結婚式の参列はお静かにお願いします(0:3)
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(結婚式の披露宴前 友人席 春香と冬美だけが座っていて、夏子の席は空いている)
春香:うーん……ねぇねぇ冬美? 夏子、遅くない? もうすぐ始まる時間なのに。
冬美:うん、おかしいね? 遅れるって連絡あった?
春香:いや、来てない。うーん……夏子って、時々訳の分からない行動することあるからなぁ。
ほら、覚えてる? 中学のとき、学校遅刻してきて、先生になんで遅れたんだ!って聞かれて……
冬美:あー……確か「通勤途中でカラスと喧嘩になって、なかなか勝負が付かなくて遅れました」って答えてたね。真顔で。
春香:そうそう、高校の時もさ、目の下クマできてるからどうしたの?って聞いたら
『chatGPと喧嘩になって、朝まで罵り合ってた』とか……
冬美:あった、あった!
春香:思い返すとさ。夏子って、高校の時からいつも何かしらと喧嘩してたよね?
冬美:そうそう! なんでだろうね? 喧嘩が趣味とか?
春香:今日も変なことしてないといいけど。
冬美:そうだねぇ……まあ、大丈夫だよ、きっと!
春香:いや、でもさ……
(夏子、息を切らせて入ってくる)
夏子:はぁはぁ……私の席ここ? 良かった! 間に合った!
春香:夏子!
冬美:もーよかった! 遅かったじゃん!
夏子:ごめんごめん、てか2人とも久しぶりー!
春香:久しぶりー!
冬美:久しぶりー! え、いつぶり?
春香:えっと、4人揃うのは……3年前にもつ鍋食べに行って以来じゃない?
夏子:えーそんなになる!? 月日の流れやばいね!
春香:マジ、やばいよ。そりゃ秋ちゃんも結婚するよね!
冬美:まー秋ちゃんが一番なのはなんか分かるって言うか……
夏子:わかるー! 高校の時さー、秋ちゃん……(咳払い)
「えー? 私、絶対結婚とかしないと思うー! だって私、中身おっさんだしー!
平気ですっぴんで外歩くしー! 女子力?なにそれおいしいの、って感じー!
まぁ恋愛とかそんなに興味もないし?
三人とも私の事置いてっていいから、幸せになってねぇ!
結婚式には絶対呼んでね!」
……とか言ってたもんね!
春香:そうそう! そういうこと言う子が結局一番早く結婚するんだよね!
冬美:しかも、新郎超イケメンだし! 写真見た?
夏子:見た見た! 超かっこよかった! もーずるいよねぇ!?
春香:……え、そうかな?
冬美:あ、そうか春香のタイプじゃないか……
夏子:春香のタイプ? ……あー、確かに違うね。塩顔イケメンにはまったく興味ないもんねー。
もーそういうところも変わってないんだからー!
春香:もー! 私のタイプはいいじゃん!
そんな事よりさー、夏子なんで遅れたの?
早めに着くって言ってなかった?
夏子:あーそれがね。いやー、会場には早く着いたんだけど、ここ広くて迷子になっちゃって。
冬美:あ、そっか、夏子、天才的に方向音痴だったね。
夏子:え、そう? 天才とか照れる!
春香:褒めてないから! で?
夏子:で! 迷ってたら、新郎新婦控室の前に来ちゃって……
春香:うん
冬美:うん
夏子:そしたら……なんか、包丁持った女の人いて。あれ? なんかヤバげ?と思って、ロッカーに閉じ込めてたら、遅れちゃった。
春香:へぇ、なるほど。
冬美:そうだったんだ。
夏子:うん、なんとか間に合ってよかった。
春香:そっか。
冬美:そっか。
(間)
春香:ん?
冬美:ん?
夏子:(二人と遅れて)ん?
春香:夏子、今、なんて言った?
夏子:え? 久しぶり?
春香:そんな前じゃなくて!
夏子:秋ちゃんが「私、中身おっさんだから……」
春香:違う違う! もっと後! 包丁持った女の人が居たからロッカーに閉じ込めたって言った?
夏子:うん、言った。うん、閉じ込めた閉じ込めた。
春香:いや、それヤバいじゃん! 呑気に座ってる場合じゃないって!
夏子:え、まずかった?
春香:まずいに決まってるでしょ!
冬美:そうだよ、ダメだよ女の子がそんな危ない事しちゃ! 大丈夫? 刺されたりしなかった?
夏子:うん、大丈夫、私、格闘ゲーム得意だから。
冬美:へぇ、そうなんだすごいね! ……じゃあ大丈夫か?
春香:すごくないし、大丈夫じゃない! 警察か会場の人に言わないと!
夏子:えーでも、包丁持ってただけで、まだ何もしてなかったし?
騒ぎになって、秋ちゃんの結婚式台無しになったらかわいそうじゃん?
冬美:あーでも、ロッカーの中で暴れたら、見つかって騒ぎにならない?
夏子:大丈夫、ちょうどよく使われてない音響室のロッカーに詰めてきたから。
冬美:あ、なるほど! じゃ防音対策ばっちりだね!
春香:ばっちりだね!じゃないのよ! いやいやいやいや、まずいって!
冬美:まずい? ……え、どうする?
夏子:どうしよう?
春香:どうするのよ!?
(三人、考え込む)
冬美:……わかった! ここは私に任せて!
春香:え?
夏子:え?
冬美:私、その女の人と話してくる!
春香:え、ちょっと何言い出すの?
冬美:大丈夫、私、ハッピースピリチュアルカウンセラー三級持ってるから。
春香:え、なにそのすんごく怪しい資格……てか、それ絶対国家資格じゃないよね?
冬美:大丈夫、心のハッピーを開いて話せば、相手もハッピーを開いてくれるって、私の師匠が言ってたから!
春香:だから絶対怪しいのよ! 石とか買わされてない?
冬美:まさかー買ってないよ。魂の穢れを浄化できる水なら定期購入してるけど。
春香:やっぱり! 冬美って昔っから、すぐそういうのにハマるんだから! スピリチュアルとか怪しい商売とか……。
夏子:でもーもう他に方法がないし? ……冬美、任せても大丈夫?
冬美:うん、大丈夫! 私に任せて! じゃ、ちょっと行ってくるね!
(冬美、去る)
春香:いや、ちょっと冬美、待って?
夏子:大丈夫じゃない? 冬美、ああ見えてしっかりしてるし。
春香:いや、しっかりしてる人はあやしい水買わないのよ。
大丈夫な気が全くしないんだけど……
夏子:まあ、ロッカーのカギは私が持ってるから刺されることはないでしょ。ほら!
春香:いや、でもさぁ……
(新婦の親族が挨拶に来る)
(新婦母:あら、春香ちゃんに夏子ちゃん、来てくれてありがとう! お久しぶりねぇ! まぁ二人とも大きくなって~!)
春香:あ、秋ちゃんのお母さん! 本日はお招きありがとうございます!
夏子:あ、お久しぶりです! 本日は誠におめでとうございます!
(新郎母:いつも秋子と仲良くしてくれてありがとうね)
夏子:あ、いえいえ、こちらこそ、秋ちゃんにはいつもお世話になってます!
春香:ほんとに秋ちゃんが幸せになってくれて、私たちも嬉しいです!
(新婦母:あら、冬美ちゃんは、まだ来てないの?)
春香:……え? あ、えっと、冬美はちょっとその……トイレ、かな? 大丈夫です! すぐ帰ってくると思います!
夏子:あ、なんか呼ばれてますよ? どうぞどうぞおかまいなく!
春香:また後でご挨拶に伺いますね? わざわざありがとうございます!
(新婦母、去る)
春香:ふー!
夏子:ふー!
春香:冬美間に合うのかなー? もーそろそろ始まるってのに。
夏子:まあまあ、待つしかないでしょ?
春香:よく落ち着いてられるね?
(間)
(何かが崩れる音とかすかな悲鳴)
春香:なんか今音がしなかった?
夏子:え、聞こえなかったけど、どんな音?
春香:なんかどんがらがっしゃーん?的な? かすかにだけど。あと悲鳴?みたいな?
夏子:どんがら? 気のせいじゃない?
春香:そうかなー? まあいいか……いいのか……?
(間)
冬美:ふうーただいまー!
春香:冬美!
夏子:冬美! よかった! 大丈夫だった?
冬美:うん、大丈夫。女の人、そんな悪い人じゃなかったよ。
なんかね、話聞いてみたら……
新郎に二股かけられてて、散々貢いだのに、他の女と結婚されてショックだったんだって。
かわいそうだよね。私すっかり同情しちゃって。
ほら、私もホストに貢いでたことあるし?
春香:え? 冬美、ホストに貢いでたの?
夏子:え、どこのホスト? とっちめて来ようか? 私の格闘ゲームの腕がなる……(腕をぶんぶん回す)
冬美:え、大丈夫だよ! ホストと言っても、留学のための費用稼いでるだけで、根はいい人だったし。
春香:いや、いい人は貢がせないのよ! それ絶対留学してない奴!
……って! そこもすごく気にはなるけど、ちょっと置いといて!
夏子:えーと、新郎に二股……ってことは、秋ちゃんの旦那二股してたってこと!?
冬美:あ、違う違う! 突入しようとしてたのは、隣の控室。
今日ね、同じ時間に、2組、結婚式あるらしくて。
秋ちゃんたちじゃない方に行きたかったんだって。
夏子:あ、なんだそうなんだ! やだ、悪いことしちゃった!
冬美:もー夏子ったら先走るんだから。ダメだよちゃんと話聞かなきゃ?
春香:え? え? ちょっとまって……その女の人はどうしたの?
冬美:え? かわいそうだから出してあげたよ?
春香:え!?
夏子:ええ!? ロッカーのカギ私持ってるのにどうやって?
冬美:そんなもんヘアピン一個あれば余裕?
夏子:あー! 冬美、昔から器用だったよね。家庭科とか美術とかいつも5だったし。
春香:いやいやいや! ちょっと待って? ってことは……
その女の人は、ロッカーを出て、隣の新郎新婦控室に行ったってこと? 包丁持って。
ってことは、さっきの音は……え、やばくない?
冬美:あ、大丈夫、すぐ警備員さんに取り押さえられてたし。ちょっと暴れたみたいで、なんかすごい音はしてたけど。
夏子:えーなんか道場破りみたいで楽しそう。私も参加したかったなぁ。
春香:どう参加するのよ!
冬美:まあまあ、細かい事はいいじゃない。秋ちゃんの結婚式に影響なかったんだし。
春香:……え、私の感覚がおかしいの?
夏子:とにかく、これで安心して、秋ちゃんの結婚式に3人で参列できるね。
冬美:うんうん。あ、そうだ、聞いて? ちょうどロッカー空いたじゃん?
なんか怪しい男の人がウロウロしてたから閉じ込めようとしたんだけど、失敗しちゃったんだよねー!
夏子:え?
春香:え?
冬美:え?
夏子:ちょっと、それどういうこと?
冬美:えっとね、なんかすんごく重ーいオーラの男の人がいて、不審者かなって思って、閉じ込めようとしたんだけど……
春香:ちょっと何してんの!
夏子:そうだよ、危ないからそんなことしちゃダメでしょ!
春香:どの口が言うかな……冬美それで?
冬美:それでね、師匠から習った催眠術使ったんだけど、なぜか効かなくてさ。
春香:そりゃ効かないでしょうね!
冬美:話聞いてみたら、隣の新婦さんの元彼なんだって。
なんか社長の息子さんに告白されて結婚するからって、急に振られたんだってさ。
春香:つまり、新郎新婦どっちも二股かけてたってこと!?
隣の結婚式どうなってるのよ! ちゃんと身辺整理してから結婚してもらっていい!?
夏子:それでそれで?
冬美:うん、新婦に一言、言いたくて、思わず会場まで来ちゃったけど、思いなおしたって。
元カノのことは忘れて、自分も新しい幸せを見つけようと思うってさ。
夏子:よかった! 2人も突入したら、さすがにややこしいもんね。
春香:人数の問題じゃないと思うけど……
冬美:で、私を地面に降ろして、心配かけてごめんなさいって。
春香:え、冬美を地面に降ろした?
冬美:そう、私が後から催眠術かけてたら、バレてその男の人にヒョイって持ち上げられたの。
夏子:ヒョイ、って、脇もってこう?
冬美:そうそうそんな感じ。で、そのまま持ち上げられたまま、話してた。
春香:どういう状況?
冬美:でも、その人やたらデカいから、目線合わせやすくて助かったよ?
春香:……まって。その人、身長どれくらい?
冬美:え? 185はあるかなー?
春香:185!?
冬美:なんかラグビーやってたとかで、やたら肩幅でかくて。
春香:らぐ、びー……かた、はば……顔! 顔は!?
冬美:えー? イケメンではないよ? ゴリラ系?
春香:ゴリラ系!!!(涎をすする音)
夏子:あーこれはまずい……もしもし、春香? あ、これはもう聞いてない……
春香:冬美! その人どっちに行ったかわかる?
冬美:え? えっと、確か……気持ちを落ち着かせる為に、1階のラウンジで一杯飲んでから帰るって言ってたっけ。
一応、魂を浄化する水も勧めたんだけど断られた。まあもうオーラ綺麗になってたし大丈夫でしょ。
春香:ラウンジ!? ラウンジにいるのね?
冬美:え、うん? どうしたの?
春香:ちょっと、ごめん、私! 行ってくる!
今行かなかったら、一生後悔する気がするの! 後、お願い!
(春香去る)
夏子:あーあ……
冬美:なになに? 春香どうしたの?
夏子:だってさ、春香の好みって、ほら、昔から……
冬美:あ、そっか! ……ゴリラ顔のゴリマッチョ、どストライクだ……あーらら……
夏子:昔からゴリラに目がなかったよね。
冬美:そうそう……イケメンに告白されても「ゴリラじゃないから」って断ってたもんね……意味不明。
(新郎新婦入場)
夏子:やば、始まった!
冬美:あー! 秋ちゃん! おめでとうー!
夏子:すっごく綺麗だよ! よかったねぇ! 幸せになってねぇ! もうさっさと先に行きやがってこのやろう!
冬美:あ、えっと春香はね? 今ちょっと居ないんだけど、えっとね……その……ちょっと訳があって……
夏子:長くなるから、詳しくは後で話すけど……その……次に会うの春香の結婚式になるかも……ってこと、多分。
冬美:とにかく、おめでとー!
夏子:おめでとー!
【完】
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