KISS KISS KISS
「いつわりびと空」二次創作作品。薬馬×空を空視点の一人称にて。関東圏内の人間ですので関西弁は超怪しいデス。おまけ部分には控×空的な表現もありますのでご注意下さい。多少気恥ずかしい部分があるのでレーディングをかけましたが、あからさまな性行為は行っておりませんので、もしそう言ったシーンをお求めでしたらご期待には添えられません、申し訳ありません。「腐向け」ですので、単語の意味が判らない、嫌悪感がある、という方はスルーして下さい。空さんの知識は「赤ちゃんはお釈迦様が蓮の蕾にそっと忍ばせてくれる」程度のものです。
ふっと湿った匂いで目ぇ覚めた。窓の外は明るいけど、障子越しに水音が聞こえる。なんや、雨か?
寝起きが悪い方じゃないと思っとるけど、晴れてへんとどーも調子でぇへんなあ。
「空さーん、おはよーございますー」
「おー、ぽち、おはよーさん。よぉ寝れたかー?」
ようやく体起こしたとこで、顔を覗き込んできたぽちの頭を撫でてやる。今日もふっかふかや……あかん。手触り良過ぎてまた寝てしまいそうや。
「空、起きたのか?」
薬馬の声。ワシは眠くてたまらんのに溌剌としとって腹立つわー。
「うー……」
顔が見えへんと思ったら、知らんうちに目ぇ閉じとった。あかんあかん。ぐしぐしと目をこすってると「こら!」と声がして、目をこする手を掴まれた。
「雑菌が入るだろ」
わはははは、バカめ! 見えてへんでも射程に入ったらこっちのもんじゃーい!
一発ぶん殴ったらスッキリするかと思ったんやけど、本格的にあかんわ。腕振り上げたとこでそれも掴まれた。駄馬如きに捕まえられるとか!
「おはよう」
ちゅっと軽い音がして、ほっぺに濡れた感触があった。
いつからやろなあ。異国(あっち)の挨拶か知らんけど、薬馬がワシにちゅーしてくるようになったんは。……別に嫌でもないから好きにさせとるけど。
くすぐったくて、ちょっと目ぇ覚めたけど、まだ頭がふわふわしてこん位の刺激じゃ全然足りひん。
「……足りひん」
「はぁ!?」
「もうちょい」
こいつの基準がどこにあるのかは知らんけど、ちゅーには2種類あるらしゅうて、朝は『軽い方のちゅー』してくるねん。後、ほんまに時たま、夜の夜中にえらいキツいのかましてきよる。ワシ、今はそっちが欲しいんやけど。
無理無理に片目開いて位置確認し、顔寄せる。……ちょい目測誤ったなあ。距離の足りん分、舌を伸ばしてぺろっと奴の唇を舐めた。歯磨き粉味。
「あのなあ……」
あきらめたような溜め息と、柔らかいもんが唇に押し当てられて……すぐ離れた。
うー。なんでこんな察し悪いんや、アホが。
「……わかれや、アホォ」
精一杯嫌味を込めたつもりやのに、なんやかすれてふにゃふにゃな声になってもうて、こっちの方がアホみたいや。
「いや、ぽちの前だし、さすがにこれ以上はダメだ」
以上もなんも、ちゅーするだけやん。
「んー……ぽち、ワシと薬馬がちゅーとかしとったら嫌か?」
「いいえー? 空さんとおかーさまが仲良しだとー、ぽちも嬉しいでーす」
「なー、仲良し、ええやんなー」
ええ子やなー。ええ子なんやけど、頭ぽふぽふしてやるだけで和み過ぎて……朝は……困……うぉっと。かくっと落ちかけた頭は薬馬ん胸に着地した。
慌てて支えるみたいに伸びて来た腕がワシの背中に回されてすっぽり包まれるみたいな姿勢になる。今朝は結構寒かったんやな、と薬馬の体温で気がついた。ぬくぬく。
あー、気持ちええわ……ぽちもなー、温(ぬく)たいし柔らかくって気持ちええんやけど、いかんせん表面積小さいから、こうはいかんのがちょい残念やなー。
ぬっくい。あかん。眠い。腹減った。ぽちの顔見たい。……眠いー……!
「……なぁ……」
上手い事言いくるめる台詞すら出て来ん。もーあかん。寝よ。寝る。ほっぺを薬馬の着物にこすりつけて、本格的に二度寝に入ろうとしたら、指先からぽちの感触が消えた。
それで、ちょっとだけまた目が覚めて見上げたら、控がぽちを抱え上げて薬馬の肩越しにこっち見とる。口元に「しー」と指当てて片目つぶって笑う。
うー。返せや、ど阿呆……!
じたばたするもんの、やっぱどうにも力が入らんしなー。困ったなー。薬馬にどーにかさせたいんやけど頭回らんしなー。そもそも回るんやったらどーにかさせる必要も……ないん……や、けどなー。……。
途切れかけた意識が、ギュッと薬馬の腕に強く抱きしめられて、ふっと戻った。
「空。お……俺は、お前が好きだ!」
うん、知っとる。
「大事にしたいと思ってる」
うん、それも知っとる。うん……うん? あ、これ、なんやチャンスとちゃうか?
「だから……こういう事をされると我慢できなくなるから……」
「別にワシがせえゆうとるんだからええやん。……好きにせぇ」
仲良う、しよ?
精一杯可愛い子ぶって耳元に囁いてやったら、控がぽちに目隠ししながら必死で笑い堪えて涙浮かべとるし。こっちかて必死で起きようと頑張っとるのにしちゅれいな。
べえ、と控に舌出したつもりが、薬馬の舌に絡めとられた。
「ん……っ!」
いっきなりきよったなあ。
ドロッと熱くて、粘り気のある液体が口ん中流し込まれて咽せそうになる。淡い薄荷の味が、寝起きで乾いた喉に甘い。唇で、舌で、夢中で混ぜあう唾液にそういう成分でもあるんか、痛いくらい抱きすくめられて血流が圧迫されとるせいか、次第にワシの体温も鼓動も上がってく。
柔らかく噛まれた舌が、びりびり痺れて、背筋がぞくぞくしてくる、この感じ。
コレは嫌やない……てゆうか、好きやなあ。気持ちええ。
口と口をくっつけとるだけやのに、全身が熱くなって、ドキドキして、目ぇ覚める。
こっそり指をぐーぱーさせたら、だいぶ力も入る様になってきたし、本調子まであともうちょいか。
? 急に腰回りが楽になったと思ったら、いつの間にか背中から腰に回されてた薬馬の手が夜着の帯を解いとった。
別に着替えまで手伝ってくれんでもええんやけど。
急に唇が離れると、なんやスースーしてちょい寂しい。
「薬馬……? ひゃ……っ!?」
「……嫌、か?」
嫌って訳じゃないけど。滅多に聞けない低く甘ったるい声……これも好きやけど。
溢れて顎を濡らしてた唾液を伝うように、薬馬の舌が、ワシの顎を、首筋を辿って降りてく。一緒に、右手がゆっくり着物ん中に滑り込んできて、くすぐったい……てのとは、ちょっと違う? 変な声出てもーたし。
「ぅあん!?」
しばらく首筋の辺りをぬるぬる辿って遊んでた舌……がっ、ワシがびくっとすくんだ場所で止まり、いきなり強く吸い上げてきた。
これ、なん……っ?
足の先まで電流流されたような感覚が走って、一気に目ぇ覚めた。なんや、こんな技持っとるならさっさと出さんかーい!
「薬馬、も……ええ、目ぇ覚めたし!」
って、ゆーとんのに、スルッとワシの着物剥ぎ取るなり、また布団に押し倒してきよった。裸で寝ろっちゅーんかいな。……まあ薬馬が掛け布団になるんやったら温いしええけど。こんな風に触れられんのも気持ちええし、もうちょい触られててもええけど。
腹減ったし、ぽちも取り返さなあかんしな。
「また寝かしつけたら、本末転倒やろがーっ!」
どーん!
両脚を腹につく迄引き上げて、そのまんま薬馬の腹を蹴り上げた。男は敷居を跨いだら七人の敵がおるもんやからな。どないな体勢でも攻撃でけるよーにしとかんと話にならん。薬馬のアホは毎回油断しすぎやっちゅーねん。
おお、景気良くふっとんでくわ。障子にぶつかって、窓枠超えて姿が見えんようになってもーた。……ここ二階やったかな。まあええわ。
「ぎゃーっ、雨と一緒にこじゅが降ってきたあああ!」
「ちょ、お前何やって……医者、生きてるか、医者ー!?」
下の方で大騒ぎしとるし。他の宿泊客に迷惑やろが、ほんま常識のない奴等やで。
うー。涎でべっとべとやん……ワシが脱ぎ捨てた着物で顔をごしごし拭いてる隣で、控が「ひでーっ!」と腹抱えて爆笑しとる。
「いやー、空くん、無抵抗っていうか、ノリノリだしさあ。ぽち連れて遠慮しなきゃいけないかと思って心配しちゃったよー」
「そら、控は寝れへんかも知れんけど、別にぽちは一緒に二度寝したって良かったやろ。なんで連れてくねん。なーぽちー」
「……えっ!?」
ぴっと手を上げてはーい!と元気な声出しとるぽちを抱っこして振り向いたら、控がもの凄い角度で首傾けとった。一緒にワシも首をかしげる。んー?
「その気もないのにあんな濃厚な口付けしちゃってたの!?」
「起きる気あるからやっとったんやろ、ええ目覚ましやん。あんなん夜にされたらなかなか寝れへんで困るっちゅーの、逆やろ……薬馬の奴アホやと思わん?」
「普通はその後、もっと疲れることしてから寝るからねぇ……って、いやいやいや! 空くん、大事なことだからもっぺん訊いていい? ……えっ!?」
いきなり両肩がしっと掴んで真剣な表情で顔寄せて来たけど、意味わからんわ。天丼のつもりやったらパンチ弱過ぎやのォ。
「控、そのお笑い、オモんない。五百年何を修行しとったんや。上方じゃ通用せんで!」
「俺、偽り人だったし宝の番人だったけど、一度たりとも芸人は目指したことないからね!? 俺の過去捏造した上思い込まないで!? てゆーか、俺その気になったら冗談上手いから! 鉄板ネタ持ってるから!」
「目指しとるやん」
「あっれー!? そーじゃなくて、えっと……、赤ちゃんってどこから来るか知ってる?」
薮から棒になんや。
別に興味もあんまり無かったし、里でジジイにさーっと聞いた程度しか知らんが、間違ってはおらんやろ。嘘つくメリットもないから正直に聞いたまんま応えてやった。
「ハイソウデスネ。それは、とても正しい知識です。間違いありません」
なんで丁寧語や。なんで挙手の敬礼や。
まあ、こいつが全部を語ろうとせんのはいつものことやし、訊くのも野暮やろ……気にしてもしゃあないか。
「ほな、ぽち、行くでー。お腹空いたやろ、待たしてごめんな?」
「大丈夫でーす。ぽちはー、空さんと一緒にご飯食べるのが一番美味しいですからー」
「わはは、ワシもー」
手こずったけど、おかげで目覚めもスッキリや!
ぽちを頭に乗せて、伸び一つ。今日は何して遊ぼうか。
まずはメシ、メシーっと。
【終】
************************* おまけ **********************************
っと、部屋出る時に薬馬に脱がされたきりだったのを思い出した。褌一丁はマズいやろ。
「……うん、俺もちょっと読み違えてたよねー。ぽちは勿論、空くんも守るって決めてたし……そーゆー事ならちゃんと止めに入ってあげるのが俺の責任かな〜。でも医者くんも今は保護対象だし、この場合はどっちを優先すべきか……」
一人の世界入ってぶつぶつ言い出してる控は置いといて、どこ探しても着替えが見つからんからあきらめて、もっぺん夜着を着直した。
「!」
これだけやと、やっぱ寒いなあと思った瞬間、ふわっと控のバンダナがワシの首に巻かれる。
「今日、冷えるでしょ。ソレ、貸してあげるから、一日首筋隠し……あっためてた方がいいよー」
「……おおきに。お前はええんか?」
「いや、俺は風邪引かない体だし。空くんはさー、俺より生身の医者くんにそういう心配してあげた方がいいんじゃないのー?」
「なんで?」
「即答!?」
ぶはっと吹き出す控の唾を慌てて袖でブローック!
ほんまに、こいつは……いっくら不死身ゆうても、寒いのも暑いのも、……痛いのだって不快なのに変わりはないのにのォ。好き好んで不快な思いすることないやろ。
ワシがそう思っとるのも、こいつは多分判ってるし、判ってないフリをワシが知っとるのも、これはこいつからの『踏み込むな』っていうサインなのに気づいてるのも判ってる。『理解』という枷で包囲されて、結局『言葉』も『歩み寄り』も封じられとる。
随分効果的な遣り口で、今んとこそれを打破する手段も理由もワシにはない。
そのくせ、ワシが薬馬の心配をせぇへん理由かて判っとるくせに、わざわざ訊くんやな。あいつは言わんでも、人も自分も大事にするのを知ってる奴や、お前とは違う。
「……特別なんだねぇ。ちょーっと羨ましい、かな」
笑うだけ笑って、なのにそんな顔する。こっちに一歩踏み出してこんのはお前やろ。
「特別ぅ? 何の話や」
「そーだねー、例えば、空くんは、俺とちゅーするのは気持ち悪いでしょ? みたいなー」
ちゅー。
別に気持ち悪くも何ともないのにな。特異体質気にし過ぎや。
ワシは未だに控の事を何にも知らんのと同じやけど、その時が来たんなら。お前の事情も、決意も、決断も全部飲み下したるわ。……こんな風に。
仲間に誘った時から。この程度の覚悟も出来てへんようなブザマな男と思われてるんやったら、それは癪やなあ。って、ワシが考えとるのも、想定内なんやろ?
ゴクッと喉を鳴らして控の口から吸い取ったもん飲み下して顔を離す。
「あら、びっくり」
「……おじいじゃん、おくちくさーい」
「マジでーっ!?」
「うはは、なんちゅう顔すんねん、嘘や、嘘」
だから、今はせいぜい深刻ぶったとこ、全部ぶち壊したるわ。アホやって、そらっとぼけて、笑い飛ばして、一歩高みにおるお前を、ワシらの次元まで引きずり降ろしたる。
覚えとけ、ワシは偽り人。誰よりも強欲に生きるんが生業や。少なくとも一度手にした獲物を、何の手だてもなく手放す程無欲ではないわなあ。
「お前の特異体質に興味無いゆうたら嘘になるけど、どうでもええわ。気にするとしたら……『まだ』不死身である意味やな」
ニヤニヤ笑って控の顔眺めとると、わざとらしい半泣きの顔引っ込めて、奴もニヤリと笑う。そうそう、それがお前の本音の顔や。
「いい〜ねえ、それは『凄く良い』。君は本当に、どこまでも『男の子』だ。……眩しいよ」
「万年思春期に餓鬼扱いされるのは心外やのォ」
ぼやくワシの髪をくしゃくしゃした後、さりげなーくぽちの方に伸びて来た手を叩く。
「あっれー? ここはぽちともちゅーの流れじゃなかった?」
「ないないなーい!」
「ないそうでーす!」
「えー、せめて一回! 空くんってばー!」
しつこく伸びて来る手をかいくぐる。根負けしたか、また控が吹き出した。
「……もう。何考えてるのかなあ、空くんは」
「さあのォ。……例えば、『神』って奴から、宝を奪う。『ここのつ』だけやのうて、根こそぎ、片っ端から、知識も、力も、『何もかも』かっさらえたらスカッとするやろうなあ……とか」
宝の番人、とかのォ。言わんけど。どうせ判っとる。
笑うとけ、笑うとけ。
お前が『選択』に向き合うのを避け続ける間に、ワシは端から選択肢を奪っていくだけ。神とやらが与えたつまらん使命や不死身と引き換えにしても惜しく無い程、笑わせてやるし、面白いもん魅せたるわ。
お前の好奇心が、お前の不死身を殺す迄。
************************* おまけ2 **********************************
ぽちを取り合う様にして、ワシと控がどたばた階段駆け下りてったら、タライ抱えたねーちゃんとばったり行きおうた。
「ねーちゃん、おはよーさん」
「うっ、空さん、ごめんなさいっ!」
挨拶もそこそこにいきなり頭下げてきたんで、何かと思ったらタライの中身はぐっしょり濡れたワシの着物やないか。
「夜のうちに乾くと思って外に干してたら雨が降り出してて……」
んー。まあ、洗ってくれとったんやし、ねーちゃんらしいと言えばねーちゃんらしいし、別に腹も立たんけど。
「できれば乾く迄出立を遅らせて欲しいんですけど……」
「できればっちゅーか、それしかないやろ。ワシは別に構わんで。雨の中出歩くのも嫌やしのー」
そういう事やったら宿の手配、先に済ませとこか。この雨や、延泊の客も多いやろ。早めに手を打った方がええな。
「じゃー、ワシ、延長の手続きしてくるさかい……」
「だっ、ダメですわよ、そんな寝間着で! 代わりに私の着物をお貸ししますわ!」
「いや、気にせんでええよ」
ちゅーかむしろそこは気にせんで欲しかった。
「いえ、是非! お貸ししますから!!」
なんで、そないにグイグイくるねん。うお、ごっつい瞳が輝いとる。姫さんとチビっ子もおったんか……うわー、準備万端、一式揃えて待っとるなあ。
「そうよん、空様ん。一日寝間着で過ごすなんて自堕落ですわん。妾も手伝って差し上げますわよん」
化粧道具とかいらんやろ……。なんで、お前等そないにええ顔しとんねん。
「あー、空、居たーっ!」
「くぉら、糸目! 今日と言う今日はマジで医者に謝れ!」
あかーん! ぼろっぼろになった薬馬に肩貸して、烏頭目と蝶左まで顔出した。このタイミングはやばい。薬馬に悪さしたんがバれたら、罰としてとかなんとかゆーて、なし崩しにねーちゃんの着物着せられてまう!
急いでなんかええ言い訳考えな……それまで薬馬、口開くな。一っ言も喋るな。
「空! ……すまなかった!」
「ええ〜〜っ!?」
た……っ、すかった? 薬馬の方から謝ってきよったわ。お前、打ち所悪かったんか?
「大丈夫、お前の体のことは判ってる。お前は病気じゃないんだ、ちゃんと自分のペースで大人になればいいから焦らなくていいんだぞ? さっきの俺はサイテーな男だった……大丈夫、俺は待てる。俺は我慢強い男の筈だ! まだ頑張れる、ファイト俺!」
「こっ、こじゅが壊れた!?」
「薬馬さん、どうしたんですの?」
「……走ってくる」
「おい、医者? お前、体ぼろぼろなワケ。何言っちゃってんの!?」
「健全な肉体に健全な精神が宿るんだ。……走って来る、三時間位!」
うおおおおお! とか奇声発して、薬馬は草履も履かんと雨の中飛び出して、あっという間に姿消してもーた。
あんの、ド阿呆! いくらそっちが謝ってきても、ワシが完全に悪者やないか!
「おい、糸目。お前、医者に本気で何したワケ? 医者が怒らなくても俺が怒るぞ?」
「わー、わっかり易い四面楚歌ー」
控は控で嬉しそうやなー。こっから逆転するのが偽り人の腕の見せ所やろが。
「まーまー、毒爪くん。空くんにだって止むに止まれぬ事情がある時だってあるんだよ。例えば……ねえ?」
(今日はサービスしてもらったから助けてあげるよー)
こそっとワシに囁いたかと思うと、控はワシの首に巻いてたバンダナをぱらっと解いた。それだけで、なんや、皆悲鳴あげるし。首、どーにかなっとるんか?
「医者くんに何されたんだっけ? なるべく簡潔に事実だけねー」
「ちゅーされて、脱がされて、押し倒された?」
特にねーちゃんの悲鳴、凄い。耳がキーンてなるわ……!
「いーや、俺は納得しねぇぜ。糸目も猫目も信用ならねえ。……想像したかねえが、途中迄合意だったって可能性だっ……ごふう!」
「いやあああああ!! 想像しないでええええ!!!」
ねーちゃんと姫さんのツープラトンがキレイに決まって、蝶左轟沈。おお、一番うるさいのが消えて、風向きが変わってきたような。
「よく判んないけど、こじゅが悪かったのかー?」
控が泣け、泣け、とゼスチャーしとる。えー……面倒臭いけど、乗っとくか。うつむいて涙を拭う振りしながら素早く着物で目をシュッと擦る。痛っ……。
「えっ、えっ!? 泣くなよー、空〜」
「だ……騙されるな、烏頭目、絶対嘘泣き……っ!」
しぶとい、まだ息があったんや。止め刺すかとチラッと蝶左見たけど、そこは控がなんかぼそぼそ囁いて黙らせとった。せーつーがどうのとか聞こえたな。なんやろ。
「……マジで……? 病気だろ、それ……」
「だからさ……医者くんが言ってた通り、極端に遅いだけで……全然判ってないから……」
小声でさすがに聞き取りにくいわ。
「お可哀想に、空様ん。首筋のそれだけでも何とかしなきゃだわん、さ、こちらにいらっしゃってぇん」
ふわっとええ匂いがして、姫さんがワシに寄り添ってきた。なるほど烏頭目だけやったら、ここまでせんでもと思ったけど、こっち対策か。考えとるなあ。
鏡を見るのは好きやないけど、姫さんが見せてくれるのチェックしたら、さっき薬馬に吸われたとこが酷い痣になっとる。これは、放置しとったらブザマやなあ、確かに。
姫さんに腕取られるまま、廊下から部屋に移ったワシの後ろから控の声がする。
「あ、ゴメーン、空くん。助けてあげられんの、ここまで」
「!!!???」
慌てて振り向いたら、お手上げ、のポーズで両手をひらひらさせとった。
「空くんの可愛(イ)いとこ、見ってみたーい♪ なんちゃってー」
……あーーーー!?
そうやった、まだ問題一つ残っとったやんか。ワシ、今日着替えが無いんや。
部屋の中には、女物の着物構えて笑顔のねーちゃん。
隣にがしっと腕をホールドして離れん姫さん。
背後で、チビっ子がすすすっと襖を閉めた。
「空さーん、ごはん、まだですかー」
ぽちに裾をくいくい引かれて思い出す。そうや、メシや。意識したら腹減って敵わんわー……。
観念するか。
「判った、判った。もー、好きにせえ」
そんかわり、オカズは一品……いや、二品多めに頼むで!
《そして》
KISS KISS KISS