短歌集/秋の言の葉
歳相応に、秋をテーマに歌を作りましょうか。
【まずは古典風から】
老いし友よ 二度あることは三度ある
無理をしないで 杖に頼れば
誰にも頼らず ずっと一人で生きてきた
故に今朝の額の傷も 平気な振りをしているのか
人生の 秋も深まり冬支度
好きなスキーもできぬ脚かな
風来の 白髪の友も遠ざけて
一人 秋夜の酒を楽しむ
若き日の 無頼の頃を懐かしみ
語れば また一人噂の影が
(2025/12/11)
夕闇に 仲間外れの少女の家へ
好きなミカンをそっと手渡す
理知的で 可憐なゆえか疎まれて
俯く少女に胸を打たれて
大好きなのは卵焼き そう言って微笑む少女
美味しいものが食べたい年頃なのに
物心ついて初めて世の様を
おもちゃの違いに 気づく年頃
捨て置けようか 生まれど場所を選べずに
苦しむ小さな 魂の叫び を
(2025/12/10)
蕪太り 大根伸びし年の暮れ
痩せた 我が足にため息をつく
タイ焼きも 高く飛び跳ね 受け止める
財布の中にも寒き木枯らし
爺ジイの 間を縫って駆けまわる
少女のそばで伊予柑揺れて
冬来れど 冷え込み緩しと綿虫は
商い止めて 何処にか消ゆ
旧家の庭 主老いしか 咲き誇る
山茶花まわりを覆う雑草
(2025/ 12/07)
幼子の 寝入りし合間に鉢花の
世話に勤しむ若き母親
寒風の 荒ぶ空き地の傍に
誰が置きしや シクラメンの鉢
老優の 亡き妻偲ぶドキュメント
我が事のように じっと見つめる
(2025/12/06)
秋の葉は あらゆる場所に錦織る
色も形も自由に重なり
なのに人は 天空さえも囲い込み
我が物として互いに譲らず
(2025/12/05)
色恋の道か 銀杏と椛葉の
燃えて舞えども 落ちては別離る
紅き枝 伸ばして君の黄金射す
袖に触れるを風が遮り
わが恋の 燃ゆる思いを椛葉に
添えて送らん 雪降る前に
君居れば 燃ゆる椛葉文に添え
変わらぬ思いを 伝えるものを
なるほどと 紅葉を赤子の手に添えば
風吹きぬけて嚏起これり
呼び鈴に 出れば児童の笑い顔
薄き衣服に寒さ覚えず
律儀なる友 旅行くたびに手土産を
寒風の中 門に持ちたり
(2025/12/03)
故郷の 古刹の庭に散る紅葉
縁の尊者肩を滑りて
故郷の 慈悲の仏の前に臥し
日頃の無沙汰の許しを請わん
幼き日 寺に茂れる椎の実を
齧し頃の心は何処に
変わらじと 寺も仏も囁けど
水面に映る我が身の姿は
投げられし 銅貨の上に浮く紅葉
未だ沈まず輝きを放ち
夕陽落ち 紅葉も伽藍色褪せて
蝋燭の灯だけが ただ揺れにけり
(2025/11/30)
故郷の 秋は悲しや帰れども
家も田畑も 見知らぬ人が
若き父 若き母と生きし日々
あの家も田畑も 遥かなる夢
もうやめよう 帰らぬ夢を追うことは
涙をぬぐって 今を生きよう
我を呼ぶ幼き少女を連れし母は
振り向きもせずにドアを閉めたり
柿の葉の舞い散る朝に世を去りし
秀才の父を偲ぶ愚かなる息子
寂し夜半の 夢に級友現れて
和やかな笑みに囲まれし我
(2025/11/29)
人力車 勢子の黒字の背中にも
落ちずに掛るその紅き葉を撮る
人去りて ただ鵯の鳴く錦繍の
古寺に佇めば 秋ぞ身に染む
風も無き 仏の歩みか椛葉の
舞えど錦の庭に跡なく
弥陀曰く 地蔵は良しや寒けれど
錦繍の衣に深く包まれ
大銀杏 周囲の楓を従えて
主が如くに輝き立ちたり
茜さす 椛葉籠れる古寺の庭
箒を片手に庵主待ちたり
椛葉の紅く染めにし境内の
画像を示す白き指先
白き頬に 紅き椛の影落とす
君微笑めば 夕日きらめき
さらさらと袖を撫で行く椛葉の
その先を行く黒髪追いて
織姫の 行方求めて錦秋の
山立ち入れば夕日沈めり
(2025/11/28)
鮮やかな 錦を脱ぎ捨て綿衣
燃ゆるその身はいつしか雪肌
われ恋ゆる 覚悟はありや燃ゆる身の
下には凍る白き雪肌
燃ゆる葉も いずれは朽ちて雪の下
我もこの身を雪の真綿で
次々と 季節の絵師は鮮やかに
見慣れし木々に色を添えゆき
何処までも 錦織りなす木々の葉に
車も速度を緩めるかに見ゆ
秋深き 旅行く友は山の派の
景色を眺めて飯を食うかも
暮れゆきて 鵯の鳴き声寂しくも
散りゆく木の葉は紅に燃ゆ
天高く 雲一つなき青空を
仰いで駆け行く数万の人々
イワシ雲 子供の写真を観し後に
老婆は足しにと 紙幣を差し出し
チャリティに参加させてと その乙女
笑顔で髪を 秋風に委ね
尾根走る 唐紅に燃ゆる帯
かつては修験の通り道とか
暮れ急ぐ 夕日に負けじと幼子は
家路を目指して一目散に
寒風に カラスの群れの鳴き騒ぎ
人世の乱れを嘲笑うかの如く
酷暑ゆえに 狩り損ねたる 門の木の
籠れる枝は雀の宿に
友集う 話題は日々の体調か
それもそのはず 秋の空ゆえ
ふと見れば 風吹かぬのに枯葉舞う
目まいのせいかと気づく杖道
これが最後かもと老友は
言いつつ旅のスケジュールを練る
日向は暑し 日陰は寒し
友は忙しく椅子を動かし
人々の 笑顔に幾度も会いし今日
体調も戻りて そっと門を閉じる
紅に 燃ゆる椛を見る度に
湿る老い身を 如何にせんやと
奥嵯峨の 椛籠れる隠れ寺
栄華の昔を偲ぶ日々かな
夕暮れの椛葉そよぐ秋風に
頬を伝う涙の冷たさ
🌰今日はこれくらいに、また明日。(いずみ)
短歌集/秋の言の葉