切実な綺麗事

真に死に近い人間は
綺麗事が止まらない人間だ
過度な楽観主義を抱えた人間は
死の前兆にある
もうじき来たる死への(おそ)れを紛らわすために
不毛な綺麗事を繰り返す
不毛だが、当人は至って切実なのだ
真に死に近い人間は
誰もかもを愛そうとする
誰もかもを嫌おうとするというのは誤りだ
誰もかもに優しさを振りまいて
逆に誰もかもに嫌われようとする
みずから進んで孤立しようとする
当人の中では二つの思いが拮抗している
俺のことなど放っておいてくれという思いと
誰か俺のことを止めてくれという思い
難儀なことにどちらも真実の思いなのだ
それゆえに誰も彼を救えない
黙って見ていることしかできないのだ
破滅に漸近してゆく彼の姿を

切実な綺麗事

切実な綺麗事

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-08-24

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