辛い時こそ、語り合おう?
※長いですが、一般的な小説とは書き方が異なるため、一応『自由詩』として上げてます
ずっと家に閉じこもっていた幼馴染の彼女が、久しぶりに外に出た、と聞いた。
しかし、僕のスマホには、彼女からは何の一報も入っていない。いつもは何かしら、大切なことがあればチャットをくれるのに、と不思議に思って彼女の両親にもう一度聞いてみると『外の空気を吸いにいく』としか聞いていない、と教えてくれた。
そうですか、と立ち去ろうとした僕のスマホに、ちょうどその時、通知音が聞こえた。
メッセージアプリのチャット、そして彼女からのものだった。『拓矢くん、ありがとう。拓矢くんのおかげで外に出られたよ』
『今ね、すごく高いところにいるんだけど、ここの夕日はやっぱり綺麗……誰かと一緒に来たかったな……でも、引きこもりの私には、友だちなんて、一人もいないんだけどね』
『でもよかったんだったら……拓矢くんと一緒に来たかったな。でも拓矢くんはちゃんと学校に行ってるから忙しいでしょ?』
『でも、そんなことはどうでもいいんだ。とにかく、ここの景色は綺麗……飛び込んじゃいそうなくらい』
僕はハッとした。そして、脇目も振らず、彼女の両親に叫んだ。
『……お父さん、お母さん! 私を臨海タワーに連れて行ってください!』
彼女の両親は、血気迫る僕の表情を見ても、まだ状況を理解しきれていないようだった。しかし、僕はそのあと何とか頼み込み、この田舎都市の一番高いところ……通称臨海タワーの元に連れていってもらった。
タワーの頂上には、やはり彼女がいた。
泣いてはいなかった。ただ、夕日に照らされて、きらきら光るものと、手すりの向こう側に立つ彼女のシルエットが見えた。
『……舞ッ!』
僕は勢いよく駆け込んだ。飛び降りようとしていた彼女の身体を、何とか抱え込み、足場に持たれかけさせた。
そこで彼女は、初めて声を上げて泣いた。
『拓矢くん……どうして、来たの……?』
『ごめん……僕が悪かったんだ……この前、何も考えず、舞の部屋に上がり込んで……』
僕は、上がる息を堪え、途切れ途切れでも良いから、彼女に思いの丈を伝えた。
『……辛い時こそ、語り合おう? 僕はいつでも君の味方だ。なんでもいいから、適当なことを言い合って、笑い合えればいい』
『この世に必要なものは何だと思う? 第一は金だ。渋沢栄一が描かれた、あの薄っぺらい紙が、みんな欲しいんだ』
『でも、次にみんなが欲しいものはなんだと思う? 幸せだよ。誰もがそう願っている。金を除けば、幸せ以上に皆が希求しているものはない』
『……』
『でも、その幸せは、人それぞれなんだ。金があるからと言って、幸せになるかと言えばそうではない。貧乏だからって不幸せかどうかなんて誰にも判断できない』
『君だけの形でいいんだよ。友だちがいない? 学校が苦しい? 何もかもが嫌になる? でもそこに、君だけの幸せがあるはずなんだ』
『……拓矢くん……』
『僕は、舞が生きていることにも、幸せを感じてる。……だから、もう二度と、自分から死のうなんてことは考えないでくれ……君を思っている人は、決して一人もいないわけじゃないだから』
『……』
『下で舞のお父さんたちが待ってる。さ、帰ろ……? メシ食って、風呂入って、今日のことは忘れよ? 難しいかもしれないけど』
『……』
『……いい、いい。思う存分泣けばいい。それで君が楽になるなら、思う存分、泣けばいい』
日は沈み、辺りは暗くなっていた。空には、きらきらの星々が輝いている。
彼女が、不意にこちらを見てきた。微かに見えたそれは、ほのかに笑っていた。作り笑いではなかった。
辛い時こそ、語り合おう?