zoku勇者 ドラクエⅨ編 96
ラストバトル・堕天使
……待ってて、エルギオス……、此処で死んでも……、私はきっと
あなたを見つけだすわ……、あなたが何処に居ても、例え何年、
何100年掛っても、必ず……
「……ラテーナ……、そうだっ!アイツの思い、願い……、絶対に
無駄にしねえっ!絶対にさせるもんかっ!」
「何だと……?小僧っ!?……私が与えた怪しい瞳の呪いの眠りを……」
ジャミルは落ちて行く中、舌を噛んでエルギオスの呪縛を断ち切る。
一緒に墜落しそうになったダウドを助け、抱え上げると、再び空中へ
舞い戻る。其所へアルベルトも飛んで駆け付け、再び弓からギュメイの
長剣を手に、ギガスラッシュを叩き込んだ!
「はあ、はあ……」
「アル、サンキュー!けど、お前……、大丈夫か……?」
「まだまだ……、まだいけるよっ!」
「私の頬に……、又傷を……、良かろう、貴様らそんなに死に
急ぎたいか……、クク、クク……、やはり能の無い、呆れた
バカ共よ……」
エルギオスは切られた頬から流れ出る血を拭いながらほくそ笑む。
エルギオスの動きが少し止まっている……。ジャミルは今しか
ないと思い、エルギオスへ向かい、必死で呼び掛けた。
「……エルギオス、お前の大切な……、ラテーナの事だ、
大事な話があるっ!」
「ラテーナ……?何故、貴様がその名前を……、くっ……あ、
あああ……、ラテーナ、わ、私……は……」
「エルギオス……?」
「様子がおかしい……」
「一体何が起きているの……?こ、こうしちゃいられないわ、
私も行かなきゃ!」
心配そうに頭上を見上げていたアイシャも急いでジャミル達の
元へと飛ぶ。ジャミルからラテーナ……、の、名前を聞いた途端、
エルギオスが豹変し出す。顔を押さえ、とても苦しそうである……。
だが、ほんの少しだけ、天使であった頃の元の彼の表情が見え隠れ
し始めたのがジャミルに分かった……。
「ラテーナ、私は……、君を……、信じ……、……う、あああ……、
あああーーっ!?」
「……エルギオスっ!!」
「小僧共っ!邪魔をするなあーーっ!!」
「「……うわあーーっ!!」」
……エルギオスが再び錯乱、ジャミル達へと気弾を飛ばす……。
エルギオスは明らかに、何かを思い出そうとしていた。だが、
まるで妨害をされる様に、再び堕天使へと戻ってしまったの
だった……。いきなり攻撃を食らったダウドはびっくり、慌てて
目を覚した……。
「何なのさあ!今度は何が起きたのっ!!……あ、や、やだなあ、
ジャミルってば……」
「あ……、こ、この野郎!離れろっつーのっ!」
ジャミルは慌てて抱えていたダウドを突き放す。ダウドはブスっと
口を尖らせた。
「……ラテーナだと?そんな名前は知らんな、……私を裏切った
憎き人間の醜い女など、思い出すのも虫唾が走るわ……、汚らわしい……」
「……違う!それはアンタの誤解なんだ!ラテーナは今でも
ずっと……、おいっ!話を聞けよっ!!」
「……」
だが、エルギオスは押し黙り、瞑想に入ってしまう。この瞑想が
どれだけ恐ろしいか、ジャミル達はまだ分かっていなかった。
……そして、4人はエルギオスが目を覚した瞬間、最大の致命傷に
陥る程の恐ろしい事態に……。
「……その良く喋る無駄な口を塞いでやろう、二度と喋れんように……、
死ね……!!」
エルギオスがカッと目を見開く。その瞬間、4人は最悪、最大級の
マダンテを食らい、大ダメージを受け、揃って地上へ墜ちて行った……。
「……フハハ!フハハハ!今度こそ終わりだ!」
「……ジャミル、アイシャ、アル……、ま、まだ……、ううーーっ!
ベホマズンっ!!」
エルギオスの笑い声が響く中、絶体絶命の窮地に陥り、瀕死の
重傷を負った4人……。だが、ジャミルがダウドに最初に伝えた
通り、ここぞと言う時のダウドのベホマズンが皆を救う……。
けれど、これでダウドはMPをほぼ失う事に……。頼みの綱の
魔法の聖水も、もう既に手元に無い。
「ダウド、助かった……、マジでありがとな、オメーが完全に
やられてたら俺らももう終わりだったよ、良く頑張ってくれたよ……」
「ジャミルうう~、で、でも……、これでオイラのMP
尽きちゃったよお、後はもう何も出来ない只の役に立たない
ヘタレだよお~……」
「……ダウドのバカっ!何言ってるのよっ、私達、仲間じゃないのっ!
もうっ!今度そんな事言ったらっ!!」
「ほーい!」
「うふふ、うふふ~……♡」
「……わああーーっ!?も、もう言わない、言わないよおーーっ!!」
ジャミルは指で宙をピンピン弾き、アルベルトはスリッパの
準備をする……。仕置きをされるのにびびったいじけダウドは
慌てて口を慎んだ……。
「よしよし、それでいいんだ、最後まで頑張ろうぜ、な?」
「うう~、わんわん……、ぐすん……、ん……」
ジャミルはダウドの頭をぐしぐし撫でて励ます。決して弱音を
吐かなければジャミルもアルベルトもアイシャも、必ず支えて
くれる。だが、MPを失ってしまい、自分もこれからどうやって
皆を支えれば良いのかと……、心苦しい気持ちで一杯だった。
「……ほう、捨て身の魔法で味方を復活させたか、やはり相当
しぶといな、貴様ら……、その嫌らしさとバカな根性だけは
認めてやる……」
「……エルギオスっ!!テメエっ!!」
エルギオスは翼をバサバサ、上空から4人を見つめている。
ダウドが必死でHPを全快してくれたとは言え、早く
エルギオスを倒さなければ結局は同じ事。だがやはり、
ジャミルには迷いがあった。ラテーナの気持ちを考えた上……。
「ジャミル、本当に奴にはもう何を言っても通じないよ、分かるだろ?
食うか食われるかさ、決断しなければ……、エルギオスを倒すか、僕らが
先に力尽きるか……」
「ジャミル……」
「くっ……」
アルベルトの言葉に、ジャミルは上空のエルギオスを見つめる。
アイシャも心配そうにジャミルを見ている……。此処で倒れたら
今までの苦労が全て水の泡になってしまう。最愛の師匠を心から
心配し、散って行ったイザヤール、カデスで命を落とした仲間達、
ボン……。そして、伝説の装備を託してくれたカナト、これまでの
旅で出会った大切な仲間達、モン、リッカ、天界の皆……。皆が平和で
幸せに暮らせる世界を取り戻す事。それが今の4人の使命……。
「……エルギオス……、漸く見つけた……、やっと、やっと
あなたに会えた……」
「……ラテーナっ!!」
突如聞こえて来た声にジャミルは叫び声を上げた……。何と、
現れたのは、ラテーナ本人だったからである……。そして、今回……。
「ジャミル、あの人が……、ラテーナさんなの……?」
「……え、ええ?」
「僕らにも見えるよ、フードを被った女の人が……」
「う、うん……、オイラにも……」
「見えるのかっ、ラテーナがっ!!」
アルベルト達はこくりと頷く。皆も天使化として翼が生えたから
なのか……、今回初めてラテーナ本人の姿を目にする事となる。
だが、驚いている暇はあらず、ラテーナは堕天使と化した
エルギオスに近寄って行ってしまうのだった……。
「ラテーナっ、危ねえっ!そいつはもうお前の知ってる
エルギオスじゃねえ!……よせーーっ!!」
「薄汚い目狐が……、何をしに来た……」
「……エルギオス、やっと、やっと……、ああ……」
……ラテーナ……、や、めろ……、うう……
「……感じる、あなたの中に本当の彼がいる、どうか話をさせて、
お願い、どうか……」
「ラテーナ……、あんた……」
「知らんと言っている、残念だったな、私は私、正真正銘の
エルギオス、この世界の神となる者……、他の何者でもあらぬ、
……良かろう、それ程までの願いならせめてもの情け、貴様を
我が力に取り込んでやろう……!クククク……」
……ラテーナ……、逃げ……ろ……、来る……な……
「あ、あああ……、エルギオス……、聞こえる、あなたの本当の声が……、
何所に、何所にいるの……?会いたい、今度こそ……」
「……危ねえっ!!」
間一髪、ジャミルが飛び出し、ラテーナを救う。既に幽体であり、
実体を持たない筈の彼女を抱えて救出出来たのは、やはり天使の
力がまだ残っているからだった。ジャミルはラテーナを抱え、皆の
元へと飛ぼうとするが……。
「ジャミル、有難う……、ご免なさい……、迷惑を掛けてしまって……」
「……それはいいんだけどさあ、ったくっ!アンタも相変わらず
無茶すんなあ!」
「おのれ、小僧……!何所まで邪魔をするかっ!……うおおーーっ!!」
「うるせーんだよっ!俺もラテーナと話があるんだっ!少し大人しく
してろっ!!このっ!この野郎!!」
エルギオスは又気弾を発射して来るが、ジャミルはラテーナを抱え、
彼女を守りながら伝説の剣で弾を必死に撃ち返す。……その内の
一発がエルギオス本人に跳ね返って命中、エルギオスは吹っ飛んで
行った……。
「うおっ!……き、貴様アアアーー!!」
「やりっ!ざまあみろっ!」
ジャミルは漸く地上にいる仲間の元へと降り立つ。エルギオスが
吹っ飛んでいる間にラテーナの事をどうするか、皆に相談しないと
いけなかった……。
「皆、ラテーナだよ、あんまり時間ねえんだけど……ラテーナ、
色々あって、今回、俺らのダチもあんたの姿が見える様に
なったんだよ……」
「初めまして、ラテーナさん、僕はジャミルの仲間のアルベルトです……」
「オイラ、ダウドです……」
「私はアイシャです!」
「皆さんはジャミルのお仲間の……、私の姿が見えるのね?
嬉しいわ……、でも、ジャミルの言う通り余り時間が無いの、
お願い、私のお願いを聞いて下さる……?」
ラテーナは切なそうに堕天使エルギオスが君臨する上空を見上げた……。
「あの堕天使の中に本当のエルギオスの魂が封印されている、
心を閉ざしてしまった彼の……、やっと、やっと見つけたの、
私、エルギオスを助けに行くわ、今度こそ会いたいの、私が
堕天使の中に入っているその間、ジャミル……、どうか堕天使を
食い止めていて欲しいの……」
「ラテーナ……、だけど……」
ラテーナはジャミル達の方を真剣に見つめている。だが直ぐに
返事を返す事は出来ず……。
「それは……、ラテーナさんにも危険が伴うと言う事です、それに……、
今の僕らの力でも太刀打ちするのが本当に精一杯なんです、エルギオスは
強い……、ラテーナさん、あなたが助けたい、本当のエルギオスの魂を
救出する前に、もし……、僕らが敗れれば、その時は……、あなたも……」
アルベルトの言葉にその場にいる全員が押し黙る……。ラテーナの
気持ちも、ジャミルを始め、皆が分かっている。しかし、迷う暇無く、
決断を迫られる事に……。
「……貴様、よくもやってくれたな、今度こそ許さん、絶対に全員
血祭りに殺し上げてくれる……!」
「ああっ!?……エルギオス……、エルギオス……!!
……ご免なさい、ご免なさい……、あなたは何も悪くないの、
あなたがああなってしまったのは全て私達、人間の所為……」
「ラテーナさん、落ち着いてっ!危ないわっ!!」
アイシャが必死でラテーナを押さえる。エルギオスと話が
したい……。堕天使を見つめるラテーナのその瞳には涙が
浮かんでいた……。
「うわあー!来ちゃったよおおーー!!」
「早ェェってんだよっ!こうなったらっ、俺らも命懸けで
此処まで来たんだ!ラテーナ、アンタの覚悟は受け止めてる!
……俺達も最後まで戦うさ!」
「ジャミル……?」
「……俺らがエルギオスを食い止める、ラテーナ、アンタは
その間にアイツの中へ!本当のエルギオスの魂を探しに行くんだ!」
「……そうだね、もう一度立ち向かおう、ラテーナさん、此処は
僕達に任せて!」
「でも、オイラMPが……、もう……」
「大丈夫よ、ダウドっ!忘れてたわ、これっ!」
「あ、ああっ!?」
アイシャは道中で手に入れた、MPを全回復するエルフの飲み薬、
一度だけPT全員のHPを全回復出来る世界樹の雫をダウドに渡す。
これで、又勝利へのチャンスが貰える。ドケチメンバーはこれらを
手に入れたのをこれまで絶対に使わず、只管保管していた……。
「ジャミル、世界樹の雫……、これ、オイラが使っていいの……?」
「ああ、もう最後だしな、ケチるのは終わりだ!使ってくれ!」
「よ、よおおーし!これでオイラも大復活うー!お役に立てますーーっ!
行こう!!」
「よしっ!さあ行くぞ、皆!ラテーナ、頼んだぜ!」
「ええ、有難う、ジャミル、皆さん……!」
「……死ねェェーーっ!!」
「まだまだっ!負けられっかあーーっ!!」
ジャミル達は再び堕天使エルギオスに向かって翼を広げ、突撃……。
ラテーナはジャミルに心から感謝し、ある物をそっと取り出す。
それは、エルギオスから貰った大切な首飾り。ラテーナは堕天使
エルギオスに向け、首飾りをそっと翳し、静かに祈りを捧げる。
「エルギオス……、あなたから貰った大切な宝物……、この首飾りが
私をあなたの元へと導いてくれる、どうか、お願い……」
ラテーナの身体が光り出し、堕天使エルギオスの中へと
吸い込まれて行った……。
「ラテーナ、行ったんだな……、俺らはアンタが無事に戻って
来るまで、コイツを止めとくだけだっ!」
「何をブツブツ言っている!フハハ!遂に私に怖じ気づいて
錯乱したか!命乞いしても今更もう遅いわ!貴様らに
残されているのは死への道あるのみ!」
「うるさいっ!誰が命乞いなんかするかっ!見てろっ!」
「私達、絶対に諦めないわ、最後までっ!」
「ラテーナさん、あなたの気持ち、確かに僕らは受け取りました!」
「……責任重大なんだよお!オイラ達も、ラテーナさんもっ!
それぞれが皆、大切な思いのバトンを受け止めて繋いでるんだっ!」
……何百年に渡る愛と悲しみの戦いが今、本当の終止符に向け、
動き出していた……。
「……無駄だと言っている!バカ共めが!何故食い下がるっ!!
この私にひれ伏せ!お前達は絶対に私に勝利する事は不可能、
素直に敗北を認めよ!!」
「うるせー!絶対に諦めねえんだよ、絶対にっ!」
「そうよ、私達、別名相当しつこい4人組なんだから!」
「……おいおい、あのなあ~……」
「フン、何を企んでいるのか知らんが……、……」
「……ああっ、瞑想に入るっ!皆、食い止めなくては!」
「又マダンテやられたらたまんないよおーー!!」
絶対に、マダンテは食らうまいと、4人は全力でエルギオスへと
突っ込む。だが、やはり駄目だった……。最初よりも瞑想から
マダンテに入る勢いが早くなり、全員再び致命傷を負い、地上へと
叩き落とされ落下して行った……。
「畜生……、結局……、こうなんのかよ……」
「ハハハ!フハハハハ!」
「……ううーーっ!ベホマズンだーーっ!!……も、もう……
勘弁して……」
墜落する前にダウドのベホマズンが窮地を救う。しかし、もう
HP回復出来る手段はダウドのMPが完全に尽きれば後一つ。
最後の切り札、世界樹の雫しか残されていない。……無事に
ラテーナがエルギオスの魂を救出出来たとしても……。その後、
完全に堕天使に止めを刺し消滅させなければ戦いは終わらない……。
「……ラテーナ、頼む、頑張ってくれよ、俺らが何とか戦える内に……、
くっ……」
「……エルギオス、エルギオス……、何所なの?何所にいるの……?」
堕天使の体内へと侵入したラテーナ。真っ暗な中、大切な首飾りを
握り締め、只管願う。どうか、どうか……、エルギオスの魂に
会わせて欲しいと……。
「急がなければ……、このままではジャミル達まで命の危険に
晒す事になってしまう、そんなの駄目、私の我侭の為にもう……、
誰も、誰も悲しい目に遭って欲しくない……、あ、ああっ!?」
突如、ラテーナの持っていた首飾りが光り出し、周囲を照らす。
感じる……、彼の気を微かに感じると……。
「エルギオス……、エルギオス……」
体内が明るくなり、周囲が見えると其所は……。ジャミル達が
道中通って来た、内蔵系ダンジョンと同じ、普通の人間なら寒気が
する程の血管で覆い尽くされた場所だった。
「この血管、まるで生きているみたいだわ……」
ラテーナは構わず、エルギオスの魂の気を感じる方向へと只管
導かれて行った……。
「あれは……!」
通路の行き止まりに置かれた巨大な心臓……。不気味な程の量の
毛細血管に包まれている。その血管を前にした途端、ラテーナの
持っている首飾りの輝きが最高に強くなった……。
「エルギオス……、其所に、其所にいるのね……?やっと、やっと……」
「ラテーナ、あれだけ……、来るなと……、頼む、もう……、
これ以上私を……、どうか苦しめないでくれ……」
心臓の中から微かに聞こえる弱々しい声……。間違いなく、ラテーナが
長い間探し求めていた本当のエルギオスだった。ラテーナの目から
止め処なく涙が溢れた。
「エルギオス、待ってて、今そっちに行くわ、あなたを助ける……、
きゃ、きゃっ!?」
「ラテーナっ、……逃げろっ!その血管は……君を取り込んで
消滅させてしまう!!」
周囲から大量の血管が伸び、ラテーナを取り囲み捕獲……。血管に
包まれ身動き出来なくなっても、彼女は必死にエルギオスへと
呼び掛けるのだった……。
「エルギオス……、私、どうしてもあなたに謝りたかった、あなたへ……」
「ラテーナ……」
「私達人間の所為で……、数百年、あなたに悲しくて辛い思いを
させてしまった……、私はあなたに私達人間が犯した過ちを、
どうしてもずっと謝りたくて……、でも、でも……、これだけは
本当なの、……私は今でも……、あなたを……、あ、ああ……、
エル……ギオス……」
「……ラテーナあああーーっ!!」
ラテーナの声が聞こえなくなり、完全に血管へと取り込まれた……。
エルギオスの絶叫が体内に響き渡る……。直後……。
「私は、今まで……、一体何をォォーーッ!ウォォーーッ!!」
心臓の外観をぶち破り、本当のエルギオス、復活……。血管に
包まれて行くラテーナを、彼女を取り込んでいる血管を必死で
切り裂き、ラテーナを救出するのだった。
「ラテーナ、ああ、君は……」
「エルギオス、エルギオス……!」
2人は頑なに抱き合い、長きに渡った300年間の再会を
遂に果たす……。
「私の方こそ……、許してくれ、ラテーナ……、君が裏切ってなど
いない事を、本当は分かっていた、だが、憎悪に包まれ、誰も何も
信じられなくなった私の気持ちと制御出来なくなった力が錯乱し、
暴走し……、あの様なもう1人の異形の怪物となった私を生みだし……、
世界を破滅させる事態にまで至ってしまった……」
「有難う、エルギオス……、戻りましょう……、ジャミル達が今、
必死で……、私達の為に堕天使を食い止めて戦ってくれているの……」
「ああ、急ごう……!」
ラテーナの首飾りが光り出す。ラテーナとエルギオスはその輝きの
中に包まれるのだった。……2人、強く抱き合ったままで……。
「今度こそ完全に終わりの様だな、その坊主小僧も虫の息の様だ……」
「ジャミル、アイシャ、アル……、ごめん、ごめんよ、オイラ……」
「いいんだっての……、俺達、此処までやるだけやったんじゃ
ねえか……、けど、もう勝てねえかも知れねえのが悔しいな……」
一方、外では遂にジャミル達が追い込まれていた……。回復役の
ダウドのMPは既に無く、HPももう風前の灯火、世界樹の雫も。
……限界だった。次にもう一度、マダンテを食らえば確実に完全に
全滅状態だった……。
「ラテーナさん、エルギオスさんに会えたのかしらね……」
「そうだね、僕らが此処で力尽きても……、せめてラテーナさんには……、
願いを叶えて欲しいね、これまでずっと……」
「……散々辛い思いをしてきたんだからな……」
「あの世への旅立ちの前の祈りは済んだか……?雑魚の割に……、
ククク、これまで良く頑張ったな、褒めてやる……」
「……っく……、畜生……」
ジャミルは仰向けになったまま、肩で荒く息をし、瀕死の状態で
エルギオスのいる頭上を見上げた。悔しくて仕方が無かった……。
だが、其所でジャミルは又新たな光景を目撃する……。
「……!?ラテーナ……?それに……」
「ジャミル、アルベルト、ダウド、アイシャ……!遅くなってしまって
ご免なさい……!!」
「貴様……、ぬけぬけと……、雲隠れしていたイジケ虫が今更戻って
来たのか……?」
「……私……、は……」
堕天使エルギオスの前に現れた人物……。ラテーナを抱いた本当の
エルギオス本人だった……。
「……良かったな、ラテーナ……、やっと……、会えたんだな……」
「ジャミル……!皆……!ご免なさい、ご免なさい、酷い怪我……、
こんな事になってしまって……、ああ……」
「……済まない、私達の所為で……!!」
「いいって、それよりも……、もう此処は危ねえよ、早く逃げろ……、
漸くあんたらやっと会えたんだろ……?急がねえと、……このままじゃ
魂まで吸い取られちまうよ……」
「ジャミル……」
ラテーナの溢した涙が地上へと落ちる……。漸くラテーナは
エルギオスと再会を果たした。だが、2人が会えたのは、皆が
命懸けで守ってくれ、支えてくれていたお陰……。瀕死の
ジャミル達をこのままにしておける筈が無かった……。
「ハハハ、丁度良い、私への貢ぎ物が増えたか!このまま貴様らを
全員、我が力へと取り込んでやろう!!」
「黙れ……!お前は私自身……!自分自らが生んだ不祥事、
不始末はこの手で……!私自身の力で厄災を始末する……!」
「……エルギオス……?」
「ラテーナ、此処は私に任せて……、君はジャミル達の側へ行くんだ……!」
「……エルギオス、あなたまさか……!!」
エルギオスはラテーナの顔を見、微笑む。それは2人が出会った
時と同じ、天使だった頃の面影がある、優しい顔……。
「……君は来世で生まれ変わり、今度こそ幸せを掴まなくては……、
その為に、私はこの身を投げ捨て、戦う……、大丈夫だ、皆が
安心して暮らせる平和な世界を創ってみせる、今度こそ……」
「エルギオス……、よ、よせっ!……う、ううっ……」
「……嫌、嫌……、エルギオスっ!生まれ変わる時は2人とも
一緒よ……!もう、もう……、二度と離れたくない……、一緒に
連れて行って……!」
「……駄目だ!ジャミルの言う通りだ、このまま私と一緒に
いれば……、ラテーナ、君と言う存在自体を魂ごと消されて
しまうのだぞ!そうなれば……、もう二度と生まれ変わる
事も不可能になってしまう!」
「……エルギオス……、あ、ああっ!?」
「ラテーナ、はや、く……」
「……エルギオーースっ!!」
エルギオスがラテーナを突き放す……。その瞬間、エルギオスは
堕天使の放ったジゴクスパークに撃たれ、地上へ墜ちて行く……。
「どうだ!自分自身にやられる感傷は?貴様はやはり負けたのだ!
私こそ本物のこの世界の神エルギオス!偽物に本物が負ける筈が
ないのだ!」
「ま、また……、私の、私の所為……、今度こそ、今度こそ……、
やっと会えたのに……」
「……ラテーナああーーっ!エルギオスーーっ!!」
ジャミルは動けない身で力の限り2人に向かって叫ぶ……。
ショックを受け、墜ちていくラテーナ、そして、エルギオス……。
「……アル、アイシャ……、ダウド……、ラテーナ……、
エルギオス……、今度こそ、今度こそもう……、俺達……、
駄目なのか……?」
「……バカっ!何気弱モードになってんのッ、アンタはっ!?」
「ジャミル、しっかりするモンっ!!」
「この声……、……!?」
聞こえて来た声に目を開けると、其所にいたのは……。
「……サンディっ、モンっ!」
「シャーー!!」
避難した筈のサンディとモンだった。モンはもうすっかり元気に
なっており、再び、サンディと一緒に皆の元へ駆け付け、戻って
来てきてくれたのである……。
「モン、サンディっ!お前らっ!何で戻って来たんだっ!危ねえ
だろうがっ!!」
「モンちゃん?……サンディ……?」
ジャミルの罵声に、重傷のアイシャもうっすら目を開く……。
アルベルト、ダウドも……。
「どうもアンタらだけじゃアブナイっかしいじゃん!最後ぐらい、
皆で見守ろうって話になってさ、ホラ!み~んな、来てくれたんだよ!」
「「……ウシャーー!!」」
「……うわ!?」
モンだけではない、其所には大量のマポレーナ集団が……。
長老マポレーナを始めとし、皆も応援に駆け付けてくれたらしい……。
「ジャミル、皆!モン達、ず~っとず~っと一緒!お手伝いに来たモン!
マポレーナの皆も手伝ってくれるって!皆にモン達の力とエネルギーを
送るモン!」
「ウシャシャ、ウシャー!」
長老マポレーナが頷いている。モンを始め、又危険な場所まで
戻って来てくれたマポレーナ達の気持ちに4人は胸が熱くなる。
だが……。
「ウッシャ、シャーー!(皆の者、傷付いた仲間達に我ら
マポレーナの力と勇気を送るのじゃ!)」
「「シャーー!!」」
「これは……?力が沸いてくる……、身体も癒やされてる……」
「モンちゃんやマポレーナさん達の皆が……、私達に……」
「あったかいよお~……」
「モン、皆……、本当に有難う……」
「シャー!(皆の者、もっともっと力を込めよ!)」
「「……モォォーーンっ!!」」
「何をしているかと思えばっ!そうか、雑魚モンスターの
マポレーナ達ではないか、そうか、この私を裏切るのか、
良かろう、見せてやろう、裏切り者の末路を!!」
「も、もう少しみたいだ……、あ、ああっ!?」
「モンーーっ!?」
「……お、おじーちゃんっ!!」
「……モギャーー!!……モ、モォォ……」
「……フハハ!見たか、これが哀れな裏切り者の惨めな最後だ!」
エルギオスの撃った気弾の一発が……、長老マポレーナの身体に
命中する……。しかし、長老マポレーナは構わず立ち上がり、
痛みを堪え、このまま力を送るのを支持し続けた……。だが、
指示を続けた直後、ばったりと倒れてしまう……。それでも、
倒れたまま、長老マポレーナは皆へと声を絞り励まし続けた……。
「……モ、モギャ、モギャギャ、ギャー!(……皆の者、手を緩めるで
ない、もう少しじゃ!)モ、モォォン……、モン……、モ……」
「……爺さんーーっ!!もう止めろ、止めてくれーーっ!!」
「お爺さん……、ごめんなさい……、私達の為に……」
「こんなのって……ないよお……」
「う、ううう……、くそっ……」
「モ、モン……、皆……、あと少しモン、堪えるモン……、
頑張るモンーーっ!!」
「「ウッシャーーっ!!」」
長老マポレーナは遂に動かなくなった。モンは涙を堪え、倒れた
長老マポレーナの代わりに皆へと声を出し、力一杯励まし続けた。
悲しみの連鎖は広がって行く……。
「ちょ、おじーちゃん、ヤダ、やだよこんなの……、しっかりしてよ、
ネエ……、お願い、生きて……、モンや皆の為に……、あと、あと
少しであの悪いエルキモすは、きっと……」
「……モ、モォ……」
長老マポレーナは最後の力を振り絞り、震える身体でサンディに
自分の言葉を伝えようとした……。
「モン、モン……、モシャ……モシャシャ……(妖精の娘さん、
悲しむ事はない、儂はもうどの道、この先老い先短い命……、
長生きし過ぎたわ、……未来あるあの若者に儂の命を託せた、
それだけでも……、後悔はないよ……)」
「おじーちゃん……、ひっく……」
「……モギャ、モン……(儂の魂は……、……モン、これからは
いつもあの子の中で共に生き続ける……)」
サンデイが必死で励ます中、長老マポレーナの身体はどんどん
冷たくなって行き……。
「……も、戻った!HPが全部……、それに前よりも力が増してる……!?」
「わっ、MPも全部回復したみたいだよお!」
「……これでもう一度戦える!……皆!」
「ええっ!行きましょう、マポレーナさん達の思い、無駄に出来ない!」
「こ、これで……、モン達のお仕事は終わったモン……、後は、
ジャミル……、アルベルト、ダウド、アイシャ……、どうか、
どうか……お願いモン……」
「「ウギャーー!!」」
カオス顔でモンとマポレーナ達は声を揃える。だが、その目には皆
涙が浮かんでいた……。
「モン、……皆っ!今度こそっ、全軍大突撃ーーっ!!」
「「うわああーーーっ!!」」
ジャミルと仲間達はもう一度、堕天使エルギオスへ……。
今度こそ、今度こそこの戦いを終わらせると……。絶対に
もう誰も死なせないと……!
「ジャミルっ、バイキルトよっ!」
「サンキューっ!……こんにゃろおおーーっ!!」
「……成程、明らかに先程よりも勢いが増しているな、そのクズの
クソにも役に立たん知能犯モンスターを殺された怒りとやらから
来ているのか?それは面白い!」
「……違うっ、お前には分からないっ!絶対にっ!!」
「……クソなのはアンタだよおーーっ!!」
「皆がいてくれるから……、私達は頑張れるのっ、例え挫けそうに
なってもっ!」
「そうか……、ならば……、お前達のその力、もっと誇大させて
やろう、喜べ……!もっともっと強くなるがいい!」
「……モ、モォ~ン?」
「あ、ああ!しまっ……モンっ、皆っ!逃げろおおーーーっ!!」
堕天使は更にジャミル達に怒りを覚えさせるつもりなのか、
モンを始め、残りのマポレーナ達を狙い、攻撃する……。
これではもう救出にも間に合わない……!
だが、其所に一筋の光が……。
「やったか?ククク……、お、お前は……」
「久しぶりだな、ウォルロ村の守護天使、ジャミルよ……」
「まさか……、その呼び方……、イザヤール……なのか……?」
「!!!」
「本当に……、立派になったな……」
突如現れたイザヤール、間一髪で結界を張りモンとマポレーナ達の
危機を救う……。救われていたのはモン達だけでは無かった。
イザヤールの側には……。エルギオスとラテーナの姿も……。
「イザヤールっ!ま、マジで助かるっ!け、けど、何で……?」
「イザヤールさんが……!」
「来てくれたのねっ!」
「す、凄いや……」
「……貴様……、よくも……、余計な事を……、許さぬ……!」
堕天使は更に目つきを鋭くイザヤールを睨み、動きを止めた……。
だが、イザヤールは微動だにせず静かに堕天使へと語り掛けた。
「……黙れっ!師匠を侮辱する偽物めっ!お前が蔓延るのも
これまで!間もなくお前は必ず消滅するであろう、……この、
英雄達の手によって……」
「……イザヤール……」
ジャミル達は急いで一旦イザヤール達の元へと。イザヤールは
ジャミルに向かって笑みを見せた。
「自らの罪をどうしても償いたい、そして、師匠を救いたい……、
その無念の想いが……、私の魂を此処まで導いてくれた……、
ウォルロ村の守護天使ジャミル、そして、その仲間よ、本当に
良くこれまで師匠を守ってくれた……、立派になったな……」
「へ、へへ……、けど、その呼び方、よせってば!ったく、けど、
あんまりもうマジで時間ねえな、んじゃ、イザヤール、エルギオスと
ラテーナとモン達を頼んだぜ!」
「任されよ!……師匠、長い時を越え……、漸くあなたに巡り逢う
事が出来、このイザヤール、冥利に尽きます、此処はこの私の魂
ある限り、師匠達をお守り致します……!」
「……イザヤール、私の方こそ……、長い間、心配と天使界の
皆にも迷惑を掛けた事、本当に済まなかった……」
「……師匠……」
イザヤールはエルギオスに恭しく頭を下げ、エルギオスもイザヤールに
長い間の想いを伝え、心からの謝罪をする。2人の再会を見守っていた
ラテーナはそっと、溢れてくる涙を拭った……。
「……おのれ……、どいつもこいつも……、何所までこの最強の神を
侮辱するのか……!良いであろう、貴様らをこの私の中に纏めて
取り込んでくれよう……!」
「ジャミル、皆の者、頼む、どうか……、この戦いに必ず勝利を……!」
「……済まない、英雄達よ……!」
「ジャミル、皆さん……、信じています、どうか……、悲しみの
戦いを断ち切って……」
「……絶対、勝ってね、約束だかんネっ!」
「モン、みんな……、ずっと、ずっと……、モン達は友達、みんな
みんな一緒モン!」
「「シャアーー!!」」
……イザヤール、エルギオス、ラテーナ、サンディ、モン、
マポレーナ達……、皆、皆が4人の勝利を信じ、見守って
くれている……。ジャミル達に新たな力と勇気が沸く。
「これで……、マジで終わりにするんだ、……皆っ!!」
「「了解っ!!」」
ジャミル達は自分達のそれぞれの武器を突き合わせ天に向かって
高く掲げる、必ず、きっと、絶対に勝利を信じて……。
「我々も……、皆に、どうか力を……!」
イザヤール達も静かに祈りを込め、ジャミル達に力を送る……。
皆の想いの祈りの力が一つとなり、想いはジャミルの伝説の
剣へと飛んで行った……。そして、堕天使も……、最後の
瞑想が終わり、最大級の破壊マダンテを放出する……。
「くたばれえーーっ!雑魚共がァァァーーッ!!」
「……絶対に負けるかああーーっ!!」
「「いっけェェーーーっ!!」」
「モォォーーンっ!!」
「……!?そ、そんなバカな……、こ、こんな、事、が……」
皆の想いを込めた伝説の剣の一撃が……、マダンテを打ち破り……、
遂に堕天使の身体を貫き、姿が徐々に歪んで行った……。
「……この、私が……、バカな……、神が……、敗れる、など、と……、
ォォォォーーッ!!……おのれェェェーーッ!!」
「……っ!」
凄まじい爆風、衝撃がその場を襲い……、地獄の断末魔の中で
堕天使が消滅して行く……。遂に長き戦いに打ち勝ち、終焉を
告げる時が来たのだった。
zoku勇者 ドラクエⅨ編 96