『人に飽きる』
同志、という言葉の胸ぐらを掴み
殴るなりなんなりと
好きにされたらいい
そうする理由に施す正当化は
華美な緞帳で幕を開け
さぞかし劇的で
ドラマチックな台詞や
熱い涙に溢れるのでしょ?
スポットライトが当たり
履いた靴で
床の上を歩く音が
独りごちる心の内を露わにして
カッカカッカと鳴り響く
あなたが酔い
みんなが酔い
謳われる言い訳が
ステージの向こう側に響き
こちらの胸に届かない
ははは と乾いて笑い
ぱちぱちと瞬いて
覚めていく 飽きもせず
シュプレヒコール
革命的な青春や
自撮り尽くしの青空も
ほんと無関係なので
好きにされたらいい
くしゃみでも何でも
嘘に塗れる咳込みも
とっくの昔に気付いて
ずっと馬鹿にしてきた
それにもすっかり飽きたので
私は人に飽きる
その言葉が
自分勝手と同義に思えた
そんな事も
すっかりなくなった
ぱちぱちぱち
祝杯を無事に済ませ
洗った器を逆さまに
掴まれたはずの胸ぐらも
こうして ほら
皺ひとつないのですね
よいことです
よいこと
同志 同志
さあさ こちらへ
バミリはそこに
マイク スイッチON
観客はすでにそこに
席を立つ勇気も奮わず
こちらを睨んで
あちらも睨んで
ヘイト ヘイト
こう言えば ああすれば
反応は反応に反応して
スピーカー同士
ガーガー ピーピー
叩いても 叩いても
鳴り止まない
胴体が古いから?
頭の重い最新版?
いい子 いい子
撫でられて笑う
撫でて笑う共犯者
愉快なファミリーに
滑稽の花束を贈ります
その胸で 顔で
愛でて愛でて
枯らした最後を見届け
そこから見事に咲く色
散る 散る 満ちる
嗚呼
きれいです 何もかも
死に切れない世界は
生きるに値する
飽きて 人に飽きて
ああ
他人 なんて二文字は
逆さまにすれば
こんなにも こんなにも
線描で ひとらしくない
ひとらしく
不思議です
人に飽きた途端に
ひとらしくありたい
そう 願えるように
ああ
頭から最後まで
上がったステージを練り歩き
ここは何番、何番と数え
演出家の指示を仰ぎ
リハーサルを繰り返しては
台本に書き込んだメモを
ぐりぐり ぐりぐり
やがて口は
三日月のように裂けて
撫でられて笑う悪魔
撫でる方もすっかり人殺し
悲劇?喜劇?
衣装に袖を通して
いざ
臨もうと勇む意志
踏み付けられた裾
転けそうになる道理
支えようと伸ばす
腕はぐらん ぐらん
膝を強かに打ちつけて
床に腕をついて
泣き晴らす 仰ぎ見る
青色の花 薔薇 ばら
同志よ 同志
セリフの端を噛んで
甦るように立ち上がれ
強くあれ あれ
たららんたん たららんたん
ああ 何もかも
飽きたひとは
胸に手を押し当てて
とくん とくん
感じ入る 唱え合う
一夜一夜に人見頃
人並みにおごれ おごれ
近しき我らに乾杯を
一杯を飲み干しては注ぎ
ひっくり返しては騒ぐ
ゴミ箱の蓋から蓋へ
猫は 犬は
まあるい月に冴えて
嗚呼
路上で傾く車両には
埃を払った衣装が
後部座席にいっぱい
くしゃくしゃになって
満足げな様子で
きらきら輝く ほつれる
サイズ違いも気にしない
脱ぎ散らかされた靴も拾わない
替えの下着は焼いて捨てて
立ち上る煙を見送った
人に飽きて私は
ひとに焦がれる私で
端から端までメモした
変態だらけの台本を
高々と放り投げる
一回転 二回転
あと半分 羽を広げて
バサっと落ちる前に
また私は飽きて
ああ つまんない
そう吐き出すのです
まあるいかたちで
ふわふわ
青白く 滑る
舞台は 次の角まで
飽きた人は
好きにならない
嫌いにもならないから
行き交うばかり
レアリスム 音響板
よく響くでしょう
ひとの声 あなたの声
聴き惚れるばかり
鼻の奥 つんとする
勝ちもしない
負けもしない遠吠え
牙を剥いて笑いましょう
人知れず
人に飽きて
尻尾を振って 噛み千切る
服の替え 似合うまで
エナジードリンク
缶は瓶とならないのだから
羽根も毟って 丸まりましょう
『人に飽きる』