寝不足の小瓶
窓のむこうを鳥が落ちる
赤い頭が荒野へ沈むたび
声帯へ鮮やかな傷 芽吹き
ひとつの言語を見失うだろう
窓の右下のすみはブランコゆれ
誰も載っていない雲の曜変
鎖と鎖がこすれあうときに
ふるさとの川を手放すのだ
窓のガラスとガラスのあいだに
ちいさな羽虫のまぎれこむ
まぶたと眼球とこすれあうたび
合唱という時間を忘れ去る
 背から見上げた川の花火は
 ちがう世界の響きだと思った
 川面を剥いた底の闇こそが
 幼い血の滞るエスプレッソ
窓はもう見えなくなっている
きのう空色の匠が持ち去ったので
ぼくは窓拭き用だった青色の雑巾で
自分の鼻についた脂を拭き落とす
あたまのなかの海へ蝶は接岸する
泣き声をあげるだけで生きられたのに
どうして生きる術を身につけたのか
窓のむこうの木は
幼さという音楽だった
のに
寝不足の小瓶
 
