zokuダチ エスカレート編・1
今度は再びzokuダチ編をお送り致します。初期の
のんびりモードから一転、更に過激に、物騒に、
クソ悪も登場、エスカレートにお話をお届け致します。
前作の後から入った住人さん達もどんどん活躍して
頂きます。
揃って誘拐されました・1
何処かの島に建っている変なマンション。物語は其処に
お調子者の青年が引っ越してきた事から始まった。青年は
これまで数多くの騒動に巻き込まれ、奇人、美少女、変わり者、
数々の色んな住人を黒子に脅されながらマンションへと集めて
行った。やがて青年はこの島に建っているマンションの本当の
意味と自分が住人を集めさせられている本当の目的を知る事に
なるのであるが、それはまだもう少し先の話。
そして、今回もいつも通り騒動は起きるのである。
「……食べてよっ、ねえっ!」
「いーやーだっ!」
相も変わらず自部屋で吠えている青年、ジャミル事、
ジャミ公はこのマンションの担当責任者でもあり、
管理人である。一番最初にマンションに訪れたが為に、
無理矢理管理人を押し付けられたのであった。そして、
同じく部屋でジャミルに詰め寄る、赤毛のお団子ヘアに
おかっぱ頭の可愛い少女、アイシャ。彼を慕うちょっぴり
お転婆さんな相方である。彼女はジャミルに手作りの破壊
料理を食べて貰おうと今日も健気に頑張っていた。ので
あるが。どうしても騒動に発展しそうであり。
「何でよっ!今日は頑張ったのっ!特製おでんよおでん!
美味しいんだからっ!」
「何処が頑張ったんだっ!こ、この恐ろしい糞真夏にだな、
おでんとか人を絶対殺す気だろうが!しかも何だっ!その皿に
たっぷり塗りつけてある練りガラシとワサビのミックスはっ!!」
「ぶう~っ!いいのっ、もうコンビニには普通におでん
売ってるわよう!夏だからこそ、普段からゴロゴロして
食べて寝てばっかいるジャミルに辛い物食べさせて
スタミナつけさせるのっ!さ、口近づけて!食べさせて
あげるからっ!はい、大根!あーーんっ!!」
「無茶苦茶言うなあーーっ!コラああああーーーっ!!」
アイシャはジャミルの口の中へ無理矢理ミックスガラシ
たっぷりの熱々ほっこり大根を押し込めた。……しかも、
大根は歯が折れそうな位、無茶苦茶硬かった。無邪気で
可愛いが、天然アイシャは時々ジャミルにだけはとんでも
ない事もする。それらは全て、ジャミルへの過激な愛情表現と
だらけている彼の生活への喝かもだった。……決して殺意が
ある訳では無く。
「あーあ、お隣さん、今日もやってるよお、いいねえ、
あついあつい、ふぁあ~……、ちっ……、この糞暑いのに
よお~……、ちっ」
ジャミルの隣人部屋に住むダウド。ジャミルの長年の親友で
相棒でもあるヘタレな彼は隣の部屋から今日も聴こえる大声に
やってらんねとばかり欠伸し、舌打ちをするのであった。
「……こむぎ、どう?」
「う~ん、今日もおとり込み中みたい……、かなあ?」
「でも、気を遣っていてもキリが無いわ、大事な話なんだから……」
「だけど、やっぱり大事なお取込み中の処にお邪魔はしても
良くないよね……」
ジャミルの部屋の前で立ち止まりじっと話を聞きながら
様子を覗っている4人のガールズ達。こっそりと話を
しているのは、最近此処に入居してきた、犬飼いろは、
犬飼こむぎ、猫屋敷ユキ、猫屋敷まゆ、の、4人。
こむぎとユキは実は正体が犬と猫であり、人間に変身出来る。
此処に来る際に黒子に管理人であるジャミルにだけは打ち明けて
おいても大丈夫との事なので、事情は既に事情は承諾済み。
そして現在、用事があり、彼の部屋を訪れたのであるが。
只今中があの通りの為、立ち往生し、つい遠慮してしまい、
中々部屋にお邪魔出来ないでいた。
「やっぱり、今日はやめようか、大丈夫だよ、焦っても
しょうがないよ、ね……、時間は沢山あるんだから、
それよりも、折角だから、島の探検も兼ねて皆で町の
色んなお店にお買い物に行ってみようよ!こうやって
皆で出掛けた事あんまりなかったし!」
「いいねいいね!みんなでおさんぽ!わんだふる~っ!!」
「そ、そうだねっ!いいよね、ユキ!ねっ!?」
「……仕方無いわねえ……」
此処で暮らしている間、彼女達にも変化があった。これまで
いろは&こむぎ、まゆ&ユキのそれぞれの部屋で暮らして
いたが、色々と彼女達の心境にも変化があり、こむぎ達を
拒絶していたユキも心を開くようになり、離れないで4人
一緒にいようと言う事で、今は4人共同部屋で楽しく
暮らしている。……そして、此方も色々と有り、悟と
いろはがカップルになったのである。そして何と、悟の
相方である、ウサギの大福も人間に変身出来る様になっていた。
「あ、いろはちゃん、……これから出掛けるの?」
「よう……」
「あ!さ、悟君!大福ちゃんも!大福ちゃん、今日は
人間の男の子になってたんだね!」
「うん、色々と、調べたい事がネットであって、
大福に手伝って貰ってたんだ……」
「きゃ、きゃああーーー!!」
「また、まゆは……、全くもう……」
悟&人間バージョンの大福登場。悟は犬飼さん呼びから、
いろはちゃん呼びへと一気に仲が進展。尊い推しカプに
飲み込まれてしまい、燃え爆発するまゆに呆れるユキ……。
「折角だから、兎山君達も一緒に行こう!ほらほらほらっ!
二人とも手を繋いで繋いで!……いやああーーーっ!!
きゃあーーーっ!!♡♡♡も、萌えシンダ……はあああ~……」
「「え、ええ~!?」
まゆに押され、真っ赤になるいろはと悟……。又お節介おばさんに
なってしまったまゆに更にユキは呆れるが。
「こむぎ、じゃあ、……オレと手……、繋ぐか?空いてるぞ……」
「うんっ!大福っ!」
「ホントにいいもんだよな、人間も……」
「わんっ!♪」
人間バージョンのこむぎと大福。此方も何となく、
良い関係である。悟と大福を加えたわんぷり6人組は
その場から離れてエントランスへとぞろぞろ賑やかに、
楽しそうにお喋りをしながら歩いて行った。
「るんるーんるーん!♪バナナ~、バナナ~!」
いろは達が外出でマンションを出て行った後、入れ替わりで
ジャミルの部屋前に訪れ、ドアをノックする人物が。
「ジャミルさーん、いますかあーっ、こんにちはーっ!
ゆうなでーっす!」
「うわ、こ、今度はバナナっ!」
破壊おでんの次は大量バナナが部屋を訪れた。……と、
思っていたのだが。
「……ゆうなちゃん?ジャミルいるわよ、今開けるわね!」
「こらっ!ま、またおめーはっ!でしゃばんなっ!」
アイシャはジャミルに構わず部屋のドアを開ける。しかし、
確かに外にゆうなは立っていたが、今日は持っていたのは、
バナナではなく。
「にゃあ~」
「こんにちはー!」
「あら~?」
「……ネ、ネコ?」
茶トラの垂れ目気味の子ネコであった。赤い首輪の付いた。
……気の所為か、何となくゆうなにも似ている様な。
「あの、この子、何だか迷子になっちゃったみたいで、
マンションの周りでさっき鳴いていたのを見つけたんです、
飼い主さんとはぐれちゃったのかなあ、ね?」
「にゃあ~」
ゆうなは子ネコの顔を見る。子ネコもゆうなの顔を
じっと見て、そう、と、言う様に一声鳴いたが。
だからって、どうして俺んとこ来る?なあ、……と、
ジャミルはとてつもなく嫌な予感を感じたのである。
「可哀想、ねえ、ジャミル、私達で一緒に飼い主さん
探してあげようよ!」
そら来た、やっぱ来た……、と、ジャミルは思う。お節介の
アイシャの事であるから便乗してどうせそう言うだろうと
思ってはいたものの。しかし、だから何で俺んとこくんだ、
いい加減にせえと思い、つい言葉が乱暴になる。
「あのな、俺じゃなくたって、ちゃんとお前のボディガード
いるだろ!?そっちに頼めっての!今日はどうしたんだよ!
何で一緒にいねんだよ!何か遭ったら困るじゃねえか!
……後はお前もうるせんだよ、頼むから厄介ごとに
首突っ込むな!黙ってろっての!」
「ジャミルったら、大声でそんな言い方……、
ネコちゃんの飼い主さんを探してあげるだけじゃ
ないのよう……」
「うるさいうるさい!うるっさあーーーいっ!!俺は
何でも屋じゃねえーーっ!!」
只でさえ暑い中、動きたくなく騒ぎに巻き込まれたく
ないジャミルはアイシャを一喝。……さっきの
糞おでんの恨みもあるのかも知れなかったが。
しかし、ゆうなの方はきょとんとして、平然とした
表情をし、ジャミルに返事を返す。
「あの、ジャミルさん、まも君の事ですか?まも君、
夏風邪こじらせちゃって、昨日からお部屋でずっと
寝てますよ~、今、40度近くお熱があるんです……」
「大変ね……、暑いのに、熱があるなんて可哀想……」
「……夏風邪かよ……」
「ハイ……、お医者さんに行った方がいいよ~って、
言ったんですけど、直ぐに治るから大丈夫だって……」
日頃の疲れも祟ってんだろうなあ……、と、マモルの
複雑な素性を知っているジャミルはゆうなの方を見た。
……ついでにアイシャの方も。
「はいい~?あの、ジャミルさん、私、お顔に何か
ついてますかあ?今朝、顔はちゃんと洗いましたよ~?」
「何よ、ジャミル!どうして私の方も見てるの!?」
「なら、マモルが風邪完治するまで待ってろよ、大人しくよ、
責任持てば部屋にネコ入れといていいからさ!」
「……分りましたあ、そうします、ごめんなさい、
お邪魔しました……」
「あ、ゆうなちゃん!?」
ゆうなは部屋からとぼとぼと去って行く。アイシャは彼女の
何となく淋しそうな表情を感じ取り慌てて後を追う。しっかりと、
ジャミルに暴言を垂れて。
「もうっ!ジャミルがそんなに冷たいと思わなかったわよう!
バカっ!信じらんない!」
「うるせー!いつも何でもかんでも俺が大人しく言う事
聞くと思ったら大間違いだっ!」
「いいわよっ!ゆうなちゃんと一緒に私が子ネコちゃんの
飼い主さんを探すから!ナマケモノみたいに動かない
ジャミルなんかに頼まないわよーだ!」
「……勝手にしろっ!」
こうして、まーた2人はケンカとなる。そして、この
ケンカがきっかけで、アイシャから目を離したジャミルは、
又もアイシャを危険に晒す自体に……。
「ゆうなちゃん、待ってえ!」
「はえ?……アイシャちゃん……」
「ごめんね、あの、ジャミルが、さっきは、その……」
「ううん、私が悪いの、ジャミルさんも色々と忙しいのに、
でも、何となく、ついつい頼りにしちゃうんだあ、
ジャミルさん、優しいから、えへへ!この子も
飼い主さんと逸れちゃって淋しいんだよね、だから、
早く飼い主さんを探してあげたかったの……、でも、
まも君には、僕の風邪が治るまで、一人で絶対に外出は
するなって言われてて……」
「にあ~」
「ゆうなちゃん……」
忙しいも何も、アイシャが破壊糞おでんを持って襲撃に
行く前までは、ジャミルはふんぞり返って寝ていただけで
あった。
(何よ、ジャミルのバカ!こんなに皆に頼りにされてるのに
何で分かんないのよう!……バカバカバカバカっ!)
「……えーと、アイシャちゃん?」
「え?えへへ、何でもないよ、よーしっ、今日は私が
お手伝いするわ!一緒にネコちゃんの飼い主さん探してあげよ!」
「ありがとうー、アイシャちゃん!あははー、嬉しいなあーっ!」
「うんっ、行こうっ!」
こうして女の子同士、意気投合し、子ネコの飼い主探しを
する事になった。……が、トラブルに巻き込まれる体質の
ゆうな、すぐ誘拐されるアイシャ。この2人が揃って動くと、
とんでもない事になるのである。風邪でダウンし、高熱で
魘され動けず、チョロチョロ動き回るゆうなの側に付いて
いられないマモルに不貞腐れ気味でアイシャからそっぽを
向いてしまっているジャミ公。早く何とかしろよ状態で
あったが……。
そして、マンションの周辺では……、黒背広スーツを着、
黒サングラスのいかにもな、危ない感じの男2人組が何やら
ウロチョロ嗅ぎ回っていた。
「おい、あの糞ネコはこの辺で逃げて消えちまったんだ、
徹底的に探せよ、でないと、もしもなんかあったら俺達が
ボスに消されちまうわ、何としても絶対に探し出してフン
捕まえたら腹引き裂いてでも取り出してやる!」
「分ってらあ、何せ時価総額20億円のダイヤを食っちまった
スゲエネコだからな、20億円のよ……」
迷子になっていた子ネコの飼い主を探してあげようと動いた
アイシャとゆうなの困ったトラブル2人娘に待ち受ける、
やはりとんでもない事態が……。
「はあ、ネコちゃん、あなたの言葉、分ったらいいのにね……」
「にあ?」
2人はいつの間にか公園まで歩いて来ていた。ブランコに座り、
少し一休み。最近は暑すぎる気候の為、ジャングルジム等、
公園の遊具なども熱くなって危険の為夏休みに遊びに来る
お子様達も殆どいない。
「ねえ、ゆうなちゃん、ネコちゃんの首輪の処、見て、
何か書いてあるよ!」
「ええ~?ホ、ホントだ!お名前かなあ?」
アイシャに言われ、ゆうなは子ネコを抱き上げると、改めて
子ネコの猫に付いていた首輪を見る。慌てていて2人とも
今気が付いたらしく、首輪は迷子札仕様でちゃんとネームが
書いてある。
ニャミル ♀
「や、やだ、この子の名前、ニャミル……、だって!あははは!
やーだー、おっかしいー!きゃはははは!ふふ、ふふふふ!
しかも女の子みたいね!」
「ほんとだーっ!何だかジャミルさんみたいなお名前だねえ!
あはははは!」
アイシャはジャミルと喧嘩しているのも忘れ、ゆうなと一緒に
笑い出すのであった。
……その頃の張本人 ぶえええーーっくしーーっ!!
「ふふ、でも、ジャミルには全然似てないわ!この子の方が
何倍も可愛いもん!ねーっ!」
「にあ!」
アイシャはそう言いながら、子ネコ、ニャミルを抱き上げて
頬にスリスリする。髭が頬に当たって何となく、アイシャは
くすぐったかった。
「でも、具体的に……、飼い主さんてどうやって探せば
いいのかなあ~……」
「う~ん、取りあえず、色んな動物さん達を保護してくれてる
動物愛護センターさんて言うのがあるって聞いた事あるわ、
黒子さんに聞いて、其処に連絡してみましょうか?」
「うん、そうしよっかあ!」
アイシャとゆうなは笑いながら再び動き出そうと、ブランコから
立ち上がる。直後……。
「もういいぜ、ご苦労だったな、連絡はいいよ、嬢ちゃん達、
やっと見つけたぜ、ネコを保護しておいてくれてご苦労だったな、
それだけは礼を言っておく……」
「……な、何ようっ!?」
「きゃあ!?だ、誰ですかあーっ!?」
「騒ぐんじゃねえよ、静かにしてろっつんだよ、絶対こっちは
振り返るな、後ろ見たら直ぐに撃つぞ……、こっちゃ脅しじゃ
ねえよ、本当だぞ……」
突如、後ろから聴こえてきた野太い濁声にアイシャは思わず
身を縮める。明らかに背中に何かを着き付けられていた。
ゆうなも。それは小型の銃であった。
「……ア、アイシャちゃん、どうしよう……、あわわ~……」
「ゆうなちゃん、落ち着いて!騒いじゃ駄目よ、騒いだら……!」
アイシャは心細い声を出し始めたゆうなを何とか落ち着かせ
ようとするが。一体自分達の身に今何が起きているのか、
さっぱり理解出来なかった。
「わりィが、このネコに関わった以上、消えて貰わねえとな……」
「!?うう~っ!……すう~……、ふにゃ……」
「ゆうなちゃんっ!……むぐっ!……う、う……」
2人とも揃ってハンカチの様な布で強く口を塞がれ
眠らされた。ニャミルはニャミルで腕に注射を刺され、
眠らされた後、籠に押し込められ、公園近くに駐車して
あった車の中にほおり込まれた。……アイシャとゆうなも。
眠ったまま縛られた状態の挙句、車の後ろのトランクに
入れられ、鍵を掛けられてしまう。
「……ん?何だこりゃ、随分と不細工なキーホルダーだな、
こりゃ、邪魔だ!」
ガラの悪い男の一人は、側に落ちていたキーホルダーを乱暴に
道路沿いへと蹴飛ばした。アイシャとゆうな、そして子ネコの
ニャミルを誘拐した男達は車でそのまま逃走してしまう。
「はあ、暑いねえ、だけど、この島も……、こんなに暑いと
思わなかったよ……」
「うう~、どこにいてもホントにあっついよう~……」
「……さっきドラッグストアに置いてあった大きな冷房、
いいわね、あれ……50体側に置いておきたい位……」
「!ユキっ!あれは基本的に業務用だから、一般家庭に置いたら
ちょっと大変だよっ!毎月の電気代でそれこそ大変!」
「分かってるわよ、もう、まゆったら、ムキになっちゃって、
可愛いんだから……、ふふっ……」
「ふう、大福は今、人間モードだからこうやって何とか
僕と一緒に歩けてるけど……」
「悟と一緒にこうやって暑さを感じられて、オレは
嬉しいよ、な……?マジで暑すぎるけどな……」
「……だ、大福ぅぅ~、僕も、嬉しいよ……」
わんぷり6人組がきゃあきゃあと他愛もないお喋りを
しながら歩いていた。……丁度、彼女達と、アイシャと
ゆうなが拉致られている黒い外車とがすれ違う。無論、
そんな事はいろはらが知る筈もなかった。彼女等は一度
商店街に赴いたものの、余りにも暑くて歩き回るのが
嫌になってしまった為、今日はマンションに戻ろうと
言う事になり、ショッピングを止め、引き返してくる
途中だった。
「あのう、すみませんが、少しお聞きしたいのですが……」
「あ、はい……?」
6人の側に、弱弱しい足取りのお婆さんが近寄ってくる。
お婆さんはビラの様な物を持っていたが、暑さの所為で
相当まいっている様子。
「大丈夫ですか、お婆さん……」
いろはが訪ねると、お婆さんは元気なく、ぽつりと返事を返した。
「ええ、あの、わたくし、隣町から、いなくなってしまった
愛ネコを探して此処までやって来ました、……一週間前から
突然、自宅から姿を消してしまいまして、行方不明なんです……、
子供のいない私達夫婦は実の我が子同然の様にかわいがっていた
子ネコですので……、特に主人の方はショックを隠し切れない
様子でして、体調を崩してしまったんです……、どうにか
探したいと、現在捜索中でして、こうして歩き回っております……、
まだ生後3か月の子ネコなので、とても心配で……」
「本当にとても可愛がっていらしたネコちゃんなんですね……、
それはショックが大きすぎますよね……、お気持ちは分ります……、
……こむぎっ!?」
「……わおおお~っ!こむぎももしもっ!遠い町で
迷子になって又いろはとはなれちゃったらっ!いやだ
ようう~!!……そんなのそんなのいやだわあ~んっ!!」
「……こむぎ、落ち着いて!私は此処にいるよ、
皆も!絶対離れたりなんかしないよ、ほらほら……」
「いろは……、くぅ~ん……」
色々想像してしまい、こむぎ大号泣……。皆はこむぎを
どうにか落ち着かせ、自分達にも何か出来る事をしようと、
お婆さんの猫を探してあげるお手伝いをする事に。
「うんうん、皆で猫ちゃんを探してあげよう!」
「そうね……、力になってあげられれば……、
ほおっておけないわ……」
「僕達もお手伝いします、ね、大福!」
「ああ!オレ達に任せな!」
まゆとユキの言葉に、悟と大福も頷き同意した。
「本当にありがとうございます、……私は一旦また、
これから自宅へ戻らなければなりませんので、もしも
何かあったら私の携帯電話にご連絡をお願いします……」
おばあさんは自分の携帯番号が控えてあるメモを6人に見せた。
いろはが代表でメモを受け取り、預かった。
「ねえ、おばあさん、迷子のネコさんの特徴を教えて貰えるかしら?」
「え、ええ……?」
「そっか、ユキちゃんは凄く絵が得意なんです、絵があった方が
探すのが有利にもなりますよ!」
「はあ……」
お婆さんは、飼い猫の詳しい特徴などをユキに伝える。
すると、芸術センス抜群のユキはおばあさんのネコを
見た事がないにも係らず、あっという間に伝わった
イメージだけで、数分でネコの絵を描きあげる。
「如何かしら……」
「わおんっ!?」
「……相変わらずユキちゃん凄すぎだよっ!」
「まあ、なんてこと……、そう、この子、この子なんですよ、
ああ、まるで写真の様だわ……、わずか貰ってきて数日で
姿を消してしまったので、こんな事になるとは思わず、
まだ写真なども取る前でしたので……、ああ、本当に
そっくりだわ……」
「うん、流石ユキちゃんだね!」
「……こりゃマジで凄いな……」
「な、何だかパートナーの私まで照れちゃうよ……」
悟達も集まってくる。あまりにも皆がベタ褒めする為、
ユキは困って少し顔を赤らめた。
「こ、こんなの別に、大した事ないわ……」
「わふっ!可愛いねー、こーゆーのツンデレっていうんだよね、
ツンデレユキー!ツンツンしちゃう!ツンツンツン!」
「シャー!……こむぎ、引っ掻くわよ……」
「いたた!引っ掻くって言う前に引っ掻かないでよー!」
殴る前に殴られる、引っ掻く言う前に引っ掻く、
これはこの話のお約束である。
「じゃあ、私達もそろそろ行こっか、このビラ、私達が
住んでるマンションの皆さんにも見せようと思います、
まずは管理人さんの所へ行って、応援を頼んでこよう!」
「どうかお願いします、ああ、優しい子達に会えて
本当によかった……」
いろは達がおばあさんと話をしていた頃、アイシャ達が
誘拐されたのを知らないアホのジャミルは、思う事があり、
愛野美奈子の部屋を訪れていた。朝方から彼女がアルテミスを
連れ、外出したのを見掛けたので、そろそろ戻って来ている
頃かと思い、部屋まで来たのである。……本当は、ユキの方に
頼もうかと思っていたのだが。彼女達が外出した後だった為。
「おい、美奈子……、いるか?ちょっと用事があんだけどよ……」
「はあーい、ん?その声は、ジャミルね、今開けるけど……」
ガチャリとドアノブを回す音がし、部屋のドアが開いて、
美奈子が顔を出す。
「……珍しいわね、ま、まさか……、この美奈子ちゃんに
デートの誘いとか……、べ、別に行きたいってんなら
お情けで一回だけ付き合ったげてもいいわよ……、
モテないあんたが可哀想だし……」
「……アホッ!勘違いすんなっ!正確に言うとだな、用が
あるのはおめーじゃねえの、アルテミスだよ、おめーの相棒の
アルテミス!」
「ンマっ!……変わってるわねえ、アンタ、アルテミスと
デートしたいワケ……?いいわよ、別に……、でも、相当
淋しいのねえ、其処まで付き合いに飢えてるなら貸して
あげるけど……、アルテミスはオスよ?」
「……だからそうじゃねえって言ってんだろが!あのなあ!」
「……ジャミル、ちょっと話があるんだけど……」
「うきょーーっ!?」
突然後ろからぬっと現れ、ジャミルの肩をそっと
掴んだ人物。厚底牛乳ビンメガネ少年、陰守マモルである……。
「あらあー?マモルさんじゃないですかあ、……アナタも
暇そうですねえー……」
「……大きなお世話だよ、それよりも、ジャミル、早く
こっちへ、話があるって言ってるだろ……」
「あ?お、おいーっ!何だよっ、……おいーっ!お前熱が
あるんじゃねえのかよーっ!」
マモルはそのまま無言でジャミルを引っ張って連れて
行ってしまった。
「行っちゃった、……ハア、結局ジャミルったら、アルテミスに
何の用事だったのかしらー?」
「悪寒……、だと?」
「ああ、忍の感だよ、またゆーなの身に何か良くない事が
起き掛けている……、……僕が体調なんか崩したりしなければ……、
あれ程一人で外には出るなって言っておいたのに、……やっぱり
外出したらしい、マンション中、何処を探しても姿が見当たら
ないんだ……」
此処はマモルの部屋。ジャミルは直接此処にマモルに連れて
来られたのである。
「これを……」
マモルはジャミルにある物を見せる。それは変な顔をした擬人化
バナナのキーホルダー。
「これがどうかしたのか?」
「ゆーなのだよ、最近、漸く買えたって凄く喜んでたんだ、
ご当地キャラのバナナ男のバナンバマンさ……、僕に何回も
見せてくれた」
「……だからこれが何……、うわ!」
「ばうっ!」
突然、キーホルダー同じく変な顔の犬が部屋の奥から現れ、
ジャミルに向かって吠えた。
「ブルテリアのぶる丸だよ、実家で飼ってたんだけど、
マンションに呼んだんだ、たった今、来た処さ、これでも
優秀な忍者犬だから、そのままぶる丸も一緒に此処に
住まわせるから宜しく」
「ばうばう!」
「ま、そりゃいいけど、で、お前の方の話は……って、何だよっ!
オメーはっ!」
「ばうばうばうー!(いなり寿司くれくれ!」)
ぶる丸は突然狂った様にジャミルのパーカーの袖を
引っ張って噛み付く。……一向に話が進まず……。
「ぶる丸、駄目だろ、この人はいなり寿司なんか
持ってないから……、ふう、何故今頃こいつが此処に
来たかというと、書いてる奴が最初に忘れ……」
「だーからっ!話進めろよっ!んで、オメーも風邪は
どうしたんだっつーの!」
「……も、もう急に治った……、ゆーながまた危険な目に
遭っているかも知れないって時に呑気に寝てなんかいられ
ないんだ、つまり、僕が何を言いたいかというと……」
「と……?」
マモルは掛けていたグルグル眼鏡を外す。……素顔の
美少年顔が現れ、静かにジャミルの方を向いて口を開いた。
「このキーホルダーは道路沿いに落ちていたのをぶる丸が
此処に来る途中に拾って僕の所まで届けてくれたんだ、
ぶる丸はこう言ってる、キーホルダーからゆーなの匂いと、
それから……」
「……」
「悪人達の臭い……と、小さな猫の匂いも微かにするって……」
「……悪人だと?それにネコ、そういや……」
ジャミルはアイシャとの喧嘩を思い出す。アイシャは子ネコの
飼い主を自分がゆうなと一緒に探すからいいと。そう言って
怒ってジャミルの部屋を出て行った。
「後、これも現場に落ちていたらしい……、ぶる丸が
持って来たよ」
マモルは更にメモの様な物をジャミルに渡す。
「こ、これは……」
メモを見た瞬間、ジャミルの表情が変り、緊迫感が
走った。それは間違いなく、アイシャの字であり、
彼女が書いた物であった。やはり、ゆうなとアイシャが
一緒にいたのは間違いがなかったらしい。
※ ジャミルに食べて貰う8月のお料理リスト♡
〔熱々おでん 檄辛子味噌きゅうり着け
タピオカ入りミルク炊き込みご飯〕 頑張っちゃおーっ!
「……イヤーーっ!しかも最後のタピオカ入りってもうわけ
わかんなーいっ!イヤーーっ!!」
「お、落ち着きなよ、……あまり大声も出すなってば……」
マモルは壊れ始めた半狂乱のジャミルをどうにか宥める。
「は、ネコ……、そう言えば……、また……」
ジャミルはアイシャとの喧嘩の原因を再び思い出した。
子ネコの飼い主探しに協力してくれようとしない
めんどくさがり屋のジャミルにアイシャが怒ったので
ある。しかし、ジャミルはその時はその時でブチ切れて
アイシャに何も言わなかった。だが、やはりちゃあーんと、
考える事は考えていた。本体は猫のユキ、もしくは
美奈子のパートナーの喋れるネコ、アルテミスに
頼んで子ネコから素性を色々と聞いて貰おうと思った。
そう思い、先程、美奈子の部屋を訪れたのである。
アイシャ達もどうせ一日やそこらで飼い主を
見つけられる筈がないと思い、音を上げて直ぐに
戻ってくると思っていたのである。しかし、彼女らは
戻って来ず、騒動に巻き込まれ、猫共々既に誘拐された
後だった……。
「……ゆーなが落としたキーホルダーから、ぶる丸が
感じた悪人の臭いと子ネコの匂い、そして、そのメモは
アイシャのなんだろ?もしかしたら……」
「!!」
マモルは素顔で再びジャミルの方を見る。現場に一緒に
落ちていたという、アイシャのメモ。マモルが何を
言いたいかはジャミルにも何となく分かって来ていた。
「……まさか、アイシャも何かの事件に巻き込まれ
たってのか?」
「あの、ジャミル、いる……、オイラだよ、……部屋に
お客さん、来てるよ、いろはちゃん達だよお、ジャミルに
話があるってさ、行方不明ネコの件みたいだよ、んで、
オイラもこれを貰ったんだけど……」
マモルの部屋の前にダウドが訪れる。ジャミルはマモルと
顔を見合わせる。ダウドが見せてくれた行方不明のネコの
ビラ、ユキが描いたネコの絵を見て、ジャミルの顔が
青くなる。間違いなく、ゆうなが昼間抱えてきた
あの子ネコだった。お婆さんのネコだったのである。
とにかく、ジャミルは一旦自部屋に戻る事にしたのだが……。
「ねえ、で、オイラ、何で自分の部屋に戻っちゃ
いけないの?だよおー!」
「んーと、何だかぶる丸が君の事気に入ったみたい
なんだ、少し相手をしてあげて欲しいんだ、今日から
一緒に此処に住むんだよ、宜しく」
「ばうばう!(いなり寿司ちょうだい!)」
「うひゃあああーーーっ!!」
ジャミルが自部屋に戻ると、やはり部屋の前にいたのは、
いろは達だった。今回は忍としてのマモルが動かなければ
ならない状況の為、直ぐ話を聞き付ける隣の部屋のダウドに
事を聞かれる訳にはいかず、マモルの部屋に暫く留まらせて
おいて正解であった。
「そうか、分ったよ、俺も何とかこのネコを探してみるよ……」
「本当ですか?ジャミルさん、ご協力有難うございます!」
「わんっ、ありがとねっ!ジャミルっ!」
「いや……」
いろは達はネコを探して隣町からわざわざ訪れた
お婆さんの事をジャミルに話したのである。行方
不明のネコ、ゆうなに危険が迫っていると言う忍の
マモルの悪寒、現場に落ちていたゆうなのキーホルダー
から、ぶる丸が感じたと言う、ネコと悪人達の臭い。
そして一緒に落ちていたアイシャのメモ。ジャミルには
まだ何が起きているのか把握出来ていないもののマモルの
話から察するに、このネコを巡って、2人が何か大きな事件に
巻き込まれた事は鮮明であった。
「……とにかく、本当にアイシャがまた悪モンに捕まったっ
てのなら……」
もうっ!ジャミルがそんなに冷たいと思わなかったわよう!
バカっ!信じらんない!
「……俺も今回はマモルと一緒に動かなきゃな……」
そして、拉致されたアイシャとゆうなは……。
「ヌ、可愛いねい、2人とも本当に可愛いねい、ヌ、
ヌヌヌヌ……」
何処かの事務所にあるソファーに縛られたまま転がされて
いた。眠らされたままで。……2人の正面には、まるで
イボガエルの様な汚い面に葉巻を銜えた縞背広男。
此処に連れ込まれた時には、時計の時刻は既に夜の21時を
回っていた。ちなみに、悪党共のアジトは湾に囲まれた
小さな小島の中にひっそりと建っている。
「あの、ボス……、早くネコからダイヤを取り出して
始末しないと……」
「わーっとるのーっ!ヌーっ!……それにしても、この
お嬢さん達も可哀想なの、ヌー!こんな糞猫に係った
ばっかりに、殺されなきゃならんのだからヌー!
それにしてもこのまま殺すのも勿体ないヌウ、……海に
叩き落とす前に、どら、一発貰っとくか、ヌーー!」
「!!ボスっ、やめてくださいっ!こいつらが目を覚まして
騒がれたらどうするんですか!」
「そうですよ、只でさえボスの口臭は檄くさ……
あだあああーー!!」
「だまっとるのヌーーっ!!ワシに逆らえば、てめえらも
一緒にブッ殺す、ヌーー!!いいのヌーー!犯すモン
犯したらすぐブッ殺しタルわ!」
殴られたのは、アイシャ達を拉致してきた、黒サングラスの
2人組であった。イボガエルは、大分タチの悪い、マフィア
系統の糞ボス……、らしかった。ちなみに、名前は、本当に、
疣蛙蝦蟇の助である。
「さあ、どっちの子からいこうか、ヌー?……よし、ピンクの
髪の子からにしようかヌ、……ヌへへへ……、い、いただき……、
はうはう……」
「ん……、まもく~ん……」
凶悪毒イボガエルが涎を垂らしながらゆうなに迫る……。
ゆうなは絶体絶命の危機を迎えた、その時……。
『おとなりを 守り続けて 400年』
「ヌ、ヌーーっ!?」
警備も強化されている為、普通なら絶対に誰も入って
来れない筈のアジトに、突如何処からか、落ち着いた
静かな声が響き渡った。声の主が煙幕と共に姿を現す。
奇抜な格好の、背中には忍刀、紺色の装束、顔を覆い
隠す覆面、ぴっちり詰めた手足、……忍者スタイル
モードの陰守マモルである。
「だ、だだだだだ!誰だ貴様はっ!ヌーー!何処から
入ったっ!?……ヌヌヌヌヌ!!」
「陰に名前などない、……大人しく2人を返して貰う……」
「言い切ったな、この馬鹿!小生意気な糞小僧が!どうせ
何かで間違って入って来たんだろうが、ヌーー!!子供
だろうが生きて返すワケにいかヌ!思い知れ!やれ、お前等!!
コロシテマエーー!!」
「オース!!」
「!」
イボガエルが合図すると部屋に黒服が大量に傾れ込んできた。
しかし、其処にもう一人何者かが現れ、黒服共に突っ込み、
突撃する。
「こんにゃろーーっ!!」
「……アーーーーッ!?」
現れた何者かは、ドカドカと竹刀を振り回し、黒服連中を
次々と、あっという間になぎ倒して行った。
「ばうばうばうーー!」
「ふぎゃあーっ!こ、この糞犬ヌーーー!!」
そして、ぶる丸も参戦し、イボガエルのハゲた頭部に思い切り
噛み付いたのである。
「ふう、案外大した事ねえ奴らで良かったわ……」
「ばう」
「……ジャミル、それにしても、君のその……、何で女装……」
「お黙りっ!今は戦うセーラー美女?戦士ジャミィとお呼び!
このカッコの方がもしもの時の為、素性がばれなくていいんだっ!
はあ、アイシャの言う通り、俺、この話が始まってから、最近
マジで運動不足かもな、少しは暴れられていいかも……」
「……」
女装したジャミ公であった。ロンゲの茶髪のウィッグに
やたらと丈の長いセーラー服のスカート。まるで、スケバン
○子の様な恰好をしていた……。竹刀は此処に来る前に
シフから借りて来た物。マモルは少し冷や汗を掻いているが、
本人がいいならそれでいいかと思いつつ。2人はぶる丸の
鼻を頼りに、悪党共のアジトを突き止め、停泊してあった
小舟で海を渡り、漸く此処まで来たのである。
「マモル、あれだっ!あそこに猫がいるっ!」
神棚の上に子ネコが押し込められたらしき籠が
置いてあった。
「よし、猫も返して貰う、もう諦めろ、お前に勝ち目は
ない、全て白状して貰うぞ、……ゆーな達や罪もない
小さな動物を誘拐して一体何を企んでいるのかも……」
「貴様、隠密探偵みたいな物か……、まあいい、だが、
このネコだけはっ!どうしても渡さんヌ、ヌーーーー!!」
「!危ないっ、ジャミルっ、……避けろーーっ!」
「う、うわっとっ!?」
「ヌーッ!シネシネシネ!オラオラーーっ!!」
イボガエル、発狂す。変質者の様に背広をばっと
広げると懐から隠していたマシンガンを取り出し
マモルとジャミルに向け発砲しまくる。……忍者の
マモル、運動神経は半端出ないジャミル、2人は
どうにか銃の嵐を避けるが……。
zokuダチ エスカレート編・1