異場所(二次創作物)

居場所がほしかった。
けれど先に、異場所のほうが私を覚える。

休み時間。机の脚が床をこする音と、誰かのペンライトの透明な袋の音。
「今日さ、三サンダースの抽選、申し込む」
「当たったら一緒に行こ、ね、風夏も」
いつもどおり頷くつもりで喉をならす。出てきたのは違う音だった。

空調の風向きが変わったみたいに、話題の向きが変わる。笑いが一拍遅れて、私の席を迂回した。
逃げるみたいに廊下へ出ると、暖房の匂いが消え、制服の袖が急に軽くなる。

戻った教室では、氷美香が凛花のところで、袋を開ける音を立てていた。
「新曲、サビやばい。『あなたのために』のところ」
私は机の上の消しゴムを角で立てて、倒れる音だけをきいた。
「リーダー、三島くんで合ってる?」
たどり着けるのは名前まで。熱は、何度暗記しても翌朝には零れる。
「風夏も、そのうち良さわかるよ」
その“良さ”が、私の居場所より先に席を取っていく。

入場口でペンライトを渡された。持ち方は、誰でも知っている持ち方。
暗転。曲が始まる。サビ前、合図なしに腕が上がる。
「あなたのために」
口が歌詞を覚えていて、喉が先に動く。
となりの光と同じ高さ、同じ振り。
風向きは一定、袋の音はもう聞こえない。
違う音は出ない。ここでは、同じ音だけが鳴る。
ここでは、よくできた動作だけが席を持つ。
うなずく。
うなずいたのは誰か。

異場所(二次創作物)

原作:
https://estar.jp/novels/26480602

原作からの変更点
・作品内作品によって距離化しつつ絶望を挟む
・私にすら居場所がなくなる絶望へと変更

維持した部分
・居場所の喪失による絶望
・冷たい観察距離
・どうせ他人には伝わらないといった諦観
(絶望を理解しているけれども体感はできていないという見方もできる)

異場所(二次創作物)

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-09-29

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work