アンパンマン 〜願い星の奇跡〜

【登場人物】

・アンパンマン……願い星が降ったことで生まれた、愛と勇気の戦士。ジャムや星の人々と触れ合い、自分が生まれた意味について考える。

・ジャム……星の一角に工房を構えるパン職人。自らの工房で生まれたアンパンマンを気にかけ、その生き方を導く。

・バタコ……ジャムの孫で、早くに両親を亡くした純粋な女性。今は彼の工房仕事を手伝っている。

・ばいきんまん……使命を背負ってやってきた異星の科学者。自身の発明品を操って、アンパンマンと敵対する。

【プロローグ】

〜夜・星観台"ジャムのパン工房・寝室"〜

 星で一番綺麗な夜空が見えると言われている丘、星観台(ほしみだい)。その丘の一角に建ったパン工房の二階に位置する寝室で、ジャムは絵本を読み聞かせていた。

【むかーしむかし、大きな宇宙のなかに隣り合って栄えた二つの星がありました。片やコーボ星、もう片方はバクテリ星と呼ばれたその星達は、尊重し合ってとても仲の良い関係を結んでいました。しかしその関係は、両方の星のたべもの不足によって崩れてしまったのです。お互いの残り少ないたべものを巡って争ったコーボ星とバクテリ星は、やがて疲れ果てて粉々に砕け散ってしまいました。今もこの宇宙には、二つの星のカケラがふわふわと漂っています。ほら、あなたが見つめる空にも……。】

「はい、今日はここまで。」

 ジャムは絵本をそっと閉じて傍の机に置くと、つぶらな瞳でこちらを見つめる少女の頭を撫でた。

「ほら。読み聞かせも終わったんだから、そろそろ寝なさい。」

「ねぇ、ジャムおじさん。どうして二つの星はケンカしちゃったの? 仲が良かったんだよね?」

 息子夫婦の忘れ形見——バタコは、幼いながらにとても賢い子であった。

「バタコ。生き物は皆、何かを食べて生きているんだ。バタコだって今朝、私が作ったアンパンを食べただろう?」

「うん。」

「私達にとって、食べるということは生きるために欠かせない手段だ。でもね、それだけじゃない。」

「どういうこと?」

 興味津々といった様子でベッドから身を乗り出す孫娘に愛しさを感じながら、ジャムは続けた。

「食べ物を食べるとね、みんな笑顔になれるんだ。美味しい。また食べたい。大切な人と一緒に食べられて楽しい。そういう色んな感情が、一気に私達の心を満たしてくれる。でもこの絵本の二つの星達には、それが分からなかった。だからケンカをしちゃったんだ。」

「そうなんだ……それってすごく、悲しいね。」

 バタコは俯きながらそう言った。昔から、彼女は優しい子だった。

「だろう。だから、私はそれを伝えたい。飢餓で苦しむ人々を、私が作るパンで笑顔にしたい。バタコも大きくなったら、私のことを手伝ってくれるね?」

「……うん!」

 それからしばらくして、バタコはすやすやと穏やかな寝息を立て始めた。食糧不足による飢餓で息子夫婦が死んでから、もう一年が経とうとしている。ジャムは自分の土地を必死に耕し、なんとか一世帯分の穀物畑を墾いて守り抜いていた。
 なぜか畑は、ジャムの家の周りでしか育たなかった。彼はこれを、自分の運命と捉えた。食糧不足で苦しむこの小さな星の皆に、自分が作ったパンを届ける。それが息子達よりも長く生きてしまっている自分が、ただ一つ出来ることなのだと。

「だが……私とこの子だけでは……」

 ジャムは、心の内に抱いた大きな不安を吐き出した。今年で五十歳になる彼にとって、パンの入った荷車を引いて星中を回るのは相当の重労働だったのだ。これから先、自分が老いて限界を迎えた時どうすればよいのか。バタコだけにその重労働を背負わせていいものか。そもそも背負ってくれるのか。ジャムは未だに、その不安を拭い去れずにいた。

【一】

〜二十年後・夜"星観台・ジャムのパン工房"〜

 時は、一向に問題を解決してくれなかった。ジャムが住むこの惑星の食糧不足は益々酷くなり、先日の豪雨によって永年守ってきた畑も壊滅的な被害を受けた。そんな畑の前で、立ち尽くすジャム。

「ジャムおじさん……どうしよう。もう、パン一個分の小麦粉しかないよ。」

 裏手の倉庫から戻ってきたバタコが、すっかり中身の減った大袋を片手にそう言った。彼女もしっかりと成長し、今年で二十五歳になろうとしている。今は、共にパン作りに励むジャムの助手だ。

「……仕方ない。一個でもいい、パンを作ろう。」

「え?」

 ジャムはきびすを返して歩き出すと、そのまま玄関のドアノブに手を掛けた。

「私達が諦めずに作ったたった一個のパンが、誰かを笑顔に出来るかもしれない。それって、とても素晴らしいことじゃないか。だから、今やれることを。一個のパンを作ることを諦めちゃいけないんだ。」

 その言葉を聞いて、バタコは大きく頷いた。

〜ジャムのパン工房"一階・作成場"〜

「なぁバタコ。作るパンは何にしよう?」

 エプロンを着けながら、ジャムは隣でコック帽を被るバタコに聞いた。

「うーん、そうだなぁ……。じゃあ、アンパンにしよう! 絵本を読んでくれたあの日、おじさんが焼いてくれたアンパンの味。今でも忘れられないなぁ。」

「絵本? 全く、昔のことまでよく覚えてるなぁ。」

 二人で笑い合いながら、パン生地をこねていく。それは至極シンプルな作業だったが、そのひとこねひとこねにジャムとバタコの想いが乗せられていた。

「よし、出来た!」

 甘いあんを内包したその丸いパン生地を前にして、ジャムはふと、昔自分が抱いた夢を思い出した。

「……なぁバタコ。私の夢、聞いてくれるか?」

「どうしたの突然? 別に良いけど。」

 バタコは少々驚いた様子を見せたが、すぐに近くの椅子に座ってこちらの話に耳を傾けてくれた。思えばこの二十年間、バタコに自分の話をしたことは一度も無かった。

「……私は、意志を持ったパンを作りたかったんだ。困っている人々に手を差し伸べて、空腹に苦しむ誰かのために無償の優しさで自分の一部を分けてあげられる。そういう、愛と勇気に溢れたパンを作りたかった。」

「なにそれ? 随分と素っ頓狂な夢だね。」

「ははっ、素っ頓狂か……確かにそうだな。」

 生地をオーブンに入れ、火をかける。

「だがどんなに素っ頓狂でも……私は叶えば良いなと思った。そんなパンがあれば、空腹で苦しむ多くの人達に手が届く。助けてあげられるんだ。」

「まぁ……確かに、そうだね。」

 少し、その場をしんみりとした空気が包んだ。その時一瞬だけ、東の空が眩く輝いて見えた気がした。

「バタコ、今なんか光らなかったか?」

「え? いや、別に何も……」

 訝しむ彼女を横目に、またも瞬く東の空。

「……いや、確かに光った! 窓だ、窓の外だ!!」

 急いで傍の窓を開けて空を見るジャムと、それに続くバタコ。二人の視線の先には、こちらに真っ直ぐ迫ってくる輝く群体があった。

「あれは……流れ星!?」

「おじさん、あの星こっちに突っ込んでくるよ!」

「まずい、逃げろバタコ!!」

「ダメっ! もう、間に合わない!!」

「「うわぁあ!!」」

 流れ星がジャム達の家に衝突したその時、辺りを白い光が包んだ。

 *
 *
 *

「なんともない……おじさん、大丈夫?」

 しばらくして光が収まると、その場は何事も無かったかのように元の平穏な状態へと戻っていた。

「あぁ、大丈夫だ……バタコは大丈夫か?」

「私もなんとも。あんなに勢いよく流れ星が衝突したのに何も無いなんて、なんか不思議だね。」

 確かに不思議だった。というより、明らかにおかしかった。ジャムが辺りを見回しても、流れ星が衝突した形跡は一切見られなかった。あの流れ星は間違いなく此処に落ちてきた。しかし何も残ってはいない。一体、何がどうなっているのか。

「ねぇ、おじさん。なんかあのオーブン、揺れてない……?」

「ん?」

 バタコが指差したのは、先程アンパンの生地を入れたオーブンの扉であった。それはガタガタと大きく揺れ、今にもはち切れんばかりに大きく膨張していた。

「まずいな。製法は間違っていなかったはずだが……今すぐ火を止めよう。」

「え、えぇ。そうね。」

 恐る恐るオーブンに近づく二人。しかしそんな二人を、謎の声が静止した。

「止めないで!」

「「え?」」

 二人がその声に驚いて動きを止めた次の瞬間、オーブンの扉が勢いよく開け放たれた。そして——

「僕、アンパンマン!」

 巨大なアンパンの顔を持った新たな生命が、二人の前に立っていた。

【二】

「本当に……出来ちゃったね。意思を持った、パン。」

 バタコが、唖然としながらそう言った。

「あぁ……出来たな。意思を持った、パン。」

 当然、ジャムも同じであった。驚きを通り越してもはや戸惑いまで感じさせる目の前の光景を、まだ一切頭の中で整理出来ていなかった。

「初めまして! ジャムおじさん、バタコさん! 改めまして、僕アンパンマン! 僕を作ってくれてありがとう!!」

 アンパンマンと名乗るそれは快活に笑いながらそう言うと、丸く大きな手をジャムへと差し出してきた。それが握手を求める合図だと察したジャムは、恐る恐るその手をとってみた。彼の手には、確かに生命の温もりが宿っていた。

「えーっと……アンパンマン、だったか。とりあえず何か食べるか? パンが食べるもの……って、なんだ?」

「私の方見ないでよ。分かるわけないでしょ、パン"が"食べる物なんて。」

「そりゃ、そうか。」

 アンパンマンは、無垢な笑顔を浮かべたままその場に立ち尽くしていた。

「ジャムおじさん、バタコさん。僕に食べ物は必要ありません。それよりも、僕はまだ生まれたばかりで自分がどうやって生きていけばいいのか分かりません。どうすればいいか、教えてください。」

 どうやって生きていくか。その問いを聞いたとき、ある答えが自然とジャムの頭に浮かんだ。

「……助けるんだ。」

「え?」

 かつて思い描いた素っ頓狂な夢が、現実になろうとしている。ジャムは心を高鳴らせながら、アンパンマンに告げた。

「この星のみんなを助けてくれ。みんな空腹で苦しんでいる。パンから生まれた君なら、きっとみんなを助けられる。私と一緒に、パンを運ぼう。」

「パンを運ぶ……みんなを、助ける……」

「嫌、か……?」

 少し考え込む様子を見せたアンパンマンだったが、表情を伺うジャムと目が合ったその時、再び無垢で快活な笑顔を浮かべた。

「いえ、嫌じゃないです! やりましょう! みんなを助ける!!」

 アンパンマンはそのまま勢いよく外へ飛び出すと、背中のマントをはためかせながら大きく空へと飛んだ。

「お前、飛べるのか!?」

「凄い、凄いよアンパンマン!!」

 アンパンマンのマントから、キラキラとした光が降り注いだ。それはジャムの穀物畑を優しく包むと、瞬く間に元通りの元気な姿へと戻したのだった。

「おぉ……アンパンマン、ありがとう!」

「お構いなく! みんなを助ける!!」

 その日から、ジャムとアンパンマンは二人三脚でパンの配給を続けた。ジャムが作り、アンパンマンが届ける。空中飛行による配達は瞬く間にその範囲を広げ、"ジャムおじさんとアンパンマン"の話は星中を駆け巡った。そしてそれを聞いた者の中に、黒い影がひとり——。

「アンパンマン……俺様が、倒すべき存在。」

【三】

〜流れ星が降った夜・辺境の森〜

 その卵が孵ったのは、暗く寂れた森の奥であった。それは瞬く間に成長し、二本の触角と黒いボディを持ったばいきんの戦士『ばいきんまん』へとその姿を変えた。

「暗い。ここは……俺様一人か。星の皆は、何処に?」

 ばいきんまんが辺りを見回すと、近くに焼け焦げたシャトルがあった。記憶を辿る限り、それが母星からばいきんまんを運んできたシャトルであることは間違いなかった。

「なんで俺様がこんなとこにいるのか。あれを調べれば、何か分かるかもな。」

 シャトルの残骸を漁る。そうして漁り尽くした結果ばいきんまんが見つけたのは、立体投影装置とそれに録音されたボイスメッセージのみであった。そしてその装置が映し出したのは、ばいきんまんの父の姿だった。

『ばいきんまんよ。私達はもうダメだ。我々の未来は、我が星最高の発明家であったお前の頭脳に託す。どうか力を尽くしてほしい。もう、お前しかいない。頼んだぞ。』

 映像は、それで終わっていた。

「……なんなのだ、これは。」

 ばいきんまんは憤慨し、そして涙した。星を旅立つ前、父は確かに言っていたのだ。『また会える』と。『しばしの別れだ』と。それがどうしたことだろうか。一族は皆消え、残されたのは自分と自分にのしかかった大きな責任のみ。湧き上がる怒りと悲しみを抑えるように、ギリギリと歯を噛み締める。

「まぁ、いい。まずは拠点を作らないとな。」

 ばいきんまんはそう呟くと、シャトルの残骸を分解して瞬く間にドーム型の拠点を建造した。見た目は自分の頭部を模したオシャレなものにした。それが、ばいきんまん流の"こだわり"であった。

「俺はなぜ……ここにいる。なんのために?」

 自問するばいきんまん。そんな彼の脳裏に、過ぎ去りし時の僅かな記憶が蘇った。

〜〜もはや私達が生き延びる術はない。両星ともに今は滅び、後に託すしかないだろう。だが覚えておけ。私達の意志を継ぐ流れ星の戦士が、お前達を完膚なきまでに滅ぼす。きっとな。〜〜

「流れ星の戦士を倒す……それが、俺様の生きる意味か。」

 向こう側の指導者が告げた戦士の居所を掴み、排除する。それが自分に課せられた使命だと、ばいきんまんは信じて止まなかった。

【四】

〜ある日の朝"星降小学校・六年一組の教室"〜

「みなさん。つい昨日、このクラスの仲間だったトラ吉くんがお亡くなりになりました。栄養失調だそうです。……大切な友達のことを想って、手を合わせてください。黙祷。」

 担任のみみ先生が、声を震わせながら弱々しくそう言った。きっと、先生もこれが初めてではないのだろう。カバオは言われるがまま、しっかりと目を閉じて手を合わせた。
 カバオ達が暮らすこの町は、辺境の中の辺境。この土地で生まれた者でもない限りは決して足を踏み入れることの無い場所であり、その存在を知る者もごく僅かだ。そんな場所が食糧不足の憂き目に遭っては、当然たまったものではない。一人、また一人と、友達やその家族が居なくなっていく。そんな現実を、カバオは受け入れようと努力してきた。

〜昼"星降小学校・校庭"〜

「カバオくん。どうしたの、立ち止まって空なんか見上げて。ほら、そろそろ休み時間終わりだから教室に戻りなさい。」

 校庭の端で立ち尽くすカバオに、みみ先生が声をかけてくれた。いつもみみ先生は、生徒のことを一番に考えてくれる。そんな優しいみみ先生のことが、カバオは大好きだった。

「先生。僕達カバ族は他のみんなよりも大きな口を持ってます。僕はそんな自分の顔がすごく嫌で、お母さんに聞いたことがあるんです。『どうして僕の口はこんなに大きいの?』って。そしたら、お母さん言ったんです。」

「なんて……言ったの?」

 カバオの母との記憶は、身体を弱らせて床に臥せっている彼女と会話をしている場面しかなかった。泣き虫だったカバオは、よく母に泣きついて困らせていた。そのことを、今でも後悔している。

〜〜カバオ、私達の口が大きいのはね。美味しいものをたくさん食べるためなのよ。今はちょっと大変だけど、いつかきっとそんな日が来る。食べるってことはね、とても幸せなことなの。だからね、カバオ。いつかこの大きな口が美味しい食べ物をいっぱいに頬張れる時が来たら、あなたはきっと自分の顔が大好きになるわ。絶対よ。〜〜

「そう僕に言ってから半年も経たずに、母は死にました。栄養失調だって。僕には分からない。満足に食べられないまま死んじゃうんだったら、僕はなんのためにこの大きな口を持って生まれてきたのか。そんなことを、たまに考えるんです。」

「カバオくん……。」

 カバオはよく、空を見上げた。空を見上げていれば、いつか流れ星が降る。その時に願うのだ。美味しいものをお腹いっぱい食べたいと。そんな瞬間を想い描いて、カバオは空を見上げ続けていた。

「……すみません、先生。教室に戻ります。」

 カバオが俯いて歩き出そうとしたその時、空から声がした。

「みなさん、大丈夫ですか!?」

「え?」

 今一度空を見上げると、そこにはアンパンの顔を持った謎のヒトがふわふわと浮いていた。カバオはビックリして、その場に釘付けになった。
 謎のヒトの来訪に興味を示した他の生徒達も校庭へと飛び出し、校庭はたちまち彼らとそれを追う教員達で溢れかえっていた。

「僕、アンパンマン! 皆さん、これを食べてください!!」

 アンパンマンがひらりとマントを翻すと、そこから大量のアンパンが出現した。それはゆっくりと降下し、各々の手に収まった。不思議とみんな、無意識に両手を差し出していた。

「これ……パン?」

 その手にあったのは、一個のアンパン。それは片手に収まるほどの小さなものだったが、カバオにはとても大きく思えた。

「……ごくり。」

 パンを口に放り込む。それは一回噛んだだけで中に入った餡が口いっぱいに広がり、香ばしさと甘さで空腹を満たしてくれた。これほどまでに幸福な食事は、カバオは初めてであった。

「美味しい……美味しい!」

 皆が口々にそう言った。誰かと喜びを共有するもの。一人でその美味しさを噛み締めるもの。久しぶりの食事に涙を浮かべるもの。反応はそれぞれ違っていたが、ただ一つだけ同じところがあった。皆、笑顔であった。みみ先生も、クラスメイトも、全く顔を知らなかった者も、そしてカバオ自身も、皆幸せに包まれて笑っていた。

「アンパンマン、ありがとう!!」

 そんな人々の笑顔を見て何を想ったのか、アンパンマンもまた大きな笑顔を浮かべ、そして手を振ってくれた。

「皆……喜んでくれてありがとう! また来ます! 僕は、みんなを助ける!!」

 そう言い残して、アンパンマンは去っていった。そしてそれ以降、カバオたちの日々は一変した。辛く苦しいものではなく、明るく幸せなものになったのだ。カバオはそのアンパンの味を、以降決して忘れなかった。

【五】

〜その日の夜・星観台"ジャムのパン工房一階・作成場"〜

「ねぇ、ジャムおじさん。ありがとう、僕にこんな幸せなことを教えてくれて。」

「どうした、急に?」

 星中にパンを届け終え戻ってきたアンパンマンは、明日届ける分のパン生地をこねるジャムの仕事姿を見ながらそう告げた。

「今日は、空腹で苦しむ学校のみんなにパンを届けたんだ。」

「ふむ……私には気づけなかった場所だ。流石だな、アンパンマン。」

「えへへ……ありがとう。それでね」

「ん?」

 アンパンマンは、今日の彼らの笑顔を思い返していた。皆、自分に感謝してくれていた。そして何より、喜んでくれていたのだ。

「パンを届けたら、受け取った人達は喜んでくれる。ありがとうって、言ってくれる。その言葉を聞いて、そんな皆の笑顔を見たら、なんだか凄く心があったかくなった。こんなに幸せなことはないよ。」

「そうか……それは、よかった。」

 その日は、とても穏やかな夜だった。コオロギの鳴き声が心地よく響き、アンパンマンもジャムもとても優しい気持ちになれる夜だった。——そんな夜に、ヤツは現れた。

「出てこい、アンパンマン!!」

「なんだ!?」

 家の中からでも分かるほどの大きな風圧と、地響き。そしてなにより、今まで聞いたことのない敵意のこもった声。

「なに、どうしたの!?」

 二階で眠っていたバタコも、慌てて一階へと降りてきた。

「バタコ、よく分からんが危険だ! すぐ逃げられるように準備をしておけ!!」

「う、うん!」

「ジャムおじさん、僕ちょっと出てみます!!」

「あ、待てアンパンマン!」

 ジャムの静止を振り切り、外に出る。するとそこに立っていたのは、鋼鉄の巨人だった。

「な、なんだコイツ!?」

「驚いたか、アンパンマン!!」

 巨人の頭部がハッチのように開き、中から黒い怪人が得意げに笑いながら現れた。

「君は誰だ! それにこれは!?」

 アンパンマンに向けて拳を突き出し、高らかに宣言してみせる怪人。

「俺様は、ばいきんまん! 貴様を倒し、永きに渡る争いに決着をつける者。そして、一族を救う者だ!!」

 そう言ったばいきんまんは再び巨人の頭部内へと戻っていくと、鋼鉄の巨人もその巨躯を動かし始めた。

「これこそ俺様の偉大なる発明、巨大ロボ『ダダンダン』!! さぁ、大人しく死ね!!」

「そうは……いかない! 僕にはまだ、やらなきゃいけないことがあるんだ!!」

 ダダンダンのペンチ型の腕による強烈なパンチが、狙い定めた標的を襲う。それを間一髪でかわすと、アンパンマンは拳にありったけの力を込めた。

「アーンパーーンチ!!」

 その強烈な拳は、巨人の腹部を抉った。凄まじい衝撃を受け、たまらず尻もちをつくダダンダン。

「こりゃ、まずい!」

 ばいきんまんは巨人の頭部ハッチから再び姿を現すと、軽い身のこなしでアンパンマンの前に跳び降りた。

「ふぅ……今のは効いたぜ、アンパンマン。」

「ばいきんまんって、言ったよね。君はどうして僕を襲うの? それに、争いって……」

 アンパンマンには、訳が分からなかった。あまりに突然の襲撃。そして、謎の怪人。全てが未知の領域だった。

「……まさか本当に何も知らないのか、貴様。」

「え……?」

 ばいきんまんはギリギリと歯を噛み締めると、鋭い視線をこちらに向けた。それはとても憎しみ深く、またひどく悲しみに満ちた瞳であった。

「……貴様が知らないのなら、それでいい。そのままでいろ、ずっとな。」

「ちょっと待ってよ! 一体、どういうこと? 僕は最近生まれたばかりだ! なのに、君はどうして僕のことを知っているの?」

「最近生まれた……そうか、そういうことか。」

 ばいきんまんは何か拍子抜けた様子でため息をつくと、アンパンマンに諭すようにこう告げた。

「貴様は、俺様達を葬るために生まれた。貴様の望む望まざるに関わらず、そういう運命を背負わされてな。」

「どういう、こと?」

「おーい! アンパンマン、大丈夫か!?」

 不安な様子のジャムとバタコが、アンパンマンの元へと走ってくる。そんな二人の方を一瞬だけ見ると、ばいきんまんは何かリモコンのような物を取り出してそれを押した。

「いいな……貴様は。もう家族がいるのか。羨ましいぜ、全く。」

「え?」

 その言葉が終わるのとほぼ同時、上空にUFOのような巨大な飛行物体が滞空した。さっきのリモコン操作で、ばいきんまんが呼んでいたのだ。

「俺様は決めたぜ、アンパンマン。何も知らずのほほんと生きる貴様を倒し、貴様を取り囲む奴らもみんな滅ぼしてやる。それが俺様流の、"使命の果たし方"だ。」

 飛行物体のハッチが開き、ばいきんまんはそれに乗り込んだ。飛行物体から伸びた複数のマジックハンドがダダンダンをがっしりと掴むと、そのままばいきんまんは高速で何処かへと飛び去っていったのだった。

「なんだったんだ、一体……」

〜〜貴様は、俺様達を葬るために生まれた。貴様の望む望まざるに関わらず、そういう運命を背負わされてな。〜〜

 ばいきんまんのその一言が、アンパンマンの頭の中で繰り返されていた。

〜辺境の森・ばいきんまんラボ〜
 ばいきんまんは、湧き上がる寂しさを抑えながらダダンダンの修理を続けていた。そしてもうすぐ終わるという時に、被っていた鉄面を外して一息を吐いた。

「アイツ……一人じゃなかったんだな。」

 ずっと頭から離れないのは、アンパンマンの存在だけではなかった。彼を心配し、駆けつけてくれる家族。生まれたばかりの宿敵には、既にそういう存在がいたのだ。

「なんで……」

 とぼとぼとラボの開発スペースへと歩を進める。そこには、ばいきんまんとっておきの細菌兵器が置かれていた。名を『バイバイ菌』とつけたそれは、アンパンマン以外の全てに効力を持った恐ろしい兵器であった。それを吸った生物は激しい呼吸障害を引き起こし、二十四時間後に死亡する。ダダンダンと同時に完成させていたそれを、ばいきんまんは先程まで封印するつもりでいた。が、しかし——

「なんで、俺様だけ……!」

 ばいきんまんの孤独が、彼自身を押し潰そうとしていた。

【六】

〜襲撃から一週間後の夜・星観台"ジャムのパン工房一階・作成場"〜

 ばいきんまんの襲撃を受けてから、アンパンマンの脳裏に何度も声がこだまするようになった。

"奴らを葬れ、一人残らず……! それが、お前が生まれた……ただ一つの理由だ……!"

「うわぁあ!!」

「おぉ!? ど、どうした。急に大声を出して……。」

 その日は、アンパンマンを休ませたいという強い要望でバタコがパンの配達に出ていた。傍らで座っていたアンパンマンの異変に、思わず仕込みの手を止めるジャム。そんな彼に、胸中を吐露する。

「……最近、気づいてきたんです。」

「気づく……何に?」

「僕が、生まれた理由です。」

「……」

 ずっと考えていた。なぜ、自分が生まれたのか。自分はどうやって生きていけばいいのか。

「それで……この前ばいきんまんが襲ってきた時から、だんだんと自分の中で声が響くようになってて。それが僕に言うんです。奴らを葬れ……って。」

「その"奴ら"というのが、ばいきんまんのことだと。」

「えぇ。なんとなく、気付いちゃったんです。僕は争うために生まれた。ばいきんまんを倒すために生まれたんだって。」

 それは、自分の望むことではなかった。ずっとパンを、喜びをみんなに届け続けたいと、アンパンマンは切に想っていた。

「……まぁ、お前がいきなりオーブンから飛び出してきた時は面食らったけどな。」

「え?」

 アンパンマンにそう語るジャムの横顔は、とても優しかった。

「たとえお前がどんな理由で生まれてきたとしても、お前を作ったのは私だ。そして私は、お前にやるべきことを与えてやれたと思っている。」

「……」

「今お前がやるべきことは、ばいきんまんと戦うことか? いや、違う。お前がやるべきは、みんなを助けることだ。愛を持って皆を笑顔にして、勇気を胸に自分と向き合う。お前にはそれが出来る。私は、そう信じている。」

「ジャムおじさん……」

 あの時の学校の人々の笑顔を、アンパンマンは思い出していた。あれこそ、自分が想い描く夢。護りたいものなのだと、その時気付けた気がした。

「ありがとうございます、ジャムおじさん。」

「うん。」

「僕は、アンパンマン。……みんなを助ける!」

「そうだ。それでこそ私が作った、最高のパンだ!」

 互いに向き合い、固い握手を交わす。それは初めて会った時のあのぎこちない握手とは違う、深い絆で結ばれた握手だった。

「……にしても、バタコさん遅いですね。」

「そうだな。そろそろ帰ってきてもいい頃だが……」

 二人で玄関扉を見る。するとその扉が、重くゆっくりと開いた。

「おじさん……」

「バタコッ!?」

 中に入ると同時に、力無くその場に倒れ込むバタコ。ジャムは急いで彼女の元へ駆けつけると、その身体を抱き抱えた。

「なんて熱だ……呼吸も荒い。なんとか、なんとかせねば……!!」

「星中の皆が……私と同じように……」

「なにっ!?」

 ジャムが外に出ると、星中が謎の"カビ"のようなもので覆われていた。

「こ、これは……一体……ウグッ?!」

 突然身体を襲う、息苦しさや眩暈。ジャムは耐えきれず、その場に膝をついた。

「ジャムおじさん!」

「来るなっっ!!」

 精一杯の声を振り絞って、外に出ようとするアンパンマンを静止するジャム。そんな彼を嘲笑うかのように、その声は響き渡った。

「どうだアンパンマン、俺様のカビ菌の威力は! これを一度でも吸い込んだが最後、そいつは苦しみ抜いて……死ぬのだ!!」

「……ばいきんまん!!」

 たまらず外に出るアンパンマン。そんな彼を待ち構えていたのか、上空からあの飛行物体が降りてきた。そして着陸したそれから、鉄面をつけたばいきんまんが三度その姿を現したのだった。

〜数時間前・夕方"星降小学校・校庭"〜

「ねぇ、みみ先生! 雪かな、これ!?」

 カバオがはしゃぐ姿を見て、みみは微笑んだ。皆元気で笑顔を見せてくれるようになった。全ては、あの時。アンパンマンが来た時から変わった。

「ふふ……そうねぇ。とてもキレイね。でも、雪にしてはちょっと早いような……?」

 急に、視界がぐにゃりと歪んだ。見ると、カバオや他の外で遊んでいた生徒達が次々と、力無く倒れていた。そして襲いくる、凄まじい息苦しさ。

「なに……これ……?」

 そして最後に残ったみみもまた、その場で倒れ込んだのだった。

【七】

〜再び夜・星観台"ジャムのパン工房前"〜

「クックックッ……心配するなよアンパンマン、この菌は貴様には効かないからなぁ。」

 怒りで拳を振るわせるアンパンマンを挑発するように、ばいきんまんはにじり寄ってきた。

「なぜ……なぜこんなことを。お前の狙いは、僕だけのはずだろ!?」

「あぁ……確かにそうだ。いや、そうだった。」

「……どういうことだ!」

 ばいきんまんはそこで立ち止まると、両手を広げて大空を仰いだ。

「俺様には使命がある。母星の皆から、親父から託された絶対に果たさなければならない使命がな。それを達することのみが、俺様が今ここで生きる意味。……だが、一つだけ! 使命を無視してでもどうしても看過できない事実が、一つだけある。」

「ま、まさか……」

 アンパンマンは仮面越しでも、ばいきんまんが滾らせている憎悪、そして哀しみを感じて仕方なかった。そして今、彼は全てを振り切ろうとしているのだとも感じた。

「そう、貴様だ! 俺様と同じように使命を持ってこの地に降り立った貴様には家族がいて、俺様は一人だ! そんなの……不公平じゃないか!!」

「ばいきんまん……」

 泣いていた。その鉄面の向こう側で、確かにばいきんまんは泣いていたのだ。

「だから俺様は、貴様も一人にする。そして二人だけになったその時、俺様と貴様は雌雄を決するのだ!」

「ふざけるな!!」

 どれ程ばいきんまんの悲しみが深くとも。アンパンマンには、既に譲れないものがあった。 

「……僕は、お前を止める。そして護りたいものを護る! 行くぞ、ばいきんまんっ!」

「こい、アンパンマンッ!」

「「うおぉぉお!!」」

 思いの丈を叫び合いながら、二人は肉薄した。片方が拳を、片方が脚を振り上げる。

「アンパンチ——ッ!!」

「バイキック——ッ!!」

 それぞれの想いが形となってぶつかり合い、そして——
 アンパンマンの拳が、ばいきんまんの鉄面を吹き飛ばした。

【八】

〜夜明け前・星観台〜

 地面に倒れ伏したばいきんまんを、アンパンマンはそっと抱き抱えた。

「ばいきんまん……君は……」

「何も言うな……アンパンマン。俺様は、負けたのだ……貴様にも、そして自分にもな。」

 呼吸が荒く、身体に帯びる高熱。ばいきんまんは死ぬつもりだったのだと、アンパンマンは気付いた。

「俺様は……一族の想いを背負って、この星で目覚めた。だが俺様には、耐えられなかったのだ……自分だけが孤独の中で生きていかねばならないという、現実に……。」

「だから……僕も一人にしようとしたのか?」

 ばいきんまんは、コクリと頷いた。

「これで俺様は死に……貴様も一人だ。俺様を一人にした一族にも、貴様達にも……復讐が出来る。こんなに嬉しいことはない。」

「嘘だ、そんなのは。」

「なんだと?」

「だって今、君は……泣いているじゃないか。」

「……これは、嬉し涙ってヤツだろうよ……。」

 ばいきんまんがどうして泣いているのか。本当のところはアンパンマンには分からない。しかしそれでも、彼はこうするより他に無いと思った。

「……」

 そっとばいきんまんの身体を地面に倒したアンパンマンは、おもむろに自分の顔の一部をむしり取ってみせた。

「お前、何を……?」

「僕は、みんなを助ける。」

 弱々しく息をするばいきんまんの口元に、アンパンを運ぶ。それは、彼の決意でもあった。

「……クソ。」

「不味い……?」

「……美味ぇなぁ……!」

 ばいきんまんの頬を、大粒の涙がつたった。そしてその身体が、なんとみるみる内に回復していく。

「なっ……おい貴様、これは一体どういうことだ!」

「わ、分かんないよそんなの! ……でもばいきんまん。」

「なんだ?」

「君は一人じゃない。君は今日から僕の、ともだちだ。」

 ジャムの言葉が、学校の子供達の笑顔がアンパンマンを突き動かしていた。

「と、ともだち……貴様と、俺様が?」

「あぁそうさ。ちょっとカタチは特殊だけど、僕と君は一緒に食事をした。だから僕達は、ともだちになれるんだ。」

「わ、訳のわからん理屈を言うな! ……だが」

 ばいきんまんは少し照れ臭そうにして言った。

「ともだちか……それも悪くない。」

「……あぁ!」

 その時、アンパンマンとばいきんまんの頭上で無数の流れ星が瞬いた。それはまるで、二人を歓迎しているようであった。

「行こう、ばいきんまん。僕達二人なら、奇跡を起こせる!!」

「あぁ! 俺様と、貴様で!!」

 二人は、決して離れないように手を握り合った。そんな二人を待っていたのか、流れ星が二人を乗せて空へと駆け上がる。

「こういう結末でも……親父は許してくれるだろうか。」

「違うよ、ばいきんまん。僕達はこの星のみんなの為に、生きるんだ。」

 下には、食糧不足で苦しみ今まさに死にかけている星の皆がいる。

「……そうだな。」

 ばいきんまんは贖罪の、そしてアンパンマンは愛と勇気の願いを流れ星に込めた。その願い星は瞬く間に星中に降り注ぐと、まずばいきんまんのカビ菌を取り払った。そしてその日、願い星の光を浴びた大地は、次々に穀物の芽を生やしたのだった。——その日、願い星が降った夜を最後に、その星の食糧不足は解決した。

【九】

〜数日後・朝"星観台・ジャムのパン工房前"〜

「おのれー! 今日も邪魔をするのか、このおじゃま虫め!!」

 バイキンUFOに乗ったばいきんまんが、対敵したアンパンマンに叫んだ。振り下ろされたアームハンマーを躱しながら、アンパンマンも叫び返す。

「ばいきんまん! 君と僕は友達のはずだろ!? どうして争わなきゃいけないんだよ!!」

「うるさい! あの後冷静になって振り返ってみたら、だんだん悔しくなってきたのだ! だから俺様は、貴様をコテンパンにする!! 勝つまでは終われん!」

 四本のアームを振り回しながら、突撃を仕掛けるばいきんまん。

「……それでも、負けてあげるわけにはいかないんだ!! いくぞ、ばいきんまん!!」

 アンパンマンは、ありったけの力を込めて叫んだ。

「アーンパーンチ!!」

「ばいばいきーん!」

 遠く彼方に吹き飛んでいく、ばいきんまん。あの日から、アンパンマンには新しいともだちが出来た。毎日のように悪事を働き、自分を困らせる。そんな、厄介なともだちが。

【十】

〜ある日の昼"星降小学校・六年一組の教室"〜

 午前の授業が全て終わり、給食の時間がやってきた。皆急いで教材を仕舞い込み、給食の配膳列へと胸ときめかせながら並んでいく。そして全員が自分の席に座り終えたところで、担任のみみ先生が号令をかけた。

「それじゃあ皆、行儀を守って! せーの!!」

「「「いただきまーす!!」」」

 皆が美味しそうに給食を食べる。そしてその中でも、一際盛大に飯をかき込む生徒の姿が。

「カバオの奴、また一番乗りで食い終わってやがる……おかわりも全部あいつにとられちまうの。チェッ」

「ほらカバオくん、みんなのことも考えながら食べるのよ!」

「はーい!」

 カバオは、今は亡き母親の言葉を思い出していた。

〜〜いつかこの大きな口が美味しい食べ物をいっぱいに頬張れるときがきたら、あなたはきっと自分の顔が大好きになるわ。〜〜

(母さん。今、ようやく母さんの言ってたことを理解出来た気がするよ。僕の口は人より大きい。でも僕はそんな自分の顔が、大好きだ!!)

【エピローグ】

〜夜・星観台"ジャムのパン工房"〜

「ねぇ、おじさん! この前の絵本の続き、読み聞かせて!」

「んん? 全くしょうがないなぁバタコは……今日は最後まで読むから、早く寝るんだよ。」

「はーい!」

 ジャムは、傍に置いてあった絵本を手に取った。その本——『願い星の奇跡』を、そっと開く。

【手を取り合った二つの星のカケラは、近くにあった小さくてまだ名前も無い星に降り注ぎました。そこでもたべもの不足は起こっていましたが、悲劇は起こりませんでした。二つの星の想いが結びつき、今度は協力して問題と向き合ったのです。こうして救われた名も無き星の人達は、降り注いだ星のカケラに『願い星』という名前をつけて敬いましたとさ。めでたしめでたし。】

「おしまい。」

〜完〜

アンパンマン 〜願い星の奇跡〜

アンパンマン 〜願い星の奇跡〜

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-10-09

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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