涙と祈り

祈り方を忘れてしまった。
あれ、私、どうやって祈っていたんだっけ。どうやってあなたに好意を送っていたんだっけ。どうやってあなたを忘れずにいられたんだっけ。全部、全部忘れてしまった。
全部忘れてしまったのに、涙も出ない。こういうときって自然と涙が出てくるもんだと思ってたけど、出なかった。涙の有無で感情の強度を推し量るなんて大嫌いだけど、すべてを失って涙の出ない今の私は、無感情の私は、おかしいのかな。本当はあなたのことなんて何とも思っていなかったのかな。
あなたを探す気力もない。
あなたを喩える想像力もない。
あなたの好きなところを挙げることもできない。
もうあなたへの執着など無くなった。私の実存からあなたは切り離された。私の人生にあなたは必要なくなった。あなたとの思い出も何もかも、粉々に砕け散ってしまった。
私に感情はあるのだろうか。あるとしても機能しなければ意味は無い。生きている意味が無い。
おまえは乾いた人間だという謗りを受けても仕方がない。文字通り涙も出ないのだから。けれど、涙の出る人間のほうが豊かであると誰が言えるだろうか。涙を神聖視しすぎていはしないか。
私はもう二度と祈らないだろう。誰かのためにも、自分のためにも祈らないだろう。それを苦にも思わないだろう。私は祈ることなく、平然とした顔で生きていくだろう。他人を必要とせずに生きていくだろう。それを惨めだとは微塵も思わずに生きていくだろう。
祈り方を忘れたら、忘れたままにすればいい。無理に思い出さなくていい。まわりに流されて無理に他人を求めようとしなくても私は生きていける。

涙と祈り

涙と祈り

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-09-17

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