六兆年と一夜物語
ニコニコ動画に掲載されたボーカロイドIAの曲、六兆年と一夜物語を聞いて、そこから沸いてきたイメージから書いた自作小説です。
2/4:続きがかけたのできりのいいところで内容を更新しました。文全体の構成としてはちょうど半分です。
――少年篇――
深い深い山奥のとある集落で玉のような赤子が生まれた落ちた。
産んだ母親はその子が生まれ落ちた時に亡くなってしまった。
だが、周囲の人たちは2人が望んだ念願の子に祝福を捧げた。
そうして生まれたその子は一見、何の変哲もないどこにでもいるような普通な赤子見えた。
しかし―――
生まれた落ちた次の日。
赤子は、一回り大きくなり起き上がって嬉しそうにはしゃいでいた。
その次の日。
さらにもう一回り大きくなった赤子はおぼつかないながらも立ち上がり元気にはしゃぎながら歩いていた。
そしてさらに次の日。
もはや赤子は、赤子とは言えない大きさにまで育っていた。そしてその子は始めて声を発した――
『パパ?』
周囲は異様な成長速度に目を見張りながらも、恐れ半分、もう半分はきっとこの子はただ単に普通なこの子よりも育ちが早いだけなのかもしれないと各々の心中に言い聞かせていた。
次の日。
その男の子は教えた覚えのない言葉を次々としゃべっていた。
そして次の日。
ついに男の子は自分たちも知らない言葉まで喋り始めていた。
周囲は驚き戸惑い、その男の子にどこでその言葉を覚えたの?と聞いた。
『マーサっていう人にね、教えて貰ったの!』
村人は恐れ慄いた。その男の子が言ったマーサという人物は確かにいた。が、すでに亡くなっていたのだ。その子の母親として生まれ落ちると同時に。
そしてその集落があるのは深い深い山奥。当然、外部との交流も滅多になく。外から人がくれば即座に村人全員に知れ渡る――
そんな人が滅多に訪れない山奥の集落で生まれてから未だ家から一歩もでたことのない男の子は教えた覚えのない言葉をどんどん話し、ついには自分たちの知らない言葉まで話し始めた。
村人たちは、とうの昔に居なくなった故人と話す、黄泉の子と畏れた。
そうして畏れた村人たちは、それ以上自分たちの知らない言葉を喋らせないよう男の子の舌を抜くことを決めた。
――その夜、
火が猛る篝火の元、集まった畏れる村人たちによって乱暴に連行された男の子は
訳の分からないまま、壮絶なる痛みと共に
“声”を失った。
しかし、舌を切られた痛みにのたうちまわりながらも男の子は、微笑っていた 。
口から大量の血を流し痛みにのたうちまわりながらも微笑う男の子に村人たちはさらに畏れ慄いた。
次の日。
あまりの男の子の異様さにさらに畏れた村人たちは、男の子をこの村から消すことに決めた。
最初、男の子の舌を抜くことに反対だった周囲も今度はみんな賛成した――
その昼、
昨夜の痛みでまだぐったりしていた男の子は
一昔前まで身柱を捧げる祭壇として使われていた深い森が広がる渓谷に突き出た崖の上に立たされ、
――突き落とされた。
これで異様なモノは取り除かれたと思い、村人たちは安堵した。
次の日の朝。
村の入り口にその男の子は立っていた。
血だらけであちこち破れた服を纏い
しかし、その体躯に傷ひとつなくにこにこと、微笑みながら。
あまりの衝撃に最初は言葉を失っていた村人たちは、はたと思った。
あの崖の下の渓谷には深い森が広がってあるからきっと偶然木に引っかかたりして助かったんだろう
しかし、まだ信仰があった昔から今まであの崖から助かった人誰一人としていない。だからそんなことは万一にもあり得ないと無意識下で分かっていながらも、村人たちはみんな無理やり胸中にそう言い聞かせた。
そして、村人たちはすぐに集会を開き、今度はどうやって男の子を確実に殺すかの話し合いを始めた。
その夜、
男の子は、縛られ、燃えさかる炎のなかに、
――放りこまれた。
次々に材技を注ぎ足し、跡形もなく燃えさかる火柱を前に、村人たちは今度こそ本当に終わった…そう思いほっとした。
しかし、燃えさかる火柱が勢いをなくし、終焉にむかう頃、突如、山の様に積み上がった灰の中からむくりと何かが起き上がった。
消えかけの炎を身に纏いながらも大量の灰の中から起き上がったその男の子は尚も
微笑っていた。
それから村人たちは考えつく限りのありとあらゆる方法を試した。
ある時には重石をつけ近くの湖に沈め、ある時には首を縛り、ある時には―――
しかし、どんな方法で焼き、沈め、殺傷したとしても、しばらくすると男の子は決まってケロリとした無傷なまま、微笑んで立っていた。
考えを出し尽くした村人たちはほとほと困り果てた。
困り果てた村人たちは、しょうがなく男の子を"消す"のではなく遠く何処かの地に"捨てる"ことに決めた。
そうして男の子は、父親に手を引かれ、村を発った。
いくつもの山を越え川や谷を跨ぎ、これ以上歩けないというところまで歩き尽くした頃、目の前に大きな洞窟が現れた。
男は洞窟のなかに鎖を鉄杭で打ち付け、その先に取り付けられた戒めに男の子を繋いだ。
しきりに『ゴメンね…ゴメンね…』と泣きながら、夕陽を背に洞窟を出ていった男はそれきり二度と姿を現すことは無かった。
生まれてから、気がついたら覚えている言葉。周りのみんなが驚くのが楽しくて、知らぬ間にどんどん覚えていく言葉をつぎつぎ披露する。最初は驚き、微笑んでくれたみんなだったが、日を追うごとにその表情は驚きから慄きに変わった。
ある時、みんなのひとりから『どこでその言葉を覚えたの?』と聞かれた。
自分が考えたことも無かった疑問に僕は暫し考えてみた。
すると唐突にひとつの像を思い出した。それはいつかわからないけど、いつも僕に微笑みながら言葉を教えくれる女の人――
何故か分からないけど、あの時の、僕はこの女性がマーサという名前だということを知っていた。
何故それを知っているのかという疑問すらも抱かずに。
だから僕は素直に『マーサっていう人にね、教えて貰ったの!』と答えた。
その日から、周囲のみんなも含めて村のみんなの態度が変わった。
最初は目を合わせて微笑んでくれたみんなもしだいに目を合わせてくれなくなっていった。そしてついには触れようとした1番近い人に"触るな‼"と怒鳴られた。
ビクッと手を離したその瞬間僕の心は凍てついた。
"なぜ?どうして?"
そんな質問者をも許さない、いてはいけないモノを見る様なみんなの態度と、何か一言発するたびにとてつもない災厄がくるような怯える目線にしだいに、僕は何も言えなくなっていた。
そして、ある日の夜、うつらうつらと眠りにつこうとしていたその時間に
木戸を蹴破る轟音と共に、名前も知らない村人たちが靴のまま居間まで踏みこんで来た。
そしてその村人たちのひとりから、物言わず腕をむんずと掴まれ、半ば引きずられていった。
腕を掴み引きずっていく村人たちの怖い顔に恐れながら、
何だろう…
とぼんやりした頭で考えたがなにも分からなかった。
そうして考えてる中、轟々と燃えさかる炎のまえで
無理やり開かされた口の中に熱々に熱された大きなハサミが吸いこまれていって―――
突如口の中に生じた焼け付くを通り越した激しい痛みを感じのたうちまわりながら、
なぜ?なぜ?なぜ?僕の何が嫌いになったの??
と疑問を僕は問いかけ続けた。
そして、思い至った。
そういえば僕は最近微笑って無かったな
と
きっとそうだ僕がいつも笑顔で無かったからみんな僕を嫌っていくんだ――――
ふと意識が現実に戻ってきた僕は自分の口から流れる大量の赤い液体を感じながらも強張る顔の村人たちに、
僕は懸命に今できる精一杯の笑顔で微笑んだ。
それを見た村人たちの顔に今度は慄きの表情が表れた。
戸が蹴破られた家に連れ帰られ、僕は痛みと戦いながらも、いつの間にか、眠りについていた。
その日の眠りは夢も何もない真っ暗な眠りだった。
そんな眠りは、突如、激しく揺さぶり起こす振動と自分を呼ぶ大きな声に無理やり起こされてかき消えていった。
そして、昨日目を覚ました時と同じ顔ぶれの村人たちに、前日からまだ続く痛みとずっと眠り続けた体の倦怠感でふらふらとしたまま引きずられていった。
僕は朦朧とした意識の中で、目の前の現実がどこか遠い夢の中で起こっている様な、そんな感覚を抱きながら
気付けば、どこか知らない、風が轟々と吹き付ける開けた場所に僕は立たされていた。
"ねぇ、ここどこ?"と振り向いて聞こうとしたその時―――
トン、と僕は誰かに背を押された。
世界が反転して青い青い空が映し出されるなかで
そういえば、昨日舌は切られて喋れないんだっけ…と今更なことを思い出しながら
薄っすらとした意識は完全な闇の中に包まれていった。
次に意識不明がはっきりした時、うっそうとした森の中で目が覚めた。
辺りを伺うと、落ちてきたらしき当たりは木の枝が乱雑に折れ、自分が倒れていたところには昨夜自分の周りで見たような生乾きの乾燥しかけた赤い液体が広くハデに散らばり豪快な斑模様を造っていた。
あれ…痛くない...
ぼんやりした頭で最初に気がついたのは、昨日から必死に戦っていた口の中の痛みが無いということ。
そして遅れながら自分格好にも気がついた。
鉤裂きでずたずたになっている上、どこか出血したからか、大量の変色しかかった赤い液体でどす黒く染まっていた。
しかし、肝心な体の方は全く痛くなかった。普通に体を動かせるし、何故だか分からないけどむしろ今までよりも強く元気になった気がした。
そうして現状を認識した自分の胸の内に真っ先に思い浮かんだのは、
"帰らなきゃ"
という意識だった。
ここどこだろう?
自分いる場所がどこなのかわからなくて途方に暮れかけた時、
ふと、声なき"声"が聞こえた気がした
漠然としか分からないけど、懐かしい、落ちつける"声"。
はっきりと明確な言葉になっている訳ではないけど、
村に帰る方角はこっちだ。僕が進みたい道はこっちだ。
と直感に囁いてくる声なき"声"。
僕は直感に囁かれるままに歩みを進めた。
しゃくりしゃくり
落ちて山のように積み重なった枯葉が腐りかけた腐葉土を踏みしめながら
森を抜け
じゃりっじゃりっ
まだ削れきれていない尖った川底の石で脚をすこしばかり傷つけながら
川を渡り
ずずっ
行く手を阻むように連なる苔の生えた大きな石の集団に手を滑らせながら
岩場を登り
行く先も見えぬ険しい道筋を時間の感覚も分からぬまま、ただこっちの方向に自分のもとめるモノがあるという漠然とした感覚だけで進み
気づけば見慣れた村の前まで戻っていた。
ぼんやりと辺りを見渡していた僕は、通りかかった村人たちのあまりの驚愕で固まった顔みた時、何故だか理由のない安堵が自然にこみあげてきて微笑った。
突然騒然となった村人たちの声を聴きながら、ふと、気が緩んだせいか、歩き通した疲れと共に猛烈な眠気が押し寄せてきた。
僕は家に入り、強ばった顔で見下ろしてくる近しい人の顔を、眠気で霞んでいく視界で眺めながら眠りについた。
その日の眠りもまた真っ暗な夢なき眠りだった。
ただ一つ違うのは、眠りの中でどこからか、ギギギ…と軋む音が聞こえてくること。滑りの悪い硬い扉を、力尽くで無理やりこじ開けたかのような音だった。
そんな軋む音を聴きながら微睡んでいた眠りは、唐突に何かで体を締め付ける痛みと共に、破られた。
目を覚ますとやはりあの村人たちが寝転がった僕をずらりと取り囲んで立っていた。
僕の体に巻き付いたモノの正体は使い古して薄汚れた荒縄だった。
縄が身に食い込むのが痛くて、痛いと言おうと口を開いてから僕は喋れないことを思い出した。
ひとりの村人がそんな僕の様子に全く頓着もせず、ぐるぐるに巻かれて痛みに身をよじる僕を、荷物の様に肩に担いだ。
担がれ、歩くたびに揺れ動く僕の視界にチラリと真っ赤なモノが映った。
それは、声を無くしたあの日よりも煌々と、そして猛々しく暗くなった空に向かって延びるように辺り一面を照らしていた。
まるで生き物のようにうねりながら延びるそれを僕は、美しいと思った。
猛々しい獣のような、それに見惚れていると、ふいに僕の身体が宙に浮き、
僕はそれの中に放り込まれた。
真っ赤な揺らめく視界で人が焼ける嫌な匂いと共に、凄まじい、刺激という名の触手が表面を蹂躙し、やがて表面を突き破ったそれは、内にまで侵食するように僕を弄んだ。
そして、何か焼き切れるような音と共に、ぷっつりと意識が途切れた。
僕は夢を見ていた。
夕方で紅色に染まる世界の中、あの女の人に手を差し伸べられる夢。
顔は逆境で暗くてよく見えなかったけど、僕はひどく安心し、その手を取った。
ここで唐突に僕の意識は現実へと浮上した。
不思議と最初感じていた凄まじい刺激は無くなり、代わりに冷たいような、暖かいような何かが僕の肌を優しく撫でていた。
自分が埋れていた灰色の山から身を起こしながら、今さっき見た夢を思い出していた。
久しぶりにあの女の人に会えてすごく嬉しかった僕は無意識のうちについ口元を綻ばせ、いつの間にか微笑っていた。
それから、村の人たちはありとあらゆる方法で僕に痛みを強いた。
時には重石を付けられて名も知らない湖に沈められ、時には首に縄を巻かれ、あの崖からまた突き落とされ、時には―――
しかし、どんな状況でも、最初感じていた意識を失うほどの痛みや苦しみが、意識を取り戻すと決まって何事もなかったかのように消え失せていた。
そして、痛い目に遭い、身体が何事もなかったかのように戻るたび、僕の心の奥底にしまっていたモノが悲鳴をあげて壊れ、大切な何かがどんどん欠けていく気がした。
けれどもそんな時、決まって夢の中であの女の人に会えるので、僕は嬉しくていつも微笑っていた。
色々な方法でいたぶられる毎日を過ごしていたある日の夕方、
遊んでくれる人も無く、手持ち無沙汰ですることもなくふらふらと暇を潰していた僕の所に、いつもとは違った顔ぶれの村人たちが来た。
その中には周囲の人でも特に1番近かった人も居た。
その人はふいに手を差し伸べ、こう言った。
「一瞬に行こう。」
沈みゆく夕方を背に眼前に映し出されるこの光景に、いつも夢で見る光景とダブらせた僕は、心からくる、花開くような笑顔でコクンと頷き、その手を取った。
手を取ったその時、その人はひどく困ったような嬉しいような悲しいような…そんな複雑な表情を一瞬だけ僕に漏らした。
それから、僕は移りゆく景色を眺めながら、手を引かれるまま黙々と歩き続けた。
手を引いていくその人も決して手を途中で離すこと無く、黙々とただひたすら険しい山道を歩き続けた。
やがて夜が明け、昼がやって来、そろそろ次の夕方が来ようかとするその時、ぬっと目の前に荘厳とした大きな洞窟が表れた。
「ここでちょっと待ってろ。」
そう言って僕を洞窟の入り口に置いてったその人は、洞窟へ慎重な足取りでゆっくりと入り、少し進んだ所の苔の生えた硬い岩壁に、懐から取り出した鎖のついた杭を金槌で叩きつけ始めた。
カーン…カーン…
洞窟に波のようにこだまするその音の、普段ではあまり聞くことのない様に、僕は面白いと感じ、注意深く耳を傾けていた。
やがて音が止んだ時、僕は閉じていた瞼をそっと持ち上げると、目の前にその人は立っていた。
その人は悲しさと苦しさがない交ぜになったような顔で、どうしたの?…と思い突っ立っていた僕の手を取り、洞窟に向かって歩き出した。
壁に根元まで深く打ちつけられた杭の前まで来た時、
その人は、じゃらり…と音を立てて鎖を掴み、その先端に付けらた器具に僕の片腕をカシャリと優しく嵌めた。
不思議に思って見上げようとしたその時、僕の頬に何か暖かいものが落ちてきた。
振り向くとその人の両頬に透明な雫が流れていた。
僕の手を鎖に繋いだその手で僕の頭を撫で、そして、僕の躰をきつくきつく抱きしめ、
「ごめんね…ごめんね…」
と言葉を発した。
生まれてから始めてされた行為に僕は驚き戸惑っているうち、その人は離れ、今まさに沈もうと眩しくなった夕日を背に
どこかへと消えていった。
六兆年と一夜物語
読んでみていかがでしたでしょうか?
前々から構成を頭の中で練っていてある日の深夜4時くらいに寝ていると突然『書きたい!!!!』と爆発してしまった結果がコレですw
最初は普通の解釈小説にするつもりが、衝動のまま書き進めるにしたがって
あれ?あれれ??と気づいたら自分読んでいてもかなりアブノーマルな内容になってしまいました^^;
前書きで書いたようにこの小説はニコニコ動画に掲載されたボーカロイドIAの六兆年と一夜物語の曲をベースにイメージングして自分なりの解釈で書いています。
ぶっちゃけ書いてる途中で「カゲロウデイズとか小説出てるよなぁ・・・」と気になってもしかしたら他に同じものを題材に書いてる方いたらどうしよ汗・・・と思って検索したら、なんとこの曲の解説の方がヒットしました。
んで、解説読んで、え?え?もしかして自分の書いた話は元曲の一般的な解釈とかなり違う解釈の仕方になってる??@@;と冷や汗かきましたが、まぁそこは色々ある1つの解釈。
そのまま沸きあがる衝動のまま書き続けることにしました。
内容を読んでいただくと分かりますが――少年編――といいながら未だ少年編自体書き途中です;この後、――少年編――からその後につながる――少女編――そして―――結末、その後――と書いていこうと考えています。
もし原曲をよく知っていて、あまりの違いに不快に思われた方がいたらごめんなさい。
どうかその時は六兆年と一夜物語としてではなく、ただの普通なアブノーマル小説という見方で読んで欲しいです。