骨迷路 第四話
おはようございます。第四話のお届けです。山の上の教会の懺悔室に行く浮貝。お楽しみに。
第四話
「骨迷路」(第四話)
堀川士朗
午睡。
悪夢を見た。
起きて顔を洗う。
現実の方が怖かった。
大事な話。
そうなんだ。
大事な話をテンテンとちっともしてこなかったのが別れの原因ではないかと僕は思い当たっていた。
畜生。
息が苦しい。
僕は普段どうやって息をしていたのだろう?
身体に良いというのでヨーグルトを食べる。
腐った食べ物。
発酵という名の腐敗。
腐っているのは自分だ。
自分が臭くてたまらない。
自己臭恐怖症。
部屋が僕の臭いで満ち満ちていく。
充満する僕の嫌な臭い。
ああ。
三年後。
頭の中の広告をひたすらミュートして回る一日だった。
虚しい。
何か、延々と観たくもない外国のミュージカルを観せられているような毎日だ。
カンパニーには行っているけれど、何のために行っているのか分からなくなってしまった。
そんな時は、病院で処方された薬を飲む。
一時だが、そんな気の迷いを低減してくれる。
気がする。
薬は欠かせない。
あとこないだ、近所のワライカワセミばばあがいつまでもカンツォーネを歌ってうるさいので違う街へと引っ越した。
引っ越っし!引っ越っし!さっさと引っ越っし!しばくどー!
サポート。
より手厚いサポートが僕には必要なんだ。
森。緑が豊かで濃い。
グリーングリーンぐりんぐりん。
って、森のリスも歌っている。
リスは笑顔を見せている。
にこやか。
僕も笑顔で返して歌のお礼をした。
僕は、普段行かないところに行ってみようと思った。
ロープウェイに乗って山の頂上へ。
このロープウェイは片道千円もする。
山の上の教会。
見た事もないカラフルな花がいっぱい咲いていて、山の上の空気をいっぱい呼吸していた。
僕しかいない。
近代的な建物の小さな教会の懺悔室。そこに僕はいた。
狭い懺悔室に入って待つ。
一面、落ち着いた色合いの木材で出来ている。
椅子も木で硬い。
薄暗い。
荘厳な神聖な気持ちになる。
狭いが、不思議と圧迫感はない。
十分ほど経つと、コツコツコツコツと靴音が近づいて来て板で見えない向こう側の部屋に人がやって来る気配がした。
神父さまだ。
神父さまは言った。
「悩める子羊よ。そなたの罪を告白なさい」
「は、はい。僕には三年ほど前に愛する恋人のテンテンがいました。猫国人です。かわいい子でした。でもある日突然好きな人が出来たから別れると言って姿を消してしまったのです。それが前もって巧妙に仕組まれたものであったとさえ考えるようになってしまいました。でもテンテンは僕にとってはとても大切な人で、到底諦められるものではありません。神父さま。僕はどうしたら良いのでしょうか?」
「分かりました。まず、恋人の別れを自ら素直に受け入れなさい」
「はあ」
「そして、その人の事を心の中では打ち消さず、大事な思い出として、また新たな恋の道へと進むのです」
「出来るでしょうか僕に」
「出来ます。あなたは神の子」
「神の子……神父さま。ありがとうございました」
「神のご加護がありますように」
「あ!あと神父さま。僕は臭いですか?」
「え。いえ」
「本当ですか?く、臭くないですか?そちらに匂いが届いてないですか?」
「ええ。それは心療内科に相談して下さい、神の子よ」
僕はわけが分からなくなってヨロヨロと懺悔室を出た。
外の明かりがまぶしかった。
神の子か……。
神の子だったのか、僕は……。
帰りも片道千円のロープウェイに乗って、山を降りた。
神の子だけど、疲れるから足は使わなかった。
続く
骨迷路 第四話
ご覧頂きありがとうございました。また来週土曜日にお会いしましょう。