熊蜂の死
配達順路の途上
鉄塊のような熊蜂一匹が
蜜のたっぷりついた肢を
おおきくひろげ
仰向けに
黒光りして
死んでいた
大空に
まだしがみついているような
立派な大往生
その熊蜂に名なんてないだろう
名を語り継ぐ巣もいつか壊れるだろう
熊蜂のさいわいは燃えつきた糖
あるいははなびらの凍る色
でもその熊蜂は
何かを守り抜いて
何かをやり遂げて
死んでいった
黒い艶はそう語っている
満足気に膨む腹はそう謳っている
だから飛び交う蜂たちよ
彼の魂のふるえを
行ったきりの風たちよ
彼の最後の翅のこすれを
どうか巣の熊蜂たちへ伝えてよ
ねがいながら ぼくは
バイクのアクセルをふかせた
配達順路をおおきくはずれて
熊蜂の死