私、恋してないと死んじゃいそうだな・・・

たまにこの恋愛体質な自分が嫌になるけど、誰かを好きだと思う時生きてるって実感する。
それは退屈な上ストレスばかり感じる毎日を乗り切るために必要不可欠なスパイスだ。


でもほんっと「好みのタイプ」って当てにならないな。
ここのところ「絶対恋愛対象外」って思ってた相手にドキドキする。
大事に思いたいあいつが居るっていうのに・・・
やんなっちゃう。

前はよく、落ち込みそうな時あいつの笑顔とか「頑張れ」って言ってくれたこととか思い出して気持ち切り替えてた。
いつでも、あいつに相応しい私で居たくて。
でも・・・
最近そういう時に思い出すのは・・・
「はぁ。。。
やばい、ミイラ取りがミイラに~ってやつじゃん」
でも、どんなに平常心を装っても…
「はぁ…」
もう走り始めてる。

一つの恋の終わりってみんなどこで決めてるんだろ。
もう付き合って4年が過ぎようとしてるあいつ。
あいつに対する気持ちは、恋愛を超えてただの家族愛になりつつあるような気がする。

毎日メールもしてるし、会えば楽しい。
付き合いが長い分こなれた感は確かにあるけど、その分ふんわりと包まれる安心感。
「やっぱり。だいすきなんだ。」

それは突然運命のように

あいつとの出会い。
今思うと、なんかちょっと恥ずかしい。
嘘みたいに陳腐な少女マンガのような…

行きつけの書店。
私はとにかく読み物が好きで、週に一回は特に目的が無くてもそこにいた。
時間を気にせず、何か心惹かれる「本」を探していた。
何か創作意欲を掻き立てる物はないかと、手芸雑誌を物色していた時だと思う。
隣に人の気配を感じて顔を上げようとした同じタイミングで上から穏やかな声が降ってきた。
その人はちょっと馴れ馴れしい口調でこう言った。
「ね。ちょっとこれ見て。」
目に前にスッと差し出されたのは携帯だった。
…何だこいつ。
不信に思いながら画面を覗くと、
ー さっきからオッサンにつけ回されてるよ。
スカート覗かれないように気をつけてね。 ー
「えっ‥‥!」
内容を半分は理解出来ないまま顔を上げると、めちゃくちゃ2枚目の男性が微笑んでいた。
背の高いその人は膝を折って、私の耳元で小さく言った。
「あのオッサン要注意だよ。よく見かけるけど、いつもミニスカの女の子の後ろうろうろしてる。」
オッサンに見えないように指差すその方向へそっと視線を向けると、確かに会社帰りなのだろうか、スーツ姿の50代とおぼしき男性が所在なげに視線を泳がせていた。

私は目の前の雑誌に目をやり。
それから少し背伸びをしながらお礼の言葉をかけた。

私たちはオッサンが諦めて立ち去るまでそのまま少し話した。
あいつは私がしげしげと覗き込んでいた辺りを指差し
「こういうのするの?」とか自分は車の雑誌を立ち読みに来たとか差しさわりの無い話をした。
しばらくしてオッサンの姿が店内に無くなったのを確認してあいつは自分はもう帰るところだったし、じゃあねと。
私はもう一度お礼を言いながら、あんな場面の後なので一人で残るのが心細くなり一緒に店を出た。
駐車場を歩きながら「自分と同じ車見つけたから隣へ停めちゃった」と、うれしそうに言われた。
何に乗っているんだろうと思いながら、あんまり詳しくないしな・・・と黙って歩く。
駐車場の端に差し掛かり、停まっている車もまばらになった。
「随分遠くに停めたんだね~私もだけど。」
さっき会ったばかりの相手に馴れ馴れしいかな‥‥
頭の片隅で思いながら同じ方向へ歩いていく。
「車大事にしてるからさぁ。間違ってこすられたら悲しいじゃん。」
同感。
「あれ!俺の愛車~」
無邪気な笑顔で指差した先には私の車と、同じメーカーのだけど一回り大きな車。
「えっ?えっ?」
一気に心拍数が上がった。
「ちっちゃい方、私のっっ!」
なんだか、あまりにもハマリ過ぎてて焦った。
顔が真っ赤になった。
ずっと欲しくて、保守派の家族に反対されながらやっと先月買ったばかりの国外車。
それは私にとっても「愛車」だった。
ボンネットの中央に配された他のそれと比べると大分大きめのエンブレム。
色も殆ど同じ?

あいつは目をキラキラさせて。
「凄い!マジ!?絶対男が乗ってるんだと思ってた。」
「こんな偶然ってあるんだね。」
気持ちを落ち着かせようとしながら口から出た声は上ずってしまっていた。
どうしよう、ドキドキが止まらない!
「しかもマニュアルでしょ!・・・ごめん停めたとき覗いちゃった。あんまりってかほとんど出会わないし、気になっちゃって・・・俺もそうだから余計うれしくってさ。」
声が弾んでいる。
「そうって、マニュアルなの?」
確か・・・と購入時の価格表を思い出す。
営業にも言われたが、最近国外車もオートマが好まれるらしく、そこのメーカーも例に漏れず。
新車で手に入るマニュアル車は私の購入した車種と、価格的にはその倍はする更に上の車種だけだった。
欲しい!乗ってみたい!とは思ったが、結局それ程背伸びしなくても手に入る今の車を購入したのだけど、それでも十分満足だった。

しかし・・・
私は隣に立つ男性をまじまじと見た。
― おぼっちゃん、ってやつかな。
紫に近いグレーのパンツ、白に水色と紫のストライプステッチのワイシャツに細身のジャケット。
さわやかできっちっとした身なりに高級車、ふわんとした笑顔。
初対面の相手に無邪気に話しかける無防備さ。
― 私の周りには居ないタイプだ。
友達でも良い!いや・・・あわよくば、この人と付き合いたい!
このままにしちゃいたくない!
でもっ、でもっ、いきなり「アドレス教えてください!」なんて恥ずかしくて言えない!
どうしよう、早くしないと帰っちゃう。
「お礼がしたいから!」とか何とでも言ってしまえば良いのに・・・
頭の中でごちゃごちゃ妙なプライドと羞恥心と戦っていた。

「ね、良かったらアドレスおしえて」
ふんわりスマイルであいつが言った。

メール

面倒なことが嫌いな私。
メールの絵文字も面倒なことの一つだった。
つい1ヵ月前まで付き合ってた彼には「メールする時は必ず絵文字入れること!」と命令されるほど。
要件が伝われば良いじゃん!
毎日メールなんて面倒じゃん。
今日何してたの?今何してたの?って何で聞くのさっ。
一緒に居ない時間に相手が何してても個人の自由、いちいち詮索するなんて束縛するみたい。
自信の無いのが丸見えでかっこ悪い。
電話なんて片手拘束されるし、長電話なんて時間がもったいない。
「毎日声が聞きたいから・・・」なんて言って睡眠時間を削られるのもはっきり「迷惑」と言って憚らない。
携帯なんて伝えたいことがある時にしか必要としてなかった。

そんな自分が、
メアドを交換して数日、1日数十件のやり取りを続けていた。
内容は車のことが大半で、会社やこれから友達と遊びに行くよ!なんて報告もあった。
私も新しく出来た男友達に興味があったし、そんなに頻繁にメールをするのも始めのうちだけだと思って特にストレスを感じることなく受けては返す会話のようなそれを楽しんでいた。
時折「メールする時は必ず絵文字を入れること!」と言った前カレの言葉を思い出して、絵文字もちゃんと使った。
こんなに頻繁にメールをする自分の変化に少し驚いてもいた。

丁度出会って1週間が経った頃。

いつものようにメールが来た。
他愛も無い内容だろうと思いつつ、内容を確認。

『髪切ってきた!』
添付ファイルが付いていた。
・・・!
髪をさっぱりさせて益々爽やかになった彼がキメ顔で微笑んでいた。
ドキドキするよ~かっこよすぎでしょ・・・
暫く見つめて「これはレアだ」と保存。
またメール『どう・・・?』
「さっぱりしたね、よく似合ってるよ~」
『今日何してたの?』
「来月ね~会社の同僚の結婚式に呼ばれてるから、ワンピース見に行ってきたよ。」
『買った?』
「うん!光沢のあるシャンパンゴールドのワンピだよ。」
『見たいな。写メ送って 』
・・・うっ・・・
私は君みたく自分に自信無いですよ。
かと言って、うまい断り方が思いつかない・・・
無視してしまう勇気も無い。
しぶしぶ壁に掛けておいたワンピースを取り、着替える。
若干身長が低い私、鏡に映してみて、バランス悪いなぁとヒールも履いてみる。
そこまでやったならと今度は髪をアップに、ルージュもひきなおした。
まぁそこそこ見れるか。
改めて鏡を確認して写メを取り終えると、何でもないことを装いながら「はいよ」と送った。

返事がすぐに返ってくる。
『かわいい~』
の言葉の後にハートマークが点滅している。
うれしいのと、恥ずかしいのとで心拍数が上がる。
「自分撮り初めてで苦戦したよ(汗)
恥ずかしいからあんまり見ないでね~」
頼む!話題を切り替えてくれ!そう願いつつ返事をする。
『今からそっち行っても良い?』
唐突な問いかけにびっくりして部屋を見回す。
部屋に来てもらう気満々の自分の反応に苦笑した。
「うちに? 今から? もう9時だよ~」
『この時間道空いてるし、30分で着くよ』
数日のやり取りでお互いの家が大体どの辺りかなんて話もしていた。
彼は実家暮らしで、2つ隣の市に住んでいた。
最初の出会いの書店は大体お互いの家の中間地点と言ったところ。
・・・どうしよう。
「明日じゃダメ?」
きちんとしているつもりだけど、念のため掃除と心の準備をさせてくれ!
『今会いたくなった。大丈夫何もしないよ』
・・・何もしない、と言われると余計不安になる。
しかも、何なんだこの急展開。
――― 私たちはあの書店での一件以来会ってはいなかった。
外で会うとか、じゃなくて何で家?
何もしないって何!?
ぐるぐると答えの無い疑問をめぐらせる。
でも、でも、毎日メールしてたのに恥ずかしくて誘えなかったけど、会いたいって思ってた。
このままじゃただのメル友から脱却しないかも知れない。
チャンスなんだ。
すっと息を吸って返事をした。
「わかった。良いよ~ ナビで検索して・・・・・・」
住所と「近くに来たら電話してね」と電話番号を送った。
『了解。俺の番号も送るね。近くに行ったら電話するよ』
名前を聞きそびれたためアドレスだけ登録してあった彼用のホルダーに携帯番号を追加登録した。
彼の名前はずっと聞きたかったけど、最初に聞けなくてタイミングを逃したままだった。
今日は聞けるだろうか。

『今、家出たよ』
そのメールで我に返り、着たままだったフォーマルのワンピを脱ぎ普段着にしているワンピに着替える。
スーパーへ買い物位ならそのまま出かけるいつもの格好。
あんまり気合入れてもいけないし、普段どおりが一番だよね。
どうしたら相手に好印象なんだろうかと計算しつつ、机の上とゴミ箱の中身を片付けた。

バタバタとしている間に30分が過ぎ携帯が鳴る。
ディスプレイには名前代わりに登録した車名が表示されていた。

「もしもし」
『もしもし。多分着いたっぽいよ。今歩いてる。部屋どこ?』
「はやっ、ちょっと待って。」
携帯を耳にあてながら2階建てアパートの2階の玄関を開ける。
階段の手すりの隙間から彼の頭が見えた。


・・・どくん。
時間は10時に近い。
駅からも程よく離れた住宅街はもうひっそりとしている。
「こんばんは」小さな声で呼びかけると彼は上を仰いで私を確認し携帯を閉じながら黙って玄関まで来た。
扉を片手で開けながら彼を玄関に招き入れると、そっと扉を閉めた。
『こんばんは』あの時のふんわりスマイルで笑う。
「どうぞ上がって」
私は心臓がドキドキするのを悟られないように平静を装ってリビングへ案内した。
『何か広いね。一人暮らしでしょ。』
テーブルの脇に立ってぐるっと見回した彼が、初めて私の家に来た友人達と同様につぶやいた。
8畳の洋間が二つにダイニングキッチンの2DKの間取りは一人暮らしには少し贅沢だった。
「荷物多いから」
女の子は物が増えるのが当たり前。
整理整頓は得意だが、毎年買い足すコートとワンピース、ブーツ、ヒール。
趣味の読書のせいで地味に増え続ける書籍。
それらをきちんと収納するスペースを求めたらこのサイズの部屋になってしまったのだ。
収納スペースを十分に確保しているだけあって見えるとこに生活観はあまり無い。
家賃は一人暮らしの相場の上を行っているが、大してお金の掛かる趣味があるわけでもないので無理せず生活できている。

「良かったらココ座って」
赤茶色の革張りのクッションと言うにはかなり大きなビーズクッションを指して促した。
南向きのリビングとして利用している洋間はそのクッションと床に直置きした55インチのテレビとセンターテーブル、家具はそれだけしか置いていなかった。
「運転して帰らなきゃだから紅茶で良い?ちょっと時間掛かるけど、珈琲も淹れられるよ」
『何でも良いよ。紅茶ちょうだい』
そう答えながら彼は勧められたクッションに座った。

私は紅茶の用意をしてポットにお湯を注ぐ。
トレイにティーセットを乗せてテーブルに置くと彼の真向かいに座った。
「ミルクティーにする?」
『うん』
確認をしてカップに温めた牛乳を入れ、蒸らした紅茶を注ぐ。
どうぞと出した手が緊張で汗ばんでいた。
彼はなぜ急に会いに来たんだろう。
緊張をほぐそうと紅茶を飲んだ。
こくっ・・・
ミルクティーにして良かった。
ちょっと落ち着く。
上から彼の視線を感じる。
「髪、結構短くしたね。すごくおしゃれだし、似合ってるよ」
顔を上げて話すけど、ドキドキして目が合わせられない。
それでも精一杯顔を向けて見る。
…私、今どんな顔してるんだろうか。
斜めから撮った写メではよく分からなかったが、左サイドは地肌が見えるほど短く右サイドは長めにトップは右サイドより若干長めでつんつんと立ててある。
「アシンメトリーだね。」
彼はアシメのウルフでって言うとこうなるよと教えてくれた。
髪は左右対称が基本って思い込んでいる私には少し奇抜な髪型だがおしゃれな彼にはよく似合っていた。
髪型にこだわる男の人って初めてだな。
服も車もおしゃれするならそこも手抜きはできないか。
感心して相槌を打つと、一瞬の沈黙。
『写メ見たら急に会いたくなっちゃった』
突然彼は私の一番聞きたかった事を教えてくれた。
そうなんだ・・・ちゃんとリクエストに答えて良かった。
というか、なんて自分に正直な行動だろう。

「え~そうなの。 ほらあれだよ。 写メより光沢あって綺麗でしょ」
ハンガーに掛けなおしたワンピを指しながら、ドキドキが止まらない私は妙に明るく振舞った。
『うん。すごく上品。』
自分セレクトを褒められてテンションがあがる。
『いつもココに座ってるの?』
ぽんぽんとビーズクッションを叩く。
「そうだよ、座ったり、背もたれにしたり、丸まって寝ちゃうこともある。」
大きなビーズクッションは私には丁度良いサイズで真ん中のくぼみにすっぽり納まって転寝することが時々あった。
少し窮屈だが革張りのしっかりした感触と自分の体に合わせて変形したくぼみは安心感があり気に入っている。
『そうなんだ~。 ね、おいで~』
そう言うと彼は両手を広げ、私は遠慮しながら腕の中に納まった。
そうして横抱きの状態でぎゅっと腕に力を入れてしっかり抱きしめると私の肩に顔をうずめた。
『今日はこれで我慢する。』
その行為と言葉にかぁっと顔に血が上り、心拍数もあがった。
こんなに密着していたら彼にもそれはしっかりと伝わったに違いない。

真意がつかめない。
「我慢するって・・・」
何と答えれば正解か分からず、オウム返しに彼の言葉を繰り返した。
その反面冷静な脳の一部では名前も知らない男をほいほいと家に上げて、私は何をしているんだろうと。
『何もしないって約束しちゃったからね。』
ふぅ~っと息を吐いて私をぎゅっと絡めていた腕を少しはずしてくれた。
私はそのままするすると床に滑り落ちてペタンと座った。

私達はそのままの体勢で話した。
彼は饒舌で自分の仕事のことや友達、学生時代のことなどおもいつくまま話してくれた。
私は彼の足元にすっぽり納まったまま時折質問を挟む程度で聞き役に回った。
ドキドキは徐々に納まり、恋人同士の様な空気を心地良く感じた。キッチンに置いたデジタル時計がピピッと12時を知らせたのが微かに聞こえた。
彼は腕時計に目をやり時間を確認した。
『明日も仕事だし帰るね。遅くにごめんね。』
そう言いながら立ち上がり、座ったままの私に手を貸して立たせてくれた。
『また、来ても良い?』
「もちろん」
彼を引き止めたかったけど、そんな勇気も出せず玄関まで行く。
『そうだ』携帯を取り出し彼は初めて自分の名前を教えてくれた。
車まで送ろうとサンダルを履いた私を危ないからと制止し階段を降りて帰って行った。

・・・次はあるんだろうか。
誰も居なくなった空間を見詰めながらぼんやりそう思った。

玄関に鍵をかけリビングに戻る。
さっきまでそこに居た彼の香水がふんわりと香った。

前カレ

翌日からも私たちは会話の様に沢山メールを送りあった。
若干それまでより増えたのかも知れない。
私は仕事中もお風呂に入っている間も携帯が手放せなくなっていた。
恋愛モードになると私は変わる。

職場での私の評価は仕事をサクサクこなしミスも無く無難。
時には上司にも進言し、統計・データを解析するのが得意で気になるととことん追求してしまう。
基本に忠実で妥協しないカタブツ。
人間関係を保つ為に必要最低限の会話とお付き合いをがんばってしている。
男性から見たら もう少し愛想が良ければ・・・。
女性からははっきりしたもの言いが怖いとっつきにくい人だろう。

しかしそれがプライベートとなると間違いも、うっかりもあり。
更に好きな相手の要求であれば苦手な事も最大限努力して合わせる。
普通の女の子になる。
もちろんいつもにこにこ良く笑う。

私としては緊張感を持って仕事している“ON”と素のままの“OFF”を上手く切り替えてるだけ。
人間、そんなにいつでも張り詰めてはいられない。
ちょっとしたきっかけで“OFF”の私を知ることになる同僚は一様に「職場でもそうしてれば良いのに、もっと怖い人かと思った」と感想をくれる。
・・・ツンデレってやつ??
と思うが、計算ではない。

前カレはちゃらそうな外見に最初は嫌悪感しか抱かなかった。
付き合うことになるなんて思いもしていなかったし、第一印象は二度と会いたくないと言う程嫌いだった。
タバコを吸うのも、初対面の相手にやたらと接触してくるのも、年下のくせにオレ様なしゃべりも嫌いだった。
だけど、私の何をそんなにも気に入ったのか事あるごとに纏わりつかれた。
嫌いな相手を前に“OFF”の姿を見せるわけも無く、知り合って数ヶ月はいつでも臨戦態勢の“ON”だった。
女に困ったことが無いと豪語するだけあって、待ち合わせや食事中のちょっとした時間に逆ナンされている姿をよく目にした。

その日も私がトイレに立った数分の間に、居酒屋のカウンター席でたまたま隣り合った二人連れと楽しそうに話していた。
割って入る理由もないので、黙って壁際の自分の席に座る私を相手の女性はちらっと見たが、彼は気にせず話を続けている。
タイプは違うけど、二人とも私なんかよりずっと美人だ。
どっちでも好きな方をそのままお持ち帰りすりゃ良いのに。
手持ち無沙汰な私は冷酒を相手にだし巻き卵をほおばる。
ここのだし巻きは蟹のほぐし身が入っていてお気に入りだ。
美味いんだよね~
箸でちょんちょんと一口大に切って口に運ぼうとした時。
話を終わらせた彼が向き直り肩に手を回してきた。
「なんじゃ」
落しそうになって不機嫌な顔で聞く。
『あ~ん』
ニコニコ子供のように大きな口を開けてねだられた。
「欲しけりゃ自分で食え!」
『え~』
本当に切なそうな顔をする、デモ計算しつくした演技だってシッテルヨ。
「知らん」
『やきもち妬いちゃった?』
「ありえね」
職場の人間が聞いたら引かれそうだな・・・
私の言葉も態度も常に雑だった。
そんな様子をさっきまで話していた二人連れがチラチラと見ている。
・・・ムカつく、見せもんじゃねぇし。
「言い寄る相手から好きなの選べば良いじゃん」
毎回姑息な手段で呼出され、連れまわされていた私はイライラを隠すことなく言い捨てる。
そんな態度はいつものことと全く感じない様子。
肩に回した手に力を込め更に私を引き寄せる。
『簡単に手に入る物はすぐに飽きると思うよ。苦労して手に入れるから大事にできるんじゃん。』
唇が触れるんじゃないかと思うくらい至近距離で、もっともらしく言って反対の手で食べさせてもらえなかった出し巻きたまごを食べた。
彼越しに恥ずかしそうに顔を赤らめ、こそこそ話す彼女達が見えた。
・・・あぁ。向こうから見たらキスしてるみたいに見えんだろうな・・・
めんどくさいなぁ。
彼の肩を掌で押し戻し体を離す。
「彼女じゃね~し触んな」
向こうの彼女達に聞こえるように大きめの声で言ってやった。
女は物じゃねぇし!こいつやっぱり無理!
私の態度は益々冷ややかになる。

彼も一向に打ち解けない私にムキになっていたのだうけど。
強引に何度も誘われて、何度も口説かれるうちに最初の嫌悪感は薄れていった。
嫌われたい気持ちから何でも言いたい放題の私。
嫌われても平気だから本音をストレートにぶつけても怖くない。
元々馬鹿ではないんだろう、上手く私の無茶話に付き合ってくれた。
次第に「こんな男友達が居たら楽しいかも」位な気持ちになった頃。

何十回目かの『なぁ。いいかげん、オレと付き合えよ!』発言。
金曜の夜、お酒の入った私達。
「イヤ」
短く言い捨てる。
知り合って半年、何回お断りしただろうか。
懲りない人だ。
『何でだよ。最近は誘えばちゃんと付き合ってくれるし、ちょっとは良いと思ってんだろ』
「ムリだから」
『絶対後悔させない!』
「絶対って無いしっ」
畳み掛けるように言いすがるのをいつものようにあしらう。
もう、忘れる位何回も言われすぎて、どこまで本気か分からなくなってた。
「オレ凄いんだぜって言うヤツに限って大したこと無いのさ。
私は全てにおいて自分より上じゃなきゃイ・ヤ・な・の」
可愛げのない発言が定着していた。
彼氏になんてなったらイヤだ。
目の前で知らない子にチラチラ意味ありげに見られるのも、私がトイレに行った隙を突いて店員からアドレスの書かれたメモを貰うのも、とても耐えられない。
『縁があったらね~』
にこにこ愛想を振りまいていちおお断りする彼がそのまま誠実に感じられない。
私に見られてるからっていうだけの“誠実”アピールに思える。
そんな風に裏を読むなんてもうすっかり女の子になっていた。
恋かなぁ。。。
まんまとはまったんだろうか・・・
そんな気持ちを否定したくてその夜は結構飲んだ。
『相変わらずの女王様っぷりだなぁ。。。』
彼が寂しそうにつぶやいたが聞こえないふり。
ふぅっと短くため息をついて『帰るぞ』。
足元がイマイチな私を支え気味にタクシーを拾いアパートへ送ってくれた。
ものすごくいい酔い心地。
『おう。着いたぞ』
タクシーの中で起こされ、思わず「寄ってく?」
言ってしまった。
きっと飲み過ぎたんだ・・・
彼は黙ってタクシーに料金を払い、私を連れて階段を上る。
『鍵。』
短く要求され、バックから取り出し渡した。
『やっとこっから先に入れてもらえるな』
玄関に入った彼は“カチリ”鍵を掛けた。
ぼんやりとその行為を眺めていた私の靴を屈んで脱がしながら『後悔すんなよ』
そう言って見上げる顔は凄くやさしい。
そ知らぬ顔でリビングへ行くとお気に入りのクッションにドサッと座り込んだ。
革のひんやりとした感触が心地良い。
「飲み直すんなら冷蔵庫にビールあるし」
言いながらちょっとだけと目を瞑る。
同時に唇に暖かいものが触れた。
両腕を捕まれ逃れられないように固定され更に強く奪われる。
何か言おうと口を開けた瞬間舌が口内を貪る。
苦しくなって漏れる声。
捕まれた腕が痛くて仰け反るが離してはくれない。
ばたつかせた脚は彼の膝でぎゅっと押さえつけられた。
怒ってる。。。!
いつもチャラくておしゃべりな彼が一言も発しないのが余計恐怖心を誘う。
今上にのしかかっているのはこの半年の間キスもしなかった相手だろうか。
今日は何かまずいことを言ったっけ?
心当たりがあり過ぎて分からない。
イヤだ、怖い・・・怖い・・・
ポロンと一粒涙が出ると堰を切ったようにあふれた。
ぎゅっと目を瞑り涙を流すまいと力を込める。
どうして怒らせたのか分からない、いや、もうずっと怒っていたんだ。
だってあんなに言いたい放題した。
プライドを傷付けるような事も数え切れないほど言った。
自分を守りたくてムキになって何にも感じていないかのような笑顔に甘えていた。
「ごめん」と一言言えば彼は許してくれたのかもしれない。
でも、思い返すとそんな軽い一言でチャラになる程度の事だろうかと。
気が付くと、彼の唇が離れお互いの粗い息遣いが聞こえる。
そっと目を開けると、悔しそうに唇を結ぶ彼の顔。
『泣くほどイヤなら誘うんじゃねぇ!』
「!・・・ちが・・・んっ・・・」
違うとごめんなさいと言おうとした口を再び塞がれた。
言い訳をしたくて彼を押しのける両手を片手で捕まれ頭の上でぎゅっと押さえつけられる。
もう一方の手は性急に脚の間に割って入った。
内腿に指を這わされ、ビクッ、と体が反応する。
どう受け取ったのか一瞬彼の動きが止まり、パンストごと一気に下着を下ろされた。
ビリッという音が響く。
足首まで下ろされたパンストと下着が足枷の様に自由を奪う。
片手は私を押えつけ口を塞がれたまま今度はブラウスをたくし上げられる。
ブラの下から押し込まれた手は以外にやさしく確かめるように胸を揉む。
ぎゅっと捕まれるのを覚悟して硬くした体が少し緩む。
少しひんやりと感じる指が突起に触れくるくると弄られると子宮がじんわりする。
小刻みに体を震わすと、合わせていた唇を離し、『嫌われたもんだな』と冷たい視線を向けられた。
頭がいっぱいいっぱいの私は否定の意味を込めて首を振るが伝わらない。
『ココで止めるつもりは無いから』
唇が首筋を這い、片手で器用にブラウスのボタンが外される。
開放された唇は閉じていないと嗚咽が漏れそうで、何も言えない。
体は素直に反応していく。
首、腕、指先・・・
全てを味わう様に唇が移動する。
押えつけられた腕は痺れてもう力が入らずにいるのにそれでも、彼の気持ちを物語るが如くぎゅっと力を込められたままだ。
鎖骨の下辺りにチクンと痛みが走り、体が撥ねる。
胸の下、わき腹、骨盤へと口付け、舐め上げられ、時々チクンと痛みが起きる。
「やっ・・・あ、んん・・・つっん・・・」
結んだ口から耐え切れずに漏れる声。
誤解を解かないまま彼に触られる、切ない気持ちが募る。
体は彼の愛撫によって徐々に火照っていったが、彼は気付いているだろうか。
足元を拘束していた下着とパンストがするりと外され、彼の手が膝を割る。
内腿をするすると撫でながら付け根へと移動する指先。
割れ目に到達すると湿り具合を確認するように形に添って撫で上げられる。
私の体は益々敏感に反応し恥ずかしさで消えてしまいたくなる。
「や・・・だ・・・やめて」
震える息を抑えながらやっとの思いで言った。
彼は私を見ないで『やめね~』と言い。
グッと指を突き立てた。
思わず仰け反り、吐息が漏れる。
「ん!・・・ふぅん・・・」
反応を確認するように何度も内壁を擦られ、指が増やされる。
耐え切れずにまた涙が溢れ出しこめかみをつたって髪を濡らした。
十分に中を潤わしたと判断した指が抜かれ、カチャカチャとベルトを外す音がする。
「待って!お願い。私・・・」
言い出しにくく口ごもると『待たねぇ!』と一括。
自分のものをあてがうと一気に突き上げられた。
「・・・あぁ!!」
悲鳴に近い私の声にびっくりしたのか、彼の体は一瞬ビクッと止まる。

意を決したように奥まで腰を進める。
「ん・・・つっ・・・んぅ・・・」
苦しい吐息が我慢しきれずに漏れる。
『嘘だろ・・・』
独り言の様なつぶやきが聞こえ、繋がったまま私の髪を掻きあげ目を覗き込まれた。
さっきまでの冷たく怒りのこもった感情はもう無い。
戸惑いと、後悔が見える。
『なぁ・・・』
と言いかけて黙り、やさしく唇を合わせられる。
それに応じるように首を少し持ち上げ、痺れがまだ残る腕を彼に絡ませる。
彼は少し驚いた様子を見せ、そのまま私の求めに応じるように深く口づける。
繋がったままの彼が私の中で少し大きくなったのが分かる。
今度はそっといたわる様に腰を動かされると。
甘い吐息が漏れる。
「んっ・・・ふっ・・・んぅ」
体が熱くなっていくのが分かる。
彼にもそれが伝わったのか遠慮がちだった動きが段々とエスカレートしていく。
激しく煽られると気持ちよさに歯止めが効かなくなる。
「や・・・だぁ・・・んッ・・ぁ・・・まっ・・・てぇ」
必死にずり上がろうとする体を易々と押えつけられる。
ビクンと一回大きく撥ねた体が波打つように震える。
『イった?』
荒い息の間に彼が問う。
かぁっと顔が熱くなり、手で顔を覆った。
『ダメ。見せて』
くすっと笑いながらやさしく手を払われる。
そのまま続けられる行為にまた体が反応する。
何度目かの絶頂を向かえた時、彼も一緒にイった。

お腹の上に出した精子をティッシュで拭いた後、そっと割れ目を拭いてくれた。
余韻でぼんやりしていた私がビクンとすると、
『ごめん』
ふいに謝られ怪訝な顔を向けた。
手元のティッシュが赤く染まっている。
そうか。。。
まさかこんな事態になるとは思っていなかったから言いそびれたんだ。
『まさか、初めてって思って無かった。
最初入れたときものすごくきつくて違和感あって・・・でも、
俺のこともあんな簡単にあしらっておいてまさかって・・・』
そう言ってきゅっと口をつぐむ。
「ごめんね。」私も謝る。
但しびっくりさせたことに対して。
そして種明かしをしてあげる。
「人より狭いみたいなの。で、何ヶ月かそぉいう行為が無いと、また若干出血しちゃうの。
彼氏とダメになる度に苦労するんだよ。」
目をぱちくりさせる彼に思わずにんまり。
「だってこの年まで処女って怖いでしょ~」
『そうなのぉ?』
はぁ~っと安心したように脱力する彼。
話さなかった方が良かったかな・・・
暫くの沈黙があり、ぐっと引き寄せられた。
『なぁ。いいかげん、オレと付き合えよ!』
笑って頷いた。

いつもそんなパターンが多い。
自分の憧れる強い女性を演じる余り、誰に対しても過剰に強く出てしまい、引っ込みがつかなくなる。
本当は普通に力は弱いし、泣きたい時は一人でじゃなく誰かの胸で慰めながら泣きたいし、ピンク色に惹かれたりもする。
前例に違わず前カレの前でも「好き」の感情が生まれるとそれまでのツンケンした態度から女の子らしい反応が混ざり「こんなに甘々だと思わなかった」とうれしそうに言われた。

・・・好きだって言ってくれれば誰でも良いのだろうか。
誰かを好きになるたびに何度も思った。

今度は私の方から好きになりそうだな。
相変わらずの他愛も無いメールを打ちながら、思った。

でーと

あの日以来足が遠のいていた書店にいた。
私の横にはあいつがいた。
存在を確認するようにそぉっと横顔を見あげ、口元が緩みそうになって前に向き直る。

『あの書店その後行ってる?』
「あの日以来行ってないよ(泣)。 怖いし。」
『一人では行かない方が良いかもなぁ。』
「後ろばっかり気になって本どころじゃなくなるもの。」
『だろうね。男から見ても異常な感じだったし。』
「もう!そんな脅かされたら二度と行けないよぅ」
『大丈夫。付き添いしてあげるよ』

そんなお誘い?があり、会社帰りに待ち合わせた。
これから秋になるし、やっぱ編み物かな。
でも、まだ暑いうちにホラー小説かな。
少女漫画は今日はパス。
幼い~って思われたくないし・・・
などと思いながら二人で店内をうろうろ。
あいつはつ着かず離れず傍を歩いてくれる。
時折背の高さを活かして棚の上から店内を見回して不審人物をチェックしてくれていた。

通路を挟んで背中合わせに立ちお互い別のコーナーの雑誌を見ていたとき。
彼が急に密着してきた。
「ん?」
どうしたのかと顔を上げるが視線は少し先を見たまま。
腰に手を回して半分抱き寄せる様に囲われた。
『やっぱり居た。あいつホント(警察)突き出してぇ。』
視線の先には先日のおっさんがいた。
何をされた訳でも無いが嫌悪感で鳥肌が立った。
「これだけ買って出よう。」
“可愛いモチーフ”と書かれた編み物の本をぎゅっと握り締め小さな声で訴えた。
レジで会計を済ませ外へ出る。

本屋さんデート楽しかったのになぁ。
残念に思いながら車まで歩く。
「付き合ってくれてありがとね。」
『少しは役に立ったかな。』
「心強かったよぉ~おかげで本も買えたし。」
ちょっとデートも出来たし・・・と心の中で思いながら笑いかけた。
『もうちょっとゆっくりしたかったよね。』
それは社交辞令ってやつかなぁ。。。
でも・・・
「良かったら夕飯一緒に食べません?」
やばいきっと耳まで真っ赤だ、顔が熱い。
断られたら切ないけど。
ドキドキしながら誘った。
『良いよ~おなか空いたね。』
あっさりOKが出た。

彼はその場で『ん~・・・』と考え、『好き嫌いある?』と聞く。
誘ったは良いがノープランの私はとっさに「無いよ」と答える。
『俺チョイスで良い?』
こくんと頷いた。
『じゃ助手席どうぞ~』
ドアを開けて乗せてくれた。
ドキドキうれしくて笑顔になる。

10分位でお店に着く。
建物はおしゃれ可愛いちょっとアジアンな雰囲気。
ベルの着いたドアの横にはアルファベットではない・・・看板
アラビア文字って言うのかなぁ。
そこはお気に入りのインド料理店だという。
二人掛けの席に案内され、小さめのテーブルを挟んで座る。
店内は少し照明を落してあり、あちこちに置かれた雑貨やオリエンタルな雰囲気のタペストリーに影をおとす。
独特のスパイシーな香りがほのかに漂う。
ほぼ満席に近いが大人のお客さんが多いせいなのか割と静かだ。
彼の勧めに従って3種類のカレーとナンのセットを注文する。
彼と居ると少女のようにドキドキする。
反面・・・妙に落ち着く。
いつも自分のイメージ通りの「私」を崩すまいと頑張るのに、全くそんな気にならない。
かといってだらしない姿を披露するというわけではないけど。
いつになくふんわり自然体で居られる。
心地良く、自然に笑顔になる。
これは…マジで惚れたなぁ…。

インド料理店だけに、インド人なのかな?という顔立ちのウェイターが料理を運んできた。
カレーは日本のカレーとは全然違いさらさらのスープ状。
添えられたナンは1枚で顔よりも大分大きくびっくりしたが、もちもちとした食感につられてつい食べ過ぎてしまった。
「おいしかった」
満腹になり店を出る。
再び助手席に乗りシートベルトをする。
楽しい時間ももうじき終りだ。
『ちょっと寄り道して良い。』
「え?あっ・・・うん。いいよぉ。」
もうちょっと一緒に居られる、うれしい。
車は書店とは反対方向へ向かった。

「ゲーセン・・・」
着いたのはゲームセンターだった。
はっきり言って苦手だ。
子供の頃から社会人となった今に至るまでゲームと言うものに触れたことがほとんど無い。
小学生の頃などは仲の良い友達はクリスマスや誕生日に買ってもらったと聞きうらやましく思ったが、私はそれ以上に本が好きだった。
『食後の運動にね』
彼はそう言い中に入っていく。
見てるだけでも大丈夫だよね・・・
一通りふら~っと店内を見て歩き『やっぱこれだね~』と太鼓が二つ並んだゲーム機の前に立つ。
『ほら、おいで~』
いつものふんわり笑顔で誘われると断れない。
「ん~とぉ。多分全然出来ないよっ・・・」
隣に並びながら一応断るが、『大丈夫大丈夫。いっちゃん易しいのにするから』
言いながら二人分の小銭を投入。
『聞いたことあるのにしよ~』と選曲する。

「だぁ~もうダメだぁ」
1曲目は何とか最低ラインながらもクリアしたが2曲目で敢え無くゲームオーバーとなり恨めしそうに画面を見る。
彼はクリア出来て次の曲を選んで再びゲームスタート!
上手くリズムに合わせて得点が増えるたび自分のことの様にはしゃいだ。
それから食後のデザートだ!と言ってユーフォーキャッチャーのアイスを見事に落してもらい食べながら歩く。
広い店内の端に何台かプリクラが並んでいた。
一緒に撮りたいな~
と思うが言い出せない。
『初デート記念に撮ろ!』
ぐずぐずと言い出せない私の気持ちが伝わるのだろうか・・・
いつも思ったことを代わりに提案してくれる。
こころ・・・通じちゃってる・・・なんてね。
でも今、デートって言った?まぁ言葉のアヤってやつ・・・だよねぇ。

適当な台を選んで中に入る。
彼が楽しそうに背景を選んで撮影が開始される。
『こっち寄って』
ぐいっと引き寄せられぴったり隣に立つと背の高い彼が屈んで顔の位置を合わせてくれた。
パシャ!一枚目のシャッターが切られ。
機械から“次のポーズを取って~”と促される。
『じゃあ、こう』
後ろからすっぽりと抱きしめられ思わず振り返る。
「・・・!」
顔が大接近でびっくりした。
『ほら前見ないと頭だけちゃんになるよ』
慌ててカメラを見て笑う。
もう、もう、うれしすぎるぅ。

撮影が終り、落書きコーナーへ移動。
お互いに好きなように書き込む。
・・・日付、入れよう。
記念だもん。

コトンッ。
出来上がったプリを持って、カウンターの前のハサミを借りに行く。
半分こしながらプリを見ると、彼の落書きした部分に吹き出しで・・・
『めっちゃ好きゃねん!!』
ドキドキドキドキ。
深い意味は無いのかもしれないけど、めっちゃうれしいよぉ。
切り終えて半分を彼に渡す。
「はい。半分こしたよ。」
『うん。さ~んきゅ。・・・よく撮れてる。』
じっと見て満足そうに笑った。

書店まで車で20分。
雑談に興じながら、どうか次がありますようにと神頼みしてみた。

「私」はカッコ良い女子を目指し、回りから一線を画した女性。恋愛に一見ドライな彼女は本当は恋愛に夢を抱くが傷つきたく無い臆病な気持ちからなかなか本当の自分を出せない。 そんな彼女に気持ちを寄せる3人の男性との駆け引きを中心に綴ります。

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 成人向け
更新日
登録日
2013-01-30

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. それは突然運命のように
  2. メール
  3. 前カレ
  4. でーと