きみが教えてくれたやさしさ

つよい風が吹き荒れる、さむい日。
何枚もようふくを着てあるいていたのは、いっぴきのオオカミでした。
さむいのに『さむくない』と言ったりして、なかなかすなおに言えません。
気がつけば、いつもおこってばかり。
そのせいか、オオカミはいつも、ひとりぼっちでした。
『オレにはなにもいらない、やさしさなんて、ちっとも必要ない。』
それが、オオカミのくちぐせでした。

森のおくでは、どうぶつたちが、寒さをしのぐため、
たき火をしていました。
『いえの中もあったかいけれど、こうして火にあたるのは
　あったかいね、みんながいると、なおさらあったかいよ。
　夜ごはんは、なににしようか。』
　そう言って、にこにこしているのは、きつねです。

そんなときです。
ばたーーーん！
とつぜん、おおきな音がしました。
みんながふりかえると、オオカミがころんでいました。
たち上がるにも、ようふくを着すぎていて、うまくたち上がれません。

『だいじょうぶ？』すぐにかけ寄ってきたのは、おおきなぞうでした。
すなおになれないオオカミは、
『いたくない、ころんでない、さむくもないんだ、だからほっといてくれ！』

いつものようにつき返します。

『でもけがしているよ。とてもいたそうだ。
それに、おきあがれないんじゃないの？
だれかのたすけが必要なときは、手をつかむこともたいせつだよ。』

手をさし出すゾウに、オオカミはいいます。

『助けなんて、いらない。自分でなんとかする。
　やさしさなんていらないと、いつも言っているだろう？』

森のどうぶつたちはしずかに、見守っています。

『オオカミくん、きみはやさしさを知らないだけだ。
だから必要ない、なんて言えるんだよ。
ぼくは、やさしさをもらってきた。
そのやさしさをくれたどうぶつがいなければ、
ぼくはここまであるいてこられなかったかもしれない。
だから、そのやさしさをきみにおしえたい。
やさしさってね、だれかを想うこころだよ。
ぼくは今、きみを想っている。
傷つくと、前へすすむことがこわくなる。
そんなとき、やさしさは前へすすむおてつだいをしてくれるんだ。
ぼくはそんなきみの、おてつだいがしたい。
きみは、傷ついているんだ。
傷ついているって、いたいんだ、って、たすけて、って
言っていいんだよ。
ほら、手をだして。』

ぞうのさし出した手を、オオカミはおそるおそるつかみました。

ゾウはつづけます。

『オオカミくん、やさしさを知っていればね、
きみはどんな場所でもあるいていけるんだ。
どこにいようとも、つらいきもちになろうとも、きみのこころを守ってくれるよ。
やさしさはきえないから。
こころにのこり続ける、とっても、とってもあたたかいものなんだ。』

『ほんとうだ、あたたかいな。
きみのぬくもりを感じるよ。
やさしさをおしえてくれてありがとう、ゾウくん。』
やさしさを知らなかったオオカミはやさしさを知って、
はじめてやさしくなりたい、と思いました。

『こっちに来ればもっとあたたかいよ！
おいでよ！いっしょにお話ししようよ、そこはさむいでしょ？』
きつねが呼びかけます。
森のみんなも、てまねきをしています。

『ほんとうは、すごくさむかったんだ』
オオカミは勇気をふりしぼって言い、
ゾウと手をつないで、みんなのいるたきびの方へとあるいて行きました。

オオカミはゾウにきこえない、ちいさな声でつぶやきました。
『きみのような、やさしいことばをかけられるようなどうぶつになりたいな。』