、ジュオ」
「お……」
 振るか。こちらに。
「楽しいよねー」
 ガラガラ。
「………………」
 もう。
「!」
 そのとき。
「危ない!」
 左右から。覆いかぶさる。
「お!?」
 ガランガランッ。
「これって」
 窓から飛びこんできた。それは。
「蹄鉄?」
 外から。
「たのもーだし!」
「!」
 いななき。
「白姫!?」

「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
 出るなり。
「なんでですか!」
「聞いたんだし」
「あ……」
 ひょっとして。
「ち、違うんですよ」
 あわてて。
「自分たちは、その」
「言いわけすんじゃねーし」
「いや、だって、そもそも白姫が」
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
「つごーの悪いことにはパカーンするんだし」
「しないでください!」
 なんて、ひどい。
「そこのジュオも」
「お、おう」
 名指しされ。
「どーゆーことだし」
「おう?」
 こちらが。
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「おうっ」
 問答無用。
「あとは」
「!」
 驚きあわて。
「柚子にまで? 許しませんよ、白姫!」
「なんてこと言ってんだし」
 ぷりゅ。あり得ないと。
「ユコは馬をかわいがるいい子なんだし。パカーンするわけないし」
「なら、自分たちだって」
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
「自分たちだって何だし? 『かわいがってる』とか言いたいんだし? じょーだんじゃねーし」
「なんでですか!」
 とことんひどい。
「うー」
 そこに。
「ユイフォン!」
 だけでなく。
「真緒ちゃん!」
 本当に。
「言いつけちゃったんですか」
「言いつけた」
 うなずく。
「ぷりゅったく。マキオにまでめんどーかけて」
「だから、そもそも白姫が」
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
「つごーの悪いことは」
「いいです、もうそれは!」
 さすがに。
「アリス」
 近づく。
「ま、真緒ちゃん」
 あわあわ。
「真緒ちゃん、あのですね」
「アリスたちは」
 表情が。
「私といるのが嫌なのか」
「えっ!」
 なんてことを。
「そんなわけありませんよ!」
「だったら」
 勢いこみ。言おうとするも。
「……何でもない」
 うつむく。
(真緒ちゃん)
 まさか。ここまで。
「不安なんだし」
 寄り添う。
「アリスでもいないよりはマシなアリスなんだし」
 なんて言われようだ。
「選ぶし!」
 ぷりゅびしっ! ヒヅメを。
「ここか、マキオの家か! どっちなんだし!」
「そんなこと」
 選ぶまでも。だって最初から。
「コラーーーッ!」
 そこに。
「ちゃんと留守番してないなんて! 悪い子たちなのな!」
「あっ」
 遠目にもはっきり。
「シエラ?」
「あ……」
 服装は。確かにそっくりで。
「あの、そうではなく」
 何と。
「コラ!」
 あわあわ。しているうちに。
「まったく! そんな子どもたちに育てた覚えはないのな!」
 育てられた覚えもない。
「ん?」
 立ちはだかる。
「真緒ちゃん!?」
 凛々しく。
「アリスたちをいじめてはだめだ」
「お……」
 目を。
「ち、違うのな」
 あわあわ。今度はこちらが。
「教育なのな」
「何のだ」
「家族のな!」
 そこは。と。
「家族……」
 つぶやき。
「なら、大丈夫だ」
 笑顔に。
「アリスは家族だ」
「う……」
「真緒ちゃん」
 じわり。熱く。
「アリス!」
 こちらを。
「――という名前なのな?」
 かくっ。
「そ、そこからですか」
 確かに。名乗った覚えは。
「どっちなのな!」
「へ?」
「どっちの」
 逃げは。許さない。
「家族を選ぶのな」
「ええっ!?」
 同じことを。
(なんだか)
 別れる親のどちらにのような。
(い、いやいや)
 だから、そもそも。
「こっちには」
 すると。
「赤ちゃんがいるのな」
「えっ」
 見る。
「赤ちゃん?」
 首を。
「ジュオは赤ちゃんなのか?」
「お……!」
 面と向かっての。
「赤ちゃんなのな!」
 横から。
「だから」
 指を。
「なごませるのな!」
「お……」
「この場を」
「おおう!?」
 なんと。
「それが赤ちゃんの役目なのな」
 当然だと。
「お……ぅ……」
 そんな。ことは。
「逃げるのな?」
「……!」
 それは。
「に、逃げない」
「なに、赤ちゃんがはっきりしゃべってるのな!」
「お……」
 それはそうだが。
(では)
 どうやって。
(いや)
 そもそも。自分は言葉でどうにかできるような。
「……わかった」
「だから!」
「お……」
 思った以上に。
「……う……」
「ギリギリOKなのな」
 二文字。
(おうぅ……)
 何も。それなら。
「………………」
 見つめる。ただ。
「ぷっ」
 噴き出す。
「ははっ……あはははっ」
 大ウケ。な。
「ま、真緒ちゃん」
 あぜん。周りが。
「ふぅ」
 笑い終わり。
「ジュオはいい子だな」
 しみじみ。
「さすが、葉太郎の弟だ」
「お、おう」
 ほめられて。いて。
「わかった」
 何が。
「ジュオのことを」
 向き直り。
「よろしくお願いします」
 深々。
「う……」
 また。圧されるも。
「と、当然なのな!」
 胸を。
「立派な家族にしてお返しします」
 深々。こちらも。
「え、えーと」
 どういう話に。
「行くぞ、ユイフォン」
「う!?」
 驚き。
「い、いいの?」
「いいではないか」
 大らかに。
「ジュオが立派な家族になるのなら」
「う……」
「そーだし、そのために送り出したんだし」
(白姫ぇー)
 調子のいい。
「では、頼むぞー」
 手を振り。
「あ、待って、媽媽」
 あわてて。
「変わってる子なのなー」
(あ、あなたが)
 言うかと。
「いい子なんですよ」
 ムキに。思わず。
「そんなのわかってるのな」
 きょとん。
「何をすねてるのな」
「な……」
 そんな。
「よしよし」
「!」
 頭を。
「おまえもうちのかわいい子なのな」
「はあ……」
 子? 母親という話は。
「うれしくないのな?」
「えっ」
「とーさんがかわいがっているというのに」
 むっ。あっという間に。
「なんで、大よろこびでとーさんの胸に飛びこんでこないのな!」
「ええっ!?」
 かんしゃくを。
「いや、その」
 あわあわ。
「とーさんの胸じゃ不服か」
 そういう問題では。
「まあ、確かに、アリスちゃんのほうが立派だけど」
「柚子!?」
 いまこのタイミングで。
「屈辱なのな」
「えっ」
「なーーっ」
 ドーーーン!
「ぐほっ」
 直撃。胸への。
「とーさんから飛びこんでやったのな」
「ぐ……ぐふっ……」
 飛びこむというより突進で。
「赤ちゃんにも行くのなーっ」
「おう!?」
 完全なとばっちり。
「なーっ」
 フライング。からの。
「な!?」
 キャッチ。
「な……」
 わなわな。
「どこに、とーさんをキャッチする赤ちゃんがいるのなーーーっ!!!」
 理不尽に。こだました。

「せーしょー!」
 斉唱。唐突の。
「………………」
「コラ!」
 にらみ回し。
「なぜ、歌わないのな!」
 何を。歌えと。
「これじゃ、『かぞくのかい』が始められないのな!」
「えっ」
 家族の会?
(なんだか)
 被害者家族の会――みたいであまりいい印象が。
「ほら!」
 うながされても。
「な!」
 かけ声のようなものを出されても。
「ダメなアリスだしー」
「ええっ!?」
 なんで。
「白姫!」
「ぷりゅっふっふー」
 いななき。笑い。
「ぜんぜん家族ができてないんだしー」
「か、家族が」
 そんな言い回しが。
「ほーら、お兄ちゃーん」
 ガラガラ。
「その点、ユコはちゃんとできてるんだし」
(で……)
 できているのか。
「って」
 我に。
「なんで、白姫がいるんですか!」
「いるし」
 当然と。
「かわいいから」
「それは何の関係も」
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
「なんだし? シロヒメがかわいくないって言ってんだし?」
「言ってませんよ!」
 そこへ。
「何をふざけているのな! 『かぞくのかい』が始められないのな!」
(そんなことより)
 もっと気にすべきことが。
「いいんですか」
 さすがに。
「白姫がいても」
「ん?」
 見る。
「んー……」
 あっさり。
「いいのな」
「いいんですか!?」
 どういう。
「家族参観なのな」
「か……」
 家族参観。
(授業参観みたいな)
 家庭訪問ならあるが。
「そーなんだし」
 ぷりゅーん。
「ちゃーんとシロヒメが見ててあげるんだし」
「は、はあ」
「『馬に見られて家族会議』という言葉もあるのな」
「それは」
 牛にひかれて善光寺参り――では。
「とゆーわけで、『かぞくのかい』を始めるのな! はい、せいしょー!」
「だ、だから」
 何を歌えと。
「ぷーんぷりゅりゅー、ぷりゅぷりゅぷーんぷーりゅりゅ~♪」
「って、白姫!?」
「ほら、父兄も一緒に歌ってくれているのな」
「父兄だったんですか!」
 父兄参観とは言うが。
「それより、なんで歌を知っているんですか!」
「賢いからだし」
 そういう問題では。
「ぷりゅぷーりゅしーいあーさがきた♪ ぷりゅぷーりゅなーあーさーだ♪」
「ラジオ体操じゃないですか!」
「始まりの歌といえばこれだし」
「そうなんですか!?」
 確かに一日の始まりに聞くものだが。
「そーれ、いっち、にー、ぷりゅんっ♪」
 歌が。終わり。
「ヒヅメをうえにあげてー」
 本番が。
「元気よく背伸びのたいそー」
「ええっ!?」
 こちらでも。
「何をぼーっと見てるのな」
「だ、だって」
「体操するのな!」
「ええっ!?」
 なぜ。
「よーりょーの悪いアリスだしー」
「よ、要領?」
 そういう問題か。
「アタマも悪いし。アホだから」
「アホじゃないです!」
 なんて言われようだ。
「いっち、にー」
「ぷりゅぷりゅ」
「にー、にー」
「ぷりゅぷりゅ」
 すっかり。
「あ、あの」
 置いてきぼり。というか。
「……いっち、にー」
 遅ればせながら。
(なんで)
 こんなことをしているのかと。疑問は消えないまま。


「楽しそうだねー、みんな」
「お、おう」
 ガラガラ。
「………………」
「あれ、こっちは楽しくない?」
「おう!?」
 いけないのか。楽しまなければ。
「立派な妹なのなー」
 そこに。
「ちゃんと、お兄ちゃんの面倒を見るなんて」
「………………」
 やはり。納得が。
「そろそろ、『かぞくのかい』を始めるぞ」
「はーい」
「………………」
 家族の会――
「今日の議題は」
 ビシッ! 指を。
「赤ちゃんの不良化問題なのな!」
「おおう!?」
 何を。
「ジュオ君」
 信じられないと。
「いつの間に不良に」
「い、いや」
「コラーーーーーっ!」
 指さし。
「そーゆーところなのな!」
「お……!?」
「赤ちゃんのくせになにペラペラしゃべってるのな! 明らかな不良化なのな!」
 そういうことに。
「な……」
 なる。のか。
「ごめんなさい」
 あやまったのは。
「妹のわたしがしっかりお世話しないから」
「お……う……」
 そういう問題か。
「妹は悪くないのな。赤ちゃんのお兄ちゃんをお世話する妹なんてなかなかいないのな」
 確かにいない。
「あ、あの」
 そこへ。
「ジュオはペラペラしゃべるような子じゃ」
「それに比べてお姉ちゃんは!」
 ビシッ!
「甘やかしてばかりじゃ、弟のためにならないのな!」
「そ、そうなんですか」
 軽く。ショックの。
「あ、でも、まだ赤ちゃんですし」
「赤ちゃんだからこそなのな!」
 ゆるがない。
「本物のワルになってからじゃ遅いのな! 早期教育が大事なのな!」
「早期教育……」
 言われてしまうと。
「そうだよねー」
「ゆ、柚子」
「ペラペラおしゃべりするジュオ君って、ちょっと違うよね」
「お……」
「だから、ジュオは最初から」
「もんどー無用なのな!」
 強引に。
「しつけなのな」
「おう!?」
 何を。
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「おうっ」
「って、なんでですか!」
 あわてて。
「なんで、白姫がしつけ……というかいじめるんですか!」
「大事なんだし」
「えっ」
「早期パカーンが」
「しないでください、早期にパカーンを!」
 とんでもない。
「では、次の議題なのな」
「いいんですか!?」
 どういう。
「姉」
「えっ」
 こちら?
「これも大問題なのな」
 何が。
「姉のいじめ問題なのな!」
「ええぇーっ!」
 思いもよらない。
「自分、いじめられてたんですか!?」
 はっと。
「ぷりゅ?」
 視線が。
「なに、こっち見てんだし」
「い、いえ」
 いじめと言えば。
「ぜんぜん違うのな」
「えっ」
 他には。
「いじめ問題なのな」
「は、はい」
「姉が」
 ビシッ!
「いじめをしてる問題なのな!」
「えぇえーーーーーっ!」
 驚愕の。
「自分がですか!?」
「そーなのな」
「してませんよ、そんなこと!」
「では、証人の話を聞くのな」
「証人?」
 入ってきたのは。
「う」
「ユイフォン!」
「うー」
 にらまれる。
「アリス、いじめた」
「それは」
 昨日のことか。
「って、あれはもう解決したじゃないですか!」
「解決したのな」
 うなずく。
「けど、解決してないのな!」
「ええっ!?」
 どっちだ。
「アリス、仲間はずれにした」
「えっ」
「今日」
 ううう。涙。
「また、置いてきぼりにした」
「え、あ、いや」
 まだ興味があったとは。
「ひどい」
「ひどいのな」
「そんな」
 だったら。
「言ってもらえれば」
「そーゆーのもきちんと察するのがお姉ちゃんなのな」
「う……」
 それは。そうかも。
「さびしかったんだね、ユイフォンちゃん」
 そっと。
「ごめんね」
「うー」
 なでられる。おとなしく。
「やっぱり、妹はちゃんとわかってるのな」
 うんうん、と。
「母なのな」
「えっ」
 それは。
「柚子が」
 母親に。保留中の。
「う?」
 指は。しかし。
「母なのな」
「う!?」
「これから! 容赦なくかーさんなのな!」
「容赦なく母さん!?」
 意味が。
「って、ユイフォンが? お母さんなんですか!」
 保留の話は。
「う……」
 当人も。さすがに。
「そーなのな」
 もちろんと。
「お姉ちゃんと妹はもういるのな」
「い、いますけど」
 そうなってしまったが。
「だからなのな」
 それで。済ませて。
「ユイフォン……媽媽」
「自信がないのな?」
「う!」
 顔を上げる。も。
「う……」
 正直な。
「それでいいのな」
 優しく。
「誰でも最初からかーさんじゃないのな」
(それは)
 そうなのだが。
「う」
 顔を。再び。
「わかった」
(ええっ!?)
 こんなにあっさり。
「それでいいのな」
 満足そうに。
「い、いいんですかぁ?」
「おう……」
 絶句。するしかなかった。

「ジュオ、生意気」
 ぎゅうぅぅ~。
「お、おう……」
「って、なにいきなり赤ちゃんをいじめてるんですか!」
 あわてて。
「ユイフォン、悪くない」
 ふん。と。
「ジュオがかわいがられない」
「えぇぇ~……」
 そんなことで。
「ユイフォン、媽媽」
「は、はあ」
 そういうことに。
「子どもには厳しくしないといけない」
「そんな」
「早期教育」
 言われたが。
「ジュオ、もう大きい。早期教育に間に合わない」
「はあ」
「急がないと」
(い、いや)
 そういう問題なのか。
「ユイフォン、媽媽みたいな媽媽になる」
「真緒ちゃん……みたいな」
「文句ある?」
「な、ないですけど」
 同じような〝いい子〟になってくれるなら大歓迎だが。
「ほーら、泣かないで、ジュオくーん」
 ガラガラ。
「お、おう」
 泣いてない。言いたそうに。
「うー」
 不満げ。
「ジュオ、柚子にばっかりかわいがられてる」
「ま、まあ」
 そういうことには。
「ジュオ」
 真顔で。
「柚子のこと、好きなの」
「おう!?」
 真っ赤。
「赤くなった」
「お……お……」
「赤ちゃんだから」
「お、おう」
 こくこく。そうだと。
「ユイフォンも好きじゃないとおかしい」
「お……」
「好きになって」
「………………」
 目が。さすがに。
「ユイフォン、媽媽」
 手を。胸に。
「う……」
 そこで。
「足りない」
「おう?」
「ちっちゃい」
 それは。
「だから?」
 こちらに。
「お……」
 つまり。
「そうだったの、ジュオ君」
「おう!?」
 なんて疑いを。
「ジュオ……そんな子だったなんて」
「まー、男の子だから」
 納得の。
「ち、違……」
 とんでもない。このままでは。
「うー」
 すると。
「アリス、余裕」
「えっ」
 矛先が。
「おっきいから」
「えっ、ちょ、そんな」
 あたふた。
「ふ、普通ですし」
「普通じゃない」
「確かに大きいよねー」
「柚子まで……」
「自慢してる」
「してませんよ!」
「また、いじめ」
「いじめてません!」
 そんな中。
「………………」
 置いてきぼり。完全に。
「おう……」
 助けが。ほしい。
 ところだが。
(お……)
 いまこの場に現れそうなのは。
「ぷりゅー」
 パカパカパカ。
「あっ、白姫」
(う……)
 この可能性も。
「お便りだしー」
「えっ」
「ぷりゅぷりゅ白馬の速達便だし」
「あ、あるんですか、そんなサービス」
「ぷーりゅ宅急便だし」
「はあ」
「馬さんゆうびんだし」
「わかりましたから」
 歌う。
「しろうまさんからおてがみついた~♪ アーリスったらよまずにたべた~♪」
「食べませんよ」
 食いしん坊と言われていても。
「あっ!」
 受け取ると。
「お父さんからです!」
「えっ」
「う?」
 封筒には。
『とーさんより』
 とだけ。
「他にいませんよね」
「いないね」
「いない」
 同意。
「じゃあ、開けますね」
 おそるおそる。
『とーさんは旅に出る。家族仲良くするんだぞ』
 とだけ。
「……え?」
 間の抜けた。
「どういう……」
 答えを知る者は。
 当然のように誰もいなかった。

 帰ってきた。
「ただいまなのなー」
 大きな。四角い手提げカバンを持って。
「コラ!」
 さっそく。
「『おかえりなさい』は!」
「……へ?」
 完全に。
「いえ、あの、その」
「『おかえりなさい』!」
「……お……」
 ようやく。
「おかえりなさい」
「足りない」
「えっ」
 足りない?
「『お勤め、ごくろうさまでした』」
「そ、それは」
 ちょっと違うのでは。
「まさか!」
 本当にそういうところに。
「アリスお姉ちゃん」
「ハッ」
 妄想があらぬ方向に。
「お、お勤め、ご苦労様でした」
 ひとまず。
「おい、かーさん」
「う」
 はっとなり。
「ユイフォン、かーさんだった」
「そーなのな」
「うー……」
 それで? と。
「することが」
「う……!」
 あわあわ。
「お、お帰りなさい」
「足りない!」
「う!?」
 自分も? と。
「足りない……」
 下を。
「おっぱい……」
「そーゆーことじゃないのな!」
 怒って。
「言うことがあるのな!」
「お帰りなさい……」
「だけじゃ、足りないのな!」
「足りない……」
 首を。
「うー」
「じっくり考えるのな。かーさんはあとで反省文なのな」
(お母さんに反省文……)
 意味が。
「みんな、いい子にしてたのな?」
「えっ」
 それは。
「してた……と」
「『と』って何なのな、『と』って!」
「な……」
 何なのだろう。
「お姉ちゃんも反省文な!」
「ええっ!?」
 こちらにまで。
「お父さん」
 そこへ。
「それっておみやげ?」
 カバンを。
「そーなのな」
 得意げに。
「さすが、妹はわかってるのな」
 わかっているのか。
「帰ってきたら『お父さん、おみやげはー』で迎えるのがとーぜんなのな」
 当然だったのか。
「ほら、お姉ちゃんも『わーい』ってよろこぶのな」
「わ、わーい」
「赤ちゃんも」
 それは無理では。
「雰囲気なのな」
「雰囲気?」
「そーなのな」
 わからないのかと。
「家族みんながよろこんでたら、赤ちゃんにもその空気が伝わるのな。一緒によろこぶのな」
「ああ」
 なるほど。
「ジュオ」
 こっそり。
「一緒によろこんでください」
「お、おう」
 しかし。
「おう……」
 その。『よろこぶ』が一番。
(そうでした)
 よろこんだり、はしゃいだり。そういう姿は普段あまり。
「コラ!」
 気短な。
「いつまでも天然で通じると思ったら大間違いなのな!」
(て、天然)
 赤ちゃんは基本そうでは。
「問題なのな」
 また。
「テストなのな」
「テスト!?」
 そっちの『問題』か。
「赤ちゃんにふさわしいか試験するのな!」
 またまた。とんでもないことに。
「お、おう……」
 動揺。
「ねーねー」
 そこへ。
「お父さん、おみやげは?」
「おっと、そーなのな」
 一転。なごやかに。
「これなのな」
 カバンから。
「……えーと」
 さすがに。
「おみやげ?」
「たわしなのな」
 見れば。
「亀の子だわしなのな」
 だから、見れば。
「とーさん、厳しいぎょーしょーの旅をしてきたのな」
 行商?
「旅から旅の渡り鳥だったのな」
「い、いや」
 昨日の今日で。
「御用とお急ぎでないかたはゆっくりと見ておいで! 手前、取り出したるこの! 鶴の子でない竹の子でない亀の子だわし! 一個百円のところを今日は大サービス! なんと、三個で三百円!」
 サービスしてない。
「というように、つらい旅の日々をつないできたのな」
「すごーい」
 本当とは。
「その記念すべき亀の子だわしなのな。キッチンで大活躍なのな」
「ありがとー」
 お、おみやげ?
「カバンいっぱいあるから、いくらでも持ってっていいのな」
 まったく売れなかったのでは。
「う!」
 そこへ。
「ユイフォン、わかった」
「えっ」
「お帰りのとき、媽媽が何するか」
 ずっと考えていたのか。
「う」
「な?」
 抱き寄せられ。
「うー」
 なでなで。
「な~❤」
 気持ちよさそうに。
「な!?」
 我に。
「なんで、とーさんをなでなでするのな!」
「媽媽だから」
 もちろんと。
「媽媽、いつもユイフォンをかわいがってくれる」
「とーさん相手には違うのな!」
「違うの?」
「違う!」
「じゃあ、何するの?」
「決まってるのな」
 仕方ないと。
「かーさんはとーさんが帰ってきたら『あなた、お風呂にします? それとも、ごはん? それとも』」
 途中で。
「………………」
「う?」
 首を。
「それとも? 何?」
「な、何でもないのな。かーさんにはまだ早いのな」
 あせあせして。
(こういうところでは照れるんですね)
 意外。というか。
「まったく。未熟なかーさんなのな」
「未熟……」
 下を。
「成長中」
「そこの問題じゃないのな!」
「どこの問題?」
「だから、全体的に」
「うー」
 わからないと。
「いいから!」
 強引に。言って。
 指を。
「とにかく、試験なのな! わかったのな!」
「お、おう」
 そうだった。
(赤ちゃんの)
 試験。
「………………」
 わからなかった。

「最終試験なのな」
「おう!?」
 いきなりの。
「これでだめだったら」
 だめだったら。
「赤ちゃんの前からやり直してもらうのな」
 いつからだ!?
「とゆーわけで」
 ずいぶんざっくりと。
「試験その一」
 もう!? 心の準備が。
「赤ちゃんは」
 赤ちゃんは――
「なぜ『赤ちゃん』なのな」
「お……!」
 思いもよらない。
「そ、それは」
「コラ!」
 さっそく。
「赤ちゃんがペラペラしゃべる時点でごんごどーだんなのな!」
「お……」
 どうすれば。
「がんばって、ジュオくーん」
 応援が。
「がんばってください、ジュオ」
「がんばって」
 しかし。
「お……お……」
 赤ちゃんは。
「……う」
 力を。
「………………」
「ほう」
 感心の。
「わかってきたようだな」
「な、何がですか」
 尋ねる。
「できるな」
「だから、何がです」
「脱力だ!」
 達人の。目で。
「赤ちゃんはか弱きもの。そこに無駄な力などまったくない。すべてが生きるために注がれる純粋な命なのな」
「はあ」
 それっぽい。
「だから、無駄に筋肉ムキムキの赤ちゃんなんて存在しないのな」
(い、いや)
 目の前に。
「なーっ!」
 ダイブ。
「ええっ!?」
 突然の。
「おうっ」
 ぽんっ。跳ねる。
「なっ」
 落下。ゴロゴロと。
「………………」
 あぜん。
「あ」
 ようやく。
「だ、大丈夫ですか」
 と。
「わーーーーーはっはっは!」
「っ!?」
 唐突すぎる。
「……あ、あの」
 大丈夫。なようで。
「何……なんですか」
 本当に。
「うれしいのな!」
 そうは見えるが。
「赤ちゃんがすくすく育ってくれて」
(すくすく……)
 これ以上育たれたら大変だ。いや、成長期だからまだ伸びる可能性は。
「期待に胸ふくらむのな」
 どんな。
「成長した赤ちゃんが」
 一転。
「『赤ちゃん』をどう語ってくれるのか」
「お……!」
 終わっていなかった。
「さあ」
 迫る。
「なぜ」
「………………」
 真っ白。
 何も。
(……お)
 不意の。
(白)
 そうだ。
(何もない)
 無心。無為。
 純真。
 光。
「……おう」
 手のひらを。大きく。
「ジ、ジュオ?」
 何を。
「うむ」
 うなずき。
「正解だ」
「正解なんですか!?」
 まったく。
「なんで」
「うむ」
 すると。
「はーくばはみんなーいーきている~♪ いきーているからぷりゅりゅんだ~♪」
「白姫!?」
 またも。いきなり。
「こーゆーことだ」
「どういうことですか!?」
 ますます。
「手のひらを」
 こちらに。
「真っ赤に流れるぼくの血潮なのな」
「………………」
 しばらく。
「あっ」
 真っ赤――
 赤。
「だから……『赤ちゃん』?」
「そうなのな」
 肯定。
「赤ちゃんは生まれたばかりでとてもか弱いのな。けど、そのか弱い中にも、一生懸命に命は息づいているのな。真っ赤な血潮なのな」
「はい」
 その通りだ。
「よけいなもののない。むき出しの命そのものが赤ちゃんと言えるのな。だから、赤ちゃんなのな」
「なるほど」
 言われてみれば。
「そうなんだ」
 こちらも。感心の。
「ほっぺが赤いから『赤ちゃん』だと思ってた」
 つんつん。
「お……おう」
「う。赤くなった」
「……お……」
 ますます。
「それも正解なのな」
「正解なんですか!?」
 もう何でも。
「赤ちゃんなのな!」
 力強く。
「しゃべれないのな! そんな中でも伝えることができたのな!」
(まあ……)
 その状態では最良とも。
「が、がんばりました、ジュオ」
 ほめる。ひとまず。
「では、試験その二」
「おう!?」
 まだ。いや『その一』と言ったから『二』も。
「本当の最終問題なのな」
「おう……」
 今度こそ。
「赤ちゃんは」
 ごくり。緊張の中。
「とーさんをどう思ってるのな」

 試験は――終わった。
『合格だ』
 一言。そう。
「………………」
 脱力。
 それとも、喪失感。
「終わっちゃいましたね」
「……おう」
 何だろう。これは。
「おめでとうございます」
「………………」
「で、いいんですよね」
 そう。
 なのだろうか。
(おぅ……)
 不思議な。
 でも、決して無駄ではなかった。
 時間――
「家族は」
 ぽつり。
「家族……は」
 確かな。けど、うまく言葉にできない。
「お」
 腕が。からまる。
「いいんですよ、ジュオ」
 笑顔で。
「家族です」
「お……」
「ですよね」
 すると。
「う」
 反対側からも。
「ジュオ、家族」
「………………」
「これが」
 あたたかく。
「答えです」
 じん。と。
「……おう」
 胸に。
「あー、いいなー」
 そこへ。
「わたしも家族がいいなー」
「お……」
「だめ? お兄ちゃん」
「……!」
 赤く。反射的に。
「う。また赤ちゃんになった」
「こ、これは」
「あー、わたしとジュオ君が結婚すれば正式に家族かー」
「おう!?」
「ちょっ……早すぎますよ!」
「早くなければいいの?」
「そういう問題では」
「ユイフォンも」
 さらに。
「結婚する」
「ええっ!?」
「柚子と」
「なんでですか!」
 騒々しく。にぎにぎしく。
 それは。
 確かに『家族』の姿で。
「ぷりゅーっ」
 パカーーン! パカーーン! パカーーン!
「きゃあっ」
「あうっ」
「おうっ」
 三連蹴。
「なに、ほのぼのなごんでんだし」
 ぷりゅ。いななき重く。
「な、なんでですか」
 わけが。
「忘れてんじゃねーし。ジュオは何のために家族のべんきょーしたんだし」
「あ」
「う」
「おう」
 そうだ。
「家族にふさわしく」
「そーなんだし」
 ぷりゅ。うなずき。
「ぷりゅーわけで、試験だし!」
「おう!?」
 またか。
「ヨウタローの弟にふさわしいかどうか!」
「お、おう」
 気合が。
「かわいがられるし!」
「おぉう!?」
「めいっぱいかわいがられるんだし! 学んだかわいがられ力を発揮するし!」
「ま、学んだ……」
 学べたのか。
「ジュオ」
「!」
 そこへ。
「ごめんね」
 頭を。
「また、白姫にふり回されちゃったみたいで」
「何をゆーんだし」
 ぷりゅ。不満そうに。
「シロヒメ、花房家のためにやったんだし。悪くないし」
「そうだよね」
 優しい。あくまで。
「花房先輩」
「あっ、柚子さん」
 こちらにも。
「ごめんなさい、巻きこんじゃって」
「ううん、楽しかったです」
 屈託なく。
「ジュオ君、とってもかわいくて」
「おおぉう!」
 そのことは。
「だよね」
 もちろんと。
「かわいい弟だから」
「お……」
 真っ赤。
「そうそう、かわいい息子だからー」
「お!」
 さらに。
「父さん!?」
 すりすりと。
「ジュオはかわいいねぇ」
「お、親父……」
 人前で。
「父さん、ジュオが」
 恥ずかしがっていると。
「ぷりゅーっ」
 すりすりすりっ。
「し、白姫?」
「シロヒメのこともかわいがるし! ジュオなんてどーでもいいから!」
「どうでもよくは」
「いいから!」
 こうなると。
「ぷりゅー」
 すりすり。
「ヨウタロー」
「なに?」
「シロヒメのこと、かわいい?」
「うん」
「シロヒメのこと、愛してる?」
「うん」
「ぷりゅー❤」
 大満足。
「ヨウタロー、嘘つかないんだしー。シロヒメ、愛されてんだしー」
 すりすりすりー。
(え、えーと)
 なぜ。こんな。
(これが)
 家族。ということで。
(いいんでしょうか)
「いいなー」
「いいんですか!?」
 驚いて。
「う。いい」
 同意。
「ユイフォンも媽媽にかわいがってもらう」
 とととっ。
「あっ」
 行って。
「じゃあ、わたしはー」
 じー。
「う……」
 この流れは。
「いい子いい子ー」
「わー、お姉ちゃーん」
(こ、これで)
 いいのだろうか。
 もう。


「だう?」
 じっと。見つめられて。
「どうしたの」
「お……」
 横から。
「い、いや」
 面はゆく。
「どう思っているのかと」
「?」
「メオは」
「ああ」
 思い出したと。
「赤ちゃんはどうして赤ちゃんか」
「おう」
 うなずく。
「そうかー」
 つんつん。ほっぺを。
「メオはメオだもんねー」
「だうー」
 きゃっきゃっ。
「メオはメオ……」
 ふっ。と。
「そうだな」
「そう」
 共に。
「メオは」
「おう?」
「どう思ってるのかなー」
「どう」
「お父さんのこと」
 それは。
「………………」
 あのときの。答えは。
「親父」
「うん」
「親父は親父だ」
 それが。
「百点満点」
「おう」
 だった。
「俺は」
 抱き上げる。
「親父だ」
「だう」
 うなずき。
「だうー」
 頬を。
「ふふっ」
 隣で。
「親父だね」
「………………」
 面はゆい。
「ねっ、赤ちゃん」
 その呼びかけは。
 どちらに。

カレは家族を勉強する!?

カレは家族を勉強する!?

  • 小説
  • 短編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-12-03

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work