温泉
旅を終えてホテルに到着し、温泉を頂く事程に贅沢な事はないでしょう。
扉を開けると湯気が立ちこめ、幻の中に温泉が混濁した茶色に染めて待ちのぞんでいる。
暗いほのかに立ちこめる硫黄の香りが麗しく立ち昇る。
ゆらゆらと地下水脈が波立ち柔らかないでたちで佇んでいる。
暖かい湯気を浴びて身も心も官能性にむせぶ。
湯質の純度が100%で清らかな麗しきさざ波。
見る者を安らかな癒しへと迎える至上の水脈。
そして体を温泉の中に浸けると、はあーっとこれまでの労苦が水に全て還元されて巡る血液。
全身の皮膚感覚が湯と優しく触れ合い快感が立ち昇り、清涼な息吹が復活した。
生命が元に戻り安らぎの安住の地へと降り立った。
湯の感触が優しく暖かく愛撫し、すっきりと脳内の疲れを洗い清めていく。
湯に浸かり体は重力を失いふわーっと浮き始め、心が軽くなり全ての重荷や悩みを放出していく。
皮膚が温かいなめかわしさに愛撫され無上の放悦状態。
浸かっている地下のマグマの熱で、直に肉体を包んで温めてもらっている様で元気になっていく。
温かいっていいなあ。
体の中に新しい情熱がぐつぐつと蘇生され生まれ変わっていく。
熱い心が体全体を巡り潤滑し老廃物を流して、新しい細胞へと生まれ変わっていく。
体全体が熱い安心感で包まり完全な安心状態になる。
熱い湯の中で手足を動かし快感の感触にもう溶けていきます。
ねっ、もう溶かしていきましょう。
循環する心の抜けた清らかな憧憬の幻。
幻の中の幻にふわりと煙が白く立ちこめて謎の中に埋没していく。
暗い温室の中で煙とは一体何処に昇っていくのだろうかと眺めるのが好き。
白い煙が行く当ても無く昇るのは私の心なのでしょうか。
薄明かりの中で深い沈静の自己対話をして光を見つけ出すのです。
すべての緊張が抜けきって肩の力が抜けて、いい想いだけをずっといいままで。
湯が揺らめき波立つ幾多の想いを乗せて。
光が水面に映り生きる事は快感の中での束の間の放逸なのでしょう。
ゆらゆらと奥深い情念の時空を浸し、思い出の中に一人溶けていきましょう。
思い出は甘く切なく儚いものにしていく。
湯の中に全ての想いを忘れさせて癒やしてくれる。
ここは暗室での自分の中の心との対話、まだ見た事の無かった色鮮やかな写真が現像されていく。
こんな美しい写真が私の中にまだ眠っていたなんて喜びです。
湯の感覚が新しい情景を用意し、これからの未来が優しく甘美なものになる。
ああ、全身の力が抜けて脱力し意識が喜びで溢れ返る。
ぐつぐつぐつぐつと煮える湯の中で幸せの極地が訪れたのです。
脳内の快感物質を引き出し湯水のように喜びが流れ、人生そのものが祝祭になっていく。
明るい、明るい心が私の背中を力強く押して頑張れと励まし、生きる為の勇気をもらいました。
私は湯の中で身も心も生まれ変わったのです。
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