パセリと罵倒(二次創作物)
原作: パセリと罵声
カルボナーラを作った。真っ白だ。
最後にパセリをかけた。テーブルに運んで、フォークを刺したところで気づく。コップがない。冷蔵庫の緑茶を注ぎ、席に戻る。
隣の部屋から、男とも女ともつかない怒り声が流れてきた。路線電車の滑走音がかぶる。たまに車が通る。スマホで、お気に入りの曲を流した。
目が覚めると雨の音がしていた。アラームのスヌーズはとっくに終わっている。窓ガラスに当たる水の連打。しばらく耳を澄ませる。さっきまでの夢を見る。ピアスの穴を新しく開ける夢。テーブルの上には、いつの間にかフープピアスが置いてある。
隣の部屋の音が雨に混ざる。怒っている声だ。いつもより柔らかく聞こえる。雨が声を丸くしているのかもしれない。
一日中、雨。何もない日曜日。
冷凍庫からたこ焼きを出して温める。最後にパセリをかけた。屋台で買ったみたいに見える。
仕事から帰って椅子に座る。コーヒー、柿の種、親指でSNSを送る。やめどきが見つからない。YouTubeが次の動画を繋げる。
隣から罵声。「この野郎」だけ聞き取れた。スマホは23時。
鍋に水。火。もう一方でフライパン。マーガリン。小麦粉。ケチャップ。あとで牛乳。刻んだハム。
検索窓に「カフェ 週末 バイト」。ピアスOK、髪型自由。お湯が沸く。乾麺を折らずに入れる。
茹で上がりをフライパンへ。混ぜる。火を止める。皿に出す。
ひと口。隣の声が入る。食べ終える。眠気が落ちてくる。
洗濯物を干す。ドアの向こうの通路で足音。止む。耳を澄ます。何も続かない。
干し終えて椅子に戻る。YouTubeを流す。夕方になったので外へ出る。階段を降りる。駐車場にあるはずの赤いワンボックスが、今日はない。
アラームの音が何回か続いたあと、嫌な予感だけが残った。スマホを見ると6時半。初出勤の日だった。鏡の前で身支度をする。隣の声は聞こえない。苦笑いが出る。久しぶりに、この時間に起きた。
なんとか7時半に部屋を出る。駐輪場に自転車。駐車場には赤い車が戻っている。朝ごはんは抜き。お腹は少し減っている。
夜、ベッドでスマホ。隣から今夜何度目かの声。元気な声だ。
おすすめの曲をかける。高校生のころから聴いている女性シンガーソングライターの新曲。しばらくすると、しっとりした曲に切り替わる。音量は変えていないのに、部屋が少し広くなる。
冷凍庫からたこ焼き。レンジ。
コーヒーを淹れる。今日はバイトの先輩が教えてくれた豆。店の商品ではない。少し高い。
出来上がりにパセリを振った。振り方が前より多い。テーブルに緑が落ちる。指で集めて、皿の隅に寄せる癖がついた。
トイレに行って戻る。椅子に座る。映画を検索して、ネトフリで再生する。オープニングがゆっくり始まる。
カップの縁に、パセリが一片くっついている。落とそうとすると、落ちない。指先が少し濡れた。
隣の部屋から、怒った声が聞こえてきた。
パセリと罵倒(二次創作物)
語らないことを、許してほしい。