ブランコ

月は、ブランコの板の上で生まれ、育った。
うれしくても、悲しくても、ブランコを揺らしてはならない。以前、誰かから(誰だったのか……)きつく命じられた。大地に張りついて生きている者たちが大騒ぎするから、という理由だった。
なのになぜか、ブランコの板はすり減っている。月のお尻の下のあたりに、少しくぼみを感じる。
ブランコを垂らしている、なかば腐っているような古い綱は、ずっと上のほうに向かって伸びている。上になにがあるのか知らない。知らないことばかりだ。
どうして自分がこんなところにいなくちゃいけないのかも、わからない。
もう飽き飽きしているけれど、「ぼくはこういう運命の星のもとに生まれたんだ」と思い、変化は望まないようにしている。
自分がいつまで生きられるさだめなのか、まじめには考えないあたり、やはり月も生き物らしい。
今夜も空のブランコにおとなしく乗って、退屈そうにしている。ため息が雲になってたなびく。
親の言いつけにはそむけない。月に、永いいのちを持っていると思いこませた親。
次の新月からは、また別の月がブランコに乗って現れる。
そしてため息をつくだろう。

ブランコ

ブランコ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-09-17

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