君と僕を繋ぐ刻印 第1話「君との出会いと女神」

登場人物

雪見瑠都 ゆきみ ると

スピア

ヴォル

その日、俺は不思議な少女に出会った。流れるような金髪に、透き通るようなブルーの瞳。まるで抱きしめたら脆く、そして儚く砕け散ってしまいそうな彼女を、何故か僕はずっと見つめていた。思えばこれが始まりだったのかもしれない、いまのおれをくれた彼女、いまのおれたちをくれた彼女。だから今はもうすこしだけ、その笑顔を見させてほしい。せめて、この命が尽きる最期まで・・・・・・

「・・・ん」
朝日がカーテンの隙間から自室へと差し込む、ちょうど瑠都の顔のあたりに光が差し込んでいる、これはぐっすり寝ていた本人としてはすこぶる迷惑な話である。
「まぶしっ・・・」
瑠都は気だるい身体を起こし自室を後にする、そして迷わずバスルームへと直行しシャワーを浴びる。なにか変な夢でも見ていたのだろうか?パジャマは汗でびっしょりと濡れていた、瑠都はそんなことを思いながらシャワーを浴びて汗を流す。シャワーが終わると次はリビングへと向かう、するとそこにはすでに二人の、いや一人の少女と一体(?)の霊がいた。
「おはよう、スピア」
「・・・・・・おはよう」
小さな声でぽつんとだが「おはよう」が聞こえる、よしよしちゃんと言えるようになったな、えらいえらい。
「ヴォル、今日の気分はどう?」
「良好ですよ、ただスピア様が少々寝たりないご様子で」
「ハハハ、昨日すこしおそかったからなぁ。眠かったらお昼寝でもしなよ、スピア」
「・・・・・・うん」
あいかわらず小さい声でだが、スピアは確実に人並(?)になってきている、親(?)みたいなかんじ瑠都にとってはうれしいことだ。
「今日の朝ご飯はフレンチトーストな」
「・・・・・・!!」
突然スピアが立ち上がる、そして次にリビングをうろうろし始めた。スピア操縦法その一、朝食にフレンチトーストがでるとテンションが上がる。って、わかりやすすぎるだろ!!
「はいはい、スピア座って座って」
「・・・・・・」
聞かない。スピアは無言でリビングをうろうろする、徐々に速度が上がっていっている気がするのは、気のせいだろうか。
「あの?、スピア様?」
「ヴォル、無駄だって、こうなったスピアはフレンチトーストが出てくるまで止まらないから」
長年?でもないか、たったの2週間ほどだが瑠都はほぼ完璧といっていいほどスピアの行動パターンを理解していた。ある事情であまり感情を表に出さない、いや出せないスピアだが嬉しい時や悲しい時、怒っている時などははっきりと「行動」で感情を表す。どうやらヴォルがそうしてくれと言ったらしい、ありがとうヴォル。
「さてと、とっとと作るか、フレンチトースト!!」
エプロンをして腕をまくり、少々長めの前髪をゴムで縛る、戦闘準備完了だ。冷蔵庫から材料をとりだす(いちいち材料の説明なんてめんどくさいからやらない)、次に調理をする(詳しく書きたいところだが、普通のフレンチトーストと同じ作り方)。
「よっしゃ、完成!!」
瑠都は出来上がったばかりのフレンチトーストをお皿にうつしリビングへと運ぶ、テーブルにはすでにナイフとフォークを構えた(笑)スピアがよだれを垂らし・・・・・・てはいないが、今にもフレンチトーストに飛びつきそうな勢いオーラを出しながらちょこんとイスに座っていた。
「ホラ、おまたせスピア」
ドーンとテーブルの上に豪快に皿を置く俺、それと待っていたかのように身を乗り出すスピア、それを制するヴォルと俺。何の光景だよ、こりゃ、あ、朝食か。
「まてまてスピア、いまとりわけてやるからさ」
おれはお皿の一枚をとりフレンチトーストを3枚ほど乗せる。
「そういえば瑠都様、本日の学校はいいのですか?」
「うん、今日は日曜だからね、学校は休みなんだ」
「なるほど」
ちなみに、ヴォルはいわゆる幽霊だが、飯はちゃんと食べれるらしく、物もつかめる。唯一出来ないと言えば、人に触ることだけらしい。
小一時間ほど俺とスピアとヴォル、二人と一体の霊は洋風(てヵもろ洋食なんだけどね)の朝食を楽しんだ。

さて、俺が何故この少女&霊と暮らしているかと言うと、話は2週間前にさかのぼる。
おれはその日、スーパーによって食料品の買い出しをしていた。早くに両親を亡くした俺は今は一人暮らしをしている、したがって料理も自分で作らなければならない、最初はめんどくさかった料理も今では毎日の楽しみとなっている。てな訳でおれは食料品を買った帰り道、偶然通りかかった公園で一人の少女を見つけた。流れるような金髪に、透き通るようなブルーの瞳。まるで抱きしめたら脆く、儚く砕け散ってしまいそうなその少女は、一人公園のベンチに座っていた。おれは自然と少女をずっと見つめていた、自分でも理由は分からない、いっておくが俺はロリコンとかではない・・・・・・はずだ。小一時間ほどしてからおれは家へと帰った、その日家に着いたのは午後の7時を回ったころだった。
「おれ、何であの子を見ていたんだろ?」
家に帰ってそんな疑問を自問自答する俺、するとそこへチャイムがピンポーンと鳴る。俺は「またセールスかなんかか?」と思いながらもドアを開けた、するとそこにはあの少女がいた。あ、あと後ろに変な服を着た男もいた。
おれは一応、てか、なんでかわかんないが少女&男を家へとあげた。どうやら少女は無口だったらしい、少女の代わりに変な服を着た男が事の次第を話し始めた。なお、ここからはノーカットでお送りします。
「で、君たち一体おれに何の用なの?」
これは言わずも、俺です。初対面には結構クール(?)です。
「では、単調直入にもしあげます」
「どぞ」
あ、今のはヴォルです。わかるよね?
「あなたの身体のどこかに黒い、刺青みたいなのってありませんか?」
「は?そんなのないけど・・・、ってなに、おれ不良に見えるの!?」
「いえ、違います、とりえあず見てみてください」
「は、はぁ」
おれはヴォルに言われるがままにシャツの下から刺青みたいなのが無いか確認した、ないと思っていたその刺青みたいなものは俺の左の鎖骨の辺りに、確かに存在した。
「な、なにこれ!?」
「それはスピア様の刻印、"槍の刻印"です。そうですか、ありましたか・・・」
急にヴォルの声のトーンが低くなる、というより暗くなる。うん、これはわかりやすいな。
「こ、これってなに?」
「それはスピア様とあなた様をつなぐ刻印です」
無言の間、たぶん実際には1分程度、体感時間は小一時間。
「は?どゆこと?」
「説明すると長くなるのですが・・・」
「いいから、一応言ってみて」
ヴォルはそこから話し始めた。スピアはあるイギリスの研究施設に囚われの身となっていた"オリアス"という特別な種族で、ヴォルはスピアを守護する霊。そしてスピアのようなオリアスと関わった人間には"刻印"と呼ばれるものが刻まれ、オリアスはその刻印が刻まれた人間が死ぬまでそばに居続ける。そして瑠都のように"刻印"を刻まれた人間をレヴァムと呼ぶ。
「・・・・・・」
全てを話し終えたヴォルはまっすぐ瑠都を見つめる、反対に瑠都は心ここにあらずだった。
この時の記憶は正直おれ自身覚えてない、てヵいきなりそんなファンタジーみたいなことを言われても、ピンとくるわけがない。
「そういえばまだお名前を伺っておりませんでしたね」
・・・・・・、この状況で名前聞くか、普通?
「雪見・・・瑠都です」
「わたしはヴォル、こちらはスピア様です」
いや、知ってるから。さっきから「スピア様、スピア様」言ってたからね、君。
「それでその刻印とやらは消えることはないのか?」
「はい、残念ながら」
「まじかよ・・・、それじゃあこの後、一生こいつらと一緒なのかよ」
おれは頭を抱えた。なんかしらんが突然押し掛けてきてめんどくさい、早く帰ってもらおうと思ったのだ。
「一生ですが、たぶん1年ちょっとくらいだとおもいますよ」
ヴォルがボソッっと言う、それってドユ意味?
「それってドユ意味?」
「そもそもレヴァムはオリアスの生命維持のための存在、そしてレヴァムは最大でも1年と少ししか生きれないのです」
「????????」
「ちょっと失礼」
そういうとヴォルはとつぜん手を俺の頭の上に乗せる、そして10秒ほどで手をどけた。
「なるほど・・・」
「え、なにが?」
「瑠都様の寿命は8ヶ月と11日です、ちょうど年が明けるくらいのころですかね」
「じゅ、寿命?おれの寿命があと8ヶ月と11日ぃ!?」
「そうです」
「な、なんでわかるんだよ!!てヵ、それってかなりヤベェじゃん!!!」
「大丈夫です、その年で8ヶ月も生きれるのは大したものです、誇ってよいですよ」
「んなもん誇れるかっ!!!」
するとヴォルがスピアのほうを向く、そして少し顔を曇らせて言った。
「実はスピア様は記憶を無くしておられるのだ」
「え?」
「自分の過去、私の事はおろか、自分が何者かすら忘れているのです」
またまた無言の間、実際には1分未満、体感時間は30分くらいかな。
「そ、それはまた・・・・・・」
っておぃ!!もっとなんか言うことあるだろ、俺!!!
「そのためスピア様は自分の感情を表に出さなくなってしまったのです」
「ふ、ふ?ん」
興味なさげに返事をするおれ、すると突然ヴォルは床に手をつき土下座をした。
「!?」
「御願いします、スピア様の力になってください!!スピア様の心を取り戻せるのはレヴァムである瑠都様だけなのです!!どうか、お願いします!!!」
突然土下座をされ戸惑う瑠都、半泣きになりながら土下座をするヴォル、そんなヴォルと瑠都を無邪気な顔で見つめるスピア。これってあれだな、俺がスピアの父親で、ヴォルが「スピアを嫁に下さい」って土下座しているシーンに見えるな、どうでもいいけど。
「わ、わかった、わかったから顔をあげて」
「ほ、本当ですか!?」
「あぁ、とりあえず落ち着けって」
そういっておれはヴォルの肩をつかもうとする、すると俺の手はヴォルをすり抜けた。
「あ、私一応霊ですから、物とかはつかめるんですけど、人に触ったりすることはできないんです」
「そ、そうなんだ・・・」
「はい、ではこれからよろしくお願いしますね、瑠都様」
ってな感じで、俺は一人の少女と一体の霊と一緒にファンタスティックな日々を送っているわけだ、まだなんもファンタスティックなことは起きていないけどさ。

「今日は天気もいいし、買い物にでも行くかな」
おれはベランダで洗濯物を干し終わり一息ついていた、隣には飼い猫のミウが気持ちよさそうに寝ている。リビングにはテレビのドラマの再放送を食い入る様にみているヴォルと、ソファーでスヤスヤ眠るスピアがいた。穏やかな休日、最初はわけわかんなかったスピアがとヴォルだが、最近ではいないとなにか物足りない気がしてならない。慣れってやつかな?まぁとりあえず、おれはこの生活に満足感すら抱いていたのであった。
1時間後、昼寝をしていたスピアを起こしヴォルと共に昼食をとる、ちなみにメニューはかけうどんだ。
「ふぅ、ごちそうさま」
「では私が片づけを」
「あ、ごめんな」
「いえいえ、これくらい」
ヴォルはお皿を重ね台所に入る、「なにかお手伝いでも」と言われてから始めた食事の後片付け、たった1回でほぼ完璧に片づけが出来るようになったヴォル、もしかしてあいつって天才?とか思ったりもした。
「なぁヴォル、今日は天気もいいし買い物にでも行くか」
片づけを終えたヴォルにおれは尋ねる。
「いいですね、スピア様も外に出たがっておりますし」
「それじゃ決まりな」
おれは自分の部屋に戻り来ていたスウェットを脱ぎ私服を着る。玄関に行くと既にスピアは靴を履いていた、ちなみにヴォルは地面から1cmくらい浮いているらしい。
「そんじゃいくか」
今日はよく晴れている、今日の最高気温は28℃くらいだそうだ、過ごしやすい日というのはこの日の事を言うのかな。
おれたちは電車に乗って街の中心部にから少し離れた場所にある巨大ショッピングモールに向かった。前にどこかのテレビが特集をしていたなぁ、"桜崎ショッピングモール"東京ドーム3個分の広さで食料品から衣料品まで何でも揃っている。おれたちはまず服を見ていくことにした、スピアの服を探すためだ。スピアの持っている服は今着ているゴスロリじみた服と、もう一着ヴォルの買った趣味の悪い服だけだ。流石に可哀そうだと思ったわけで、だが店に入った辺りでおれは有ることに気づく。
"俺のセンスが試される"
みたいなことだ。おれもヴォルに負けず劣らず服のセンスはない、皆無と言ってもいい。今着ている服もアメリカに住む伯父の龍一が買って送ってくれた服だ、つまりはおれ自身で服を選んだことは・・・・・・記憶にない。
「やっべぇな」
季節は春で月は4月の中旬、来週からGWだ。店には夏先取り!!的なオーラを出している服がいっぱいある、なんていう服かは・・・・・・ごめん、分かんない。
おれがそんな悩みを抱えながら四苦八苦していると、スピアが一着の服を持って俺の肩をつつく。
「ん、どうしたスピア」
「・・・・・・これ」
スピアはなんとメイド服・・・なのか?とにかく、メイド服みたいな服を持っていた。
「こ、これが、ほしいのか?」
コクリ。
な、なんてやつだっ!!まさかメイド服とは、もしかしてスピアってコスプレ好き?
「そ、そっかそれが欲しいなら、それでいいか」
おれは一応試着させようと思ったがすぐにやめる、だってこれってまるでおれがメイド服フェチみたいにみえるじゃん。
「そんじゃレジに・・・・・・」
「瑠都様、瑠都様!!こんな服はいかがでしょうか?」
突如ヴォルが2・3着の服を持って駆け寄ってくる。持っている服はどれもこれも趣味の悪い服ばかりだ(どんな服かは言えない、表現できないほどひどいから)
「却下!!」
「そ、そんな。ス、スピア様、この服着たいですよね?」
ヴォルは嘆きに満ちた目をスピアに向ける、だがスピアは無言で首を振る。そしておれを引っ張ってレジに向かった、そんなおれたちの後ろには持ってきた服を戻すヴォルがいた。

「しかし、本当にこれでよかったのか?」
おれはスピアの買ったメイド服の服をを見ながら言う、これを買った当の本人は俺の隣でバナナクレープを頬張っていた、その隣にはジュース缶を片手に空を眺めるヴォル。たぶん他の人から見れば家族に見えるのだろうか?
「こりゃ一度誰かにファッションの勉強をしてもらわんと」
ケータイを開き時刻を確認、時刻は3時ちょっと前だ、俺はクレープを食べ終わったスピアとヴォルと共に食料品コーナーへと向かった。
「この間お金も入ったし、今日は久しぶりに肉でも食うかな」
両親がいないおれの唯一の収入源、それはアメリカでなんかしらんが実業家の伯父である龍一の毎月の振込だけだ。前に一度バイトを試みたが、所詮小遣い程度にしかならなかった。てなわけで毎月50万近い金が振り込まれてくる、正直独り暮らしでそんなに使わないから。とはいえ今は二人、じゃない3人暮らしかな?なのでまぁちょうどいいくらいかな。
1時間半後、じっくりと品定めをして選んだ肉や魚、野菜が入った袋を手に持ち帰路に就く。
「今日は色々買ったなぁ」
「はい、スピア様も色々楽しめたようで」
「女の子は元来買い物が好きなんだよ、なんでだろうな」
スピアは疲れたらしい、俺の肩にコトンと頭をのせ眠っていた。
「そろそろか、ヴォル荷物を頼む」
「わかりました」
おれは荷物をヴォルに任せスピアを起こす。駅から俺ん家までは徒歩20分くらいだ、スピアを起こしおれたちは家へと向かう。
「いま6時くらいか、帰ったらすぐに夕飯にしよう。ディナーだ、ディナー」
「・・・・・・」
「では私は洗濯物を取り込んでおきます」
「おう、頼んだぞ」
そうこうしているうちに家に着く、電気をつけおれは台所へ、ヴォルは庭へ、スピアはソファーに座り今日買った服を眺めている。朗らかな風景、まるでずっとこうして暮らしているみたいだった。だがおれはそんな時こそ怖く思う、あと8ヶ月でおれは死ぬのだ。そんな事実はもう実感していた、2週間前と比べて鎖骨の刻印が多少大きくなっているのだ。ヴォルによると寿命が縮まると同時に刻印が徐々に大きくなっていき、全身に刻印が広がると死ぬらしい。あの2人の前では明るく接してきているが、やっぱり死ぬのは怖い。だから今はせめて、この温かい日々が壊れないように。おれはそんなことを思いながら夕飯を作り始めた。

そんな温かな時間を瑠都が過ごしている時、一人の少女が日本へと降り立った。蒼い髪と透き通るように白い肌、そしてスピアと同じようなゴスロリ風の服装。彼女は夜空を見つめながらつぶやいた。その声は周りに居た人にはたぶん聞こえなかっただろう、だが不思議、遠く離れた瑠都にその声は聞こえた。
「会いたかった」
そう呟いた声、瑠都は空耳のように思い気にも留めなかった。

君と僕を繋ぐ刻印 第1話「君との出会いと女神」

かなり構想を練り、書き上げた作品です。感想を言ってもらえると幸いです。
第2話では二人目のヒロインが登場します、おたのしみに!!

君と僕を繋ぐ刻印 第1話「君との出会いと女神」

早くに両親を亡くし一人暮らしをしていた瑠都、そんな瑠都の前に突然一人の少女と一体の霊が現れた。えっ、俺の寿命あと8カ月!? 「命」を食らう少女と、「命」を食らわれた少年。長年人を魅了してやまない「不老不死」の存在理由とは一体?____________

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
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  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-05-22

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