うそ月

みんなが寝静まった夜、
しくしくとひっそりと誰かが泣いていました。
とてもかなしそうです。
どうしたのでしょう。
泣いていたのは、ちいさな月でした。

うそをついた月がいました。
うそをついた月は、みんなに嫌われてしまいました。
そしてみんな口をそろえていうのです。
『きみはうそをつく月、うそ月だ』と。

だけど、どうして嫌われてしまったのか、わかりませんでした。
それどころか、怒っていました。
『何がいけないんだ、ぼくは何も悪くないさ。』
一人で、遠くへ行くちいさな月を、追いかけてくれる者はいませんでした。

『そこの、きみ。そう、そこのきみだよ。』
声のする方へ目を向けると、歳をとったおじいさんの月が
いました。

『なぜ、嘘は嫌われると思う？
嘘は、裏切られた気がするんだ。
裏切られた後のきもちを、きみは考えたか？
その嘘によって、信じることができなくなくなる者がいるかもしれない。
信じることができなくなることだって、あるんだ。』

月のおじいさんはちいさな月に、知ってほしかった。
嘘が、かなしみの色をつくってしまうことを。

ちいさな月は、そのときはじめて、
自分がしたことを悔やみ、こころを痛めた。
『ごめんなさい、ぼくの嘘がだれかを傷つけてしまっていたんだね。』

そう、泣いていたちいさな月は、この月だったのです。
傷ついてしまったかもしれない誰かのことを思って、
泣いていたのです。

静かに泣く、ちいさな月。
おじいさん月は、そっと、ちいさな月を撫でてあげました。

『ことばはかなしさじゃなく、枕のようなやさしさで
　　　あってほしい。』
おじいさんは最後に、そう言って、眠りました。